誰かが言っていた
人間の敵は人間だと
新 世 紀 エヴァンゲリオン
WRITTEN BY
神羅大和
第四話 因果、今に至り
Episode4 I know we can't forget the past
NERV本部総指令室
「これが報告書になります」
「うむ。報告ご苦労だったな……それにしても、今度の使徒も無傷で殲滅か」
白髪の長身、冬月はなんとも言えない苦笑を浮かべて言った。
「強いな、あの2人は」
ミサトはええと肯いた。
第一高等学校の学校祭を邪魔する絶妙のタイミングで現われた第四使徒はイカのような巨体に、電子でコーティングされたような鋭い鞭を持って第三新東京市
に侵攻した。
学校祭の途中で現われた使徒にNERVの対応は完全に遅れてしまった。シンジとアスカ。更にはミサト・リツコなどの戦闘に対する主要な役職の人間が、ほ
ぼ全部学校祭に出払っていたためだ。
その結果として行われたUNの迎撃。
結果から言えば、戦死した兵士には気の毒だが攻撃そのものにまったく効果はなかった。、反対にその鋭い鞭で重攻撃機の何体かを破壊されることになった。
だが、まったくの犬死にはならなかった。その犠牲のおかげでエヴァが間に合ったのだ。
タイミングは本当に危険だった。あと少し遅ければ、射出口からジオフロントに直接侵攻をされるところだった。
もっとも、その危険とは対照に戦闘自体はかなり簡素だった。
使徒の動きは鞭以外は鈍重を極めていたし、コアもご丁寧に一番狙いやすい所に存在した。
まず地上に射出されたシンジは所持していたポジトロンライフルを発射した。ATフィールドは中和域限界に射出されたため問題なかった。
射撃の効果は、よくいって少し、口の悪い奴なら無駄な行為といっていいほどだった。だが、今にも射出口に入ろうとしている使徒の動きを封じるには役立っ
た。
使徒が怯んだ一瞬のスキにアスカが大きく蹴りを入れた。
元々空中に浮いていた使徒は簡単に吹き飛んだ。郊外の山にまで吹き飛んだのだ。
そこにナイフを手にしたシンジが突っ込んできた。
まずは鞭を切断しにかかる。予想通りというべきか一本は鞭を切断できたのだが、その時にナイフの刃が折れてしまった。これが現在開発中のおそらく参号機
から配備になるカッター型のナイフなら刃を取り替えることが出来たのだが、生憎と初号機の装備しているナイフは旧来のナイフ型だった。
そこでシンジは一旦後方に引いた。
長年の付き合いか、なんというか、絶妙のタイミングでシンジが捨てたポジトロンライフルの弾が襲ってきたのだ。
いわずともなが、アスカが撃ったのだ。しかも、突進しながらだ。
恐るべきはアスカの射撃の腕だった。銃などというのは本来動きながらでは照準がつけられず、まず間違いなく当たらないのだ。コンピューターで自動化され
た場合は別だが。このときアスカは手動で銃撃を行っていたのだ。
それでも使徒に弾は命中した。
その間にアスカはポジトロンライフルを捨ててナイフを構えた。そして残りの鞭を切断する。シンジと同じくナイフはそれで破壊した。
ただ……その後は、アスカの蹴り一発でことは終わった。
故にミサトはここにいた。
戦闘終了後の報告はミサトの仕事だ。
「いや、2人ではなく3人と言うべきかな」
ミサトは不思議そうな顔をした。
「3人とは?」
「君のことだよ」
「私ですか?」
「そう、君のことだよ」
司令室には冬月とミサトしかいない。部屋の色と同化した椅子は空だった。
君は覚えていないかもしれないがと冬月は優しい目で言った。
「私は君たち3人が初めて出会った頃から知っているんだよ」
「初めてというと……」
「君にとっては辛い記憶だったかな、君のお父さんが亡くなった前後だ。おそらく記憶にあるとすれば後だろうな」
ミサトの父が死んだのはセカンドインパクトだった。それは既に歴史の教科書にも書いてある既定事実であり、ミサトはそれを目の前で見ていた。
ミサトは記憶を探ってみた。セカンドインパクトの後…ミサトの記憶に正確に残っているのはインパクトの直前。インパクトの起こった後はあやふやでしかな
い。確かな記憶となっているのはシンジとアスカだけだった。もしもその2人がいなければ、全てが事実かだったかどうかさえもわからなくなっていただろう。
その記憶の中に冬月はいなかった。
南極に行くまでの父との会話。
南極でのシンジとアスカとの出会い。
その後の衝撃。
セカンドインパクトのたった3人の生き残りで何日もした漂流。
その後は………記憶にない。救助されてから、訪ねて来たシンジとアスカに再び会うまでは。抜け殻のようなものだったから。
やはり冬月の影はなかった。
「ふむ。その様子だとやはり覚えていないか」
「申し訳ありません」
「少し残念だが、君の状況を考えれば無理もない」
「………」
「少し無駄話をしてしまったな。君にはまだ仕事が残っているのだろう?もう行きたまえ」
ミサトは敬礼して退室した。
いつ出会ったのだろうか?廊下を歩きながらそう思った。
誰もいなくなった部屋で冬月は目を閉じた。
2度目の衝撃が世界を襲ったその年、私は当時の京都大学生物学教授葛城博士の南極調査チーム、そのうちの1人として南極に行っていた。そうだ、実際の事
故の現場に行っていたのだ。
当然そこで行われていたことは全て知っていた。チームの中でも私は結構上位の立場にいたのだ。
碇ゲンドウ(厳道)碇ユイ(唯)惣流・キョウコ(今日子)・ツェッペリンともそこで知り合った。そしてシンジ君・アスカ君・ミサト君とも。
今の私があるのはその時の経験があったからだろう。もしも事故の前日、予想の2日前に帰国する予定のゲンドウの誘いに乗らなければ私はあそこで死んでい
た。
セカンドインパクト。それが起こった瞬間のゲンドウとユイ君(惣流・キョウコ・ツェッペリンは先に帰国していた)の顔は今でも正確に覚えている。本来あ
の事故は、帰国の2日後に起こるはずだったのだ。シンジ君、アスカ君そしてミサト君が帰国した後に。それが……何かの手違いか、あの日に起きてしまった。
西暦2000年9月13日
帰国した私はすぐに『荷物』の整理を開始した。
シンジ君が生きていたと知ってずいぶん安堵していたゲンドウへ、既にこれから先に起こる事態に可及的速やかに対処する為の組織に参加する旨を伝えていた
からだ。
ミサト君に再び出会ったのは、シンジ君とアスカ君をミサト君が監修されている某所に連れていったときだ。惣流君に頼まれたユイ君が私に頼んだのだ。
最初は正直閉口したが、ユイ君の頼みとあっては断れなかった。
だが、最初の気持ちとは別に、あのときのことは私に大きなプラスとなった。
今まで一切の事に口をつぐんでいたミサト君が、シンジ君とアスカ君に対してのみ笑顔で話し掛けたのだ。
1年前に南極で見たときにはよちよち歩きしか出来なかった2人は一回り大きくなっていた。
あの地獄を共に生き抜いた3人には他人にわからない絆が存在するのだろう。私はそう思った。
そして…………
もしも来るべき時が訪れれば、その時は………
あの3人には絶対に幸せになって欲しい。例えどんなことがあっても……
NERV本部第1技術科室
ノックの音がした。
「ミサトよぉ〜入るわよ」
外部とつながっているインターフォンから声が入るのとほぼ同時にドアの開閉音がした。
「リツコ、話って何よ?」
「あなたって本当にタイミングいいわね」
「何の話?」
リツコは目の前の小型PCのデスクを示した。
「……………Fourth children?」
「そう。経った今、情報をまとめ終わったところ」
画面にはほとんど何も書いてないも同じのプロフィールと銀髪の美少年の写真が載っていた。
「NAGISA KAWORU…渚カヲル」
「何なのよこれ。誕生日以外何も書いてないじゃない!!それも9月13日!!」
「だからあなたを呼んだのよ」
ミサトは難しい顔をした。
「この子って確か…シンジくんとアスカの後に選ばれたチルドレンよね?」
「そうよ。2007年正式決定の子。ドイツでやっと参号機が完成したらしくて、今度こっちに来ることになったの」
「…………」
…………チルドレンの選出は委員会が直にやっている。その子がこんなにプロフィール不明?委員会は国連の直属組織なのよ。インパクトの後に国連の権力は
大幅に拡大されたから、それこそわからないことなんてないわ。エヴァのパイロットなんて重要な人材をこんな不審な奴に任せたなんて………
「どう考えても裏があるわね」
「そうね。それも、裏があるってことが堂々とわかっても問題ないくらいの重大な」
「どういうことかしら?」
「さぁ…探ってみる?」
「………出来るの?」
「私に不可能はないわ。少なくともハッキングに関してわ」
リツコは不敵な笑みを浮かべた。
「………加持を貸すわ。絶対にバレないようにしてね」
「私の用心深さは知ってるでしょ?」
その言葉は事実だった。リツコは毎日NERVに来ると、まずこの部屋の『掃除』(盗聴機の)から始めるのだ。
「知ってるわ。でも、調子に乗ったときの無謀さも知ってる」
ミサトは軽く笑って言った。
リツコも笑って
「忠告、ありがたく聞いておくわ」
と言った。
「で、あなたも何か話があるんじゃないの?」
「あんたって本当に何でも見透かしてそうね」
「統計的に言ったまでよ。あなたが呼ばれてすぐに来るのは自分で用事があるときだけ」
ミサトは苦笑いを浮かべた。
顔の前で両手を合わせてゴミンと言った。
それからおこなわれた話はあえて書かないでおこう。
カップルと同居している女性の悩みと言えばわかるだろう。
NERV独逸支部
パイロットの髪と同じ色のエヴァンゲリオン。
実験その他で解体された零号機。シンジの乗るテストタイプの初号機。アスカの乗るプロダクションタイプの弐号機。それに続く2体目のプロダクションタイ
プ…参号機。
エヴァ専用の輸送機で空中に持ち上げられた機体は日本までの輸送船に乗せられようとしていた。
直立姿勢で持ち上げられている愛機をしり目に渚カヲルは目を細めた。
細めた視線の先には蒼い髪をした女の子がいた。
「レイ、これから先はしばらくお別れだ。僕がいなくても大丈夫かい?」
「あなたが何を言っているのかわからないわ」
「……………レイ、もう少しリリンについて勉強すべきだよ君は」
「……………そうね。日本に行くまでには何とかするわ」
「リリンというのは本当に何を考えているのかな?」
「あなたがわからないことは私もわからないわ」
にべもない。取りつく間もなし。
カヲルは軽く肩をすくめると、じゃあと言って輸送船に乗った。
第四話終幕
独逸より訪れる新たなる仲間
フォースチルドレン渚カヲル
大きな謎に包まれた少年は銀の戦士を操り海を制した
果たして彼の来日は何をもたらすのか?
第伍話 贈り物
Episode5 Red eyes for you