憂鬱だ…
もうすぐ
もうすぐそこまで来てる

別に高価なものをお願いされたわけじゃない
どっちかって言うと
「気持ちよ!き・も・ち!」
なんて言われて

はぁ〜ぁあ



カレンダーを眺める
もうすぐ私の誕生日
今年もやってくる

楽しみでしょうがない
今年は一体どんな顔を見せてくれるのか
ほんとに楽しみ!



はぁ…
最初の出会いはもう覚えてない
その時僕はまだ4歳で
仕事が忙しい僕の両親は、僕が独りぼっちで寂しくならないように
お隣のおうちによく僕を預けてた

お隣のおうちはなぜかお父さんがいなくて
外人のお母さんと金髪のおねえちゃんが住んでいた



まだ小学生だった私にとって、お隣のちびっ子はちょうどいいおもちゃみたいなもんで
よくからかって遊んであげた
もうアレから10年
私も今年で二十歳
お年頃!

お隣の子ももう中学生
なんだかとっても不思議



僕は女の子ばっかりの店内でおどおどしてると
「碇君、買い物?」
委員長がちょっと驚いた顔
僕がこんなところで買い物してるのは確かに…
「うん、プレゼント」
「へー…おねえさんにでしょう?なんにするの?」
「う〜ん…まだ決めてなくて」
「一緒に選んであげよっか!」
僕の答えも聞かず委員長は僕を引きずりまわし始めた



部屋を見回す
くだらない宝物がたくさん
まったく…男の子って…
なんでこうも毎年毎年私が困るようなものばっかりくれるのかしら?
…でもいい
だってシンジから私への本当のプレゼントはこれじゃなくて…



委員長は「絶対に喜ぶ!」って自信満々
はぁ…
ほんとは何でもいいんだ…
おねえちゃんは…
そこの自販機で缶ジュースかっていったっていいんだ…
毎年毎年
僕のプレゼントを眺めては「ほんとにくだらない物ね☆ありがと!」
なんて言うだけなんだから…
むしろ僕にとってはその後
二人っきりになってからのほうが…
はぁ…



ふんふんふぅ〜ん♪
今頃シンジは明日の夜を想像してるんだろうなぁ〜
どんよりした顔して!
ああ!もう!
早く明日にならないかしら!



僕はまるで死刑囚のような顔で玄関にたった
表札には

惣流 キョウコ・アスカ

…あぁ
ついにこの日が
今年もこの日が…
僕は4歳の僕を呪った
お前はなんてことをしてくれたんだ!



チャイムが鳴る
ママがシンジを出迎える
シンジの表情はまだ明るい
ふふふ…
今年は覚悟なさい!
なんたってこの後ママを追い出す手はずも済んでるんだから!
そうよ!
あんたは私と二人っきりになるのよ!
もう!
待ちどおしい!



案の定、委員長が必死に選んでくれたプレゼントは
今年も軽く受け流された
おばさんとおねえちゃんと僕
バースデーパーティー
今はまだ楽しい

「じゃあおばさんちょっと出かけるから」

え!



シンジの顔が真っ青になった
期待通り!
ママは
「お隣なんだから…程々になさいよ」
なんていいながら私のお願いを聞いて今夜は出かけてくれる
明日の昼くらいまで帰ってこないで
そうお願いした
私はシンジと一緒にママを見送った



おばさんの背中を見送る
あぁ…おばさん…僕を見捨てないで…
振り向くと
おねえちゃんは満面の笑みを浮かべていた
「さ!シンジ!ゲームでもしよっか?!」



かんたん!かんたん!
やっぱり子供ね
もうシンジったら必死になっちゃって
何とか私に勝とうと、もうかわいいくらい!



気がついたらマリオカートに夢中になっちゃって
時計を見るともう10時過ぎ

僕は気付いた
はめられた

「もう遅いから今夜は泊まってきなさい」

おねえちゃんは満面の笑み
あぁ…
今年は二人で夜を迎える羽目に!



ドアの方に背を向け湯船に浸かりため息
あの戸が開きませんように
僕は叶わない願いを必死に願い続けた
そしてやっぱりその通りで
願いは叶わず戸は開き
「さーて!背中でも流したげよっか!」
「い…いいよ!」
「ほらぁ!照れないで!こっち!」
「い…いいって!」
「だいじょーぶだって!水着着てるから」

はぁ…
しょうがない…ここはあきらめて…
振り向くと



もうさいこー!
顔真っ赤!
目は上見たり下見たり!

「あら?まだ着てなかったみたい」

シンジは、はっ!となって下を向いて
「ななななななにしてるんだよ!」
おもしろぉい!
「なぁ〜によ!まだ毛も生えそろわないくせに!」
「ははは生えたよ!」
「あら?そーなの?」
覗き込んでやるとおちんちんかくして
かわいい〜!



「おーい、いくじなし君!こっち向きたまえ!」
狭い湯船の中でおねえちゃんはものすごくイジワルで

ああ!今でこれなら今夜は一体!



お風呂から上がって一休み
裸見せといてなんだけど、シンジの周りを下着姿でうろついてやる
シンジってば横目でチラチラ見て
気づいてないとでも思ってるのかしら!?



僕が寝巻きに着替える間中、おねえちゃんは僕の周りを下着でうろうろ…
目のやり場にこまる…
どーせ文句言っても「ちっちゃいころから何回も見てんでしょーが!」って言われるだけだし…
あぁ!何でこの家に僕の着替えや寝巻きがあるの!?
かあさん!僕はあなたを恨みます!



シンジの手を引き私の部屋へ
シンジ緊張しちゃて
まぁ…別にゆるしてやるつもりはないけどね

私はベッドに腰掛シンジに机の上を顎で指す

さぁ!これが私の誕生日のフィナーレ!



机の上にはかわいい封筒が
僕は震える手で中身を取り出す

あぁ…

中から出てきた便箋
僕はそれを出来るだけゆっくり広げた
少しでもこの後、訪れる出来事がおくれるように
でも
それにも限界があって…



シンジはボソボソと小声で便箋を読み上げる
「きこえない」
って私が言うと泣きそうな顔でやけくそ気味に読み直し始めた

「けっこんせいやくしょ!ぼくはおねえちゃんがおとなになったら、おねえちゃんとけっこんします!だっておねえちゃんはぼくがおねしょしたのをだまってて くれたから!それにぼくはおねえちゃんがだいすきです!だからおねえちゃんとけっこんします!いかりしんじ!」



泣きたい!
いや!
殺したい!
4歳のときの自分を!
何でお前はおねえちゃんの誕生日にこんなもん渡したんだ!
しかも熊のぬいぐるみと一緒に!
なぜだ!
ぬいぐるみだけでいいじゃないか!
お前のせいで僕は毎年毎年これをおばさんとおねえちゃんの前で読み上げる羽目に!



真っ赤な顔して「もういいでしょ!」だって!
ばかねぇ…
何で今年はママを追い出したと思ってるの?



我に返ると、おねえちゃんが僕の手を引き
僕はつんのめるようにベッドへ



ビックリした顔で私を見上げて
かわゆい!
「ねえシンジ、“大人”って何歳から?」



?…そりゃタバコすったりお酒飲んだりしていいのが大人だから
「二十歳?」



「じゃあ質問、おねえちゃんは今日でいくつになった?」



なんだろう?そんな事一々聞いて?
「二十歳でしょ?」



「正解、じゃあもう一問…碇シンジ君はいつ誰と結婚するんでしたでしょう?」



うそだ…
だって…
そっ…そうだよ!からかってるんだよ!
は…ははは!
そうに決まってる!
うん…落ち着いて
良い様にあしらわれてしまえば「ばーか☆」とかいって終わるんだ
よし!

「大人になったおねえちゃんと…」



「大正解…」
答えながら部屋の電気を消すと
暗がりでもわかるぐらい何度も目をしばたいて
あ?とか、え!とか言っちゃって!

えい!



結構しょっちゅうされるんだ
キス
おねえちゃんに
もちろんいたずらで…
いや…
でも…これって…

ええ!!!!
まままままって!
ねえ!
「ちょ!おねえちゃん!?」



そんなに驚かない…もう、男の子でしょう?
「なによ…10年越しのプレゼントでしょ?ちゃんと受け取ってあげるわよ」

じゃあ…いくわよ






夢か?
夢か!?
夢じゃないのか!?
夕べ、僕は…
えぇぇぇぇぇぇぇえええええ!
ほんとに!?
ほんとのほんと?!?!



なによ、さっきから
私見ては壁見て
壁見ては私見て

おもしろい!
ほんとにおもしろい!
ちっちゃいころからずっと
バカでマヌケでおっちょこちょいで

かわいくて生意気で大好きで

お前のせいで恋のひとつも出来なかったんだぞ?
この
「バカシンジ」



「え?」
なんで笑ってるの!?
え?え?え?

うわ!



あんまりバカみたいだから思わず抱きしめちゃった!

あら?鍵の開く音
もうそんな時間?



鍵が開いて
この家でおねえちゃん以外で鍵を開けるのなんて…
まっ!まずいって!
おばさんにこんなとこ見られたら!
明日から学校でどんな顔すりゃ良いのさ!
国語の惣流先生はとんでもなく怖いって有名なんだよ!
惣流先生とおばさんはまるで別人なんだから!



帰ってきたママが部屋を覗いて
私たちの有様を見て
顔を手で押さえちゃって
おおげさねぇ…
ちゃんと言っておいたじゃない
「そろそろ10年前のプレゼント取り立てる」って



僕はもう心臓バクバクで
体温50度くらいになっちゃったような気がして
言葉も出なくて
そしたらおねえちゃんが
へーきな声で

「あら?ママお帰りなさい。紹介するわ、私のダーリン」

頭ポンポンされながら…



ママったら返事の変わりに中指立てて
それでも教育者?
あら?
どこ行くのかしら?



おばさんは中指を立てると顔を抑えたまま受話器を手に
しばらくして

「ああ…すいません碇さん…ええ…真昼間ッからなんですが…ええ…ちょっとお話が…」



あははははは!
ママったら私に
「責任取れ」
ですって!
オーケー!
とりますとも!とらせていただきますって!
「ね!シンジ!」



喜んでいいの?
感謝すればいいの?
4歳の僕?
お前のおかげ?!

お前天才だぞ!!!!





その30ヵ月後
僕は教室で度肝を抜かれる
高校に新しく赴任してきた国語の先生
大学を出たてで
でも左手の薬指には…
それでも男子には大人気で
でも…
授業中はものすごくおっかなくて

「コラ!碇!いっつもボーっとしてるんじゃない!」
「すいません…惣流先生…」

もう勘弁してよ!
家でも学校でも頭上がんないなんて!

4歳の僕!
一生恨むぞ!






でもサンキュー



フォークリフトさんからアスカさんの誕生日記念に素敵なお話をいただきました。
12月4日にはすこしはやいのですが、3日の夜に更新しそこなうといけないのではやめにはやめに更新です。

それでは素敵なお話を書いてくださったフォークリフトさんへの感想をforklift2355@gmail.comへ、どうぞー!
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