イラク攻撃を突破口とする中東のグローバリズムへの編入
―米の中東戦略下でのパレスチナ情勢―

真の「ハト派」政治家は存在するのか?

1月28日にイスラエルのクネセト(国会)総選挙が行われる。一院制で、完全比例代表制で争われる。イスラエル世論の右傾化の中で、1月28日の総選挙では、リクードが圧倒的に優勢な情勢である。リクードの比例代表候補者名簿作成に絡む現職議員らの買収疑惑と、シャロン首相が1999年のリクード党首選の際に、南アフリカの実業家から150万ドルを収賄したという疑惑がもちあがり、一時期、世論調査でリクードと労働党の獲得議席予想が数議席のところまで迫った。しかし、最近の世論調査では、定数120議席中、リクードが33議席(現有19議席)、労働党が20議席を割る(同24議席)情勢である。
 ところで、昨年11月の労働党党首選で当選したアムラム・ミツナ氏は、マスコミでは「ハト派」として紹介されている。労働党が勝つかリクードが勝つかによって、劇的に状況は変化するのであろうか。
 確かに、占領政策に異なる部分はある。リクードは、ヨルダン川西岸から地中海までをすべてイスラエル国家とする大イスラエル主義で、できればパレスチナ人はすべてヨルダンにでも放り出したいと考えている。一方労働党は、占領政策の放棄ではなく、占領地の一部を放棄し、分離することによってイスラエルの「安全保障」を確立しようという政策である。ただし、どちらも、国連決議で承認されているパレスチナ難民の元の故郷への「帰還の権利」を認めていない。これまでも労働党とリクードが政権交代してきたが、そのことによって劇的に占領政策が終結することはなかったし、オスロ合意以降の労働党政権下にあっても、ユダヤ人の入植地は増加し続けた。
 マスコミが「ハト派」と言うミツナの経歴や政策を見てみる。1945年にキブツで生まれ、67年の第3次中東戦争と73年の第3次中東戦争、82年のレバノン侵攻に参加。レバノンにおけるサブラ、シャティーラの虐殺を黙認したシャロンを批判し、「ハト派の将軍」との評判を得て、長期化するレバノン侵攻に反対していったん辞任する。しかし、彼がシャロンに反対したのは、虐殺や他国への侵略に反対したからというよりも、虐殺や侵略の長期化によって、ヒズボラをはじめとしたレバノン左派・イスラム勢力によるレジスタンスの反撃が強まったためと、イスラエルに対する国際的な批判が高まったためである。
 その証拠に、彼はその後、リクードのベギン元首相によって指揮官に任命され、軍人に返り咲く。そして、87年に始まった第1次インティファーダでは、イスラエル軍の指揮官として西岸に赴き、パレスチナ人に対して容赦のない弾圧を行っている。そして、たくさんの勲章をもらって退役後、イスラエル第3の都市ハイファの市長を9年間務めたのである。政策的には、軍人としては強硬派だったが、「和平推進派」と言われたバラク前首相に近い。リクードとあまり違わないベンエリエゼルとは違うというほどの意味しかない。
 以上の経歴や政策からみて、ミツナの労働党が勝利したとしても、占領の終結とパレスチナ国家の樹立に進むことは期待できない。パレスチナを占領し続けるイスラエルの「安全保障」にとって何が最もプラスかというところからしか発想しない、他の政治家の域を出るものではない。実際は、世論調査での議席予想を見れば分かるように、リクード、労働党、どちらが勝つにしろ、右派を含めた大連立を組むしかない状況である。
 その点、占領されている側のパレスチナ人は現実主義者である。ある世論調査では、パレスチナ人の7割がシャロンとミツナの間に違いを認めていない。

続く自治政府への「民主化」「反テロ」要求
米国は、何の正当性もないイラク攻撃の準備を、着々とすすめている。イラク攻撃が始まった場合、中東情勢、パレスチナ情勢がどうころぶかは不透明な部分がある。しかし、イラク攻撃の下で、反米感情は高まるにしても、当面パレスチナ情勢が好転する要素はない。
 ラムズフェルド米国防長官の諮問機関である国防政策委員会が構想している「中東民主化・市場経済化計画」や、パウエル米国務長官が12月に打ち出した「米・中東パートナーシップ構想」は、いずれも圧倒的な軍事力でイラク・フセイン体制を打倒し、それを突破口にして全中東に親米国家を樹立し、石油利権を確保し、アメリカン・スタンダードである「民主化」と市場化を推し進めるというものである。中東地域もグローバリズムの例外にはしない、ということである。
 イラク攻撃に続いて、シリア、エジプトなどの民族主義政権、次いでサウジなど親米国家に対しても、一定の「民主化」が求められるであろう。その先には、イランの「民主化」=軍事攻撃がある。
 米国式の中東戦略によって、パレスチナ自治政府とアラファト議長に対してまず要求されるのは、自治政府の改革=「民主化」であり、パレスチナ人のありとあらゆる闘いを「反テロ」として抑圧することである。
 米国、ロシア、国連、EUの4者によって、パレスチナとイスラエルの対話再開に向けた中東和平案が策定されようとしている。しかし、自治政府に対して「民主化」と「反テロ」を要求することが第一に求められ、たとえ「パレスチナ国家の樹立」という言葉が入ったとしても、それに向けて急速に進展することは望めない。

いまだ「共存」を語れる現実はない

 今のところ、本当の意味で和平交渉が進展する状況にはない。米の一極支配のもとにある国際社会には期待できない。その中で、1月28日の総選挙で誰が勝利するかに関わりなく、イスラエルの政治家の恩恵に期待するのは困難である。パレスチナ民衆の戦いのイニシアチブのもとで、イスラエル人の中に厭戦気分が蔓延して、初めて可能となるであろう。
 イスラエルの中の和平派に期待を込めて、マスコミやパレスチナ連帯運動に関わる人々の中でも、イスラエルとパレスチナの「共存」が希望的に述べられることがあるが、いまだ真の和平派はイスラエルに育っていない。「共存」を語ることが、パレスチナ人の抵抗権を否定することにつながるようなことがあっては、断じてならない。何よりもパレスチナの人々こそが、二つの民族の共存を望んでいるのである。そしてそのことは、戦いを放棄することによってではなく、占領ではない共存への戦いを維持する中でしか獲得できない現実があるのである。
 その意味で、パレスチナを孤立させない世界の民衆の存在が、何より大切である。 (K)

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