神業

こういう場合 第二部 第六話

作者:でらさん














海で遭遇した使徒は殲滅後簡単な調査が行われた後、そのまま海中投棄処分となった。
太平洋沖の深海に沈んだそれは、ゆっくりと海の藻屑になっていくことだろう。

実はこのように簡単に処分できた使徒の遺体、残骸は珍しい。
というか、初めて。

第三使徒はサンプルとして本部の下層に保存されているが、その価値もないとされた第四使徒は細分化され
海に投棄された。

芦ノ湖に沈んだ第五使徒は引き上げられ、第三新東京市郊外にまで運ばれて解体作業が行われている。
その体?を構成する物質が今までの使徒と異なるため腐敗の心配がないのは救いか。
解体された体の一部は、その特異性から研究対象となって保存が決まったが、その他は産業廃棄物として
処分される。
が、建設用重機を使用した解体作業は遅々として進まない。




ネルフ本部 発令所・・


「国連軍か戦自に標的として使ってもらえばいいのよ。
費用がかさんで仕方ないわ」


「あんなものを、どこまでどうやって持っていくの?
エヴァを使うなら、今の方が安上がりよ・・ミサト」


「な、なら、エヴァで解体するとか」


「それも同じ。
S2機関積んでるから前よりは安上がりになったけど、消耗部品とかバカにならないのよ。
エヴァの装甲一枚がいくらするか知ってる?」


「実験の時は何も考えないくせに、こういう時だけ・・
卑怯よ、リツコ」


畳みかけるようなリツコの理論責めにミサトは反論できない。
何もかも事実なだけに、反論の余地がない。

確かにエヴァを使用すれば仕事は速い。
速いのだが・・
そのかわり、運用にかかる費用がとんでもない額になる。

各種消耗部品の交換、整備・・そして使用後に素体をLCLのプールで冷やす必要もある。
それらを金額に直すと、重機でぼちぼちと解体した方が余程安い。
腐食の心配がなければ、これがベスト。
ネルフの予算も無尽蔵というわけではない。


「実験は必要不可欠だもの。
妥協は許されないのよ・・何と言っても、エヴァは人類の砦ですものね」


「誰かさんの趣味としか思えないけど・・」


解体の様子を伝える場面が、メインスクリーンに延々と映し出されている
出来損ないのピラミッドを解体するような光景。

解体を請け負った業者はネルフとは長い付き合いがあり、結構無理も聞いてくれる。
その代わり、それなりの金も取る。
社長もやり手で、規模はそれほどでもないが着実に業績を伸ばしている優良会社だ。


「私も土建屋に転職しようかな。
なんだか儲かりそうだわ」


「あの業者には、若い跡取りがいるそうよ。
今は余所の会社に修行に出してるそうだけど・・
リョウちゃんと別れて、その人と結婚すれば?
ミサト得意の寝技使えば簡単なんじゃない?」


「・・・考えてみようかしら」


「ほ、本気にしないでね」




近頃夫婦仲は改善の方向に向かっていると聞いていたリツコだが、ミサトの表情にどこか怖い物を感じる
のであった。





第壱高校 2−A教室・・


ごく一部を除いて進学問題など存在しないこの学校の生徒達。
上を目指す人間は常日頃から努力しているし、そうでない人間も学校を選ばなければ大学への進学は問題ない。
ここは、そういう学校だ。

だが、そんな進学校に入った自覚を持たない人間・・あるいは忘れた人間もいることはいる。
例えば、こういう奴とか・・


「シンクロゲーム?なにそれ?」


「ふふふふふふふ・・
驚くなよ、惣流。
この俺様が精魂傾けて完成させた、究極のカップル御用達ゲームだ!」


「そんな事ばっかりやってるから、いつも補習受けるハメになるのよ。
今の内にやることやっておかないと、後で泣くわよ」


「そうよ。
大体、写真部の責任者でしょ?あなた」


「れ、冷静に返したな。
洞木まで・・」


登校するなりアスカとヒカリを集め、自分の端末を開いてケンスケが力説している。
どうやら自作ゲームをモニターしているらしい。
少し前に作ったミニゲームがゲーム会社の目に止まり、そこそこの値段で売れたのが癖になったようだ。

とはいえ、その後は一つとして売れていない。


「バカにしてるな、お前ら。
だがこれをプレイしたら、考えが変わるぜ。
まずは洞木と惣流でやってみろよ、ほら!」


ご丁寧にゲームパッドまで用意している。
それをヒカリとアスカに渡したケンスケは、ゲームを起動させた。

見たところ、今では珍しくなった縦スクロールのシューティングゲーム。
グラフィックは今風だが、特別綺麗というほどではない。
これが一体・・


「こんなレトロなゲーム作って・・
一部のコアな連中にしか売れないわよ。
大体、どこがシンクロゲームなのよ」


「ふっ、これがレトロどうか、まずはプレイしてみるんだな。
シンクロゲームの意味も分かるぜ、惣流」


「ふん、自信じゃない」


ケンスケの自信を怪訝に思いながらも、アスカはゲームを始めようとする・・
が、いくらパッドを操作しても画面が反応しない、スタートすら出来ないのだ。
ヒカリのパッドも同様に操作が効かないようだ。


「壊れてるわよ、これ!
プログラムミスなんじゃないの!?」


「ははははは!
二つのパッドを同時に操作しないと、ゲームを始める事すらできないんだ!
これぞ究極のシンクロゲーム。
カップル御用達と言った意味が分かっただろう?
これで二人の親密さが計れるのだ!」


「ったく、くだらない物を・・」


くだらないと思いつつアスカとヒカリが同時にスタートボタンを押すと、確かにゲームは起動する。
が、それまで。
シューティングゲームで、二人がまったく同じ操作するなど不可能だろう。


「どうだ?難易度高いだろう?
まあ、クリアを目的とするゲームじゃないからな。
あくまで、恋人達のレクリエーションとしてだな」


「シンジ!ちょっと来て!」


「おいおい、シンジを呼んだって結果は見えてるぜ」


負けん気の強いアスカが、意地を張ってシンジとプレイするつもりらしい。
だがケンスケは絶対の余裕。
いくらアスカとシンジが仲の良いカップルでも、これはどうにもならないはずだ。

相手の動きを見て合わせるだけではダメ。
文字通り、一心同体にならないと無理。


「どうしたんだよ、アスカ。
ケンスケのゲームがどうかした?」


「シンジ、これ持って」


「あ、ああ・・」


アスカはゲームの概要を簡単に説明し、シンジもすぐに理解する。
すると、その顔には不敵な笑みが・・


「じゃあ、いくわよ」


「了解」


ゲームスタートと同時に勢いよく動き出す画面。
それだけで、ケンスケの顔は色を失った。

更に襲い来る敵を次々と撃ち落とす戦闘機の動きは、二人で操作してるとは思えないものだ。

ケンスケがプレイしてる二人を見ると、彼らは画面に目を向けているだけ。
それだけで、お互いの動きが分かるらしい。
冗談のような光景に、ケンスケはただ唖然として二人のプレイを見送っていた。

そして、ゲームはあっけなく終わる。


「・・・っと、これで最後!」


ボーン


最後の敵機が爆発した後には、Game Clearの字が画面に張り付く。
まともにゲームが出来るとは想定していないため、ステージは一面だけ。


「まっ、アタシとシンジにかかればこんなものね。
出直してきなさい」


「くそう・・
どうしたら、そんなに息が合うんだよ」


「息が合うとか、そんな問題じゃないわ。
アタシはシンジが分かるし、シンジはアタシが分かるの。
それだけよ」


「そんなの、お前らだけだ」




この一件で自分の限界を感じたケンスケは、ゲーム制作から足を洗った。
人間、見極めが大事。





昼過ぎ ネルフ本部 発令所・・


「護衛艦扶桑より入電・・紀伊半島沖で正体不明の物体を発見!
MAGIの判定は・・・パターン青!使徒です!」


青葉の緊張した声が発令所に響く。
食後の気怠い雰囲気で包まれていた発令所に一瞬で緊張が戻る。

日向らオペレーター達と食後の雑談を愉しんでいたミサトも、すぐに気持ちを切り替えた。


「パイロットを緊急招集!
エヴァを出撃態勢に!パイロットが到着次第発進させます!
使徒の動きは!?」


「現在、追跡中。
このままでは駿河湾に上陸します!」


「駿河湾か・・
周辺地域に特別警戒態勢を発令!住民を緊急避難させて!
水際で殲滅するわ!」


「了解!」


皆緊張はするが、心のどこかに余裕がある。
パイロット達は今回も圧倒的な力を見せ、使徒を殲滅してくれるはず・・
それを、誰もが疑っていない。

国連軍や戦自・・ネルフ職員も、アスカ達パイロットを信じ切っている。

それは当然かもしれない。
これまでの戦いで、彼らはそれだけの実績を残した。
そして今回も、彼らはやってくれるだろう。

そんな期待を、最高責任者であるこの人も持っていたりする。


司令室・・


発令所からの報告にも冷静で、完全な余裕を見せている最高責任者二人。
特にゲンドウなどは、今日も二日酔い。
余裕というより弛緩か・・


「ふ、冬月・・今日も頼む」


「・・・その様で発令所に顔を見せるわけにはいかんな。
自重しろと言っただろうが」


「与党幹部の接待を断るわけにはいくまい」


「飲み方を考えろ」


いくら接待とはいえ、ゲンドウは酒の飲み方を知らない。
その場の雰囲気で飲んでしまう。
接待する方からしてみれば、実に扱いやすいと言えるが。

しかしゲンドウの立場を考えると、あまりに軽率。


「裏死海文書の記述も、アテにならないわけではなくなってきた。
前回も役に経ったしな。
あの記述が事実だとすれば、これからが正念場になる。
接待で浮かれている場合ではないぞ」


「だ、大丈夫だ。
シンジ達が全てうまくやってくれる。
ここまで順調ならば、何も心配などない。
私の根回しも役だっているではないか」


「いつから楽観主義者になったんだ、お前は・・」




ゲンドウの気の緩みに頭を抱えながら、冬月は発令所へと降りていった。
が、冬月が発令所に着いたとき、戦いはすでに終盤へと向かっていたのだ。





駿河湾岸・・


エヴァ三機がここに降り立ったのと前衛芸術のオブジェのような使徒が海中から姿を現したのは、
ほぼ同時。

直ちに反応し、先制攻撃をしかけたのはアスカ。
彼女は海岸に上がろうとする使徒との間合いを瞬時に詰め、得意のソニックグレイブで両断した。

が、使徒はコアまで両断されたにもかかわらず活動を停止せず、両断された各々が一つの個体として復活。
二体に分裂した。
しかもその二体は異常な再生能力を有しており、体の一部を砕かれても瞬く間に再生。
露出しているコアを攻撃してもコア自体が再生してしまう。

S2機関を有するエヴァに疲労などないが、パイロットは別。
倒しても倒しても再生を繰り返す使徒に、アスカとシンジは少しだけ焦りを感じる。
MAGIも有効な答えを出せないようだし、このままでは一時撤退を指示されるだろう。


「どうする?アスカ。
バラバラに切り刻んで、再生する間にN2で焼いてもらうか」


「それでもいいけど、この海岸が消えちゃうわ。
それは最後の手段よ」


「一つ案があるんだけど」


「案が?
分かった、一旦引こう」


シンジはアクティブソードで、アスカはソニックグレイブでそれぞれ一太刀浴びせると、使徒が再生する間
にエヴァ三機は一時上空に後退した。

その後タイミングよく戦自の攻撃機が現れ、使徒の様子を窺いながらミサイル攻撃で足止めを行っている。
レイは指示していないし、ミサトも同様。
発令所のミサトは指示を出そうとしたのだが、彼女が指令を発する前に全ては動いていた。
こうなると有能とか無能とかの問題ではなく、意思疎通の問題か。
戦自とレイの連携は緊密といえる。


「レイのためなら命懸けってわけ・・
戦自も若い子が多いからね」


「文字通りの親衛隊か。
一度、盛大なパーティでも開く?ミサト」


「ネルフは芸能プロダクションですかい」




リツコのいった冗談は、その後現実化する。
戦自からの強い要望によって。





使徒の上空・・


「案て何よ、レイ!
早くしないと、戦自も保たないわよ!」


戦自の攻撃が足止めにしかならない事をアスカは承知している。
しかもそれが、あまり長続きしない事も。

第三使徒との交戦でかなりの量のミサイルを使用し、しかも財政的な理由から補充も充分ではない。
あれから数ヶ月も経ったというのに、備蓄は進んでいないのだ。


「慌てないで。
案というのは、コアに対する二点同時加重攻撃。
元々一つのコアが空間的に繋がっているとすれば、寸分違わず同時に破壊すればいいと思うの。
あくまで推論でしかないけど、やってみる価値はあるわ。
あなた達にできる?」


「寸分違わず・・・
ふん、アタシ達に不可能はないのよ。
いくわよ、シンジ!」


「よし、いこう!」


弐号機が先行して降下し、後を初号機が追う。
その姿は、まるで彼らそのもののよう・・

見送るレイは、その時点で自らの提案した作戦が成功するのを疑わなかった。

あの二人ならできる。
自分の知らない絆で結ばれている二人なら。


「少しだけ嫉妬するわよ・・・アスカ」




この直後・・
レイの目前に十字型した光柱がそびえ立ち、使徒の殲滅を知るのだった。

彼らが降下してから僅か数秒。

まさに神業である。




発令所・・


「誤差僅か0.0000014秒・・・
アクティブソードとソニックグレイブの間合いの違いも、あの子達は計算したというの?
信じられない・・MAGIのサポートがあったとしても不可能よ」


「私は、あの子達に関してはもう何も驚かないわよ。
科学的検証なんか、あとあと。
それより事後処理が優先。
マヤちゃん、海岸の被害はどう?」


「N2よりはマシですが、それでもかなりです。
復旧には、時間と予算が必要ですね」


「担当をすぐに派遣して。
それと・・・」




リツコを除いて、ごく普通に事後処理を進めるミサトを始めとする職員達。
慣れがそうさせているのか、または感覚が麻痺してしまったのか・・

しかし感謝の念は、皆失ってはいない。





同日夜 碇、惣流宅・・


「ほんの少しだけど、タイミング外したわねアンタ」


「アスカくらいだよ、あんなズレが分かるの」


リツコの言った僅かな誤差を、この二人は認識しているらしい。
これこそ神業か。


「ミスはミスよ。
責任はとってもらうわ」


「ふっ、いつもやつか。
それは僕にとって、お仕置きでも何でも」


「ただし」


「え?」


「アタシにタイミングを合わせるのよ。
できなかったら、できるまで休ませないからね」


「・・・・・」





話の内容はさっぱり掴めないが、翌日の二人は学校にもネルフにも姿を見せなかった。

二人に何があったのか・・
周囲のほとんどは、分かっていたらしいが。




つづく


次回、「イレギュラー

でらさんからこういう場合版のユニゾン編いただきました〜。

なんというか、息合いすぎですね(笑)
いくらなんでもこんなに息の合うカップルはシンジとアスカくらいのものでしょうね。

だから、ケンスケのゲームが悪かったわけでは‥‥いや、そもそも最初からうまくいきそうにないゲームだったような気が‥‥。

続きも楽しみですね。皆さんもぜひでらさんに感想メールを送ってください〜。

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