東アジア冷戦体制にしがみつき生き残り図る
--キム・ジョンイル独裁政権--

残る東アジアの冷戦体制

 北朝鮮の核再処理施設稼動、NPT(核拡散防止条約)からの脱退、中距離ミサイル発射実験再開と、物騒な言動が相次いでいます。これは、米国がイラク攻撃準備に手を取られている間に、次から次へと難題を吹っかけて、北朝鮮は米国の譲歩(不可侵条約の締結)を勝ち取りたいからです。

 第二次大戦後の安全保障政策は「国家主権の相互尊重」という原則、言い換えると相互主義の上に成り立っています。だが、9.11テロで自国の安全保障にすっかり自信喪失したブッシュ政権は、軍事力の圧倒的優位性の上に立った、単独主義に引きこもってしまいました。ブッシュ政権は北朝鮮に対して「交渉はするが、譲歩はしいない」と言っていますが、イラクのようなわけにはいきません。東アジアには中国という軍事大国が控えているからです。

 本紙3号で北朝鮮について、「東アジアで冷戦体制が崩壊したため、北朝鮮のキム・ジョンイル体制も終焉の時期を迎えている」と書きましたが、その原稿を書いた直後の新聞で、「江中国国家主席が9月に訪米した際、ブッシュ大統領は『台湾独立を支援しない』と伝えていた」との記事が掲載されました。「冷戦体制の崩壊とはこれだったのか」と思いましたが、実は米中の冷戦状態はこれだけではありませんでした。

 第一に、韓国には米軍基地が未だに居座っています。中国も、韓国に米軍がいる間は北朝鮮に頑張って欲しいはずです。

 第二に、ブッシュ政権はミサイル防衛(MD)の開発に懸命になっていますが、中国はこれに対抗して宇宙開発に尽力しています。無人の宇宙船の打ち上げ・回収に既に成功しており、今年の国慶節は有人宇宙船の打ち上げ・回収成功のニュースで、全中国が沸き立つでしょう。

 米国の中距離ミサイルが沖縄の米軍基地に配備されていますが、これは中国が米国向けに打ち上げた大陸間弾道弾を、上昇速度が遅い初速の段階で撃ち落とすためです。こうして、日本が米国のMD開発に一方的に荷担している限り、沖縄の米軍基地撤去はありえません。

 昨年末、ミサイル監視偵察機「シードラゴン」が沖縄に突然飛来しました。マスコミは「北朝鮮のミサイル発射監視が目的」と伝えたため、日本中が騒然としましたが、実は中国の宇宙船打ち上げ監視のためでした。宇宙空間については、米中間で相互の誤解を防ぐため両国間にホットラインがあり、中国は事前に米国へこの件を知らせたはずです。にもかかわらず、ブッシュ政権はこれで中国に嫌悪感を露わにさせました。これが東アジアにおける冷戦体制の現状です。

 こうした冷戦体制の遺物が未だに残存する東アジア情勢を念頭に置きながら、北朝鮮問題を議論していきます。


最大の金主は日本

  このような冷戦状態が東アジアにある限り、中国・ロシアは北朝鮮のキム・ジョンイル独裁体制にどんな不満があろうとも、支えていかざるをえません。北朝鮮に軍の装備・弾薬などを供給しているのはロシアであり、燃料や食糧を供給しているのが中国です。

 1月6日のニュース・ステーションは、小泉首相が訪ロの帰途でハバロフスクに立ち寄るのは、そこで拉致帰国家族の子供5人と面会し、連れて帰ることになっていたが、直前になってキム・ジョンイルがひっくり返し、核再開発に踏み切った、と伝えていました。この経緯について、キム・ジョンイルにすれば、日本にこれ以上譲ってもカネは取れない、生き延びるためには米国に縋るしかないと判断したからだ、と私は推測しています。

 キム・ジョンイルは日本の資金を当てにして、既に改革開放政策に踏み出しています。国内物価を国際価格に合わせ、配給制度を廃止し、市場経済を導入しています。こうなれば、人々の需要は増大しますから、生産を増やさなければ物価が上昇し、国内でインフレが起きます。だが、国内で生産を上げようとすれば、原材料を海外から輸入しなければなりませんが、そのための外貨がありません。

 この窮地を打開しようとして、彼は米国に喧嘩を売っています。だが、これまでの経過が示すように、北朝鮮を国際社会でまともに付き合うことのできる国にするには、日本の資金が必要ですが、肝心の金主である日本にその自覚がありません。

 アフガン戦争で米国はこの国を滅茶苦茶にしておきながら、復興資金を出したのが日本でした。イラクでも日本はまた貧乏籤を引かされようとしていますが、この国の政治家が無自覚なため、北朝鮮でもまた同じ誤りが繰り返されようとしています。最大の資金の出し手である日本は、対北朝鮮対策に関して確固とした長期的な戦略を持つべきです。何時までたっても米国への「貢ぐ君」では、日本国民は納得しません。

 北朝鮮は異常な国家です。国家の上にキム・ジョンイル独裁体制がどっかりと居座り、あらゆる国家機関を総動員して個人独裁体制を支えています。

 この凍りついた体制を解体しようとして外から圧力を加えれば、硬直するだけです。キム・デジュン韓国大統領の「太陽政策」通り、南風を送り込んで、凍りついた独裁体制を徐々に溶かして行くほかありません。外国からの輸入物資が増え、市場に物が豊富に出回るようになれば、人々の選択肢が増え、価値観が多様化します。その上に乗って海外情報も人々の中に浸透します。

 戦後の日本人なら誰でも知っていることです。特に、日本の資金が個人独裁体制維持のために使われるのは悲劇です。

 米国が北朝鮮に交渉の姿勢を示した途端、この国は口を極めた対米批判に転換しました。彼がこんな見え透いた猿芝居を始めたのは、資金を手にすることができた時、自国民に「俺の力で米国からもぎ取った」と誇示したいからです。

 こんな異常な政権を相手しながらお引取りを願う道を、こちらも頭を使って考えていかなければなりません。 (渡邉)

[←back]