ブッシュの唯一の基準は新米か反米かだけ
フセイン政権の打倒を目的とするアメリカは、イラクが国連の査察を受け入れようが受け入れまいが関係なく、しゃにむにイラク軍事攻撃にむかって突き進んでいる。イラクが国連による「即時・無条件・無制限査察」の受け入れを表明した今も、武力を背景に査察を迫っていく必要があるという。アメリカが準備している新たな国連安保理決議草案は、イラクが査察を受け入れないように仕向けるためのものとしか思えない内容である。戦争を正当化するためだけの新決議といえる。
誠に勝手なものである。9月30日のAP通信が伝えたところによると、イラクが生物兵器の開発に使うことになる炭疽菌やボツリヌス菌、ガス壊疽菌などの病原菌を提供したのは他でもないアメリカ自身であることが、米疾病対策センター(CDC)や連邦議会、国連査察団の資料から明らかになった。1980年代のイラン・イラク戦争のときに、CDCや生物関係の民間会社からバグダッド大学などの研究施設へ、米商務省の輸出承認許可を得て10回前後送られたとのことである。
イラクのフセイン政権の化学兵器開発やクルド人弾圧は、今に始まったことではない。イラクは1980年9月22日にイランに進攻しイラン・イラク戦争が始まったが、1980年から1988年のイラン・イラク戦争の間に、イラクはイランに対してマスタード・ガスを5回、神経ガスを2回使用し、イラク内のクルド人に対して化学兵器を用いて弾圧した。しかし、このときアメリカはイラン革命を潰したいがために、イラクが戦争を仕掛けたことやイラクが化学兵器を用いたこと、クルド人を弾圧したことなどは一切不問にして、イラクを支援し続けた。アフガニスタンで、対ソ連ゲリラ養成という目的のためだけにウサマ・ビン・ラディンに武器を与え育成してきて、今しっぺ返しを受けているのとまったく同じ構造である。アメリカにとっての唯一の基準は、親米であるか反米であるかだけである。
地に落ちる国連の権威 米の横槍で実務協議合意を不履行
イラクは9月16日、国連査察を無条件で受け入れることを表明し、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長とイラクの間で査察再開に向けた実務協議が行われた。その結果10月1日、イラクが「即時・無条件・無制限」で査察を受け入れることで合意した。ただし、大統領関連8施設については、事前通告を要するというものである。この合意は、これまでの国連決議の内容に沿うものであり、大統領関連施設についても、98年に国連とイラクの間で交わされ当時の安保理も承認した覚書に沿うものである。つまり、ブリクス委員長は、これまでの国連とイラクの間の約束事に基づいて協議を行ったのであり、それを超えた取り決めをできないのは当然で、そういう意味において、イラクは現時点で課せられていることを無条件で受け入れたといっていいだろう。そして、安保理の了承を得られれば2週間以内にも査察の先遣隊をバグダッドに派遣することになっていた。
それにもかかわらず、アメリカは横槍を入れて、新決議の前の先遣隊派遣は認めないという。ブリクス委員長は4日、パウエル米国務長官と会談し、イラクの大量破壊兵器査察問題について、国連安保理が協議中の新決議が採択されるまで、査察官の派遣を見送ることで合意した。ブリクス委員長は記者会見で、「査察官派遣後に新決議が採択されれば、ぶざまなことになる」と述べ、これまでの決議のもとでの査察官派遣は難しいとの認識を示した。私がフセインだったら怒りまくるであろう。査察に応じろといっておいて、国連のいうとおりの内容で合意したのに、国連自身がその合意を実行しようとしない。
今、国連の権威は地に落ちている。たとえ、フセインが国連決議を守らなかったとしても、他国を侵略しているならいざ知らず、査察を受け入れない程度のことで決して戦争を容認してはならない。南アフリカのアパルトヘイトを撤廃させるのにも、忍耐強い経済制裁などの方法がとられた。国連決議を守らないだけで武力攻撃しなければならないのなら、他にそういった国はたくさんあるのではないか。 (K)
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