海外のマスコミ報道などをご紹介いたします。

  ようやく日本のマスコミも、世界中で起こっている反戦デモを報道し始めた。2・15世界同時多発反戦デモは、火薬庫といわれるイスラエル・パレスチナの地でもあった。そのありさまをマシュー・グトマンという『エルサレム・ポスト』紙の記者が、パレスチナ問題と切り離したい意向をかなり露骨に表して、インターネット上で報道しているので紹介する。(脇浜)

 土曜日夕方、約15,000人のデモ隊が、米はイラク攻撃をやめよと叫びながら、テルアビブ市内を行進した後、テルアビブ美術館前広場の集会へ合流した。この集会は、予測される米のイラク攻撃への抗議であったが、イスラエル政府批判の性格が強い集会でもあった。

 この日、世界の各地でも、米・英のイラク戦争を止めようとする大規模なデモや集会があった。テルアビブ集会も、それに連動して行われたものである。「米国の中東支配は、誰にとってもよいことではない。米国が押し付けようとしている新中東地域秩序は、不安定と暴力の原因となるだけだ」と、ハダシュ党(アラブ系イスラエル人の政党、左派)の党首で国会議員であるムハメッド・バラケ氏は『エルサレム・ポスト』記者に語った。

 デモ行進は、警察の厳重な警戒の中で平和的に行われた。集結場所はテルアビブ前衛映画劇場前で、バラド党のオレンジ色の旗や共産系ハダシュ党の赤旗がはためいていた。反米・反イスラエルのスローガンが、よくパレスチナ和平要求デモで聞かれるリズムで、一斉唱和された。中にはあまり和平的でない声も聞こえた。「ナセルの教えは正しかった。米は蛇の頭だ」と、バラド党の活動家がパレスチナの旗を振りながら叫んでいた。「ブッシュ、パウエル、シャロン、権力テロリスト!」というヘブライ語のスローガンもあった。「国連はイスラエルの大量破壊兵器も査察せよ!」というスローガンと並んで、パレスチナ問題にこだわったスローガンも多く見られた。「シャロンはサダムより危険!」というスローガンの横断幕は、かなり多くあった。

 グッシュ・シャロム(平和市民団体)の教祖的存在であるウリ・アヴネリは、『エルサレム・ポスト』のインタビューに応えて、「イスラエルが世界的反戦のうねりの一部であることが重要である」と言った。彼によると、米がイラク侵攻して、多くの民間人死傷者が出ると、イスラエルも責任を問われることになる、と言う。

 この集会は、西岸地区ラマラの集会と呼応したものだった。「あなた方の同胞は、ラマラで抗議集会を行っています。彼らは軍事封鎖のために、この集会へ来ることができないのです」と、イスラエル人、アラブ人から成る「タッアユシュ・パレスチナ人権擁護団」のアズミ・ブディア氏が参加者に向かって語った。参加者の半分はユダヤ人、半分はアラブ系イスラエル人であった。「この戦争は石油略奪と、世界全体を搾取するための戦争です」と、ナザレ市からきたコミュニケーション論の教師ハネエン・ゾアビ氏が演説した。彼は仲間のアラブ系イスラエル人数百名を連れて、米のイラク攻撃とイスラエル政府に抗議するために、はるばるやってきたのである。彼はさらに「アリエル・シャロン首相は、この戦争の機に乗じて、パレスチナ人の一部を他国へ追放し、指導者の首を挿げ替えたりして、パレスチナ問題の消滅を謀るだろう」と言った。

 イスラエル・パレスチナ紛争がイラク戦争とどうつながるのか、参加者がみんな分かっているわけではなかった。ドイツのハンブルグからイスラエルにやってきて、その日ベルリンでも行われている抗議集会に連帯するためにテルアビブ集会に参加したヘレ・マイシュターさんとアドリアン・ファフテクさんは、両者は無関係だという意見だった。「でもこれは、アラブに向けられた戦争ではありません」と、マイシュターさんはゾアビ氏らの意見に反対を表明した。「資本主義の戦争です。石油と権力と地域覇権をめぐる戦争です。パレスチナ人絶滅などとは無関係です」。

 離れたところから、多くのイスラエル人が怪訝そうに眺めていた。いったい何を話しているのか、ちんぷんかんぷんだという顔つきで。近くのキオスクで見ていたシュロモ・ヨセフさんのように、抗議のメッセージには基本的には同意すると言う人もいた。「何故こんな戦争をするのか、よくわかりません。でも、スカッド・ミサイルがここテルアビブに飛んできたら、誰だってうれしくありませんよ」。

 一方美術館の外側では、数十人のリクード党(シャロンの政党)の活動家が、そのあたりの人を寄せ集めて対抗集会を開いていた。「極左は気が変になって殺人者を支持している」というスローガン幕があった。

*訳者註
 この種の集会は、イスラエルでは「過激派」「アラブ寄り」というレッテルを貼られる傾向がある。記事では取り上げていないが、フェミニスト作家で、「女性ピース連合」のレラ・マザリが「暗闇がどんどん近づいてきて、今にも私たちを呑みこむ」という演説をした。それは、「過激派」「アラブ寄り」に近づかないで傍観を決め込むイスラエル市民に向けて言ったのである。その他、集会では退役軍人らが「平和−イエス、占領−ノー!」というスローガンを掲げて行進。「イスラエル人とパレスチナ人は戦争に反対する」という垂れ幕もあった。現在イスラエル軍によって包囲されているガザ地区から、ハイダール・アブデル・シャフィというパレスチナ人政治家が電話参加した。

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