新保守派と結びつくブッシュ政権
ブッシュ政権になってから、米国の外交政策の基本が、協調主義(バイラテラリズム)から単独主義(ユニラテラリズム)へと大きく転換しました。この国はイラク攻撃に見られるように、それまで協調してきた同盟国の意向を無視して、まるで“物の怪”にでも憑かれたかのように一国で突っ走っています。
いったいブッシュ政権の中で何が起こっているのでしょうか。サンデー・プロジェクトは、2月23日と3月2日の2回にわたって、その内実を明らかにした番組を放映しました。これ自体何ら新しいものでありませんが、それまでマスコミで断片的に語られていたものを総合的に見せてくれたので、私には大変参考になりました。これを紹介しながら、彼らをしてイラク攻撃へと突き動かしているものは何なのか、議論を進めます。
これまで、ブッシュ政権が「新保守派」という新しい政治潮流と親密な関係にある、とマスコミから指摘されてきましたが、国防総省政策委員長に任命されたのは、新保守派のシンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)」理事長R・パールでした。新保守派とはその多くがユダヤ系の人々からなる集団で、彼らに共通するイデオロギーはシオニズム(ユダヤ教原理主義)です。
シオニズムとは後で詳しく説明しますが、一言で言うと「我ら、神に選ばれし民」というユダヤ人選民思想で、アラブ人に囲まれているユダヤ人は、神に「堕落した人達を救い出す」という特別の使命を授けられ、この世に送り出された人達だ、という特異な使命感を持つ人達です。ウォルホビッツ国防副長官もその一人です。
有色人種排斥で手を結ぶ二つの原理主義者
もう一つは、ブッシュの特異な支持基盤です。彼の出身地であるテキサス州を中心に、中西部・南部に3000万人のキリスト教原理主義者が住んでおり、米国民の10%がキリスト教原理主義の信者だと言われています。彼らは中絶反対、移民禁止、銃規制反対などを唱えるだけでなく、中絶手術をする医者を射殺したり、進化論を教える学校に抗議するなど、過激な行動をしています。258票差で当選したブッシュは、彼らの支持なしに再選不可能です。
米国の上流階級を構成する人達を指してWASPと言いますが、Wは白人、Aはアングロ、Sはサクソン、Pはプロテスタント(新教徒)です。米国で上流階級になれるのは、白人で、アイルランド人でない英国人でなければならず、しかもカソリックは駄目、という不文律があります。
これが「世界中で最も自由な国・米国」の実体です。彼らは、移民によって様々な人達が世界中から集まって作ったこの国を、もう一度WASPの時代に押し戻そうという、時代錯誤の妄想に取り憑かれています。
国家警察であるFBI(連邦捜査局)を統括する司法長官に、ブッシュはキリスト教原理主義者で有名なアシュクロフトを指名しました。それで、キリスト教原理主義団体に連邦政府から資金が流されています。ブッシュ自身も30歳初め、選挙に負け、事業にも失敗し、失意に陥った時、この宗教団体に入信し、それ以来信者だと言われています。
こうしてブッシュ大統領は、内外の安全保障部門の要所要所に、ユダヤ教とキリスト教という二つの宗教原理主義者を配置しています。その狙いは、イスラム敵視と白人優位、有色人種(アジア人等々)排斥の世界建設で、その突破口がイラク戦争だと位置付けています。したがって、今は彼らの矛先がアラブ人に向けられていますが、この事態を放置するなら、やがて黄色人種である日本人にも向けられるこを、私達は覚悟しなければなりません。
米からの送金が支えるイスラエル
このような過激な宗教原理主義思想は、日本人に大変理解し難いところです。それは、世界地図を開くと判ります。日本はユーラシア大陸の東の果てにある島国で、外国の軍隊に全土を占領された経験は、第二次世界大戦を除いて皆無であるからです。
しかし、イスラエル・パレスチナは、アフリカ・ユーラシアという二つの大陸の繋ぎ目、身体に例えると喉首に位置していて、交通の要衝であり、古代から歴史の舞台でもありました。しかもこの地は、広大な砂漠に囲まれたオアシスのような地域で、元々ユダヤ人とアラブ人とが混住し、農業が盛んで、人口も稠密でした。
それゆえに、ここでは様々な歴史上の英雄達が軍隊を引き連れて行き来しただけでなく、占領し、住民を殺害し、強制的に連行し、故郷に帰ることができないような僻地まで追放する、という残酷な迫害が繰り返されてきました。その場合、多数のアラブ人に囲まれて暮らす少数のユダヤ人の方が、より過酷な扱いを受けたであろうことは、想像に難くありません。
紀元前3000年ごろからエジプト王国が勃興するや、ユーラシア大陸に領土を広げようとして大軍を編成してこの地を通った際、抵抗した住民をエジプトの僻地に閉じ込めた悲劇がユダヤ教の経典である旧約聖書に載っていますが、これはあくまで伝承の類です。しかし、古くからこのような悲劇が彼らを襲ってきたからこそ、そのような伝承が生まれました。
その後、ローマ帝国がこの地を支配下に置きます。この地でローマ帝国の植民地支配に対する抵抗運動を呼びかけたのが、キリストでした。彼はユダヤ人で、弟子のユダヤ人に密告され、ローマ帝国に対する反逆の罪で処刑されますが、彼の死後、弟子達が彼の言動をまとめたのが新約聖書です。
ペルシャ帝国のアレキサンダー大王も大軍を率いてエジプトへ遠征した際、この地を通っています。このような度重なる過酷な抑圧に対する抵抗運動を通して培われたユダヤ民族の独自性、一体性を保つために生まれたのが、選民思想です。
ユダヤ人に対するこの過酷な抑圧は、故郷からの離散(ディアスポラ)を生み出します。1966年の統計によると、イスラエルの人口の3倍、1億人のユダヤ人が海外に居住しています。
第二次大戦後の1948年、英国はこの地を委任統治していた立場を利用し、これまで住んでいたアラブ人を追放し、世界中からユダヤ人を呼び寄せて、ユダヤ人の国イスラエルの建国を支援し、国連加盟を果たします。
パレスチナとイスラエルとの流血の抗争を終わらせるには、この地にパレスチナ人とユダヤ人とが混住する多民族国家を作る以外にありません。それを妨害しているのが、在米ユダヤ人社会です。米国のユダヤ人社会から年間30億$、国民1人当たり100$という巨額の資金がイスラエルに流れています。イスラエルはこの資金で米国から武器を買い、パレスチナ人を殺しています。
この国は、砂漠の真中に巨大な核施設を建設し、核開発を急いでいます。これを見逃しておいて、イラクにのみ核を放棄させることは、イスラエルを増長させるだけです。国連はイスラエルの核開発も中止させるべきです。 (渡邊)
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