今国会成立を期す政府与党
自民党の山崎幹事長は1月10日、第155通常国会での有事法制成立に向けた意気込みを表明した。与党単独でも法案を成立させる意気込みである。また内閣官房は、有事法制を成立させるための環境を整えるために、「国民保護法制」の「輪郭」について1月20日に、各都道府県の担当部長を集めて説明、意見聴取を開始した。2月中旬までに、各都道府県の意見と各都道府県の責任において各市町村長の意見を集約して、提出するように指示した。「有事」の際の動員対象になる民間業者である放送・運輸・電気・ガス事業者や日赤などにも、個別に説明を行う予定である。内閣官房は与党から、衆院武力攻撃事態対処特別委員会で審議が再開されるまでに国民保護法制の「骨子」をつくるように指示されている。
法案提出から現在までの経過
昨年4月16日、有事関連3法案が閣議決定されて、翌17日、第154通常国会に提出された。有事関連3法案とは、基本法と位置付ける「武力攻撃事態対処法案」とそれに伴う「安全保障会議設置法改正案」「自衛隊法及び防衛庁職員の給与等に関する法律の改正案」である。
第154通常国会での審議では、主に次のような点が批判された−(1)武力攻撃事態対処法案では、「武力攻撃が発生した事態」にとどまらず、「武力攻撃のおそれがある場合」や「武力攻撃が予測されるに至った事態」まで武力攻撃事態に含まれており、定義自体が曖昧でいくらでも拡大解釈できるという点、(2)武力攻撃事態対処法案が成立した後2年以内に制定されることになっている国民保護法制は、私権を制限する項目(たとえば、物資の保管命令、土地や建物の明渡し、医療関係者などに対する事業従事命令、立ち入り禁止区域の設定、電波管制など)が多く含まれているにもかかわらず、具体化されていないという点。また、自治体に対してどのような措置を求め、どのような権限を与えるのか曖昧であるという点−などが主に批判された。
これらの批判に対して、臨時国会で昨年11月11日に開かれた衆院武力攻撃事態対処特別委員会に、政府から国民保護法制の「輪郭」が提出され、与党議員提案という形で武力攻撃事態対処法案の修正案が提出された。しかし、提案と理由説明が行われたのみで実質審議は行われず、わずか1日で継続審議となった。第155通常国会での成立を期してのアリバイ作りでしかなかった。
第155通常国会の開会を前にして1月17日、首相以外の全閣僚が参加して、「輪郭」について地方公共団体と関係民間業者に対する説明会を行うことを決定し、前述したような日程が組まれ、今国会での有事法制の成立に向けた地ならしが開始された。
本質変わらぬ与党修正案
与党議員提案の修正案の論点は主に3点−(1)武力攻撃事態(この中に、発生事態、おそれ事態、予測事態が含まれていた)を武力攻撃事態と武力攻撃予測事態の二つに分けた、(2)武力攻撃事態以外の緊急事態として、「武装不審船事案」や「テロ・ゲリラ攻撃」なども対象に含むとした、(3)首相を除く全閣僚が参加する国民保護法制整備本部を設置するとしている−以上3点である。
武力攻撃事態と予測事態の二つに分けても、何ら本質が変わるわけではない。石破防衛庁長官は1月25日、北朝鮮がミサイルに燃料を注入し始めたら武力攻撃の着手と見なすと述べ、ミサイル発射前でも自衛権を発動して攻撃は可能との見解を示した。このように、予測事態はいくらでも拡大解釈が可能であり、先制攻撃をも正当化することになる。
本質は米軍との共同行動
今の日本で、他国が大規模な侵略行為を行ってくることは、まず想定できない。北朝鮮の工作船の越境や工作員の上陸の可能性は、今後もありえるかもしれない。あるいは、今の外交姿勢では、日本をターゲットにしたテロ攻撃がありえるかもしれない。しかし、それらは有事法制にはなじまない国境警備や治安対策の問題である。しかも、北朝鮮との国交回復や他国の侵略に手を貸さないといった平和外交によって、その可能性は限りなく減らせる問題である。
いま日本が戦争に巻き込まれる最も現実的なシナリオは、米軍が北東アジアにおいて挑発的に紛争に介入し、99年に成立した「周辺事態法」に基づいて日本が米軍を支援し、日本周辺で他国と自衛隊の一時的な衝突が起こり、それをもって「武力攻撃事態」ないしは「武力攻撃予測事態」とみなして、日本が全面的に米国の戦争に荷担していく、というものである。例えば、北朝鮮の原発再開発問題で安保理が経済制裁を決議した場合、米軍が北朝鮮の船を臨検し紛争状態に入る可能性があるし、15日には、日本政府自身が決議が上がった場合「周辺事態」と認定し日本周辺の公海上で船舶検査に参加することを検討し始めたが、これをきっかけにした武力衝突を「有事」と認定し、全面介入していく可能性が大である。
そして「国民保護法制」とは名ばかりで、実際には「国民動員法」として機能し、戦争をできる態勢をつくっていくのである。有事法制の危険性を広く訴えていくことが大切である。 (K)
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