株価急落、相場底割れ懸念でも「護身大事」の小泉首相
 --政治への国民の信頼回復こそ急務--
迷走する政府の景気対策

 世界の株式市場で株価が玉突き状態で低下し続け、相場の底割れも懸念される中で、日本政府が経済政策にどのような舵取りをするのか、世界の注目が集まっています。だが、この世界の注視を余所目に、日本政府は経済政策の取りまとめに混迷を極めています。

 竹中慶大教授が経済財政・金融相に任命され、金融機関が抱える不良債権処理を加速させるため、彼は特命チームを発足させましたが、その中に予てから大胆な不良債権処理を主張してきた木村剛KPI代表を入れます。これに対して株式市場は敏感に反応します。
 この人事で不良債権処理が急速に進むと読んだ投資家達は、銀行からの借金で生き延びてきた流通、建設などの株式を一斉に売りに出し、これらの企業の株価が下がります。そうなると、失業者・倒産企業の急増から不況が深刻化するとして、「売り」が全体に広がります。

 これに煽られた自民党は景気対策を要求します。これは、補正予算、その財源として小泉首相の公約「国債発行枠30兆円」突破の要求となり、「政局問題」発展の様相を帯びてきました。
今月7日、竹中金融相は小泉首相に「30兆円」の枠を外すよう求めますが、彼は拒否します。いずれ「30兆円」枠を外さざるを得ないと彼も見ているのですが、これは自分の面子にこだわる彼が「抵抗勢力に押し切られた」と、世間から見られるのを恐れてのことです。

 11日の経済財政諮問会議で景気対策の一環として企業減税が議論の俎上に上がりましたが、小泉首相は結論を先送りする意向を示します。だが、塩川財務相は会議後「法人税引き下げで合意した」と言って、これを否定します。「税制は財務省主導で」と、官庁同士の権限を巡るいさかいから首相は腰を引いています。

 こんな政府の景気対策の取りまとめにあたっての混迷ぶりは株式市場で不信を招き、更に株価の下げを誘います。

 しかし、日本経済の現状は、こんな官僚の鞘当てや政治家の面子にこだわっている余裕などありません。日本経済はまさに「行くも地獄、退くも地獄」、立ち往生の状態にあります。

 今日の深刻な不況から今年度の税収が事前の見積りより大幅に落ち込むことは確実です。それで、小泉首相は既に来年春の通常国会の冒頭に補正予算案を提出すると明言しています。更に、年金や医療費などの支出は毎年増え続けており、来年度予算編成はこの枠にこだわっていては不可能です。

 来年度予算編成に当たって「30兆円枠」突破は確実です。だが、これを小泉首相が認めてしまうと自民党内から責任追及の火の手が上がることを恐れて、彼はこだわっているにすぎません。

日本経済再建の鍵握る政治改革

 政府は金融機関が抱える不良債権処理策の取りまとめに追われていますが、日本が抱える最大の不良債権が何と言っても日本という国家そのものが抱える700兆円の公債残高にあることは、今更言うまでもありません。これは政府が抱える借金ですから、政府の責任で処理しなければなりません。

 この、巨額の借金の返済は消費税の税率引き上げによるほかないことは、誰もが暗黙の内に認めていますが、政治家は人気が落ちることを恐れて誰も言い出そうとしません。こんな時、毎年増え続ける政策経費の財源充当のため、消費税率の5%引き上げが検討されている、と伝えられています。

 こんな締まりのない財政運営をすれば、国債を買う人がいなくなるだけでなく、売りに出され、価格暴落=利子率急騰の恐れがあります。

 今回の経済危機で分かったことは、不良債権の怖さです。だが、この国が抱える最大の不良債権は、国そのものが抱える公債です。これに対しては、政府の責任で返済計画を早急にまとめ、国民の同意を取り付けるべきです。

 残高700兆円を半額の350兆円に減らすとして、消費税率を5%から15%に引き上げると年間の税収は30兆円、12年間かかります。だが、これをやろうとすれば、政治に対する国民の信頼が必要です。

 政治家は政治が不人気なことを知っているから、必要なことは分かっていても、ずる賢い彼らは自ら言い出さないだけの話です。日本経済再建の鍵を握っているのは経済自身にあるのではなく、政治に対する国民の信頼を回復することにあります。国民の側も票の見返りを政治家に求めているようでは、日本の政治はいつまでたっても変わりません。                 (渡辺)

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