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勝手に記念

〜敬愛する怪作様に、勝手に捧げます〜

 

 

―絶対に、どこかのSSにあったはずのネタより―

 

隣りの晩ごはん2000

 

 

 

 

 

7月の水曜日。鈴原トウジと相田ケンスケは、掃除をサボった。旧市街のゲームセンターと本屋をひやかし、どちらかの家に行く。週に2、3回はある、いつもの彼らにとっての日常である。親が帰ってくるのが遅い二人には、「道草せずにまっすぐ家に帰ろう」という生徒心得第八条は、全くの無意味だった。

 

この日も、クラスの学級委員長から逃げ、ゲームセンターで対戦し、今日発売のマンガ雑誌を立ち読みし、ファーストフードショップでハンバーガーセットを買い、トウジの家に行った。中学生の男二人、誰もいない家だからといって、特別なことをするわけでもない。テレビゲームをするか、コーラ片手に学校や学校の誰かの話をするか、そんなもの。どんなに遅くても、七時には自分の家に帰る。

 

で、7月の水曜日である。トウジとケンスケは、家に着くなり、ゲームを始めた。ゲームセンターでやったゲームの、移植版である。「おりゃ」「あちゃ」「くそ」「ああ」とか、一文節以内の言葉だけしか二人は発していないのだが、それでもコミュニケーションなのである。

 

「ちょっと、便所」というトウジの言葉で、ラジカルではない格闘が一時中断した。ケンスケは、テレビを「外部2」から「テレビ」に変えた。4、6、8、10、12、4・・・と変える。6時台はニュースしかやってないんだよな、12のアニメも今日はガキ向けだしな、とケンスケはチャンネルの切り替えを止めた。

 

「『隣りの晩ごはん2000』!こんばんは!今日は、第3新東京市に来ています。」

ケンスケはリモコンを置いた。

 

「今日は、こちらのマンションに突撃しちゃいます。」

あれ、ここって。

 

「えーと、何階にしましょうかねえ」

ああ、碇のマンションじゃんか。まさか、ねえ。

 

「奥の、この部屋にしましょうかね」

おい、まさか、ホントに?

 

 

「おーい、トウジ!」

「トウジ!」

「なんや」

二リットルのペットボトルのオレンジジュースを持ったトウジが、二階に上がってきた。

 

「碇の家がさ、映ってんだよ」

「え、碇んちって、この前行った、あのマンションか?」

「ほら、見ろよ」

 

 

『葛城』の表札。二週間前に押したインターフォン。

 

「はーい」という声がインターフォンに押し付けたマイクを通して、聞こえてくる。

 

 

「碇の声ちゃうかー」

ビデオデッキに、トウジはビデオを入れ、そのまま録画をした。

 

 

「こんばんはー、『隣りの晩ごはん』という番組なんですが」

ドアが開いた。ペンギンがカメラに大写しになる。

 

「あれー、ペンギンちゃんのお出迎えですねー」

「あ、あのー」

「えーと、ボク、お母さんはいるかなー?」

「え、えっと、いませんけど・・・」

「おうちの人、誰かいるかな?」

「ええ、まあ」

「ボクは、いくつ?」

「じゅ、14歳ですけど・・・」

「あら、中学生?小学生かと思っちゃいました」

 

 

「おい、碇のやつ、めっちゃ、テレビ慣れしてへんで」

「そりゃ、そうだろ」

 

 

「シンちゃーん、お客さーん?」

玄関の奥から、声がする。

 

「お邪魔させてもらって、いいですかー?」

答えを待つ前に、靴を脱いでるリポーターと、カメラマン。

 

「ちょ、ちょっと、待ってください」

「どうしたの、シンちゃん」

 

 

「葛城さんちゃうかー」

「ああ・・・」

「えらい薄着やな」

「ああ・・・」

「めっちゃ、羨ましいな」

「ああ・・・」

 

 

「あれー、お母さんにしては、若いですねー」

カメラは脚から上にパンして、ミサトの顔が大写しになる。

「え、もしかして?」

「そうです、『隣りの晩ごはん』です」

「うわー、あたし、ファンだったんです。ええ、今日なんですかー?」

「そうです、今日ですよー、ナマ放送ですからねー」

「ねえ、ミサトさん、いいんですか?」

「お二人は、ご姉弟なんですか?」

「いえ・・・」

「ええ、そうなんです」

シンジの言葉にかぶせて、ミサト。

「失礼ですが、お姉さまの方は、おいくつなんですか?」

「四捨五入して、30になってないです」

「おや、微妙な年ですね」

ほほほほほほ、とミサトは笑う。

 

 

「葛城さんって、ちゅうことは、」

「24歳、ってことか。」

「つーと、ワシらとは・・・」

「10歳違いだね」

「10年は、ストライクゾーンやな」

「ああ」

 

 

「今日の晩ごはんは、何ですか?」

「カレーライスなんですよ」

どうだ、と言わんばかりにミサトが答える。

カメラは、ミサトの上半身を画面一杯にとらえようとする。

「作ったのは、お姉さま?」

「はい、そうです。」

「お姉さまが、いつも料理を作られる?」

「そりゃあ、もちろん!料理は、三度の飯よりも得意ですから」

「これは、楽しみだなあ」

 

どうぞ、どうぞ、とキッチンに入っていく、ミサトとリポーターが並んで歩き、シンジは二人の後ろ。それをカメラが追う。シンジの足取りが重々しいのは、緊張のせいだろうか。

 

 

「碇もなー、もっとええ服もっとらんのかいのー」

 

 

「あれまた、いい匂いって、もう一人いらっしゃるようですねー。ご姉妹でいらっしゃる?」

「いーえ、職場の先輩ですわ」

 

「なんなの?シンジくん」

「『隣りの晩ごはん』って、番組ですよ」

「で、ここに来たというわけ?」

「そうみたいですね」

「ナマ放送?」

「ええ」

「全国ネット?」

「いえ、多分関東、東海ローカルだと思います」

「でも、ネルフ本部でも見れるわけよね」

「そうですね」

「まったく・・・」

小声だから、マイクは拾ってないはずだ。諜報部は、明日には『上』に報告するわよ。減給はないだろうけど、訓告は覚悟しなきゃ。ミサトの『先輩』、赤木リツコはため息をついた。

 

 

「この人も、ネルフにおるんかいな」

「そうなんだろな」

「で、葛城さんとこに、よう遊びに来るんかのお」

「さあね」

「碇のヤツ、ええなあ」

「・・・」

 

 

「あら、ビール?!仕事が終わって、一杯ですか?」

「ええ、もうこれだけはねー」

 

「いただいて、よろしいですか?」

答えの前に、リポーターは椅子に座っている。

「ど、どうぞ」

シンジがご飯を盛った新しい器に、カレーをかけ、リポーターの前に置く。

ミサトは、リポーターの分のビールのプルタブを空けた。

「ボクは、よくお手伝いするのかな?」

「このコは、よく働きますよー」

「偉いねー」

シンジは、下を向いてしまった。

 

「じゃあ、かんぱーい!」

ミサトとリポーターが缶を交わす。

ミサトが一息で飲む。リポーターは一口飲む。

 

「いただきまーす」

カレーを口に入れたリポーター。

面妖な顔になる。

 

二口目。

顔を、しかめる。

「これは」

 

三口目。

ビールに口を飲んだ。

「なるほど」

 

四口目・・・

すくったところで、スプーンが止まった。

「ん、んん」

 

四口目?

スプーンを落とす。

 

カメラから消えたリポーター。

椅子から、倒れ落ちたのだ。

 

「『ヨネスケ』さん!」

カメラマンが、叫ぶ。画面が揺れる。ケンスケは、番組改変期の「カメラがとらえた決定的瞬間」を思い出した。ああ、テロとか事故に遭遇した時の映像って、こういうふうに乱れるな、と。

 

リツコは、携帯電話から「119」にかけた。

シンジは、水道の水をコップに汲んだ。

カメラマンは、リポーターの背中をさすっている。

リポーターの黒目が消えている。

口の端から見えるのは、ビールの泡じゃなさそうだ。

 

 

テレビの画面は、

「画像が乱れています。しばらく、そのままでお待ちください」

のテロップに変わった。

 

「なあ、ケンスケ」

「ん?」

「これ録画したのって、めっちゃスゴいんちゃうか」

「・・・そうだな」

 

「なあ、トウジ」

「なに?」

「『ヨネスケ』さんの名前ってさ」

「ああ」

「セカンドインパクト前から、カタカナだったって知ってた?」

 

 

 

 

 

劇終

 

 

 


 

・・・・・怪作ワールドの皆様へ・・・・・

 

初めまして。高野広瀬と申します。独自の言語感覚で、私を虜にしてしまった怪作さんが、自分の部屋をお持ちになったということで、拙作を引っさげてお邪魔しました。

怪作さんは、私が「会員制EVAルーム」に投稿している作品に感想を送ってくださって、それが縁で「怪作世界」に引き込まれました。「ヤヲゲリ」を読んでしまったのが、決勝点でしょうか。

 

この「隣りの晩ごはん」ネタ。まあ、どこかのサイトには必ずあったはずです。ないとしたら、ありがち過ぎて敬遠していたということでしょう。今回、「師匠怪作さん」(勝手に心の弟子)のテリトリーに、無謀にも初挑戦しました。とっかかりやすく、このネタを使ったのですが、不条理オチという卑怯なワザを使ってしまいました。まだまだ師匠の域には達していません。今の私にはこれが、いっぱいいっぱいです。師匠、これからも精進いたします。ご指導をよろしくお願いします。

 

「烏賊してるペエジ」がますますの発展を歩まれることを心から願っております。

 

それでは、甚だ簡単ではありますが、これで失礼いたします。

 

2000年1月7日(金) 2:10

 

高野広瀬 takanohirose@hotmail.com

     http://www1.odn.ne.jp/~cbv94860

 


 

高野広瀬さんからいただきました‥‥。
とにかくその‥素敵であります。

 

ギャグよりそのクールな文体に惹かれてしまいます‥。
‥‥ギャグもいいですけど。

 

みなさま読後は高野様への感想をぜひ‥‥。

 

 

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