出口のない長期停滞期に突入した世界経済
 --米・日・中とも不良債権処理進まず--

国によって異なる不良債権の形

 昨年は新年早々からデフレ対策の決め手として、金融機関が抱える不良債権処理の必要性が声高に叫ばれたにもかかわらず、実際には“家鴨の水掻き”よろしく、周りからの掛け声ばかりで一向に進まないまま、とうとう新しい年を迎えてしまいました。こうして旧式の生産設備が更新されず、何時までも企業に居座っていれば、道理でデフレは止まらないはずです。
 不良債権処理が進まないのは日本だけではありません。世界の二つの経済大国がデフレで悩まされている今、新興経済大国・中国も例外ではありえません。
 こうなれば、世界経済はデフレからの脱出口が全て不良債権によって塞がれてしまい、「出口の見えない長期停滞期に突入した」という金子勝慶大教授の判断が現実味を帯びてきました。アメリカ式会計制度というメッキが剥げ落ちたグローバリズムは、今や終末期を迎えています。
 だが、それぞれの国によって、不良債権の形も有り様も違います。金子教授は日本の不良債権の処理が進まない理由について、次のように指摘します。
 「98年以来、銀行経営者の責任が常に曖昧にされてきた。『竹中案』では、公的資金を投入する場合に、経営者が辞任すればいいとされている。しかし、追及すべきは一部経営者の不正会計疑惑である。この国では金融機関が破綻しないと、会計粉飾の罪が問われない。こういった異常事態を解消することが、経営者責任問題の本質であることを忘れてはならない。当たり前の『法の支配』を取り戻すことが緊急課題なのだ。『緊急性に鑑みて』現行法の枠内で不良債権処理を行うのでは、経営責任を厳しく問うことはできない。公的資金を強制注入することはできず、銀行の申請主義に基づかなければならないからだ。問題を解決するには、特別立法で会計粉飾に対して厳罰を科す以外に手段がない」(「エコノミスト」、12月24日号、19〜20頁)
 日本企業の人事制度は官庁と同じ年功序列で、新社長を指名するのは退任する社長です。それで、新社長は旧社長にミスが見つかったとしても、自分を社長に引き立ててくれたことに恩義を感じている彼は、先輩に対する責任追及を躊躇します。欧米企業の人事制度は実績評価主義なので信賞必罰ですが、日本の場合、年功序列という人事制度が不良債権処理の壁になっています。

経済全体に拡散する米の不良債権

 11月5日号「グローバルマネー」は米国の不良債権について、次のように指摘します。
 「米連邦準備制度理事会(FRB)、財務省および通貨監督庁(OCC)の年次合同金融検査(SNC)によると、問題債権は全体の12.6%と、前年の9.4%から上昇した。ロスと見なされる部分は91年の0.4%に対し、今回は全体の1.1%に達するなど、質的な面を含めれば、過去最悪に並びつつある。米銀の問題債権は、特定業種に集中しているとともに、貸し出しに対するリスクを他の金融機関・投資家に売却している。このため、不良債権は増加したものの、当面システミックな問題になっていない。米株式市場は10月初旬にかけて急落後反発したが、経済全体に拡散した不良債権という時限爆弾を考えると、悪材料は出尽くしたか、なお確信が持てない」
 日本の場合、金融機関の帳簿を調べれば不良債権の規模が分かりますが、米国では債権市場があり、そこで売買されているので、正確な把握が金融当局でも不可能です。それでデフレ下の債権市場は百鬼夜行、ババの掴ませあいの修羅場となっています。
 「エコノミスト」12月24日号で、高尾一義・朝日ライフアセットマネジメント取締役は、デフレに陥った中国が中南米危機の引き金を引く恐れがあると、次のように指摘しています。
 「アジアでも、今、中国がストレートにデフレに陥っている。消費者物価は02年10月までに14ヵ月連続下落し、金融機関の不良債権もGDP比で3〜4割にのぼる。そうした中国で成長を維持しようと思えば、財政支出の拡大か輸出に活路を求めるしかない。結局は生産能力の過剰を招く。中国のあおりを食っているのが他のアジア諸国だ。域内直接投資が02年は合計約1000億j減少し、それがそのまま中国へ流れている。アジア諸国では不良債権問題も再燃している。そういう中で、中国はアジアから直接投資を奪うだけでは足りず、メキシコに向かっていた資金を引き揚げ始めている」

負担を後進国に転嫁する先進国

 日本政府はデフレ対策として円安=ドル高を選択していますが、これはとんでもない話です。東南アジア諸国はいずれも日本からの多額の借金を抱えていますが、それを返済する場合、自国通貨をドルに替えます。
 為替相場がドル高であれば、その分これらの国々の負担増となるから、返済額がそれだけ膨らみます。これは日本が自分の荷物をこれらの国に余分に背負わせることになります。
 こうして、日本は負担を後進国に押し付けてデフレを乗り切ろうとしています。これを世界経済全体から見れば、「餌をとれなくなった蛸は自分の足を食べて生き延びようとする」と言われていますが、まさに「蛸足」の例え通り、自ら縮小均衡の道を選択したことにほかなりません。
 中国も含めて、世界の経済大国がいずれも不良債権処理を遅らせているだけでなく、こんな利己的なことを続けているので、世界経済は縮小均衡という迷路に迷い込み、そこから抜け出せなくなってしまいました。これから、その衰弱・死亡という長い道のりが続きます。
 こんな中で、「ファーストフードからスローフードへ」という運動が、全く別の次元から始まっています。デフレという迷路に迷い込み抜け出せなくなっていく世界経済、そんな中でこの新たな運動を見ると、この意義が鮮明に見えてきます。  (渡邊)

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