戦後の占領方針を語り始めた米国
2月13日の議会証言で、パウエル米国務長官はイラク攻撃後の「復興方針」=占領方針を発表したが、2〜5年間はアメリカが「完全かつ一方的に統治する(第1段階は米軍による占領、第2段階は米国による文民統治)」というもので、アラブ諸国をはじめイラク反体制派からも批判を浴びた。こうした批判をはじめ、米・英のイラク攻撃に最後まで反対した仏・独・露の思惑、一緒に戦争を戦っている英国の思惑、米国内の国防総省と国務省の主導権争いなどが錯綜しながら、まだ紆余曲折はあるものの、イラク戦争後の統治方針が形をあらわし始めている。
米国防総省は、イラク人による政権ができるまでの間、米軍が占領し直接統治する戦後計画に基づいて、「イラク復興人道支援事務所」を設置して活動を始めている。国防総省はすでに、所長に米陸軍退役中将のジェイ・ガーナー氏を任命している。その下に、元CIA長官のジェームズ・ウールジー氏を情報担当官に、クリントン政権の国防次官だったウォルター・スローコム氏を国防担当官に、それぞれ配置する予定である。
一方、国務省には直轄の機関として国際開発局(USAID)があり、「戦後復興」や「人道支援」にかかわることになっている。4月3日付朝日によると、パウエル国務長官はラムズフェルド国務長官に「戦後統治でも重要な柱になる人道支援は、非政府組織など文民機関に任せ、国防総省が首を突っ込むべきではない」「人道支援は国務省直轄の国際開発局(USAID)主導で行われるべきだ」と手紙を送ったという。ただし、これはブッシュ政権内の主導権争いであり、米国主導の戦後統治を考えていることにおいて、両者に違いはない。「人道支援」に限定して国連関与の程度の比重が違うだけである。
イラク人関与の「暫定統治機構」構想発表
ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)が4日、「戦後復興」に関して具体的方針を明らかにした。米国の政府関係者の発表としては、これが最新のものである。
それによると、「イラク復興人道支援事務所」は、米中央軍の監督下に置かれながら、米政府の関係省庁の代表・調整役として働き、ライフライン確保など緊急性を要する「人道援助」を実施する。同時に、同事務所が、イラク人による「暫定統治機構」のできるだけ早い設立を促す。ライス報道官は「イラクの各民族、各宗教グループから代表が加わった広範な基盤がなければならない。亡命イラク人組織だけでなく、国内からも参加を仰ぐ」と述べ、現政権の中堅官僚などの起用も考えていることを示した。
ライス大統領補佐官がこの日発表した方針は、明らかに2月16日にパウエル国務長官が米議会で述べた内容と異なっている。昨年12月に米国外交問題評議会がフォーリン・アフェアーズに掲載した「イラク戦後構想の指針」に近い。「指針」では、戦後イラクの統治の主導的な役割はイラク人に担わせ、米国が支配者になることを望んでいないことを示す必要がある、と指摘している。ただし、ライス補佐官は、「イラクの解放に命と血をかけた米・英が主導的な役割を果たすのは、自然なこと」と述べ、戦後処理の主導権を米・英が握るのは当然で、国連は人道支援に限定する意向を示した。この点においては、ブッシュ政権内では矛盾はないようである。国連を関与させたいと思っているパウエル国務長官も、国連を「人道支援」に関与させることによって、米国の単独主義に対する批判をかわそうとしているに過ぎない。
国内の反戦世論や与党労働党内の反対を押し切ってイラク攻撃をおしすすめたブレア首相としては、戦後統治にできるだけ国連を関与させたい意向で、ブッシュとの間には矛盾がある。また、米国務省管轄下のUSIDが戦後初期復興事業の受注を米企業に限定する方針を示したことや、米国が戦後復興資金確保のため石油採掘権を握る方針を固め、石油生産担当責任者のポストに元シェル石油のフィリップ・カロール氏が有力視されていることに対して、英国内で反発が起こっており、ブレアも難色を示している。
最後まで戦争に反対した仏だが、仏外相も「仏は、米英の側に立つ」と、米英支持を表明した。また、6月のエビアン・サミットで反ユダヤ主義を主要な議題にすると言って、米国ににじり寄りをはじめている。「戦後復興」の利権に絡みたいという意向と、政治的な和解に動き出したと見てよい。
「解放軍」との認知は遠い道のり
米国は、「独裁者からの解放軍」として戦後統治を進めようとしている。しかし、たとえ圧倒的な武力によってフセイン政権を打倒することができたとしても、イラク国民(イラク反体制派のシーア派も含めて)が米軍を解放軍として迎え入れていないことは、明らかである。
今回の戦争になんの正統性もないことは誰もが知っており、親米政権樹立にイラク国民の協力が得られないとき、侵略者としての本質をさらけ出さざるを得ないであろう。また、この間のアラブ諸国での反米意識の高揚は、イラク攻撃を突破口に全中東の「民主化」を掲げて中東支配をしようとする米国の野望が、まだまだ長い道のりであることを示している。
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