<<特集>>イラク情勢--混沌とする米軍による戦後統治

  米国は、イラク戦闘終結宣言を出した。今後、米軍占領下で、市場経済化とイラク人自身による統治を演出するための暫定統治機構の正式立ち上げが主なテーマとなっていく。圧倒的軍事力で戦闘には勝利したものの、イラク国内では多数派のシーア派の影響力が強まっており、民衆に依拠すれば反米にならざるを得ない矛盾を抱えて、情勢は推移していくものと思われる。また、戦争目的の一つであった大量破壊兵器が未発見で、長期的には米国の戦争の正当性について再評価される時期がくるものと思われる。 ◇中東に自由貿易圏構想

◇中東に自由貿易圏構想

 ブッシュ政権は、エジプトやサウジアラビアなど中東諸国との自由貿易協定(FTA)作りに積極的に取り組む方針を固めた。現在中東地域で締結しているのはイスラエル、ヨルダンのみ。モロッコとはすでに、今年に入ってFTAの締結交渉を開始している。エジプトやバーレーンとは貿易・投資促進協定(TIFA)を締結済みで、優先的にFTA締結を働きかける方針。サウジなどWTOに加盟していない国に対しては、WTO加盟を後押しする方針。ORHAは、国連の経済制裁が解除されたら、3ヵ月間はイラクの無関税貿易を認める方針。ラーソン国務次官は「中東の域内貿易は極めて低調だ。石油だけでなく農業などの分野でも国際貿易体制の一員になることが必要だ」と述べた。

◇シーア派、圧倒的動員力 カルバラで大規模巡礼

 22日、シーア派の宗教祭典「アルバイン」が始まった。AP通信によると、イラク中部の聖地カルバラに約200万人の教徒が集まった。イスラム教シーア派の最大亡命組織「イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)」指導者のハキム師は、米国のイラク支配に反対するため、22日にカルバラに集結するよう呼びかけていた。イラク戦争後のシーア派の政治的影響力拡大につながる可能性もある。

◇米中東軍 ムジャヒディン・ハルクと停戦合意

 中東軍のブルックス作戦副部長は、イラク国内に拠点を置くイラン反体制派組織ムジャヒディン・ハルクと停戦合意したと発表した。ムジャヒディン・ハルクは65年にイランで設立され、社会主義を志向。79年のイラン革命で中心的役割を果たしたが、革命後、体制に対して武装闘争を行ったため弾圧され、バグダッド郊外に拠点を置いて活動。米国はテロ組織と認定していたが、イランの支援を受けるイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)がイラク内で力をつけてきているのを警戒しての措置。

◇米国防総省 クラスター爆弾1500発使用

 マイヤーズ米統合参謀本部議長は25日、イラク戦争でクラスター爆弾約1500発を使ったことを明らかにした。さらに「(市民への不発弾による)2次被害は1発」という認識を示した。

◇バグダッドで2回目の暫定統治機構準備会合開催

 第2回暫定統治機構準備会合が28日、バグダッドで開かれた。イラク人約300人が出席。前回欠席したシーア派組織、イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)メンバー2人も今回は出席したが、SCIRIは代表ではなく、単なる支援者だと述べている。ガーナー室長はイラクの民主連邦制を支持する考えを示した。同会合は、「暫定政権設立のため全国会議を4週間以内に開くため全力をあげる」とする声明を発表して閉会した。バグダッドでは、イスラム教シーア派の最高権威機関アルハウザが呼びかけ、米国主導の会合に抗議する約2万人のデモが行われた。

◇米軍 住民との衝突続く

 バグダッドで26日、米軍管理下の弾薬庫が爆発し、住民6人が死亡した。住民らは、「米軍が残弾処理でミスした」といって抗議。米兵に対して投石も行われた。一方、米軍は何者かが焼夷弾を撃ちこんだとしている。
 また28日、バグダッドの西約60キロのファルージャで、米軍が占拠している小学校からの退去を求める住民数百人に対して米軍が発砲。14人が死亡、約40人が負傷した。米軍は「デモ隊の中から自動小銃による発砲があったので応戦した」と述べており、米中央軍も「少なくとも住民7人が怪我をした」と述べるにとどまり、多数の死傷者が出た事実を認めなかった。2日後の30日、同じくファルージャで、抗議する住民に対して再び米軍が発砲したと、アルジャジーラが伝えた。

◇ブッシュ米大統領 イラク戦闘終結宣言

 5月2日、ブッシュ米大統領が、イラク戦争の戦闘終結宣言を行った。戦争目的の一つであった大量破壊兵器が発見されていない中で、「終戦宣言」を出すわけにはいかなかったが、来年の大統領選挙を控えて、区切りをつけて勝利を演出する必要性があり、「戦闘終結宣言」という中途半端なものになった。

◇米国防長官 サウジの米空軍撤退表明「夏には」

 中東歴訪中のラムズフェルド米国防長官は29日、サウジアラビアのスルタン空軍基地に拠点を置く米軍機100機と要員約4500人を夏の終わりまでに全面撤退させる方針を明らかにした。機能をカタールのウデイド基地に移転する。イラク南部の監視飛行の必要性がなくなったことが最大の理由。イスラム教の聖地をかかえるサウジに外国軍が駐留していることに対するアラブ、イスラム世界の反発が強く、「テロ」対策の意味もある。

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