<<特集>>差し迫るイラク情勢、米英と独仏の対立先鋭化

  査察の継続を求める仏独と、イラク攻撃に突き進む米英との対立が先鋭化してきている。米が戦後の仏露の石油利権を保証すれば、仏独露も最後は米に引きずられると考えていたが、思いのほか健闘している。NATOに対する米の要請を時期尚早と拒否したことは快挙である。何も語らず、本音では断固イラク攻撃を支持し、できれば海外派兵の実績を積み重ねようと姑息に考えている日本政府の醜さが浮彫りになってきている。仏独露にしても、まだ最後の段階でどう転ぶかわからないが、世界で盛り上がる反戦運動がその鍵を握っている。

◇国連査察団 安保理で報告 14日が次の山場に

 UNMOVICブリクス委員長とIAEAエルバラダイ事務局長は1月27日、国連安保理に対し、2ヵ月間の査察結果やイラク側協力姿勢に関する評価報告。ブリクス委員長は「大量破壊兵器の廃棄の要求に応えていない」との厳しい見解を報告。一方で、査察はまだ進行中だと述べた。エルバラダイ事務局長は、あと数ヵ月の査察でイラクが核開発計画を持っていないことの証明が可能と報告。2ヵ月にわたる大掛かりな査察で、大量破壊兵器の存在について証拠を何も発見できていないにもかかわらず、その点を軽視した報告であった。国連査察団の報告をうけた直後の28日、ブッシュ米大統領は一般教書演説で、イラク攻撃への決意をにじませ、2月5日の安保理で、イラクの決議違反に関する「証拠」を提出すると表明。これを受けて安保理は29日の非公開協議で、査察を当面継続し、パウエル米国務長官が「証拠」を提出するのを待ち、次の行動を決めることを決めた。米英など4ヵ国を除く11ヵ国が査察継続を支持した。14日に、査察団の追加報告がなされる。


◇イラク攻撃根拠ない 国連元査察官リッター氏記者会見

  1991年から98年までイラクの大量破壊兵器に関する国連査察に主任査察官として参加したスコット・リッター氏が4日、衆参両院の議員らと対話。同氏は98年までの査察で大量破壊兵器は「90-95%まで検証可能な形で廃棄され、生物・化学兵器を製造する施設はほとんど破壊されている」と述べた。また、「廃棄された証明がない」生物・化学兵器用物質についても、炭疽菌を保存できるのは3年間でしかなく、化学兵器用物資も5年が期限であると述べた。


◇米、安保理でイラク決議違反に関する「証拠」提示

  パウエル米国務長官は5日、安保理外相級会合で、1時間20分にわたってイラクの大量破壊兵器の隠ぺい工作を示すとする衛星写真や盗聴記録の「証拠」を提示した。これを待っていましたとばかりに小泉首相は6日、衆院予算委員会で「疑惑は深まった。日本も同盟国として責任ある対応をしていかなければならない」と述べ、イラク攻撃支持を示唆した。その後の仏独露の予想以上の抵抗に、日本の米支持の姿勢が浮き彫りにされた形。


◇パウエル米国務長官発言 フセイン政権打倒は「米の国益増進」

 パウエル米国務長官は6日、上院外交委員会での証言で、イラク攻撃によるフセイン政権打倒が「中東地域を力強く建設的なものへと根本的に再編することが可能となり、それが中東和平の前進など米国の国益を増進することになる」と述べ、中東全体での米国の包括的戦略を実現する突破口になるとの認識を示した。米主導による中東での「民主化」促進、「アラブ・イスラエル紛争解決」を含めた戦後構想の一端を披露した。


◇米英 湾岸地域の軍事力着々と増強

  ペルシャ湾岸に展開する米軍は、2月末までに約18万人規模になりそうである。米空軍機は周辺国に既に300機を配置。衛星誘導爆弾6700発、レーザー誘導爆弾3000発を備蓄。米軍は開戦後48時間に、91年の湾岸戦争時の10倍に相当する3000発の精密誘導ミサイルを投入し短期決着を狙っている模様。空母も現在の2隻態勢から2月末までに4〜5隻態勢に。横須賀を母港とするキティホークにもインド洋への派遣命令が出された。また地上戦の緒戦に動員される空挺師団にも6日、派遣命令が出された。英軍もすでに陸軍機甲師団を含む3万5000人の兵力を展開している。さらに、フーン英国防相は6日、数週間内に湾岸地域の空軍を戦闘機、偵察機など計100機、7000人態勢に増強すると議会に報告。ヘリコプター部隊27機、1000人も派遣。


◇米のイラク攻撃支援をめぐって欧州分裂

  イラク攻撃に反対する仏独に対して、欧州の中で仏独を孤立させる米の工作が行われている。1月30日付け英紙「タイムズ」に、英・スペイン・伊・デンマーク・ポルトガル・チェコ・ハンガリー・ポーランドの8ヵ国首脳が米国に連帯することを求めた国連への書簡が掲載された。書簡に名前を連ねたのは、欧州の右派政権と、米にNATO加盟を後押ししてもらった東欧諸国。この動きは、米の共和党系経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」から英・スペイン・伊の3ヵ国政府に話を持ちかけたもの。さらに5日には、旧東欧10ヵ国が米の対イラク攻撃支持で共同宣言を発表した。ただし、こうした国でも、イラク攻撃反対の世論が7−8割を占めるところが多く、政権と民衆との間でねじれが起こっている。
 14日の国連査察団の追加報告を前にして、米英と仏独等の対立は先鋭化してきている。NATO緊急理事会で、イラク攻撃にともなうトルコ防衛を求める米提案を、仏・独・ベルギー3ヵ国がまだその時期ではないと拒否。3ヵ国の拒否を受けて、NATO加盟19ヵ国は10日、緊急理事会を開いて対応を協議。NATO歴史上初めて、トルコはNATO条約第4条を根拠に、自国の安全問題を討議するよう要請した。さらに10日、仏独露が査察強化の方向で共同宣言を発表。共同宣言は「戦争に変わる選択肢はまだある」と明確に言っている。これを中国が支持。
 仏独との対立が先鋭化する中で、米の仏独たたきが激しくなっている。米国防長官は「仏独は古くさい欧州」と述べ、「何もしたがらない3、4ヵ国」として、独をリビア、キューバとともに列挙した。また、米国防政策委員会のリチャード・パール委員長は「ドイツの現政権はもう用済み」と語った。


◇ブリクスUNMOVIC委員長、エルバラダイIAEA事務局長がバグダッド再訪

  両氏はバグダッドを再訪しイラク側と協議の後、記者会見。ブリクス委員長の会見内容は、▽イラクに態度の変化の兆しが見える▽炭疽菌やミサイル、神経ガスVXに関する多くの書類を受け取った。価値あるものだが、すべてに対する回答ではない▽兵器開発問題についてイラクは調査委員会を設置▽米偵察機U2による査察について、イラクは14日までに回答する▽イラクは科学者リストの補充を約束。立会人なしの科学者聴取についても了承。エルバラダイ事務局長の会見内容は、▽イラクに態度の変化の兆しが見える。イラクの100%の協力が必要▽査察を通してイラクに武装解除させるチャンスがある▽査察で進展がある限り、安保理が査察活動を支援するよう望む。


◇600都市で「イラク攻撃止めろ」 ロンドン50万人

  計60ヵ国、600都市で約1000万人が参加。ベトナム戦争を上回る規模に。ロンドンではロンドン警視庁発表で50万人を上回る人が参加。英労働党が会議を開いているスコットランド・グラスゴーでも4万人のデモ。ベルリンでは警察発表で50万人が参加。パリでは20万人参加。ローマでは地元メディア推計で100万人が参加。


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