注)このお話は、前作『窓越しに見える物』の続編になっています。
  前作をお読みになってから読むこと、わかりやすいと思います。






窓を乗り越えて




ふじさん






チュン チュン 

雀が鳴く。清涼な朝。今日も静かに一日が・・・。




ジリリリリリリリリリリ!!!!



始まらなかった。



「うわっぁぁぁぁ!?」




いつのも、軽快な目覚ましの音ではなく、爆音を響かせながら

『父さん専用目覚まし』が僕の部屋でケタタマシイ音を鳴らす。

バタバタっと慌てながら、僕は目覚ましを止めようと跳ね起きる。

しかし、今日特別に借りた、この『父さん専用目覚まし』止め方がわからない。

どこにも突起物がない物だから、どうやっても止めようがない。

しかも目覚ましの音は、だんだんと大きくなってきているような気がする。

こんな調子では、お隣さんに迷惑をかけてしまいかねない。

こんな事なら、きちんと父さんに使い方を聞いておくんだった。

そんな後悔が頭をよぎる。

それよりも、今日だけは――。

そう今日だけは、なにがなんでも、お隣さんを怒らせるわけにはいかない。

今日は土曜日。もう夏休みも終盤。

終わりの見えない宿題のせいで、眠れぬ夜に胃を痛める日々。

昨日も、殆どまったく眠れなかった。

でも、それは宿題のせいでだけではなく、今日のことを思って。

今日は、夏休みの中盤にしたアスカと映画を見に行く約束を実行する日。

見に行く映画は、今話題の『マ・トリック・4』

天災奇術師とカンピューターとの壮絶な戦いと愛を描いた感動巨編・・・・たぶん。

この映画を見に行く日。




そして――



そして、臆病な僕が新たな一歩を踏み出そうとしている日。








ジリリリリリリリリリリ!!!!!







うぅ、止めなきゃ・・・。




布団にくるんでみる。

だめ、全然五月蠅い。

壁に投げつけてみる。

傷一つつかない・・。

祈ってみる。 

アーメン。

父さんを褒めてみる。   

やっぱりだめ、金返せ。



いよいよ目覚ましの音が大きくなってきた、その時――


「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」



もっと五月蠅い声が聞こえた。

あぁ、やっちゃった。僕は心の中で、そう呟きながらカーテンをシャっと開ける。

そこには、お風呂に入ったのかバスタオルを巻いたままのアスカが

綺麗な眉をつり上げた姿があった。


「ア、、、アスカ! 何て格好してるんだよ!?」


「うるさい!ホントにうるさい!!その音、止めなさい!!!」


僕は真っ赤になってアスカをまともに見られないまま、下を向いて答える。


「ご、、ごめん。止めようと思ったんだけど、止め方わからなくて、、ボタンも付いてないし・・・」


あまりの情けなさに声がしぼんでいく。

そんな中言い放ったアスカの一言は強烈だった。



「アンタバカー!?そんなん電池取ればいいでしょ!!」




「・・・・・・」





アスカは怒った顔のままカーテンを閉めてしまった。


『父さん専用目覚まし』から電池を抜き取った僕は、一気に脱力。


「はぁ、こんなんで、大丈夫かなぁ」


それでも、開け放たれたカーテンから降り注ぐ光は、今日の快晴を予感させていた。










いくら僕でも、カーテンを開けたまま、着替えをするのは恥ずかしい。

サッとカーテンを閉めて、今日も着ていた、お気に入りのヘボTシャツ『平常心3号』を脱ぎ捨てる。

おろしたての白のTシャツを着ると、新しい服特有の良い匂いがした。

なんだかちょっとだけ、心も体も引き締まった気分。

その勢いのまま、履いていたパンツもおろそうとした時・・・。

朝の生理現象か、あられもないアスカの姿を見てしまったせいか、どっちかって言うとだいぶ後者。

あられもなく熱膨張してしまった我が友をみて、僕はあることを思い出していた。

それは、偶然見てしまったアスカの自由研究のファイルに書いてあった課題名。


『ある特定の圧力を受けた時の、特定の生物の行動パターンとその思考』



だそうだ。

しかし、アスカが自由研究をしていた様子は、いつも一緒にいたはずの僕にも

全然わからなかった。







ひじょーに嫌な予感がする。







なんだか、いやーな汗をかいたけど、そのおかげもあって暴走はしなくてすんだ。

Tシャツの上に、この間買ったばかりの紺のポロシャツを着る。

下はハーフパンツ。

今日は、アスカや僕の家から15分くらいのところにある駅前にある。

ペンペン像(正式名称は不明)の前で10時に待ち合わせ。

『一緒に行けばいいじゃん』っと言うアスカに無理矢理、僕が待ち合わせって事にした。

そう押し切られた後のアスカの顔は、なんだかちょっとだけ嬉しそうだった。

今は、まだ9時前。家を出るときに、アスカと鉢合わせになったらかっこわるいから

少し早く出るにしても、まだ十分時間はある。

机の上に絶対に忘れないようにと、昨日のうちから用意していた物をポケットに入れていく。




映画の前売り券2枚。

母さんの手伝いをして貰ったお金と、なけなしのお小遣いの残り。

それが今日の軍資金。 それを大事にしまった財布。

待ち合わせで迷わないようにと、いつもあんまりかかってこない携帯。


準備よし! 後は顔を洗って朝ご飯食べて出発だ!









「おはよー」


階段を下りていって洗い物をしている母さんに挨拶をする。


「あら、おはよう。シンジ。今日は、おめかししてるのね」


僕は自分の顔が熱くなっていくのがわかる。きっと僕の顔は、真っ赤に違いない。

それを誤魔化すために、お茶を飲みながら、新聞を読んでいる父さんに文句を言う。


「と、、父さんから借りた目覚まし時計。止め方わからなかったよ!」


「ふっ。それは、お前が馬鹿なだけだ。止められない目覚まし時計など、あるわけがないだろう」


まるでこちらを見ないで、バカにしたように父さんが呟く。


「あんなボタンもない時計どうやって止めるんだよ!」


「だからお前はバカだと言っている。ボタンなどあったら簡単に止まってしまって

目覚まし時計の役目にならんではないか」


「なんだよそれ・・じゃどうやって止めるのさ・・」


なんだかとっても嫌な予感がするものの、ここまできたら止め方を聞かないわけにはいかない。



「簡単だ。電池を取ればいい」



もう、思いっきり脱力した。



「あなた、馬鹿なこと言ってないで、食器下げるの手伝ってください!」


「う・・うむ。すまんなユイ」


「『すまんな』じゃありません。さっさと手伝ってください! ほら、シンジも、さっさと顔洗ってご飯食べなさい!

アスカちゃんとの約束に遅れるわよ!」


「「はい」」

僕と父さんは、まったく同時に返事をした。











「いってきまーす」


ご飯を食べて歯も磨いた僕は

母さんや父さんに、なにか言われる前にさっさと家を出る。

時計を見ると時間は9時30分。

ゆっくり行っても50分前には待ち合わせ場所につく。

映画は11時15分から、1時間以上待たなきゃいけないような時間だけど

そこは、ぬかりはない。

今話題って言うだけあって、早めに行って並んでいないと座って見れないんだ。

そのことはアスカにも事前に言ってある。ちゃんと言っておかないと、怒って帰っちゃいそうでしょ?

ていうか絶対帰る。

もの凄く、ごねるだろうと思っていたアスカは、意外にも簡単に納得してくれた。

『まっ今、人気あるみたいだし。しょうがないんじゃない?』

だって。

こっちが拍子抜けしちゃったよ。


それなら最初から並ばないで見られる映画を見に行けばいいって話だけど。

確かにそうなんだけどね。一応約束したのはこの映画だし。

それに、映画を待ってる時って周りの人たちもドキドキしてるし、自分たちもワクワクしてるでしょ?

そう言うときって時間がたつの早いしさ。

待つ間、結構狭いスペースに、三列とか四列で並んで待つでしょ。

そうすると、アスカと手と手が触れあわんばかりに密着していられるじゃないですか!!


はぁはぁ・・・。


つい興奮してしまった。













歩き慣れた道を行く。

駅へと続くこの道は、僕らが通っている中学校の通学路と、ほとんど同じ。

学校のある朝は、アスカと一緒に歩くこの道も、今日の僕には少し違って見える。

もしかしたら、もう一緒には――

そんな思いが僕に、いつもと違う風景に見せるのかもしれない。

今日のことを思い、すこし厳しい表情になる。

似合わないな。素直にそう思う。

どうせアスカが見たら『ぼけぼけっとしている』と言うに決まってる。

そう思うと、少しだけ肩の力が抜ける。

似合わないことはしない。

どんなにがんばったって僕はアスカのようには、なれないんだから。

僕は僕らしく。 

精一杯がんばって、ちょっとだけ背伸びして。

僕は、今日、アスカに告白する。













待ち合わせの、ペンペン像に着いたのは結局9時43分だった。

ゆっくり歩いたつもりだったけど、やっぱりどこかで少し焦っていたのかもしれない。

待ち合わせの時間まであと20分。アスカのことだから、わざと遅れてくるかもしれない。

あと30分くらいは待たないといけないかもね。

もしかしたら、アスカから携帯に電話がかかってくるかもしれないから

ポケットから携帯を出して手に持っておく。

僕の携帯は真っ赤。普通の白とか目立たない携帯が欲しかったんだけど

アスカがアンタは只でさえ、ぼけっとしてるんだから、そんなんじゃ、すぐ無くすわよって

せっかく買った白い携帯を取り上げられちゃったんだ。

だから今、僕が持ってるのはアスカが使っていた携帯のおさがり。

アスカは赤い色が好きだから、携帯も当然のように真っ赤。

なぜか携帯に付いてるストラップまで一緒に渡された。

ストラップには可愛い、お猿の人形が付いていて

それは、まるで女の子とかが付けてる可愛いストラップそのまま。

赤い色の携帯ってだけでも恥ずかしいのに、お猿のストラップなんて付けられないから

アスカに返そうとすると、その携帯には、そのストラップが似合うんだ。

と聞かなくて、もうその目は、外したらただじゃおかないと

如実に語っていた。

今の携帯電話の番号は、どんな会社の、どんな機種に変えても

番号は変わらないように出来るサービスがある。

だから僕とアスカが携帯を変えても、昔使ってたアスカの携帯に、間違って女子から

電話がかかってくるようなことはない。


「ふぅー」


知らず知らずのうちに、強く握りしめていた携帯電話を持ち替えて

僕は一つ息をついた。


『告白、できなくてもいいかなぁ・・』


思わずそんなことも、思ってしまう。

逃げ腰になりそうな僕をよそに、時間は淡々と進む。

こんな時にかぎって、早く進まなくても良いのに。

もう時間は9時55分を回っていた。











10時8分。

予想通り、アスカは遅刻してきた。

しかも、なぜか駅の反対側から現れて、僕の後ろから両手で

ドンッと押してきた。


「うりゃ!」


「うわっ」


いきなり後ろから押された僕は、思わずよろけてしまう。

ここは文句の一つでも、僕がそう思ってふりかえると――


「じゃーん」


アスカは、そう言うと、スカートの端をもってクルッと回転して見せた。

どう?どう? アスカの目は、嬉しそうに僕にそう聞いていた。

アスカの格好は、上は薄い桜色のぴったりとしたタンクトップ。 

胸のあたりには、ハートマークが書いてあって、その中にビーズで get you my girl と刺繍されてる。

下は膝上10センチくらいの、チェックのスカート。

手には小さな赤いバックを持ている。

タンクトップのせいで中学生にしては豊かな胸が強調されて

しかも、アスカは下から少しのぞき込むようなポーズを取ってる。

僕に、まるで子犬のようなキラキラとした目で、どう?どう? と語りかけている姿は

もう、どういうことかーーーーってくらい可愛くて・・・。


「う、、、うん。 すごく可愛いと、お、、思うよ・・」


どもりながら、小さく、でもアスカに聞こえるくらいな声で、僕は何とか、そう答えた。

あぁ、絶対、僕、今顔真っ赤。

「あ、アンタにしちゃ上出来ね」

アスカは言葉とは裏腹に、嬉しそうに、僕に肩で軽くぶつかってきた。











映画館前。

予想道り、映画館は混んでいて、チケット売り場に並ぶのも大変そうだった。


「あー! やっぱり混んでるわね。チケット買うのも大変そうだわ」


「チケット。前売りで買ってあるんだ」


そう言うと僕は、あらかじめ買っておいたアスカの分のチケットを強引に渡す。


「なに、なに!? シンジにしちゃやるじゃん! ダンケ♪」


そう言うとアスカは、財布を出して、お金を僕に払おうとする。

その手を止めて、僕は早口にまくしたてる。


「今日は僕から誘ったんだから、お、お金は良いよ」


本当は二人で話していたときに、何となく決まった映画を見に行く話なんだけど

あえて僕が誘ったことにする。そうじゃないと、奢る言い訳が思いつかなくて。

当然、記憶力の良いアスカはそんなこと覚えてるんだろうけど。

もし、アスカが僕のこと好きなら、黙って受け取ってくれるかもしれない。

と意味のない根拠?を立ててアスカの行動を見守る。


「ほ〜。 ほ〜。 ほ〜〜。 」


アスカは面白そうに、僕の顔を見たまま、ほーほーと、笑いをこらえたような顔で僕にいった。

それでも、出しかけていたお財布を、小さなバックに仕舞うのを見た僕は、ほっとした。








チケットを買うために並んでいる人たちを横目に、僕らも映画館に入っていく。

ここでも、アスカは注目の的。

隣に僕がいるから、あからさまに声をかけてきたりはしないけど

明らかに、何であんなヤツがっと目で訴えている。

アスカは、そんな雰囲気も慣れた物で、素知らぬふりでスタスタと歩いていく。

運が良ければアスカの手を!っと意気込んでいた僕は、さっさと歩いていってしまうアスカに

再び、アスカって僕のこと好きなのかなぁと、勝手に不安になってしまう。

何も知らないアスカにしたら、いい迷惑なんだろうけど。

何かにつけて、告白しようとしている僕にとっては

アスカの行動の一つ一つが、気になってしまう。

少し素っ気なくされただけで、あぁもうダメだ。

そのくせ、少しやさしくされると、やった!大丈夫だ!

と、端から見たら、まるっきり変人だ。






館内にはいると、時間は10時25分になっていた。

まだ、前の回の上映が途中なので、みんな係員の指示に従って

区切られた枠のなかで4列になって並んでいた。

さっそく僕らも、係員の人の指示に従って列に並ぶ。

運良く僕らは、ちゃんと二人そろって並べた。

アスカが一番左、その隣が僕。そして、その隣はカップルだった。

僕らもカップルに見えるかな。隣や周りに沢山いるカップルを見て

一瞬そんなことを考える。 おもわずチラッとアスカの方を向くと

僕が何を考えているか、わからないはずなのに、イーっと白い綺麗な歯を見せて

僕を威嚇してきた。

そんなのも可愛く見えてしまうのは、惚れた弱み?


「まだあと1時間くらい待たなきゃいけないね。何か買ってこようか?」


そんな雰囲気を誤魔化すように、僕はアスカに聞いてみる。


「ん〜。 いいわ。今、何か飲んだら、おトイレ行きたくなっちゃうし」


アスカは少し考えて、可愛く眉をしかめて、そう言った。


「でも、お昼少し遅くなっちゃうから、お腹空くよ?大丈夫?」


「まっ、しょうがないわね。我慢するわ。それより、お昼どうするの?」


そう、話をふられた僕は、してやったり。しっかり、お昼食べるところも調べてきていた僕は

アスカに、お昼食べるものをどうするのか、ふって欲しかった。


「この近くに、美味しいパスタのお店があるんだって。そこに行こうと思うんだけど・・」


この映画を見に行く約束をした時に、食べていたのもパスタ。

アスカがパスタを好きだって言うのもあるんだけど、なんとなく願掛け。


「へー。良いんじゃない? 美味しいんでしょうね!?」


「ご、、ごめん。僕も食べたこと無いんだ。 ハッ ハハハハ。たぶん美味しいんじゃないかなー」


「なによそれ」


そんな僕の答えにも、アスカはおかしそうに笑うだけだった。


「いいわ。まずかったら、シンジに奢らせてやる」


そう、意地悪そうに言うアスカに。

元から、そのつもりなんだけどね。僕は、そう心の中で呟いていた。


アスカと話しているのは楽しくて、あっという間に時間が過ぎていく。

前に見ていた人たちが一斉に出てきて、掃除も終わり。

僕らも順に、ホールに入っていく。

1時間も並んだおかげで、割と良い席を二つ取ることができた。

どっちかというと、真ん中よりの席をアスカに譲り、僕らは腰を落ち着ける。

ふーっとため息を一つ。席さえ確保してしまえばこっちの物。

ザワザワとしていた室内もビーーーーーっという開演を知らせる音と共に静かになった。


映画の内容は、コンピュータよりも、さらに進化した

カンピューターが支配する世界を奇術師が救う。 

とかなんとか。

4と言うこともあって、映画自体のできは、悪くなかったと思うけど、マンネリ感もあった。

ホントのこと言うと、映画を見ているアスカの顔をチラチラみてて、映画どころじゃなかったんだ。

今日、告白しようって言うんだよ?映画に集中なんて出来ないよ・・。















「映画。わりと面白かったね」


「う、、うん。そうだね!」


あんまり見ていなかった僕は、思わずひっくり返りそうな声で、そう答える。


映画を見終わった僕らは、パスタのお店に来ている。

雑誌に載っているくらいだから、有名なお店なんだろうけど、映画の後で

1時40分過ぎと、少し遅い時間のせいか、混んでいるものの、二人用の向かい合う席に座れた。


「う〜。やっぱりお腹空いたわー。なーにー食べよーかなー」


メニューを楽しそうに見ながら、アスカは間延びした声で、嬉しそうに悩んでいる。

そんなアスカを、おかしそうに見ていた僕だけど、僕はもう頼む物を決めていた。

その名も 『和風キノコパスタ』

ばればれ・・・かな。

周りは、女の人ばかり。パスタのお店ってだけあって女性に人気みたいだ。

店内も、清潔感のある白を基調に、イタリアの国旗や綺麗な花なんかも飾ってある。

アスカが決めるのを待って、ウエイトレスさんを呼ぶ。

アスカはカルボナーラ、僕は和風キノコパスタ。

僕が、そう伝えているのを、アスカは面白そうに見ていた。













「まぁまぁだったわね」


そう言うアスカだったけど、残さず綺麗に全部食べてた。

デザートにパフェまで食べたときには、財布の中身を心配したりした。

会計は結局、割り勘。 なんとか僕が出そうと思ったんだけど、うまく言い出せなくて・・。

なんとか、端数だけは僕が払う事に成功した。

うん、これで良しとしよう・・・。いいよね?

お昼を食べ終わって、お店を出たのが2時30分過ぎ。

特に、この後、行く場所もないんだけど、アスカが欲しい物があるって言って

デパートに行くことになった。

アスカが欲しい物って言うのは、たぶん携帯のストラップ。

今のアスカの携帯には、ストラップが付いてないから、きっとそれが欲しいんじゃないかなって思う。

デパートのアクセサリー売り場や、おもちゃ売り場のストラップコーナーを見ていく。

アスカは、何か目当ての物でもあるのか、端から見ていくんだけど、どれも手に取らないで

さっさと次に行ってしまう。


「気に入ったの、無いの?」


そんな姿が、なんだか、いつものアスカらしくないので、思わず聞いてしまう。


「え? あぁ、そうね。」


アスカは、少しばつが悪そうに顔をそらすと、また真剣にストラップを選んでいく。

その姿が、あまりにも真剣だったから、僕は声をかけられなくなってしまった。

アスカの横について行きながら、何とはなくストラップを見ていくと、アスカが僕にくれた

お猿のストラップと同じ物が置いてあるのに気が付いた。

それは最後の一つらしく、少しパッケージも汚れていた。

僕は、思わず手にとって。


「あっ。これアスカが使ってたのと一緒だね」


僕が、何気なくそう言うと。


「え!?」


アスカは、がばっと、すごい勢いで振り返ると、僕が手に持っているストライプを見る。


「あ、ホントね。 うん。 へー。 こんなの、まだ売ってるんだ」


少し慌てて、興味のないフリをするアスカ。

いつものアスカらしくないその姿に、僕は少し期待してしまう。

もしかしたら、これ、探してたのかなって。


「こ、、これ、、欲しいの?」


もう少し、うまい聞き方はないの、、僕。

あまりに直球な質問にアスカもビックリしたのか、思わず下を向いてしまう。


「え、、う、、うん。まぁそのキャラクター嫌いじゃないし・・・」


下を向いて、ぼそぼそとそう言うアスカに、僕は。


「そ、、そうなんだ。 じゃ僕、買ってくるよ。 ほら、アスカの使ってたの、貰っちゃったの僕だし」

本当は、強引に渡された物だけど。

そう言うが早いか、僕は手にしていたストラップをもって会計に行く。

アスカは、えっと俯いていた顔を上げて驚いていたが、止めるようなことはしなかった。

そのあと、僕らは多少ギクシャクしたものの、アスカの服を買うのを付き合い。

CDを見に行ったりして、夕方になる頃にはいつもの二人に戻っていた。

デパートを出る頃には5時40分を回っていた。

外は少し暗くなり、綺麗な夕日が町一面を照らしていた。

その景色を見ながら、僕は未だに迷っていた。
















「「・・・・・・・・・」」


やっといつもの二人に戻れたのに、帰り道にまったくしゃべらない僕に

アスカは、戸惑っている様子だった。


無言のまま、僕らは帰路につく。

今朝、一人で歩いた道を、今はアスカと二人で歩いている。

一人で歩いていたときに見た景色はだから、いつもと少しだけ違って見えたはずなのに。

今、こうしてアスカと歩いているこの道は、まるで初めて通る道のよう。

一体この道は、どこへと続いていくんだろう。

ずっと、アスカと同じ道を歩いてはいけない。

僕は、いつも心の中でそう諦めていた。

だけど、アスカと一緒に歩いていける道が無い訳じゃない。

そう、そんな未来だって、きっとあるはず。

自分のいる場所さえ、あやふやになりそうな中。

僕の目には、そんな儚い未来と公園がうつっていた。


「アスカ――」



僕は、震える声でアスカを呼び止める。

アスカは一瞬びくっとして、立ち止まると僕の方を見ずに。


「・・・何?」


と呟いた。

アスカも気づいている。僕はそう思った。

それはそうだよね。今日の僕は変だったし。

思わず苦笑いをしてしまう。

似合わないなぁ、今日、何度目になるかわからないその思いが頭をよぎる。


「公園・・・寄っていかない? 夕日・・・綺麗だと思うんだ」


そう言う僕に、アスカは何も言わずただ、うなずいた。


町を見下ろす、この公園から見る景色は、本当に綺麗だった。

町一面を夕日が染め。そこはまるで、幻想的な赤い海のようだった。

僕らは何も言わず、その景色を見ている。

アスカと僕との間には、人一人分のスペースが空いていた。

僕にとって、その距離は、永遠につまることのない僕とアスカの差のように思えた。


『アスカには有り余る才能がある』

『頭だって、天才的だ』

『顔なんて、ちょっとしたアイドルよりも全然可愛い』

『スポーツだって、何をしても本当にうまい』



いつかだったか、僕が考えた思いがよみがえる。



『高校は、きっと信じられないくらい偏差値の高い高校に行くんじゃないかな、と思う』

『もしかしたら、外国に留学とかするかもしれない』

『そして、今日みたいに芸能事務所にスカウトされて、デビューしちゃうかもしれない』

『いくら興味がないって言ったって、いつ考えが変わるかわからないし』

『こんな関係でいられるのも、きっと僕らが中学生の間だけ』








『残された時間は、もうほとんど無い』












そう、 僕に、残された時間は、もうほとんど無い――










僕はアスカの方を向く。

アスカは、あいかわらず前を向いたまま。


「アスカ・・」


夕日に照らされた横顔は、どこか儚げで、それでいて、とても綺麗だった。


「アスカ」


2度目の僕の声に、アスカは、ゆっくりとこちらを見た。

アスカは何も言わない。

ただ僕の目をじっと見つめている。

その目は、どこか、寂しそうで、そして、どこか――悲しそうだった。














「アスカ、僕、僕、、、は 『タララ〜♪ ラララ〜♪』 















なけなしの勇気を振り絞って、アスカに告白しようとした、まさにその瞬間。

無情にも、昔のアニメの主題歌の着メロが僕の邪魔をした。







「「・・・・・・・・」」









「でないの?」



そう言われて、僕はやっと僕は電話に出る。


「はい。もしもし・・・・うん、、うん、、帰るよ。 うん。 わかった じゃあね」



pi


機械的な音を立てて電話は切れる。



「おばさまから?」



「うん。母さんからだった。晩ご飯食べるのって」



「そう。もうそんな時間なんだね。 ・・・帰ろっか」



どこか、ほっとした表情で、アスカは僕に聞いてきた。

そんな表情をされたら、僕は、もう何も言えないよ・・・アスカ。


「そうだね。お腹空いたもんね!」


僕は、泣きそうな自分を誤魔化すように、大きな声でそう言った。
















公園から、ウチまでは5分もかからない。

そのわずかな間に、僕は思う。

結局、僕とアスカにあった一人分のスペースは埋められないんだなと、

あの時にかかってきた、電話は僕にそれを伝えていたんじゃないかと。

僕は知らず知らずのうちに、強く、強く、握りしめていた手を、そっと開く。

今、泣いたらダメだ。 僕はまっすぐ前を向いたまま、涙を流さぬよう必死に堪えていた。





その時――




僕の手に。



アスカの指が。




絡まってきた。





本当に、本当に指先だけ。





そっと触れるように。






僕は、びっくりして思わず立ち止まる。

アスカは何も言わず、ただ僕を見返していた。


僕も何も言わず、また歩き出す。

僕らの家までは、もうほとんどない。曲がり角を二つ曲がったら、僕らはウチに付く。

僕らは、そっとつないだ指先をそのままに静かに、家へと歩いていく。

最後の曲がり角を曲がり、明かりの灯った家の前に、僕らは着いた。


お互いの家の前で、僕らは繋いだ指を離せずにいた。

アスカが僕の方を向き、僕はアスカの方を向く。

二人の距離はほとんど無い。そう、人一人はいるほどのスペースは、もう無い。

指先だけ繋いだ、お互いの手を、胸のあたりまで持ち上げる。

二人の手のひらを合わせていく。

そして、静かに二人の指を絡める。

やさしく、それでいて、きつく、きつく。

僕の思いをアスカに伝えるように。

アスカの思いを知りたいと願うように。








それでも、僕は何も言えなかった。

アスカの目にうつる、寂しさを見つけてしまったから。

僕らは、いつまでもそうしているわけにもいかず。

アスカは、そっと絡めた手を離した。


「じゃ・・ね」



アスカはそう言うと、小走りに家の中に入っていった。

僕は、アスカと繋いでいた手を見る。

僕の手は。

赤くなっていた。

アスカの思い、そのままのように――





僕は、飛び込むように自分の家へ走り込んだ。

『あら、おかえり』

そう言う母さんの声を無視して、僕は階段を駆け上る。

心臓が痛い。

早く。 もっと早く。

自分の部屋に飛び込んだ僕は、引きちぎるようにカーテンを開け

そのままの勢いで、乱暴に窓を開ける。


カーテンの閉まったままのアスカの部屋に向かって、僕は叫ぶように伝える。



「アスカ!!!アスカ、アスカ、アスカ、アスカ!!! 君の事が好きだ!!

アスカが好きだ!!! アスカが好きだ!!! アスカが好きなんだ!!!」




カーテンは閉じられたまま。

開け!

開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!

開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!開け!






開いてよ!!!!








お願いだから、開いてよ!!!!















僕の思いは、虚しく厚いカーテンに吸い込まれてしまうのか。そう思った、そのとき――

泣き顔のアスカが、そっとカーテン開いた。



「アスカ!!君のことが好きだ!!!」



僕が再びそう叫ぶと。

アスカは、勢いよく部屋の窓のを開け。

窓の下にある、わずか数十センチの屋根に足をかけ。

僕の部屋に飛び込んで来た。

飛び込むように入ってきたアスカに僕は抱きつかれ、その勢いのまま、アスカが覆い被さるように

ベットに倒れ込んだ。

アスカは泣いたまま、僕にしがみついてくる。

そんなアスカを、僕はドギマギしながらも抱きしめた。


「好きだよ。大好きだよ。アスカ」


僕がそう言うと、アスカは黙って僕の肩にグリグリと

甘えたように顔を擦り付けるだけだった。

そんなアスカの行為に、殆どトリップしながらも、僕はどうしても聞きたいことがあった。


「アスカ、、、アスカの気持ちも、、教えて?」


これだけの事態なんだから、わかりそうなものだけど、それでも僕はアスカの気持ちを

きちんと聞きたかった。


「嫌っ。今日一日、アタシを心配させた罰!教えてあげない・・」


鼻にかかったような甘い声で、アスカは僕の耳もとで、そう囁く。


「お願い。アスカの気持ち、聞きたいんだ」


そう言う僕に。


「だめったら、だめ・・・ 恥ずかしいもん・・」


更にしがみつくように、僕に抱きついてくる。

僕は、アスカを抱きしめたまま強引に回転して、アスカを仰向けにする。

アスカの綺麗な金色の髪が、僕のベットに花のように広がる。

アスカが少し驚いて、抱きついていた手をゆるめた瞬間に、僕はアスカと少し距離を置く。

アスカの上にまたがったまま、僕はアスカの顔を見つめる。

お互いの息が、顔に触れるような、そんな特別な距離。

僕は、こんなに近くでアスカの顔を見たことがあっただろうか。

僕は思わず、綺麗だっと呟く。

アスカは、バカッと恥ずかしそうに呟くと、そっと目を閉じた。


僕は。


生まれて初めて、キスをした。





アスカは僕の首に、そっと手を回すと、甘い声で


「シンジ・・・大好き・・・」


そう言ってくれた。


























しばらく抱き合ったままだった僕らは、どちらとも無く離れ。

今は、ベットの上で壁を背に、二人並んで座っている。

もうピッタリと、誰も僕らの間に入れない程に。


「シンジ、、どうして公園で言ってくれなかったの?」


アスカは、そう僕に聞いてきた。

「で、、電話かかって来ちゃったし、、それにアスカ、なんだか寂しそうな目をしてたから・・・怖くて」


「そっか・・」


そうかもねっとアスカは、そっと呟く。


「アスカ・・・僕に告白されるの、、嫌だった?」


「バカ。そんなんじゃないわよ」


甘えるように、アスカは僕の肩に頭を乗せてくる。


「ずっとずっと好きだった奴に、告白されるんだなって、思ったらさ・・

あたし達ずっと、幼なじみだったでしょ? そんな関係も終わるんだなって・・・

そう思うと、、不思議に、少し寂しくて・・」


「へー・・」


「むっ。何よ、アタシが、そんなふうに思っちゃおかしい!?」


「う、、ううん。そんなこと無いよ! ただアスカでも、そう言うふうに思うんだなぁって・・」


「そうよ。アタシだって、普通の女の子なんだから・・・」


「そっか」


「そーよ。バカシンジ。安心した?」


「・・・うん」



「「ふふっ」」




「「あははははははっ」」




僕らは、ひとしきり笑うと、もう一度キスをした。

そっと、お互いを慈しむように。

ゆっくりと。

こそばゆい鼻息を感じながら、惜しむように離れた唇。

聞いたことの無いような、甘い声で、アスカが僕に言った。


「シンジ・・・」



「何?」



まるで夢の中にいるような気分のまま、僕はアスカを抱きしめて、聞く。



「アンタ、靴。履いたまんまよ」




「げっ」



布団は、泥だらけだった・・・。














「どうしよう・・ 今日ベットで寝れないよ」


「もう・・こんな時に、情けない声出さないでよ」



アスカは、さっきまで、ちょっとかっこよかったのにっと嬉しいことを呟いてる。

もっともその後に、やっぱりシンジはシンジねっと笑ってもいたけれど。



「だ、、だって寝る所なくなっちゃったんだよ?」



「そんなの心配ないわよ」



「なんでさ?」



「アタシのベットで寝ればいいでしょ?」




「えぇぇぇえええぇぇぇえええええええぇぇぇえ!??!?!?」




「ちょっちょっと、耳元で大きな声出さないでよ」



僕は、慌てて口に手を当てる。


「ご、、ごめん」


そ、、そりゃ、アスカのベットで寝るのは嬉しいけどさ、ものには順序っていうものが・・・。

イヤ、でも、もうキスもしちゃったし・・・。


ゴツッ!!


「イッターー!」


「アンタ、今、Hな事考えてたでしょ!」


「そ、、、そんなこと無いよ」


ぶるぶると、思いっきり顔を振る。

でも、声は思いっきり裏返っていた。



「そ、、それにさ、アスカの、おばさんとか、おじさんに知られたら大変なことになるよ」


「知られたら大変って、何が?」


「だ、、だから、ぼ、、僕がアスカの部屋で寝てるの見つかったりしたら、、

つつつつ、付き合ってるの、ばれちゃったり、するじゃないか」


付き合ってる。その言葉をいうのが、異様に恥ずかしい。

母さんはともかく、父さんにからかわれるのは、死んでもイヤだ。



「アンタバカー?」


「アスカは良いの?その、、僕と付き合ってるの、ばれても・・」


「ばれるもなにも、あんだけ大きな声で、アタシに告白したんだから、ご近所さん含めて

みーんな、アンタが告白したこと知ってるわよ!」





まっ、結果は知らないだろうけどね♪

そんなことを、さらっとのたまいながら、アスカは僕の頬にかるくキスをして

部屋を出て行ってしまった。

アスカが向かったのは、なぜか ウ チ の 一階・・・。

僕は自分がしたことの、あまりの恥ずかしさに固まり。

そのことに気づいたのは、下から盛大な笑い声が聞こえてからだった。











夏休み後に、自由研究の発表で、もっと恥ずかしい思いをしたのは、また別のお話。
















どうも、ふじさんです。
4作目です。はじめての続き物でした。
何んて、なんて恥ずかしい物を書いてしまったんでしょうか。
だいぶ最初に予想していた物と違う物になってしまいました。
(うまくいくという結果は同じですが)笑
それでも、今もてる全てを使い切った作品になったと思います。
公園で告白させとけよ!と自分でも思ったんですが、やはり、せっかくだから
窓越しに告白させたくて、シンジくんとアスカちゃんには無理?させてしまいました。
もう少し甘い物や、はちゃめちゃな物も書いてみたいんですけどね。
文章力が無くて、どうした物でしょうか。
ちなみに、このお話は、もう続きません。何にも考えてないのでw
最後まで読んでくださった方。本当にありがとうございました。



ふじさんから、『窓越しに見えるものは』の続編をいただきました。
ついに、シンジ告白ですか!

情けなくてうじうじしているけど、やるときはやるんだな〜
窓越しの彼女だったのを、ぐいっと捕まえて彼女にしたのですね。
こういうシンジ君もいいですね。

自由研究‥‥アスカもアスカらしくていいですね(笑)

素敵なお話を書いてくださったふじさんに感想メールをお願いします。

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