「小泉構造改革」下で進む「戦後農政の総決算」@
―農業特区、米改革、農協改革と矢継ぎ早―

 農業への企業の参入、生産調整から国が撤退する「米改革」、農協に対する独禁法適用…「戦後農政の総決算」とも言える農業政策の転換が次々と打ち出され、農業界に大きな衝撃を与えている。基調にあるのは「小泉構造改革」の農業版、要するに規制を撤廃し市場・競争原理を導入(=民間企業の参入)すれば農業が活性化し再生するという恐るべき単純な理屈。しかし実際は、活性化どころかどう見ても農業政策の放棄であり、瀕死の日本農業に最終的ダメージを与えるものとしか思えない。この問題については今後、研究所としても追究・論議を続けていくつもりだが、まずは経過と現状について整理しておきたい。
矢継ぎ早の転換の起点となったのは、BSE問題で非難の的となった農水省が、それを受けて4月に作成した「食と農の再生プラン」。再生プランでは、「農畜産物のトレーサビリティ」や「都市と農山漁村の共生・対流」と並んで、「農業の構造改革と農協改革」が強調された。農業の構造改革の具体化としての市場・競争原理導入―農業への企業参入と「米改革」、それに向けた「抵抗勢力」農協の改革(揺さぶり)―農協に対する独禁法適用、というのが全体の構図。以下、それぞれの問題についてみていきたい。

企業の参入―農業特区

 「特区構想」は小泉政権のデフレ対策の柱の一つで、地域を限定して規制を緩和、経済活性化を図ろうというもの。経済財政諮問会議が6月に決めた「経済運営と構造改革に関する基本方針2002(骨太の方針第2弾)」に、構造改革特区として盛り込まれた。政府は7月、首相が本部長の推進本部を設置、都道府県などにアイディアを募集、249団体から416の提案が寄せられた。
 特区全体については10月11日、推進本部が具体策を決定したものの、目玉だった株式会社の病院・学校経営参入が見送られ、規制緩和項目も構想の初期段階の1/10の79項目になるなど、推進派にとっては「官僚抵抗、骨抜き」に。なんでもあり、やりたい放題の地区を作って経済を「活性化」するという特区構想自体の問題は別に検討するとして、特区構想のもう一つの目玉だったのが、農業への企業の参入。
 農業特区に寄せられた提案は23都道府県、67市町村、1民間企業からの94件で、ほとんどが企業の参入を促すもの。農水省は当初、耕作者主義(農地の所有や賃借を耕作する者に限る)としている農地法の形骸化につながるとして難色を示していた。しかし、前述の「再生プラン」もあり、特区導入を前提とした条件闘争に転換。農協グループも、農地の荒廃や投機的農地取得などの懸念を表明していたが、懸念を取り払う具体的な対策を講じることを条件に、農地の貸し付けを認める方針を決定。結局、焦点は企業の農地所有を認めるかどうかになり、推進本部の具体策決定の前日10日に開かれた自民党農林水産部会で、農協などの意を受けた「農林族」議員が、「賃貸のみ認める」との独自案で押し切った。
最終的に具体案に盛り込まれた農業特区は、@一般の株式会社など、農業生産法人以外の法人の農業参入を認める、A市民農園の開設者の拡大、の二つで、「企業参入を認める特区は、担い手不足や農地の遊休化が深刻な地域」「参入企業は地域と調和し、適正で効率的な農地の利用」「企業の農地所有は認めず、市町村などからの貸し付け方式が基本」などが条件。政府は臨時国会に特区法を提出、来春の施行を目指す。
今回決まった農業特区案にどれだけの企業が参入するのかはっきりしないが、農業への本格的な企業参入に向けた第一歩であることは間違いない。農業特区構想の背景に、耕作停止農地が日本の農地面積480万fの13%60万fもあることや深刻な後継者不足など、日本農業の深刻な惨状があることは、関係者全てが認めている。効率・利益至上主義の企業論理と農業の齟齬という根本的な問題も含め、考えるべき問題は余りも多い。  (T・つづく)

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