マスコミ評価も二分する予算案
例年通り、昨年末に本年度予算案が発表されましたが、これは私達が納めた税金を政府が今年何にいくら使おうとしているのかを占う上で、大切な材料です。小泉内閣は昨年1年間デフレに悩まされましたが、彼らがこれにどう対処していこうとするのか、それを見定めるための試金石でもあります。
この予算案に対して、マスコミ4紙の評価が二分しました。日経・読売は「景気対策のための財政出動が不十分だ」と批判したのに対して、朝日・毎日は「改革の意思が衰退したバラ播き予算だ」と指摘しました。このこと自体、日本経済が容易ならざる事態にあることを物語っています。
デフレ克服のためには財政出動を増やしたい、だがこれを増やせば国債価格の暴落が怖い。この国の経済はまさに「進むも地獄、退くも地獄」だからです。また、今年は年金制度改革の議論が避けられません。 だが、この議論を真面目にすればするほど、若い人達は年金の掛け金を払わなくなるだけでなく、日本に絶望して「国外脱出者」が増えていく、という皮肉な結果が待っています。
予算案を検討することは、この国の経済の実態を直視するいいチャンスです。
「先行減税」の名で敷かれた増税路線
昨年12月初め、11月に行われたマスコミ各社による世論調査結果が発表されました。それによると、小泉内閣の支持率は先月に比べて「日経」で10ポイント、「朝日」で9ポイント低下し、日朝交渉による支持率急増を帳消しにしました。
これは言うまでもなく、この調査直前に決着した税制改革の結果でした。酒・タバコ税のアップ、パート従事者の配偶者に対する優遇税制の廃止、株・土地取引課税の軽減、赤字企業への課税のため外形標準課税の導入、企業の競争力強化のため研究開発投資・新規設備投資に対する減税、等々。言うなれば、大衆収奪で企業減税を賄おうという露骨な“弱い者苛め”です。デフレに苦しむ経済的弱者が、これに敏感に反応したのは当然の結果です。
今回の「税制改革」には、「減税先行」という悪巧みが隠されています。「減税で景気回復すれば、増税も苦でなくなる」と政府は言いたいのでしょうが、不況が続けば納税者は「騙された」と怒るはずです。経済が右肩上がりの時に歓迎されてきた先行減税も、デフレ経済下ではその評価が逆転します。
今回の所得税改革では、累進税率をそのままにしたため、かえって控除を受ける人の負担が重くなります。外形標準課税の導入も、今回は資本金1億円以上の大企業に限られましたが、将来は中小企業にも拡大されます。
こうして、「減税先行」の美名に隠れて巧妙に増税路線が敷かれたのが、今回の税制改革の特徴です。
小泉内閣が世論の支持を失ったことに敏感に反応した党内の抵抗勢力は、支持率低下に乗じて一斉に反抗に転じ、「小泉退陣」の狼煙を上げています。小泉首相の任期は今年9月ですが、その前にひきずり降ろしてしまおう、というのが彼らの魂胆です。だが、総選挙を4月の統一地方選挙と重ねるわけにはいきません。これで股裂きに合う公明党が反対だからです。それに本年度予算を成立させないで解散すれば、国民の批判を浴びます。それで、梅雨開けの解散・総選挙が有力と見られています。
怖い「国債暴落」、経常経費の穴を国債で
デフレ経済の下で税収は落ち込みます。今年度税収は前年度比10.7%減の41兆7800億円を見込んでいますが、この前提はGDP(国民総生産)成長率を0.9%に設定したうえのことです。民間調査機関はいずれも0.2%と見込んでおり、この予算編成の前提も単なる希望的観測に過ぎません。それゆえに、経済が「右肩上がり」の時代はそれでやれたのですが、デフレ経済下でこれを漫然と繰り返していると、国家の破産を招きます。
高齢化・少子化社会の到来を迎えて、医療費・年金など社会保障費は年々増え続けますが、税収は減り続けます。この帳尻合わせに使われているのが国債です。社会保障費は前年度比3.9%増、18兆9970億円です。この穴を埋めたのが国債です。今年度国債発行額は過去最高、前年度比21.5%増の36兆4450億円です。
小泉首相は公約として「国債発行枠30兆円堅持」を掲げていましたが、公約破りについて彼の口から何の説明もありません。それのみならず、彼は消費税率の引き上げにまで言及しました。これは日本経済にとって自殺行為です。巨額の公債残高を抱える日本がまだ世界の信用を繋いでいられるのは、消費税率を引き上げる余地が残っているからです。経常経費の穴埋めを消費税率アップで賄おうとすれば、「日本は700兆円の借金をチャラにしようとしている」と投資家に見なされ、日本経済に対する国際的信用はがた落ちとなります。
こんな自堕落な予算編成を繰り返せば、国債が雪達磨のように増え続けます。その結果、市中では国債がダブついており、相場急落の恐れが強まります。債券格付け機関の日本国債に対する評価は、今既に先進国中で最低、途上国並みです。もし債券市場で日本国債が急落=長期金利が急騰すれば、直ちに投資家は円資産をドルに換え、日本から資金が流出します。
日本という国家の破産です。これが見えてきたのが本年度予算です。 (渡邉)
|