いつもと同じ夢
ここより先も、ここから後も何度も見てきた

でも
この夢が
始まりの終わり


すべてが終わった
これからが始まるのかな?

シンジと私は渚で佇んでいる
周りはひどい有様だけど
でも、これで全てが終わるんだ
なんだか私はとっても清々しい

シンジは仰向けのまま
ろくに瞬きもしない
どんよりとした空をじっと眺めてる

お別れしてるのね

私には見えない誰かと

雨が降ってきた

なんだかどうしても雨に打たれたくなって
全てを流してくれそうで
今夜からの新しい世界が始まる前に
腰から上だけプラグスーツを脱いでしまった

シンジの傍らから立ち上がる

シンジは空を眺めたまま雨に打たれている
シンジの瞳から大粒の雨粒が流れてくる
嗚咽も聞こえる

別に男の子が涙流したって良いじゃない
男の子が別れを悲しんだって良いじゃない

もし誰かが、今のシンジを笑うんなら
そんな奴は一生掛かってもシンジの優しさなんかわかるもんか

もし誰かが今のシンジを情けないって言うんなら
そんな奴はシンジの十分の一の強さも持ってない

もし誰かが今のシンジに同情するんなら
そんな奴は私が絶対に許さない


私はステップを刻む
シンジの嗚咽にあわせ
軽やかに
はだけたプラグスーツがドレスのように広がる

シンジの泣き声が辺り一面に広がる

私は満面の笑みで踊る


ガタン!

あいたたた…
ちょっと高いところに上ったら転んじゃった

ガタタタタタ

ありゃりゃ
これ、倒れた自販機だったんだ
なんかの拍子でジュースがどんどん出てくる

プラグスーツをエプロンの要領で使っていっぱいジュースを運ぶ

よいっしょ!
シンジの横にジュースをばら撒きながら座る

泣き続けるシンジ
涙もぬぐわず、まるで赤ん坊のようにわんわん大きな口をあけ
それを笑顔で見つめる私

シンジの大好きなジュースを見つけ、シンジの手のひらに握らせる
まるで今、私の存在に気がついたみたいにビックリした目で私を見つめる

シンジは泣くのをやめゆっくり起き上がる
ジュースを片手にひどい有様になってしまった風景を見つめる

ぽぉん

シンジがジュースを投げ捨てた
私も一本放り投げる

シンジが笑いかける
私も笑顔を返す

これで始まりが終わった
これからは始まる
これからが始まる
さあはじめよう
私たちの始まりだ

「いこう!アスカ!」
「うん!」

手をつないで歩き出した
行き先は決まってる

さあいこう!



そこで目が覚めた

まだ、そこかしこが痛い
いい夢見てたのに…もう

結局あの後、私はあのバカでっかい水槽に放り込まれたらしい

それでもあっちこっち痛む
リツコいわく
「急激な全身の回復に体がついてこれないのが痛みの原因」
そういうことらしい
半月は入院
痛み止めは禁止
なんかの嫌がらせ?

シンジは…

なんとも無かった

らしい

リツコから聞かされた
投薬された薬は影も形も気配も無い
体内から1ngも検出されない

それ自体が治療の理由になりそうだって
リツコが悩んでいた

ミサトは約束を守ってくれた

これもリツコが確認してくれた
シンジの記録はほんとに欠片も残ってなかったそうだ


シンジのことはなんとなく解る
エヴァに守られた人間として

シンジを自分のいちばん良い様にしたんだろう
初号機が
初号機…
テスト目的に建造された機体
唯一拾った神様を手本にせずに作った人造人間
多分…誰かの魂をよりしろにして


多分…シンジのママ…


実験に失敗して消失
その一週間後死亡として処理

私のママと一緒

なんで今まで考えなかったんだろう
シンジのママは日本の実験で消えてしまった
日本で作ったエヴァは2体
そのどちらかがシンジのママだってことは十分に考えられたのに

教えてあげたほうがいいのかな…

リツコは知ってるのかな…

おじさんは…知ってるわよね

シンジは?
気づいていない
今は…

これからは?

どうしよう
世界で私一人がエヴァとコミュニケーションできる
そういう訓練を受けてきた

今はまだ…
でも、
どうしよう…

病室の扉が開いた
シンジが入ってくる

「おきてたんだアスカちゃん」
「あったりまえでしょう!」
昨日約束した
教科書に振り仮名振ってあげるって

特に理系の教科書
ドイツの日本人学校では全部振り仮名が振ってあったけど、日本の教科書はちんぷんかんぷん
数式は理解できても何が書いてあるか良くわからない

文系の授業はまだまし
ひらがなで何とかなるみたいだけど
数学や理科の教科書に出てくる難しい漢字はどうにも…

今までは授業中に教えてあげてたんだけど
ああ、テスト中に教えて怒られたことも…

シンジは精密検査が終わったから、明日からまた学校
いいなぁ
本人は嬉しいの半分、勉強がイヤなの半分だって

シンジは夕べまではこの部屋で寝泊りしていたけど、今日からは家に帰らされる
さすがにここから学校に通うわけにはいかないらしい

「みんなを連れて毎日来るよ」

ばかねぇ、ここエヴァ関係者専用病棟よ
秘密保持やら山のような書類に判子を押してようやく入れるところなんだから
追い返されるのが関の山よ

いろんなこと喋りながらシンジの教科書に振り仮名を振っていく
解らないところは辞書で調べる
「はい、できた」
教科書をシンジに渡す
教科書をぱらぱらめくるシンジ
「いつもありがとう…」
あらたまっちゃって
「いいわ、どうせ暇だし」
「うん」
教科書に視線を落としたままのシンジ
「一人はいやだな…」
ばか…
一人じゃないわ…
「鈴原達がいるじゃない」
「うん…」
ほんとに…もう
「ちょっとの間だけよ…それより」
なに?
そんな顔のシンジ
「リツコに気をつけるのよ、あいつ絶っっ対!ショタだから」
あははは
シンジが明るく笑う
ふふ…まあ半分本気で言ったんだけどね



学校に行けない半月はとっても長く感じた
毎日朝晩シンジが逢いに来てくれる
早起きして
優しい子

週に2日、みんながお見舞いに来てくれた
ミサトが警護部に掛け合ってくれた

とりあえず殺すのだけは勘弁してやろうかな


退院の日
本当にビックリ
シンジは学校を休んで来てくれた
リツコとミサトも忙しい中来てくれた
一番驚かされたのが

「よくやってくれた」

シンジのパパ
出張中だったはず
私の処遇やなんやをまとめるためにユーロ支部まで
いつ帰ってきたんだろう

シンジは嬉しそう

「いくぞ」
相変わらず…
どこへですか?
口には出さずに後ろをついていった



本部司令執務室テラス
テーブルと食事が用意されている
席は四つ
シンジと私、それにシンジのパパ
リツコは仕事に戻ってしまった

じゃああとの一人は誰なんだろう?

結局三人で食事を始める
シンジが今までのことを身振り手振りで喋る
「ああ」とか「そうか」とかそんな返事しかしないシンジのパパ
私はそれを眺める
結構楽しいのよ?
よくこれでコミュニケーションとれるわねって思っちゃう

しばらくすると突然シンジのパパが
「話がある」
そういうと司令室のドアーが開く

人が入ってくる
あっ、あの子だ

シンジに「お帰りなさい」って言った子
私を司令室までつれてってくれた子
不思議な色の目をした子

無表情なままツカツカと歩み寄ると席に着いた

シンジが、あぁあの時のって顔をする

「紹介しよう」
珍しく喋る気のシンジのパパ
「…シンジ」
「何?」
「母さんだ」

え?
再婚?どうみても私達と同年代よ?ロリコン?

少し女の子の表情が緩む
「お帰りなさい、碇くん」
まったく話が飲み込めない

「ユイは全てを私に託し初号機の中にいった」
「母さん?」
「初号機はリリスの体から作られた唯一のエヴァだ」
「?」
シンジはちんぷんかんぷん
私は少しだけわかる
リリス…全ての生命の母
使徒の生みの親
使徒がリリスの元に帰れば今の生命全てが否定され全ての生き物が滅ぶ
バクテリアから使徒まで全て
それを防ぐのが私の使命
ママが恋しい子供を殺すのが私の仕事

「リリスの魂はその体から解き放たれ、そしてユイの細胞をよりしろにこの世に生を受けた」


「それが私」

女の子が喋りだす

「あのひとが私の魂を解き放つとき、私、聞いたの『何を望むの』」
サードインパクト
とっくに起こってたのか…
人類の選択
それを防ぐのが私の役目だったのに…
「『この愚かな世界を望む』そういわれたの、だからあなた達はここにいる」

シンジのパパが話を引き継ぐ
「ユイは全ての後にひとつだけリリスに託した、それが自分の母としての記憶だ」

女の子がシンジに語りかける
「ニンジンきらい、ピーマンきらい、ジュース好き、おかし好き、夜きらい、お化け怖い、子守唄何度もねだる、あさはねぼすけ、はみがききらい、おふろ好き、おっぱい好き、私のこと大好き」

唖然とするシンジ
「あさはねぼすけ…昔…母さんが言ってた…聞いたような気がする」

「ちょっと待ってよ!」
おもわず女の子を黙らす
「こいつがリリスだってぇの?じゃあこいつが使徒の親玉じゃない!」
「ちがう…みんな私の子供…あなた達も…碇くんは最後の子供」
「じゃあその子供達に『もう来るな!』って言いなさいよ!それで丸く収まるんでしょう!」
「だめ…みんな寂しいだけ」
「寂しいだけの奴らに殺されかかってるのよ!こっちは!」
「兄弟げんか…」
「何人も死んでるのよ!私達は!」
「無に帰っただけ…」
「何なのよ!あんたは!」
「綾波レイ」
「名前なんか聞いてない!」

「リリスは誰の味方もしない…」
このひげ親父!

「アヤナミ…レイ?」
つぶやくシンジ
アヤナミ…アヤナミ…
何度も繰り返す

「思い出した?」
リリスにそう聞かれうなずくシンジ

「そう…」
少し笑顔のリリス
「碇くん…あなたは死なない…」
そういい残すと、席を立ち部屋を出て行った

きつく指令をにらむ
「私の本当の使い道って何なんですか?」
動じない指令
「使徒の殲滅だ」
「じゃああいつは?」
「レイは使徒ではない」
「自分でリリスって言ったじゃない!」
「君はシンジの事と使徒の殲滅にだけ全力を尽くせばいい、後はわれわれの仕事だ」

何か隠してるのね…

イスを蹴り飛ばすように立ち上がる
「いきましょう!シンジ!帰るわよ!」
あ…まだデザートが…
そういうシンジを引きずるように連れて行った

後ろから指令の声が聞こえる
「君の考えている通りだ」

あっそう!

冗談じゃない!

私はあんた達のおもちゃのまんまでいるつもりなんか無い!


帰宅してすぐに浴室に向かう
半月の入院生活でそこらじゅうが痒いのとイライラとがごちゃごちゃになって
シンジに背中を流させる
私があんまりカリカリしてるからシンジは黙り込んでしまってる
………
「ねえシンジ」
「何?」
「この間の事…覚えてる?」
「覚えてるよ、アスカちゃんがなかなか打っていいって言わないから、熱くて焼け死ぬかと思ったんだから」
「そう…ちゃんと覚えてるんだ」

エヴァの中で私じゃない誰かを私だとおもって…

ミサトから教えてもらった
ライフルの軸が故意にずらされていたらし
国連かユーロか自衛隊かそれともほかの誰か…

それをシンジに教え自分でミル単位の調整をして…


シンジに全身がひりひりするほど洗わせた

やっぱりシンジのママだ…

「ねえアスカちゃん」
「なに?」
今度は私がシンジを洗い流す
「さっき父さんが話してた事…全然わかんなかった、りりーだとかシトだとか…何だったの?」
「シンジは知らなくて良いわ…知らないほうがいいこともあるの」
「ふぅーん、ねえ」
「なに?」

シンジが私を抱きしめてきた

「アヤナミって…母さんの生まれ変わりなの?そうなの?父さん、そう言ったんでしょう?」
ちがう…
首を振って答える
「母さんと…僕が覚えてる母さんと同じこと言ったんだ…『あさはねぼすけ』って…」
「おじさんに教えられえたんでしょ、どうせ…」
「うん…」

信じる?…

「ねえシンジ」
「ん?」
「綾波って子、どこで会ったの?日本に来る前に会ってるんでしょう?」
「うん…小さいとき、ドイツで」
ドイツで?
「アスカちゃんに連れられて研究所にいってた時」
ああ…あのころか
「退屈だからふらふらしてたら迷子になっちゃって」
確かに、いつの間にかシンジがいなくなってちょっとした騒ぎになった事が何度もある
「不安になって泣きたくて…そんな時にいっつも道案内してくれた子がいたんだ」
リリスなら日本とドイツの行き来なんてわけないんでしょうね…
母親の記憶があるならなおさら
シンジが泣いていれば飛んでくるわね
「いつもちゃんとアスカちゃんのところに連れて行ってくれたんだ」
そう、いつもいなくなると、ひょっこり私のところに現れる
「ねえシンジ、何で今まで黙ってたの?」
「忘れてた…でも…『ないしょっ』て言われてた」
「綾波って子に?」
「うん、いつもアスカちゃんのところに連れて行ってくれた後『ないしょ』って」
「そう」
「でも本当に忘れてたんだ…本当に」
「わかってる」

湯船に浸かる
お湯を指ではじいてシンジの顔を狙う
「最初に父さんたちが来たときの帰りの飛行場で会ったのが最後だったと思う」
「うん」
「出発する人たちのほうにアヤナミが見えたからバイバイって手を振ったんだ」
「うん」
「そうしたら父さんが『見えるのか?』っておどろいてた」
「うん」
「何当たり前のこと言ってるんだろうって思ったけど、父さんがあんまりビックリしてたから…」
「そう」
もういいわ…わかった…
シンジの頬に手を添える

「ねえシンジ」
「ん?」
「私がいない間にリツコになんかされた?」
あ!うろたえた!
「なんにもないよ?」
引きつってる!
この!
思いっきりおちんちんを握る
「ひやぁ!」
ぐって力を入れながら
「正直に言わないと引っこ抜くわよ」
ぐいって引っ張る
「い・一回だけ!一回だけ!」
この!
「なにが!」
「一回だけ一緒におふろに」
なぁにいぃ!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


「いったいどうしたの!?」
リツコが帰ってくるなりビックリしている
まあそうでしょうね
シンジが全裸でうつ伏せのまま股間押さえて倒れこんでるんだから
「おかえりリツコ」
私はしれっと言ってのける
「いったい何なの?」
思いっきり意地悪な笑顔を作って
「別に、それよりショタ子さん?」
「え?」
リツコなんとなくわっかたみたいね
「私のシンジに添い寝してくれてあ・り・が・と・う」
「おほ…おほほほほほほほ…いやねえアスカ…ちょっとだけじゃない…ね」

シンジは股間を押さえながら
リツコは頭を冷やしながら
私の全快祝いのケーキをほおばる

まったく!おちおち入院もしてられないじゃないの!

そうだ…
「ねえリツコ、最深部にあるリリスって…本物?」
きつくにらまれる
シンジがいるからだ
余計なこというな
そんな目だ
つまり
多分リツコは綾波って子のことを知らなしリリスの事も教えられていない…
「なんでもない」
リツコは「へぇ?」って顔のシンジをみながらつぶやく
「そうね…なんでもないわ」

やっかいだなぁ…


ベッドで寝息をたてるシンジ
シンジのほほを撫でる

サードインパクトは失敗だった…
シンジのママの小さな願いをかなえただけ…
だからもう一回おこそうとしている
全ての使徒を排除して
人類とリリスで…
どこかの誰かがたくらむ願いをかなえるために…
私の役目は使徒の排除…

シンジのパパが私の考えている通りだって言ったのはそういうことになる


ほんとうにそれだけなのかな?
じゃあ何で今日リリスと私たちを引き合わせたんだろう

わからない…
とても眠くなってきた…
何でだろう…
わからない…
あぁ…眠い…




下の子と晩ご飯のお買い物
お菓子かってって、もううるさくて…

ショートへヤーの私
リツコより少し年とったくらいかな…
献立を考えながら特売の品を手に取る

うん…もう1パック買おう
小学生の男の子2人ってのは想像以上によく食べる

一瞬私が早く手に取った
スーパーではよくある事
会釈でもすればそれで終わり
笑顔でぺこり
それで終わるはずだった

「あれ?アヤカじゃない?私よ…よ」
懐かしい名前で呼ばれた
高校時代の偽名だ
「懐かしい!すぐにわかった!ほんとに相変わらず綺麗ね、あら?!その子…もしかしてシンジ君と結婚したの?そっくりじゃない!」

あの高校に通った2年間
一番の友達だった
いろんな言葉が頭をめぐる

久しぶりじゃない!元気だった?ごめんね、突然いなくなっちゃって、そうなのシンジとなのよ…腐れ縁ってやつ!

でも
口をついて出た言葉は

「人違いです、失礼」

レジへ向かう

「え?ちょっとアヤカ?アヤカでしょ!?」

会釈だけしてレジへ向かう

ごめんね
アヤカはもういないの…
あなたの記憶の中にしか…
楽しかったよ…
あなたと過ごした日々は私の中の「アヤカ」の最高の思い出
ごめんね…

帰り道
ドサクサでおかしを買ってもらえてご満悦な私の娘
「ねえママ」
「何?」
「どっかいたいの?」
「大丈夫よ…なんで?」
「だってママ泣いてるよ」



目が覚めた…
悲しい夢
何度みても…

頬が濡れてる
何でだかわからないけど涙があふれてくる
きっと私の中にいる将来の私…「アヤカ」が泣いているんだ

眠るシンジの胸に顔をうずめ
静かに涙を流す

優しく抱きしめられる
見上げれば寝ぼけまなこのシンジ
「大丈夫だよ…ア‥カちゃん…」

よく聞こえなかった

シンジ寝ぼけてるのね

そうよね

ありがとう‥優しいシンジ

そのままシンジの胸の中で眠りに落ちた




リツコがお弁当の仕度をする横で私は朝ごはんを作る
あぁもう!
なんてあわただしい!

夕べリツコは何日か休んでから学校に行くように言ってくれた
そしたらシンジが「えぇ!」って顔しちゃって
もう‥しょうがない
「明日から行く、体育とか休めば大丈夫よ」

こんなに毎朝あわただしかったっけ?
私の入院中、シンジのお弁当は毎日リツコが作ってくれていた
なんだか随分手際よくなちゃって
お母さんみたいじゃない

シンジはシンジで
パンよりご飯がいいって急に言い出して
朝から和食作らされちゃった‥
もう!なんてわがまま!

ハムエッグとサラダ、それに果物‥‥と味噌汁にご飯

むむむむ…
なんか変!

変なにおいがする
腐ったような

シンジがグチャグチャ何かをかき混ぜている
あぁ!
「だめよシンジ!それ腐ってるわ!捨てなさい!」
シンジの手から取り上げる
やっぱり腐ってるじゃない
まったく…

ひょい

「ちょっと!リツコなにすんの!」
しれっとした顔でシンジに腐った豆をわたす
「これは日本に昔からある食べ物なの、大丈夫よ」
シンジも
「大丈夫だよ」

「いったいあんたたちこの半月どんな食生活送ってきたのよ!」

もうしんじらんない!

「明日から朝ごはんは私が作るからね!献立も!」

ほんとに!
シンジったらあんなもん食べて私とキスしてたの?!
まったく!


ぴんぽーん


リツコが玄関へ向かう
「「「「おはようございます!」」」」
ヒカリたちだ

しょっちゅうお見舞いに来てくれてたのに
なんだかとっても久しぶり

「アスカ!もう大丈夫なの?!」
「おう!凶暴女、少しはおとなしくなった…いたたたたた!何さらすんじゃい!」
「またく…トウジは…」
「アスカさん良かったですね」

ん?
あ!っそうか
シンジに霧島さんにも声かけさせたんだ

みんなとおしゃべり

あ!
そうだ!
「シンジ」
「ん?」
シンジの肩をぐっと引き寄せ耳元でささやく
「今からはみがきしてらっしゃい、念入りに」
「え?まだ早いよ」
「命令」
「う…うん」

勘違いしたヒカリが嬉しそうに見つめてる
あぁ…なんかやっと帰ってきたって感じがする

出発の準備が終わった
そうそう
シンジの口に顔を近づける
「え?なに?」
よし!匂いは消えてる
ふふふ…

ちゅ

「行きましょう!」

くぅ〜って顔でもだえるヒカリ
かってにせぇって表情の鈴原
ため息の相田
顔を真っ赤にしてる霧島さん

「いってきまーす!」


通学途中、無駄話に花が咲く
「アスカ今日はアップなんだね」
「今日の体育水泳でしょう、めんどくさくって」
「だめだよアスカちゃん、体育は見学しなきゃ」
「わかってるわよ!気分の問題!」
「アスカ見学なんだ、私も…」
「なんや委員長、お前ぴんぴんしとるのに体育休むんか?」
「うるさいわねぇ!女の子にはいろいろあるの!」

たのしいなぁ!

ん?霧島さんがシンジと楽しそうに話してる
良かったじゃない
ふふ…

「こら!シンジ!浮気する気?!」
「ちがうよ!もう…貸してもらった本の話してただけだよ」
本?シンジが?
「先輩が漢字苦手だって聞いたんでそれで…」
あーはいはい
良いわよ、別に怒っちゃいないわ

ちょっとからかってやろう
「いやらしい本じゃないでしょうね?」

「……ちがうよ?」

ちょっとなによ
今の間は!

「シンジ、お話があるの」
シンジをひったくる
作り笑顔のシンジ
「正直に言いなさい…お・こ・ら・な・い・か・ら」
「ち・ちがうよ、誤解だよ」
私はにこやかに
「何がかしら?」
「ケータイ小説っていって、そんなにやらしいとかじゃなくて、恋愛ものって言うか」
「ほんとね?」
うんうん
首を振るシンジ

「おーいラングレー!シンジが読んどるの女子高生がやりまくって妊娠する本やで〜」

ガシィ!
渾身の力でシンジにフェイスロック!
力任せに締め上げる!
「あだだだだだ!だめだよ!アスカちゃん!頭割れちゃ!中身が出ちゃう!いだだだだだだだだだ!」

みんなの笑う声が聞こえる
霧島さんまで

もう!



学校についたらまたまた皆に質問攻め
「秘密の任務だったんでしょ?」
とか
「碇君、きれいなお姉さんに狙われてるんでしょ」
とか
「今日転校生が来るのよ」
とか
「二人の写真買っちゃたの!」
とか
もう何がなんだか…
とにかく私とシンジのちゅーしてる画像はいったいどこから流失したのかしら?
ほんとにヒカリってば…
はあ…

たのしいなぁ

ホームルームが始まった
転校生か…
シンジを見つめる
二月前、私たちもそうだったんだなぁ

あ、先生が入ってきた
「どうぞ、入って」

おぉ!
男子の雄叫び

転校生が入ってきた

「何で?何で?…何であんたがここにいんのよ!」

思わず立ち上がって声をあげちゃった
だってそうでしょう?

クラスの皆の視線が転校生と私を行ったりきたり

まるで無視するように
「綾波レイ………です」

私を完全に無視するとシンジのほうを向き微笑む
男子がいっせいにシンジをにらむ
あははは…みたいな顔して手を上げて答えるシンジ

「じゃあ綾波さんは…」
先生が言い終わる前に
「碇くんの横がいい」

なにぃ!!

私の席じゃない!

喧嘩売ってんの!

私が影でなんて呼ばれてるのか知ってるの!
「喧嘩姫」よ!
転校以来口げんかから取っ組み合いまで一度も負けた事ないのよ!

「アスカちゃん、とにかく座ろう」
私の形相におびえたようにシンジが諭す

そんなことなんかまったく気にしない先生が
「じゃあそこの席を変わってあげなさい」

私とは反対側の席をさした


私の周囲はマグマのように煮えたぎっている


休憩時間
早速リリスが皆に囲まれる
「ねえ綾波さん、碇くんと知り合いなの?」
「そう…」
「どんな関係?」
「遠い親戚…」
へーだのふぅーんだの、まったく
「綾波さんって碇くんのことどう思ってるの?」
あ!こら!ヒカリ!余計な事!
「碇くんのこと…すき…碇くんも私のこと…すき」
男子のうめき声と女子の叫び声が広がる
それをかき消したのは

私の一言

「転校生、ちょっといい」

リリスの腕を掴むと教室から連れ出す
あわてて追いかけてくるシンジ

生徒指導室に連れ込むと内側から鍵をかける
「あんた、なんのつもり」
声は抑える
どうせ外は人だかり
「つもり?…しらない」

何とか私を止めようとするシンジが必死にとりなそうとする
「やめようアスカちゃん、だめだよ暴力は」

シンジをにらみつける
おびえたように小声になるシンジ
「いけないよ…やめようよ…」

リリスをにらみつける
「もう一度聞くわよ、何しに来たの」
「碇くんと一緒にいる…そう決めた…私は碇くんの母親…碇くんがかわいい」
思いっきり手を振りかぶりリリスにたたきつけ…ようとした

シンジが飛びついて止めに入る
「よしてよ…アスカちゃん…みたくないよ…アスカちゃんがひとは叩くとこ…」

…シンジを振りほどく
しりもちをつくシンジ
不思議そうにシンジを見下ろすリリス

何が母親よ!
息子が倒れてるのに!
手も貸してあげない!

「あんたなんか絶対にちがうわ!」

そう吐き捨てるとシンジを抱え上げ部屋を出る
案の定外は人だかり

皆をかき分け教室に戻る

私に抱かれたシンジがつぶやく
「恥ずかしいよ…放してよ…」
あんな母親もどきにシンジの何がわかるのよ!
私ならこの先シンジが何て言うかまでわかる!

もう…アスカちゃんてば

「もう…アスカちゃんてば」




授業中あいつは、ずっとシンジのこと見つめてる

シンジもやりずらそう

あいつは先生に指されても
「しらない」
だとか
「なに?…それ」
だとか
馬鹿なんじゃないの?!


あいつはお弁当までついてきた
ちょこんとシンジの横に腰掛けて

ヒカリたちは火傷しないように少しはなれたところに避難する

とりあえずココまで徹底てきに無視してきたけど
そろそろ限界

そう思ってたら

ボリボリ音がして
音のするほうを見ると、リリスが錠剤みたいなのを鷲摑みで食べていた

呆然とするシンジ
私は思わず
「何やってんのよ…あんた」

ちらっとこっちを見ると
「…食事」

食事って…

シンジが
「あ・綾波…体に悪いよ、僕の半分こしよう」
ほんとに誰にでも優しいんだから

刹那、リリスの表情が一変する
本当に母親みたいな笑顔で
「やさしいシンジ、いつもかあさんととはんぶんこ」

……シンジが泣き出した

「どっかいたいの?シンジ?」
思わず覗き込んじゃう
でもシンジは首をふるふる横に動かすだけ

リリスは微笑んだまま

「ねえシンジ?大丈夫?どこが痛いの?」
心配になる

「……だ…」
小声でつぶやくシンジ
「なに?」
「ほんとに母さんだ…」

顔を覗き込むとシンジは嬉しそうに涙を流していた

「かあさんとはんぶんこしてたんだ、いっつも…いっつも…そしたら母さんが言うんだ『やさしいシンジ、かあさんとはんぶんこ』って…かあさんが喜ぶの見たくていつもはんぶんこしてたんだ…」



ヒカリに荷物を持ってきてもらい、私と一緒にシンジを早退させた

リリスもついてくる

家に着くととりあえず
「靴脱ぎなさいよ」
「そう…わかった…」
リリスを家に上がらせた

ソファーの上でシンジは小さなときのわずかな記憶をかみ締めていた
私はそっと傍らに腰を下ろす

「みて…あんたがいるとシンジが迷惑するのよ…せっかく友達もできたのに、遠慮して」
うつむいて涙を流しているシンジ…悲しみじゃない涙を
「そう…わからない」
「あんたがいるとシンジが独りぼちになっちゃうでしょ、母親なんでしょ?子供が迷惑してるのわからないの」
リリスはシンジを見つめ微笑んだまま
「碇くん…私がいると…迷惑?」
首を横に振るシンジ

子供の様に首を振るシンジを見つめたリリスは笑顔のままつぶやく
「もう…学校には行かない…碇くんが泣いてる」

リリスがシンジに近寄りそっと頭に手を置く
「かあさん、なきむしはきらい」

瞳いっぱいの涙をためリリスを見上げるシンジ

「しんじはおとこのこ、ないちゃだめ」

リリスがそっとシンジを抱きしめた

「かあさん…」
抱き寄せられながらシンジがつぶやいた

私にも見えた

写真でしかみた事がない

会ったことのないシンジのママが…

やさしそうな女の人…



何でだろう?
帰ろうとするリリスを引き止めちゃった
「晩御飯ぐらい食べてきなさいよ」

泣きつかれたシンジはいつの間にか私の膝の上で寝息をたてていた

会話も無くシンジを見つめるだけの私とリリス

リツコが帰ってきた
「あら?お友達?」

シンジが目をさます
最初に私を見つけ、次にリリスを見つけ
小さい子供みたいに微笑んだ

「はじめまして、何さんかしら?」
まるでわかってないリツコが明るく問いかける

「綾波さん…転校生」
「あらそう、じゃあ今日は晩御飯食べてから帰りなさい、親御さんには連絡入れといてあげるから」

ご機嫌なリツコ、私たちが友達を連れてくるたびご機嫌になる

「親?…いない」

「え?あ・ごめんなさい…そうなの…じゃあ誰か親戚か何かと暮らしてるの?」

「親戚?…私は一人」

「そう…ごめんね、お姉さん変な事聞いちゃって」

おばさんでしょ?
あ、にらまれた
やっぱりリツコってニュータイプね

「じゃあ…綾波さん?だっけ?何か嫌いなものってある?」
「きらい?…わからない」
「そう!じゃあ皆が好きなもの作りましょう!」

リツコは着替えもそこそこに台所に向かう

「突っ立ってないで座りなさいよ」
声をかけるとリリスは案の定シンジの横に腰掛けた

チラッとこちらを見たリツコが
「あら!シンジ君モテモテじゃない!」
のんきね…

あっという間にカレーが出来上がった

不思議そうに見つめるリリス
「お口にあうと良いけど」
自信満々のリツコ

リリスはスプーンでカレーを突っついている
もう!
「スプーンもって口に運ぶのよ!わかるでしょ!」
「そう…」
私やシンジのまねをして食べるリリス
「どう?口にあうかしら?」
嬉しそうに聞いてくるリツコ

「ありがとう…」

「まあ!お行儀のいいこね!」

はぁ…

しばらくするとリリスは自分のカレーの肉をシンジのさらに移し始める
「いっぱいおにくをたべてはやくおおきくなりなさい」

笑い出すリツコ
いつも私がシンジのことチビチビって馬鹿にしてるから
それにシンジ、リリスよりも背低いし
きっとからかってると思ったのね
てれくさそうに笑うシンジ
まったく…

食事が終わってリツコが
「ねえ綾波さん、下の名前はなんていうの?」

「…レイ」

リツコの表情がちょっと変わった

「そう…かわいい名前ね」

何だろう



私とシンジが駅まで送った
途中特に会話も無く
別れ際にリリスが
「またあした…シンジはやくねなさい、ねるこはそだつ」
ってシンジに
学校に来る気なのかな?

「おやすみ…綾波」
シンジとリリスは笑顔でわかれた



なんかとっても疲れた

シンジは先に寝ちゃうし
子守唄…歌ってあげようと思ったのに…
疲れてるのに眠くならない

そっとベッドを出るとリビングに向かった
リツコが晩酌中

「ちょっとちょうだい」
「だめよ、日本じゃお酒は20から」
「テーブルワインぐらい飲んでたわよ」
「ココはドイツじゃないの」
「けち」
「ふふ…ジュースもってらっしゃい」

ワインをぶどうジュースで割ってくれた

「ねえアスカ」
「なに?」
「大変ねシンジ君もてちゃって」
「まあね」
ちょっと自慢げな私

「ほんとに羨ましい」
「リツコはどうなの?」
「仕事が恋人よ…悲しいけどこれが現実」
「シンジ貸してあげよっか、一日だけ」
楽しそうなリツコ

「その一日で奪っちゃうわよ」
「ご安心を、私アスカ・ラングレーは将来のだんな様をきっちり回収しますので」

ぷっ!

あはははははは

二人の笑い声が木霊する

少し酔ってきたかな?
途中から割らないワインになっちゃったし

ほろ酔いのリツコが
「ねえアスカ」
「ん?」
「シンジ君のお母さんの名前知ってる?」
知ってる、何回も調べた…シンジのことは何回も
「碇ユイ…でしょ」
ふふん、そんな顔のリツコ
「ユーロ支部のデータ、盗み見たのね、アスカは悪い子ね…でも半分だけ正解」
え?
「シンジ君のお母さんも何回か名前を変えてるのよ、あなたと同じような理由で」
へえ?まあエヴァのテストパイロットなわけだし、当然か
「まあ『碇ユイ』は多分本名ね、でも普段名乗ってた名前は『綾波レイ』」
え?
綾波…
ぽかーん顔の私
してやったりのリツコ

「ね!すごいでしょう!偶然てあるのよねぇ、さっきもビックリしちゃた!ほんとに私なんか…」
ぺらぺら喋り続けるリツコ

あぁ

また少しわかった

綾波レイ…

わかったわ…わかった…

リリス…あなたも寂しいのね…今までの私と一緒…一人ぼっち

一人はいや…シンジがいないのはいや…

あなたの数十億年の人生はずっと孤独…

シンジのママからもらった記憶はあなたの宝物

シンジはあなたの宝物…

他の使徒とは違う

甘えてくるかわいい子供

もう一人はいやなのね…



「ありがとうリツコ!寝る」
一通りリツコの話を聞き流すとベッドに戻る

ベッドの中のシンジ
シンジも一緒…
ママの記憶…小さいときの…どんどんおぼろげになってゆくママとの記憶
きっとシンジの宝物

私は?
どうだろう
他の子みたいにママと毎日一緒にすごせたわけじゃないけど
ママに会える
お話ができるわけじゃないけど
ママに会える
育ててくれたママもいる

私は卑怯だ…
シンジがほしくても手に入らないものを全部持ってる…
シンジは一人ぼっち
かわいそうなシンジ…

今すぐには無理だけど
いつかきっと
私は全部シンジのものになろう
そうすればシンジも喜んでくれる
きっと…



妙な感じ
迎えに来たヒカリたちは誰も「綾波」の話しをしない
皆「碇くん大丈夫だった?」とか「なさけないのぅ男のくせに」とか…
学校でも
いつものように囲まれはするけど誰も「綾波」の事を話さない
席も昨日までと一緒
いったい…

「ねえヒカリ」
「なに?」
「昨日来た転校生って…」
「転校生?」
「あ?え…なんでもない」

こんなマンガみたいな事って
シンジは納得してるんだろうか

あぁ…「ないしょ」…か



呼び出しはいつも突然

でも今回は迎えが来た
職員室に呼び出されると、なぜかシンジと二人で本部へ向かった

作戦室に通される
なぜかシンジと一緒に

中にはミサト

説明を受ける

つまり宇宙からおっこってくる使徒をとっ捕まえてやっつけろ

冗談みたいな作戦ね
しかも成功する確率は0%

「作戦部としては速やかなエヴァー及びリリスの避難を上申したわ」

そりゃそうよ
勝手におっこってくたばってくれるんならそれで良いじゃない
まあ、被害はすごいんだろうけど
落下予想時間まであと50時間もあるんでしょ?

「でも指令が使徒の殲滅を指示してきたわ…正直打つ手なし…だからアスカ」
「なに?一緒に死んでくれって?イヤよ女なんかと」
とてもやさしい笑顔のミサト
「シンジ君を連れて逃げなさい」
「え?」
「作戦が開始されたら全力で逃げなさい、シンジ君もプラグの中にいれば大丈夫でしょう…何も死ぬ事はないわ」

言葉に詰まる…作戦部長が…私たちに生き延びろ…

ドアーが開く
「無能だな…君は」
思わず振り向くと

シンジのパパ

「お言葉ですが指令、何度シュミレートしても使徒の殲滅は不可能です」

「2機ならば…可能ではないのか」

強く出るミサト
「パイロットがいません、ダミーもそんな高等な指示には従いません」

「搭乗者ならシンジがいる」

ミサトの声が響く
「それこそできません!」
「やりたまえ」
「あなたの復讐につき合わせる気ですか?!」
「命令だ」


聞きなれた声が響いた
「不可能です」

リツコが現れた

あれって顔のシンジ?

そうよね…お医者さん…だもんね

「シンジ君のレベルは『動かせる』程度です、疾走させ、思うようにフィールドを展開するには…アスカ」

急に話を振られてビックリしちゃった

わかってる

「走るのに一月、フィールドの展開に半年」

私はそれだけかかった

「命令だ」
話も聞かずにシンジのパパは部屋を出て行ってしまった

残されたのは女に子供…

状況がよく飲み込めてないシンジ
「ねえ、何でりっちゃんがここにいるの?」
まるで今の話なんか聞いてない
当たり前か
自分の名前が出た事もわかってないんだろうから
「こっちでも働いててね…秘密なのよ」
適当にはぐらかそうとするリツコ
信じるのかなぁ?

「へぇ〜」

信じた…名前の通りねほんと

三人寄れば文殊の知恵…
も出てこない

シンジにとってはココは正義の秘密基地
私たちは正義の戦士
どんな困難にも打ち勝つ正義の美少女とそのロボット

そうだったらどんなにいいか…

とにかく、シンジを初号機の中に入れられたんじゃ、つれて逃げる事もできない

まいった…

あれ?
リリス
いつの間に?

シンジ気づいたみたい
リツコやミサトには見えてない
リリスは音もなく歩くと馬鹿みたいに広い落下予想図の一点を指差し、シンジに微笑みかける

「ありがとう」
シンジの声が響く
ミサトとリツコは気にもしない

これで勝てる

リリスは、はるか太古に枝分かれした自分の分身である使徒よりも、思い出の中だけでも腹を痛め生み育てたシンジを選んだ

やっぱり彼女はシンジの母親なんだ


「ミサト!決めた!私たちやるわ!」



たいした説明もなくシンジは初号機に乗り込ませる事にした
「うまく行ったらなんでも好きなもの食べさせてあげるから」
そう約束して

シンジはロボットに乗れて操縦できる事にはしゃいでいた
たった一日でも自分が正義の味方の一員になれるのが嬉しいんだろう
リツコにエヴァのレクチャーを受けミサトに作戦を説明された

前回とは違う
引き金を引けばいいってわけじゃない
今度は自分の力だけでシンクロしなければならないし
大丈夫かしら…シンジ


シンジにプラグスーツを着せてあげる
この間、着ていた物を改修したそうだ…ほんとに大人は信用できない…
こうなる事も予想していたみたいじゃない…

「いい?シンジ、作戦が始まったら綾波さんが教えてくれたところを目指すのよ…ゆっくりで良いから」
「わかってる、宇宙人受け止めればいいんでしょう?」
「それからシンジがエヴァに乗ったことは皆には絶対ないしょよ」
「わかってるよ…もう…」
「もし誰かに話したら即転校しなきゃいけないんだからね、わかった?」
「大丈夫だよ…もう…」
「いつも相田に自慢してるじゃない、エヴァに乗せてもらった事があるって」
「いわないってば…もう…本当にアスカちゃんは…」

ばか…心配なの…
シンジを抱きしめる
私がシンジにおまじないをしてあげる

きゅって抱きしめ、そっとキスをした

「入るわよ」
ミサトの声
でもおまじないは続けたまま

ドアーが開きミサトが入ってきた
「なんかすごいところ見ちゃった感じね」
テレもしないで話しかけてきたミサト

シンジの唇から離れると頬をよせ
「うらやましい?」

ミサトは明るい声で
「分けてほしいくらいだわ」

きっと私たち二人を哀れんでるのね…

「アスカの要請は最大限加味した作戦になったわ」

じゃあ大丈夫…絶対に勝てる

「いい…アスカ、使徒の落下に間に合わなければフィールドを全開にしてシンジ君と自分を守るのよ」

「わかった…」

「ごめんなさい…じゃあ行きましょう」

大丈夫よミサト…あなたたちは絶対助かる
私が使徒を倒すわ
シンジも守る
失敗する要素はゼロ
できればシンジがシンクロに失敗するか思いっきり転べば最高なんだけど

「さあ行くわよ!二日間の特訓の成果見せてやりなさい!」
シンジにはっぱをかける
これでいいや
張り切って失敗するに決まってる

「大丈夫!僕がやっつけてやるから!」

しっかり転ぶのよ



作戦が開始された
私のエヴァは音速を超え疾走する
モニターしているシンジの初号機は女の子みたいな走りかたで同じ地点を目指す
ミサトからの指示
「アスカ!軌道修正!」
「わかってる!」
ジャンプ一閃ビルを飛び越え山を抜ける

ずどーん!

遠くのほうで砂煙が上がる
モニターしていた初号機が頭からすっころんでる
「よし」
思わず声に出ちゃった

「アスカ!最終修正のタイミングよ!」
「オーケー!」

目的地は…そこか!

え?
ものすごい砂煙上げて
初号機が…
なにあれ
私より早いじゃない

私より一瞬先に到着した初号機
鉄塔の上に立ち使徒を見上げてる
「このぉ!」
シンジが叫び落下してきた使徒を支える
さすがに思うようにフィールドを張る事はできないようだけど
みるみる鉄塔がつぶれてゆく
このままではシンジがつぶされるのが目に見えている

私は獣のよう雄たけびを上げ音速の何十倍もの速さでとび上がった
勢いそのままにこぶしで使徒を貫く



「一応言っとくけど、ここ女子シャワールームよ」
リツコに注意されちゃった
「どうせ私しか使わないんでしょう?」
「『私しか』?またっく…」
ぶつぶつ言いながら戻っていくリツコ
「さあシンジ!きれいさっぱり洗い流すわよ!」
困った顔のシンジ
「いいのかなぁ」
「いいの!」

狭いシャワー室でシンジの頭を洗ってあげる
もちろん体も
先に上がらせてから自分の体を流す
そうだ…
「ねえシンジ」
備え付けのドリンクを物色するのに夢中のシンジ
「ん?」
「シンジなんで走れたの?」
炭酸にしようかスポーツドリンクにしようか両手に持って悩んでるシンジ
「なんかコツみたいのが解ったからやってみただけだよ、最初は転んじゃったけど」

ふうん…

そういうことか

「こつ」か…

シンジのママがね…

そっか…

炭酸に決めたシンジ
「だめよ!またお腹痛くなるでしょ」
「一口だけ、いいでしょう?」
もう…
「じゃあわたしとはんぶんこ!」



すっかり忘れてた
シンジの好きなもの食べに行くんだった
シンジは皆でいくって、ミサトやらリツコやらシンジのパパに電話かけまくってる

結局シンジのパパは忙しくてこれなかった
「すまなかったな、シンジ」
だって

ネルフの車でシンジに言われるがままに目的地を目指す
駅前でいったん停車
「ちょっとまってて!」
シンジが車から降りて周りをきょろきょろ見回して…誰かを見つけ手をふてる

「あ…」

そっか
シンジはやさしいな

シンジが手を引いてつれてきたのは
「あら?レイちゃん?」
リツコがおどろいてる
さっき電話したんだろう
またきっと私の知らないうちに番号を聞いたんだ
「たくさんいたほうが楽しいと思って」
嬉しそうなシンジ

ヒカリといい霧島さんといいクラスのほかの女の子といい…
この浮気もの!
「いたたたた!」

つねってやった



「ココ!?本当にココ!?」
唖然としちゃった

「良い趣味してるじゃない、シンジ君」
からかうようなミサト

「いかにも男の子って感じね」
へんな納得してるリツコ

だって…だってこれ
「屋台じゃない!」
聞いた事ないわよ!センチュリーで屋台に乗り付けるなんて!

「アスカちゃんにお願いしても絶対だめっていうでしょう?」
してやったりのシンジ

「ぬぅ…今回だけよ」
嬉しそうなシンジ
「一回こういうとこで食べてみたかったんだ!」
まったく男の子って…
「「はあ」」

あれ?
いまリリスもため息つかなかった?

気のせいかな?
そうだ!
「ちょっと来なさいよ!」
リリスの腕を引っ張る

「アスカちゃん!」
心配してるシンジ
「話だけよ!」

ちょっと離れたところで立ち話
「あんた…知ってたんでしょう」
む表情にそっぽを向くリリス
「あんた?知らない」
いちいち頭にくるやつねぇ
「あんたって言ったらあんたでしょう!あ・や・な・み・さん!」
「そう…私は綾波レイ」
めんどくさいやつねぇ…
「で、知ってたんでしょう?使徒が来る事、だからシンジに「また明日」っていったんでしょう?」

答えない

でも答えてるのと一緒
無言が返答

「もうひとつ」
「なに?」
少し覚悟して…
「あん…じゃなくて綾波さん、あんたシンジのことスキなんでしょ?」
シンジのほうを見つめるリリス
「ええ…碇くんのことスキ…かわいい私のこども」
ふふん
「ざんねんでした!」
私の大声に皆が振り向く
リリスも
「あんたがシンジのことスキなら私はシンジの事が大好きなの!覚えておきなさい!」

翻ってシンジの元に向かう
リツコやミサトがクスクス笑ってる
シンジは恥ずかしそうにして
「皆に聞こえるじゃないか…もうアスカちゃんてば…」
ばかねぇ
「聞こえるように言ったの!」


「よーし、私カレーラーメンとビール」
「よしなさいよミサト、ほんとに…塩ラーメンください,後、八海山」
「なによそれ、二人とも結局飲むんじゃない!わたしチャーシュー麺!チャーシュー大盛り!」
「アスカちゃん太るよ?あ、うそです…ぼくもチャーシュー麺、え?普通でいいです」
「碇くんと同じの…」

ラジオから音楽が流れる
「ねえリツコ、懐かしいわね」
「ほんと…ねえシンジ君、マイコージャクスンって知ってる?」
麺をゆでるのを眺めるシンジ
「知ってる、昔の人でしょ?ポウ!とかアオ!とか叫ぶ」
方眉吊り上げるミサト
「失礼ね」
こめかみぴくぴくさせてるリツコ
「ほんと…まあいいわ、この歌ねマイコーの「君は一人なんかじゃない」って歌なの…素敵な歌詞なのよ」

リリスがつぶやく
「ひとりじゃない」
もう一度つぶやくリリス
「私は一人じゃない…」

笑顔のリツコ
「言葉にするととても素敵でしょう」

「ええ…だから私はあなたたちを選んだ…」

最後のほうは「へいおまち!」っていうおじさんの声にかき消された

リツコもミサトも特に気にしていない様だ

「さあ熱いうちに食べましょう!」

ミサトとリツコは乾杯
リリスは相変わらずラーメンをじーっと見つめてる
もう…
「綾波さん!」
お箸を持った手を見せてあげる
「ありがとう…しってる」
私なんかよりずっと上手にお箸を使ってみせる
そっか…シンジのママは日本人だもんね…

自分のラーメンを見つめる
チャーシュー…これってお肉よね…

「シンジ!」
「へ?」
へったくそなお箸の持ち方でラーメンを食べるシンジ
「これ食べてちょっとは背伸ばしなさい」
チャーシューを全部シンジのどんぶりに移した
「えぇ!こんなに食べれないよ!」
「だめ…すききらいはだめ…おおきくなれない、いっぱいたべなさい」
リリスも自分のチャーシューをシンジに渡す
「ええ!綾波も?!」

結局リツコとミサトは店にあったお酒を全部飲んでしまった
シンジはしばらくラーメンなんか食べたくないそうだ
リリスは「また…電話待てる」っていいながらシンジの頭を撫でて帰った

「汗かいちゃた!」
公園のベンチで満腹で動けないシンジを膝に乗せ夜風に当たる
帰ったらシャワー浴びよ
夜風が気持ちいい

シンジが私の頬をなでる

「アスカちゃん…いいにおいがする」

ばか…

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