中間選挙で共和党勝利、ますます強気のブッシュ政権
―中東諸国でイスラム勢力躍進、高まる反米意識―

世界情勢の緊張増大へ

 今後のイラク情勢やアメリカのユニラテラリズム(単独行動主義)の動向に大きく影響すると思われる中で注目されていたアメリカ中間選挙が、共和党の勝利で終わった。上下院の過半数を制し、知事選でもとりあえず半分の州で勝利した。歴史的には、米中間選挙で政権政党が下院で議席を伸ばしたのは2回しかないという中で、「戦時大統領」の利を生かしきって共和党を勝利に導いた。選挙結果を受けてブッシュ政権は、今後ますます、内外の政策で保守主義の傾向を強め、「対テロ戦」を強力に推し進めていくのは必至の状況である。
 選挙結果をもう少し詳しく見てみると、上院(定数100)では、共和党が2議席伸ばして51議席、民主党47議席、無所属1議席。下院(同435)では、共和党が4議席伸ばして227議席、民主党206議席、その他1議席。知事選では、共和党は2州減らして25州、民主党は3州増やして24州。上下院、州知事ともひとつずつ未確定である。数だけを見ると、「歴史的勝利」というには遠く及ばず、やはり激戦だったことがうかがえる。
 戦争を利用した熱狂は必ずいつか冷めるものであり、米国内の経済状況をみると、決してブッシュも安泰というわけではない。それだけにブッシュは、今後も「反テロ戦」を次々に繰り出す中で人々の愛国心をつなぎとめようとするであろう。それにしても、政権政党不利といわれる中間選挙で議席を伸ばしたこと、何よりも上下両院で過半数を確保したことの政治的意味は大きく、共和党の大勝利であることは間違いなく、当面の世界情勢を、緊張を増大させる方向に導くのは間違いない。

米国に翻弄される国連

 米提案の決議案が、可決に必要な9ヵ国の賛成を得られそうにない情勢の中で、もし不採択にでもなれば中間選挙に打撃になるのは必至で、ブッシュは対イラク国連安保理の採決を5日の中間選挙後にもってきた。そして、中間選挙での勝利を圧力に、決議案を「イラクの申告に偽りや省略があった場合、それはイラクによる義務の『さらなる重大な違反』であり、安保理に報告し、判断される」と再修正することによって、イラクに違反があっても安保理が判断するのだと解釈する余地を与えることによって、安保理全会一致で新決議を採択した。
 今回の8週間に及ぶ安保理決議の採択に至る顛末について、9日付朝日新聞の五十嵐浩司ニューヨーク支局長の記事が極めてまっとうなことを書いている。「強力に推すのはたった2ヵ国で、百数十ヵ国が反対しても押し切られてしまう。おかしな話だ」「今回の決議を巡る動きは、どちらに転んでも国連の威信を損なうものではあった。米国は否決されたら単独で軍事行動に出ると脅した。…一方、決議の採択は米政策の追認を意味する。…戦争の正当化に国連がまた使われかねない。あまりに強大な一国が仕切る時代の国連の限界を、今回の決議採択は端的に示している」

人々の心の中には憎悪が沈殿

 13日にイラクは、この決議を無条件に受け入れることを表明した。いくら独裁政権のフセインといえども、最後通牒に等しい決議を前にしてそれ以外の選択の余地はなかった。もし、これでイラクの査察問題が解決したとしても、査察を受け入れない程度のことで国連が戦争を容認するのかという問題は残った。
 アフガン空爆から1年が経過し、いま新たにイラクに武力攻撃を仕掛けようとし、イスラエルの「反テロ戦」という米と同じ論理によるパレスチナ自治区再侵略を許し、ブッシュの好き放題がまかり通っている。一見、ブッシュの思惑通りに世界が動いているかのように見える。しかし一方で、抑圧され攻撃される側には、確実に人々の心の中に憎悪の澱が沈殿していっている。
 10月に行われたパキスタン総選挙では、反ムシャラフ大統領派の6イスラム政党連合体の統一活動会議(MMA)が、それまでイスラム勢力の議席は2議席だったのが、一気に60議席に議席を増やし、第3党に踊り出た。MMAは北西辺境州の州議会選挙でも大勝している。この結果は、反米感情からきていることは間違いない。
 また、トルコでは国会総選挙が3日に行われ、イスラム主義政党の流れをくむ公正発展党(AKP)が地すべり的勝利を収めた。AKPは定数550のうち363議席を獲得し、中道左派の共和人民党(CHP)が178議席、連立与党3党はすべて議席を失った。AKPは自らを保守と位置付けてEU加盟へ意欲を示しているが、躍進への下地として反米感情が十分考えられる。アメリカを攻撃対象にしたテロも各地で再発し始めている。
 抑圧そのものを取り除かない限り、力による政策では真の平穏がやってこないのは目に見えている。  (K)        

[←back]