拉致問題がマスコミ各社間視聴率競争のオモチャにされて
9月17日、小泉首相は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の首都ピョンヤンに乗り込み、キム・ジョンイル朝鮮労働党総書記と首脳会談を行い、両国間で国交回復交渉を開始することで合意し、共同宣言を発表、その日の内に帰国します。その過程でキム総書記が過去に日本人を拉致したことを認め、小泉首相に謝罪していたことが明らかとなり、このニュースは日本国内のみならず世界中に驚きを持って迎えられました。
だが、その後が大変でした。彼に随行していた外務官僚の拉致被害者に関する情報収集と家族への伝達のミスが明らかにされるや、我を忘れたマスコミ各社が一斉にテレビ視聴率・新聞売上部数の獲得競争に走り出し、国交交渉自体がマスコミ各社の玩具にされてしまいます。
確かに、外務省側にミスがあったことは否めませんし、それが未だに改められていないのも事実です。だが、拉致問題解明はマスコミが騒ぎ立てたところで進むはずもなく、国家間の交渉を抜きにして解決しません。個々の家族がいくら北朝鮮政府と交渉しようとしても、彼らは取り合いません。それをあたかも国家を越えて被害者家族が交渉の主体になりうるかのような幻想を振り撒くマスコミの狂乱振りに、私は辟易しました。
日米中韓露安保協議に及び腰の外務省
拉致被害者家族と外務省とのやり取りを見ていて感じることは、この役所は国交回復交渉のスケジュールまでは確かに持っているが、北朝鮮との国交回復後、東アジア地域にどのような世界をロシア、中国、北朝鮮、韓国と我が国で作ろうとしているのか、この構想を未だに持っていないのではないか、と私は推測しています。
これは官僚を叱っても仕方ありません。政治家の仕事ですから。だが、我が国の政治家は残念ながら、いつまでたっても官僚任せです。我が国には安全保障専門家が沢山いるのですから、彼らを国会に招いて勉強会を行い、政治の責任で東アジア地域の安全保障構想をまとめるべきです。政治家がこの問題を触ることに臆病になっているのは、米国の安全保障政策が絡んでいるからで、「障らぬ神に祟りなし」との彼らの臆病さが原因になっている、と私は見ています。
国交回復の過程で、両国間で先ず議題となるのはこの国の経済再建です。北朝鮮の経済再建の前に立ちはだかっている最大の壁は、軍事費です。これの削減を日本が求めれば、彼らは在韓米軍が今の規模でいいのか、と直ちに返してくるはずです。
在韓米軍の守備範囲は北朝鮮だけではありません。中国も含まれています。これが絡むことが分かっているから、日本の外務官僚はこの問題に触ることに臆病になっています。だが、日本がこの問題に臆病になっていては、いつまでも東アジア安保協議の議論は米中両国に仕切られ、日本は受動的立場に甘んじなければなりません。
東アジア地域における安保協議で避けて通れない問題は、東シナ海、黄海が米中核対決で激しい陣取り合戦の場となっているという現実です。
中国のミサイル発射基地は新疆省、青海省など内陸部の奥深い場所に作られています。中国から米国に向けて打ち上げた弾道ミサイルが大気圏内にいる段階で捕捉しないと、米国は中距離ミサイルで打ち落とすことが出来なくなります。それで、米国は中国大陸と至近距離にある沖縄や韓国に中距離ミサイルを配備しているだけでなく、東シナ海や黄海に原子力潜水艦を配備し、出来る限り中国の発射基地に近づいてミサイルを潜水艦から発射し、中国が米国に向けて発射する弾道ミサイルの速度が上がらない内に、命中させようとしています。
中国は太平洋の日本海溝奥深く原子力潜水艦を潜らせ、そこから大陸間弾道ミサイルを米本土に向けて打ち上げる体制を整えようとしています。現に、中国は東シナ海から黄海に向けて原子力潜水艦からの中距離ミサイル発射実験に成功しており、これが正確に目標地点に到達していることを米国の偵察衛星も確認しています。
こうして、黄海、東シナ海という日本周辺海域の海底は、米・中両国原子力潜水艦の激しい陣取り合戦の場となっています。したがって、東アジア地域安保協議とは、単に通常兵力削減だけではありません。海の底で繰り広げられている米中核対決の抑制、という難問に取り組まなければなりません。
それで、外務官僚の腰が引けていると私は見ていますが、この問題に取り組もうとする腰の座った政治家は、この国にいないのでしょうか。日本は世界で唯一の核被爆国です。日本がこの課題の前で怖気づいていては、世界の笑い者になります。
日本の公安警察は25年間何をしてきたのか!
今、拉致被害者の問題が国民注目の的となっていますが、これらの事件は25年以上も前に起こっていながら、警察は今まで何をしてきたのでしょうか。
韓国内では60年代後半から、軍事クーデターによって政権を奪った、パク・チョンヒ独裁体制に対する学生や野党の反対運動が高まります。これに対して北朝鮮はスパイを送り込んで体制撹乱を図りますが、ことごとく失敗します。それで、北朝鮮は日本経由で韓国内にスパイを送り込む方針に変更します。すなわち、北朝鮮国民を日本人になりすませて、韓国に送り込もうというのです。そのスパイ教育係として日本人を必要としたというのが、拉致の目的です。
だが、これに対して日本の警察はどのような対策を取ったのでしょうか。原さんの拉致事件が宮崎県青島で80年に起きていますが、これの捜査を求めた原さんの家族に対して、警察は「この捜査を担当している公安が『裁判を起されると、捜査の手の内が明かされるので止めてくれ』と言われた」と言い、不起訴処分にされた、とテレビで語っています。
現在、公表されている限りでは、77年の横田恵さんの件が最初ですが、これも新潟県警が事件をいち早く公表し捜査を始めていれば、この種の事件の再発は防げたはずです。
だが、警察は自分のミスが追及されることを恐れ、公安を壁に事件を隠します。すると、北朝鮮は日本を甘く見て拉致を繰り返します。この警察の秘密主義・自己保身体質が拉致事件をここまで拡大させました。
北朝鮮による日本人拉致事件がこのように拡大したことに関しては、二度と同じ過ちを繰り返さないために、歴代の警察庁公安部長を国会に呼んで証言を求め、真相を究明すべきです。キム・ジョンイルが日本に謝罪したのだから、彼らも公の場で国民に謝罪すべきです。 (渡辺)
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