<<特集>>米国によるイラク占領政策
全号のトピックで述べた、米中央軍管轄下の「復興人道支援室(ORHA)」とイラク人による「暫定統治機構(IIA)」による戦後統治という枠組みがほぼ固まってきた。しかし、圧倒的武力による軍事的勝利はできても、戦後統治がそう簡単に米国の思うようには進まないということも見え始めている。特に、イラク多数派のシーア派がIIA準備会合に欠席し、外国軍の撤退を求める姿勢を打ち出し始めている。 ◇米国占領下の「戦後復興構想」=石油支配、市場 経済化計画着々と
米国務省の作業チームとイラク反政府勢力の委託を受けた専門家がロンドンの会合で、戦後の石油産業の復興構想を確認。内容は、OPECのメンバー国に課せられている生産枠をはずし、外国石油会社に生産への参加を促す。現在の250万バレルのイラクの石油生産能力を回復させるには50億ドル、450万バレルに増やすにはさらに350億ドルが必要と見ており、イラクに自由に生産を認めることがOPECにとどまるための条件としている。米主導の復興の過程で、イラクがOPECから脱退する可能性も浮上してきている。米国のねらいはOPECの影響力の低下。構想では、「イラクの石油はイラク国民のために使う」ことになっているが、生産能力増強のために外国石油会社と「生産物分与契約」を結ぶことが好ましいとしており、生産した石油の売却益を産油国と石油会社が分配する方式。さらに、イラク国営石油会社を早急に再編し、3割程度を民営化にするよう提案している。
ブッシュ政権はイラクの戦後をにらみ、市場経済への移行に必要な中央銀行制度や税制などの検討にも着手した。スノー財務長官やテイラー財務次官を中心に、米財務省が財政や金融制度の整備について検討。国防政策委員会作成の「中東民主化、市場経済化計画」に沿って動き出している。
また、ラーソン米国務次官補は17日、イラクの対外債務について「大規模な軽減措置が必要だ」と述べ、各債権国が債務削減や返済繰り延べに応じるよう求めた。イラクの対外債務は約1300億ドル。日本は約50億ドル。このように、「復興事業」の財源を米国からの持ち出しを出来るだけ少なくするために、(1)国連管理下に置かれている石油収入を米国が自由に使えるよう見直しを求める(2)差し押さえているイラクの金融資産をまわす(3)国連の対イラク経済制裁の解除を求めるC対イラク債務の軽減を各国に求める−など、し始めている。
◇「イラク戦犯 米国内法で」
米国は、イラク戦争での国際法廷は求めない方針を明らかにした。国務省のプロスパー戦犯問題担当大使と、陸軍法務部のパークス顧問が7日、記者会見で「過去の人権侵害を扱うのはイラク主導の手続きだが、戦争犯罪については米国には権利がある」と述べた。
◇イラク治安悪化
フセイン政権崩壊後、バグダッドで市民による略奪が広がるなど無政府状態になった。文化遺産なども略奪にあっている。米統合参謀本部のペース副議長は10日、米上院軍事委員会の公聴会で証言し、イラクの治安を確立するための警察官の派遣など、協力要請リストを国務省を通じて他国に流す方針を明らかにした。また、赤十字国際委員会は11日、無政府状態になっているバグダッドで「人道的な惨事が迫っている」として、米英軍に治安確保を要求する緊急アピールを発表した。病院の機能が麻痺し、水や電気が途絶しかねない状況のため。
◇イラク・シーア派の動向
亡命先の英国から帰国したイスラム教シーア派指導者アブドルマジド・ホエイ師が10日、ナジャフで暗殺された。同師は、イラク・シーア派の権威「大アヤトラ」で、91年湾岸戦争後のシーア派蜂起の指導者だったアブカシム・ホエイ師の息子。親米英で、米国にとっては痛手。
イスラム教シーア派の最大亡命組織、「イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)」(本部テヘラン)指導者のハキム師は17日、米国のイラク支配に反対するため、イラク中部の聖地カルバラに22日に集結するよう国民に呼びかけた。ハキム師は22日までにイラク入りする考え。SCIRIは、米国によるイラク統治を批判し、15日の暫定統治機構準備会合を欠席した。
また、イスラム教シーア派亡命組織「アマル・イスラム」(1980年よりイランに本拠))も米軍政に反発し、暫定統治機構準備会合に欠席した。アマル・イスラムの最高指導者モフセン・フセイニ師は13日、読売新聞と会見し、アマルの軍事部門が、米英の黙認のもと、イラク南部の各地で自治を行っていると語った。自治区内では各地区ごとに「行政委員会」をつくり、軍事部門による略奪行為の取締りなどを行っている。戦力は開戦前の1500人から約4000人に増えているという。
◇米下院本会議 800億ドルの戦費補正予算可決
ブッシュ大統領は当初、747億ドルの補正予算を求めていたが、共和党の圧力で航空業界支援のための補正予算を上積みし、800億ドル弱の補正予算可決となった。
◇米国 シリア批判強める
「中東民主化、市場経済化計画」の第3段階に位置付けられているシリア・バース党解体が真実味を帯びてきている。13日のブッシュ大統領によるシリア批判を皮切りに、パウエル国務長官、ラムズフェルド国防長官、フライシャー報道官が厳しいシリア批判を展開。米側のシリアに対する主な批判は、@夜間戦闘用暗視ゴーグルをイラクに輸出したAシリアがフセイン政権高官をかくまっているB化学兵器を所有しているCパレスチナやレバノンの「テロ組織」(反イスラエル闘争組織)を支援している−など。
パウエル長官は、経済制裁発動なども検討していることを明らかにし、2000年にイラク・シリア間に敷設されたパイプラインを閉鎖した。同パイプラインを通じて、日量15万〜20万バレル、年間12億ドル相当がイラクからシリアに供給されている。さらに、米議会下院では、米企業の対シリア投資禁止やシリアの海外資産凍結、外交官接触の制限などを盛り込んだ法案が再提出された。
シリアは米国の指摘を否定し、イラクとの国境を閉鎖するなどの対応をとる一方、国連安保理に対して16日、アラブ連盟を代表して、中東全域を非核化し、生物・化学兵器の保有も禁止する決議案を提出した。米国の批判に対して、政治的主導性を確保するためと、核兵器を既に保有しているイスラエルに非核化を求めるねらい。
また、13日付サウジ各紙は、サウジで5月初め内閣改造が行われ、閣僚の半数近くが交代する見通しだと伝えた。親米のサウジは、「中東民主化」の第2段階に位置付けられており、米国から強い圧力を受けたための措置。交代が予想される閣僚は11閣僚。王族が占めている重要ポストは変わらない。米国がサウジに求める「民主化」は、「テロリストを生む温床を断つ」ことが目的。
◇イラク暫定統治機構準備初会合 民主化など
13項目声明 シーア派は欠席
米国主導で暫定統治機構作りを目指して15日、反フセイン勢力がナシリヤで初会合を開いた。しかし、米国主導に反発し、イラク国民の60〜65%を占めるシーア派は会合をボイコットし、地元のシーア派民衆が2万人の大規模なデモを行った。会合は民主化など13項目の声明を発表し、10日後に再度会合を開く。国内外から約80人のイラク人が出席。イラク国民会議(INC)のチャラビ代表は、各派の警戒感が強く、本人は欠席し代理人が出席した。
◇イラク復興 米社にインフラ整備発注
総額最大6億8000万ドル
米国際開発庁(USAID)は17日、イラク復興の中核をなすインフラ整備事業について、米大手ゼネコンのべクテルに発注することを決めた。向こう1年半で総額6億8000万ドルに達する可能性もある。ベクテルはシュルツ元米国務長官が役員を務めている企業。USAIDはすでにイラク南部の港湾都市ウンムカスルの港運営事業や学校建設事業も米社に発注済み。また、国防総省は油田消火・復旧作業は、チェイニー副大統領がCEOを務めていた石油サービス最大手ハリバートン系列会社に発注済み。ハリバートン・グループは、今回の入札にも参加していたが、副大統領との関係を批判されて入札を辞退した経緯がある。
◇日本政府 「復興人道支援室」(ORHA)に職員派遣
占領政策に加担は憲法違反
政府は18日、ORHAの「総括」「エネルギー」「公衆衛生」担当の各部門に、外務、経済産業両省職員や民間人を約5人程度、月内に派遣することを決めた。政府は当初、「占領行政は交戦権の一部で(ORHAへの要員派遣は)憲法上参加できない」としていたが、内閣法制局が「ORHAが軍事行動と一体化しない限り、法的問題はない」との見解をまとめ、派遣を決定。外務省は「国際機関等へ派遣する国家公務員処遇法」に基づき、「外国政府の機関への派遣」として派遣することを考えている。また政府は、自衛隊を派遣する「イラク復興支援法」を5月にも国会に提出する意向。
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