「経済国会」の陰で有事法制への準備進む

 臨時国会では、不良債権処理やデフレ対策など経済問題が焦点化され、有事法制についてはあまり注目されていない。しかし、小泉首相の所信表明では「今国会においては、有事法制や個人情報保護法制など継続審議となっている法案に優先的に取り組み、成立を期します」と意欲を示している。
 前国会で主に批判されたのは、「武力攻撃事態」の概念があいまいであることと、「国民保護法制」が後回しにされ有事関連三法案成立から2年以内に整備することとされている点であった。与党・政府は有事法制成立に向けて、これらに対処すべく作業を継続している。「武力攻撃事態」の定義を修正し、「国民保護法制」の概要を、11月中にも野党に提示する方針である。
 法案成立に向けた動きとは別個に、自衛隊の実績作りがどんどん進んでいっている。テロ対策特別措置法によるインド洋・アラビア海への海上自衛隊の派遣期間が11月19日で切れるが、政府は来年5月まで半年間再延長する方針を固めた。同時に、米英軍以外の独、仏、カナダの艦船への給油や、P3C・イージス艦の派遣も検討している。これらは、イラク攻撃に備えてアメリカが防衛庁に要請してきたものであるが、政府は積極的に応えようとしている。
 他の国の首脳が米英のイラク攻撃を批判しているときに、小泉首相は沈黙を続けている。アフガンの対テロ戦で初めて戦闘地域に自衛隊を送った政府は、できるならイラク攻撃に何らかの形で関与することでさらに実績を積みたいというのが本音である。

自衛隊「治安出動」訓練活発化

 9月の内閣改造で、超タカ派の論客と言われる石破茂が防衛庁長官に就任したことによって、この動きは加速されそうである。防衛庁は、来年度から情報本部に公安業務を担当する専門チームを新設する方針を明らかにした。また、陸上自衛隊は、初めて警察と合同で「治安出動」を想定した訓練を行う。訓練は、武装工作員の侵入を想定して図上訓練で行われるが、来年度以降、全国の陸上自衛隊と都道府県警察との間で訓練を積んで実働演習も予定している。
 これまで公安業務は警察の役割とされ、「治安出動」は人民に銃を向けることになりかねないということで反発の強い領域であったが、対テロ戦・対ゲリラ戦を口実に「防衛出動」と「治安出動」の垣根が曖昧になってきた機会を捕らえて、一気に自衛隊の存在感を増したいようである。
 「普通の国」並に、銃を持った自衛隊が街中を堂々と徘徊し、人民に銃を向け、他国で戦闘に参加するのはそんなに遠くないのかもしれない。そのとき、人々は「自衛隊の皆様ご苦労様」と言うのだろうか…。  (K)

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