問題の根本に「食糧主権」の放棄
12月3日、農水省は「減反廃止」「市場重視」を柱とする「米政策大綱」を決めた。骨子は次のようなもの。*08年度には農業者・農業者団体が主役の生産調整に転換、*国・地方公共団体の役割を食糧法に明記、*「減反」から生産数量配分に転換、*担い手の経営安定対策を導入、等。
全国農業協同組合中央会(全中)と自民党農水族の必死の巻き返しで、国の役割を食糧法に明記することや担い手の経営安定対策の導入が盛り込まれたことから、国が配分から完全に手を引き「生産調整は農家の自己責任」と位置づけるという農水省の基本姿勢から後退した「玉虫色の折衷案」との批判も出ている。しかし、「30年余り続いた国主導の生産調整は抜本的に変わる」ことは間違いない。
コメにかかわる政策は1994年のWTO農業合意受け入れ、95年の食管法廃止による流通自由化で、市場原理導入へと大きく転換した。今回の「減反廃止」はその最後の仕上げでもあり、一方では政府の農業に対する「最終的責任放棄」だったとも言える。
「減反廃止」の背景には、「米の過剰基調が継続し、これが在庫の増加、米価の低下を引き起こし、その結果、担い手を中心として水田農業経営が困難な状況に立ち至っている」(大綱)現状があることは言うまでもない。生産現場では、「今や農家が販売する米の70%以上は、コストを償えない価格で売られている」状態なのだ。「責任放棄」の最たるものは、政策大綱でそれがどう変わるのかが全く見えてこないことだろう。
大綱は、2010年度までに家族経営8万戸、法人経営・生産組織1万戸の「効率的・安定的経営」に水田を集積することが大前提になっている。が、これに対しては「生産調整をかろうじて支えてきた『むらぐるみ』の論理の崩壊で実現不可能」、「農水省の大規模化路線は2000年を目標にした農業『新政策』でも、10〜20f規模を5万戸つくるとしていたが、いま10f以上の米作経営は全国で5000戸程度、5f以上層では減少すらしている」等々の問題点が指摘されている。つまり、「市場原理を導入すれば競争力のある農家が生き残る」というのは現実を無視した絵空事にすぎないというわけだ。
「小泉構造改革」の流れに乗って強調されている「民間企業の参入」はどうか。前回触れたように、「農地は賃貸のみ」などの条件がつけられたものの、「農業特区」で農業への民間企業参入の道が開かれた。特区は地方自治体や民間企業からの申し込みを待って決定されるため具体的な構想は不明だが、そもそも「民間企業の参入」自体が、単純に善として、しかも具体的構想が曖昧なままお題目として唱えられている傾向が強い。「資本の自由な活動が公認されれば、家族経営の解体あるいは直接耕作者の生活水準の押し下げによる利益の搾出をともなわざるを得ず、日本の水田農業に新たなデッドウエイトと荒廃をもたらす」などの指摘は、「構造改革」のお題目にかき消されてしまっている。
そして、これらの問題の根本には、先日来日した仏の農民運動活動家ジョゼ・ボベ氏の言う「食糧主権」の放棄がある。農水省も一応「自給率の向上」を掲げはする。しかし、これまた単なるお題目で具体策もなし。現実が逆の方向へと加速していることは、この間取り上げてきた通り。農業現場では「国内に農業が残るのかどうか、かなり厳しい状況に立ち至っている」との声が強くなっている。(つづく) (つ)
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