第十六話  No more Hero

あぐおさん:作


その男と初めて出会ったのは警察署だった。最初の印象は・・・・気に入らない男だった。酒に酔って喧嘩をするような野蛮な性格、見るからに怪しげな風貌、何を考えているのかわからない薄ら笑いを浮かべる顔。何もかもが気に障った。そんな男にも関わらず頭は良かった。国際機関の研究所に勤めているのだから当然と言えば当然だ。
しかし私を最も驚かせたのは彼女の言葉だった。研究室に篭もりがちだった彼女を山に連れていった時だった。
「六分儀ゲンドウさんとお付き合いしているんです。彼、可愛いところあるのですよ」
彼女、碇ユイは笑って言った。彼女のような聡明な人物があの男のどこに惹かれるのか?全く理解に苦しむ。最愛の愛娘をどこの馬の骨とも知らない男に奪われた親の心境だ。
あの男に誘われてゲルヒン研究所に入った私はユイ君の言う可愛い所を目の当たりにしようとは、ある日あの男が私の元へ頬の締まらない顔で訪ねてきた。
「見てくれ!俺の!俺の息子だ!可愛いだろ!シンジと名付けたんだ!」
些か興奮気味に話す男、失笑してしまった。面白いのはここだけではない。あの男は研究所の所長なのに研究室にユイ君を残して育児休暇を取ったことだ。ここまで人が変わるものかと思った。いや、元々こういう性分なのだろう。
息子を溺愛してやまないあの男の姿を見るのは最早滑稽に近い。奴は言った。
「私は、両親の愛に恵まれずに育ちました。シンジには、そのような不憫な思いはさせたくありません。この子は・・・私の宝物です」

碇、お前はあの時そう言ったじゃないか。ユイ君が消えたあの日

「すみません冬月先生。シンジを連れてきたのは私です。この子には明るい未来を見せてあげたいのです」

だが、今のお前は・・・・・



冬月家
冬月は布団の上に座っている。懐かしい夢を見て未だに夢見心地の気分だ。外は雨が降っている。雨の日は憂鬱にある。ユイがエヴァの中に消えた日も、こんな雨が降っていた。
「碇、お前はどこに行こうというのだ」



セントラルドグマ
巨大な水槽の中にレイがいる。その様子をゲンドウとリツコが見ている。リツコがチラリとゲンドウと見る。
(リョウちゃんの報告書には、ユイさんは八角サクラと交流があったとされている。八角サクラ、元女優で現役の頃は花園サクラと名乗っていた。その後八角博士の息子、八角ヒデアキと結婚。後に長女ミズホを出産。その子は・・・八角ヒデアキとの間に生まれた子供じゃなかった。そして八角サクラはハーバード大学心理学専攻を出ている。彼女は夫にマインドコントロールをしていた経籍があるという。もしかして碇司令も?でも・・・)
「赤木博士」
ゲンドウの呼び掛けに我にかえる。
「はっ」
「ダミープラグはどうなっている」
「まだ、完成には程遠い・・・」
「何をやっている。早くしろ」
「はっ申し訳ありません」
リツコが本気になれば既にダミープラグは完成していた。しかし、シンジへの退行催眠をかけて以来、自分のやっていることに疑問を持ち始めたリツコはダミープラグの開発をわざと遅らせていたのだ。科学者としてはやりがいのあるものであったが、人としての倫理としては到底納得できるものではない。今まではゲンドウへの愛情故に致し方なしと割り切っていたのだが、ここにきてそれが揺らいできている。ゲンドウはそこのことに気が付かない。いや、興味すらない。
ゲンドウがレイに笑いかける。
「レイ、上がれ。食事にしよう」
「・・・はい」
次にゲンドウは冷めた視線をリツコに向けた。
「何をしている。早く戻れ。早くダミープラグを完成させろ」
「はっ・・・」
(この男にとって、全ての人間は自分のためにしか存在していないだ・・・・)
リツコは奥歯を噛み締めた。



学校 昼休み
そこではアスカとヒカリが火花を散らしている。
「アスカ・・・これは女の戦いよ・・・アスカには負けないわ!」
「言ったわね?返り討ちにしてあげるわ」
彼女たちが火花を散らしているのは昼休みのジュースを賭けたババ抜きだ。その周りには上がったシンジ、トウジ、ケンスケが勝者の余裕で見守っている。戦況はアスカが2枚、ヒカリが1枚。つまりアスカが持つどちらかがババ。ヒカリは慎重にカードを選ぶ。そして・・・
「こっち!やったああ!アスカの負け!私ミルクティーね」
「あああああ!チクショウ!もう一回よ!」
「惣流、ええからジュース買ってこいや。ワシ、コーラ」
「そうそう、罰ゲームなんだから。俺コーヒー」
「アスカ、僕お茶ね」
真っ赤に悔しがりながら席を立つアスカ。
「もう!アタシが帰ってきたらもう一回だからね!」
アスカは走って自販機へと向かった。彼らはヤレヤレという顔でその姿を眺めた。
「しっかし、惣流の奴もえらい丸くなったのぉ。これもセンセのおかげかのぉ」
「そうね、前だったら梃子でも動かないで碇君に行かせてたもんね」
「そうそう、それがところかまわずイチャつくなんてな」
「ちょっ待ってよ!別に僕らはそんなんじゃないよ!」
アスカが丸くなった。それはクラスメートの誰もが思っていることだ。シンジを覗いて。前は碌にヒカリ以外の人と仲良くしようともしなかったし、男子なら尚更だ。それがここにきて笑顔が増えてヒカリ以外の女子ともよく話すようになった。男子とはシンジ、ケンスケ、トウジ以外の人と話すことは滅多にないのは相変わらずだが、明るくなったアスカの人気は衰えることを知らず、ファンを確実に増やしている。その影にシンジがいることはもちろんクラスの公然の秘密であることは当の二人は知らない。4人が話をしているとアスカが息を弾ませて戻ってきた。
「ほら!買ってきてあげたわよ!面倒だから全員お茶ね!」
「待てや惣流、ワシはコーラ言うたやないか」
「うるっさいわね!飲みたきゃ自分で行きなさいよ!アタシとシンジがお茶飲みたかったの!文句言うな!」
「アスカと碇君ってやっぱり・・・・」
「夫婦なんやな」
「イヤ~ンな感じ」
腹を抱えて笑う3人、シンジとアスカは顔を真っ赤にした。
「「違う!」」
見事にユニゾンした否定の言葉は説得力がなかった。
放課後、シンジとアスカは並んでスーパーへと向かっている。
「アスカ、何か食べたいものとかある?」
「そうね、辛いものが食べたいわね~」
「それじゃ、久しぶりに麻婆豆腐にでも・・・」
「シンジ君!アスカ!」
声がしたほうを向くと加持が車に乗っている。
「やあ、デートの最中声をかけてすまんな」
「べ、別に、で、デートっていうわけじゃ・・・」
「違いますよ。それより加持さん、この前はありがとうございました。ところでどうしたんですか?」
(普通に返すんかい・・・)
「いや、二人の姿を見かけたから声をかけただけさ。良かったら送っていくよ」
シンジとアスカは車に乗った。
「そういえば加持さん、いつミサトと式あげるのよ」
「ははっ使徒との戦いが終わってからだな。まだ先の話しさ。シンジ君、悪いがミサトに料理を含む家事全般を叩き込んでこれないか?」
「げっ!加持さんやめてよ!ミサトが作った料理なんかアタシ食べたくないわよ!死にたくないもん!」
「アスカ!俺を殺す気か!?せめてまともなものくらい食べさせてくれ!」
「教えるのはいいですけど、今夜ミサトさん帰ってこれるのかな?」
「・・・多分今夜は無理だ」
「・・・どうしたんです?」
「・・・アメリカのネルフ第二支部が消滅したらしい」



ネルフ本部
発令所は混乱を極めている。アメリカでの第二支部消滅はネルフ本部に衝撃を襲った。
『とにかく!第一支部は無事なんだな!?』
「消滅?間違いないのか!?」
『間違いありません!消滅です!』
「なんということだ・・・」
冬月は頭を抱えた。ミサトは青ざめた顔をしている。
「参ったわね。リツコ、消滅の原因は?」
「不明よ。タイムスケジュール的にはS2機関の起動実験を行なっていたようだけど、衛星の映像が唯一の証拠ね。MAGIによると作業ミスから第三者からの妨害を含めて3万件の予測よ」
「数千人道連れに施設とエヴァ四号機を・・・」
「おそらく、ディラックの海に飲み込まれたようね」
「ワケわからないのを無理して使うからよ!」
「ミサト、それは・・・私達も同じことよ。明日は我が身ね」
改めて自分が如何に危ないものを所持しているのかがわかる。ネルフ本部にいる誰もが身の毛もよだつ思いをした。
「それで?残った参号機をうちで引き取れということ?随分と虫のいい話ね。散々エヴァの建設を巡ってあれだけごねたくせに」
「あんな事故が起こった後じゃ誰だって及び腰になるわよ。それで?起動実験をやるにもパイロットはどうするのよ?」
「さあ・・・司令に聞いてみないと」
リツコは司令室に入る。今後のエヴァ参号機の起動実験についての話だ。
「司令、来週にもエヴァ参号機はこちらに着くそうです。それで、パイロットはどうするおつもりですか?」
「ダミープラグは来週までにできそうか?」
「・・・・いえ、無理です」
「・・・4人目を使う」
リツコはゲンドウからファイルをもらう。リツコは戦慄した。
「司令!この子を!?」
「ああ、早急にシンクロできる人物が必要だからな。何事も多少の犠牲はつきものだ」
(この男・・・狂ってる!もう・・・無理ね・・・)
リツコの良心はすでに限界を超えていた。



ミサトの部屋でリツコは項垂れている。ここまで落ち込むリツコを見るのも珍しい。ミサトはため息をつきながらリツコに話しかける。
「来週松代で起動実験ってマジ?パイロットは誰がやるのよ?」
リツコは黙って書類を手渡す。
「リツコ・・・この子?よりにもよって!」
「・・・明日にもマルドゥック機関から・・・書類が届くわ」
「リツコ!」
「何も言わないで!・・・お願い・・・私だって気が狂いそうなのよ!」
「リツコ・・・」
ミサトは改めて書類に目を通す。
「なんなの?なんで彼なのよ・・・シンジ君もアスカもこの子と仲がいいじゃない!あの子達になんて言えばいいのよ・・・」



Prrrrrrrr
『はい、もしもし?どうした?りっちゃん』
『リョウ君、ごめんなさい。こんな時間に』
『構わないさ。それより、4人目の子。あれ本当かい?』
『ええ、そのことなんだけど・・・私、もう限界・・・もう耐えられないわ』
『リッちゃん・・・・?』
『来週、松代で起動実験があるの。それが終わったら、全部リョウちゃんに話すわ。その時にあなたと手を組んだ“協力者”の人とも会わせて、お願い』
『・・・わかった。無事に帰ってくるんだぞ』
『ええ・・・そう願いたいわ・・・』



次の日、学校では昼の授業が終わり昼休みに入った。そのとき校内放送が流れる。
『2年A組、鈴原トウジ、至急校長室まで来るように』
「トウジ・・・ついにやっちゃったんだね・・・」
「な~にやったんだよトウジ」
「アホ言うな!ワシは何もしとらんわ!しゃーない、ほな行ってくるわ」
アスカがトウジと入れ替わりにシンジの隣に来る。今日はアスカがシンジの弁当を作ったのだ。
「シンジ、はいお弁当」
「うん、ありがとう」
「なんや、お前らやっぱり夫婦かいな。熱々やな!」
「いいからさっさと行け!」
真っ赤になりながら怒鳴るアスカ、トウジは逃げるように教室を去り校長室に向かう。
「鈴原です。失礼しまーす」
トウジが校長室に入ると、中で黒服を着た男性が椅子に座っていた。
「鈴原トウジ君だね?私はネルフのものだが・・・」



教室ではアスカ、シンジ、ケンスケが机を並べて弁当を食べている。
「そういえば、昨日アメリカの支部が吹っ飛んだって?」
「みたいね~ってアンタどこからその情報手に入れてるのよ!」
「ケンスケ・・・危ない橋渡りすぎだよ」
ネルフの情報がダダ漏れだ。シンジとアスカは苦笑いを浮かべる。ケンスケは続ける。
「そういえば、参号機がこっちに来るって話だけど、聞いてないのか?」
「そうなの?知らない」
「僕らは所詮下っ端だからね」
「誰が乗るんだろうな~いいよな~俺も乗りたいな~俺にやらせてくれないかな~」
「・・・相田、エヴァは誰でも簡単に乗れる代物じゃないの。アンタじゃ無理よ」
「なんでだよ!俺だってできるさ!やってやるさ!なあ!ミサトさんに頼んで俺をパイロットに推薦してくれよ。いいだろ?」
「・・・ケンスケ、あんな物乗るモンじゃないよ」
「なんでさ!俺だってエヴァに乗って戦いたいよ!なあ頼むよ」
「アンタね!アニメじゃないのよ!?そんな簡単に言わないで!」
怒鳴るアスカは余所にシンジはポケットから硬貨を出すとコイントスをして自分の手の甲に落としもう片方の手でコインを隠す。
「ケンスケ、表か裏か」
「うん?じゃあ表!」
ケンスケは簡単に答える。アスカはシンジの意図を察する。結果は裏。シンジは冷たい視線で真っ直ぐケンスケを見てそして言った。
「ケンスケ、死んだよ」
「な、なに言ってんだよシンジ」
「アンタさ・・・わからない?人の命なんてコインの表裏なみってことよ。それだけ人の命は軽いのよ。シンジはそれを言っているの。コンテニューは効かないわよ」
「そ、それって人権問題じゃないのかよ」
「・・・・本当、平和ね・・・シンジ行こう。コイツには何言っても無理だわ」
シンジとアスカは黙って席を立つ。ケンスケは心底馬鹿にされた気がした。
「なんだよ!エヴァのパイロットだからって・・・俺だって!やればできるさ!」


昼休み、トウジは帰って来なかった。午後の授業の途中でトウジは教室に帰ってきた。
「・・・遅れてすんません」
「先生から話は聞いている。座りなさい」
席に戻ったトウジはどこか不機嫌だった。ケンスケが身を乗り出して聞いてくる。
「おい、トウジなにがあったんだよ?」
「・・・・なんでもあらへん」
明らかに不振な態度を取るトウジにケンスケは疑問に思った。それは遠くから眺めていたシンジも同じだった。
放課後、シンジが帰り支度をしているとヒカリがシンジに近づいてくる。
「碇君、いいかな?」
「なに?イインチョ」
「綾波さんここのところ休んでいるから、その間のプリントを渡してきて欲しいの」
「ああ、それくらいならいいよ」
「ありがとう。あと今日アスカ借りるわね。じゃあね」
「なんで僕に許可を求めるのさ・・・」
シンジが学校に出てレイの家に向かう途中、トウジが待っていた。
「センセ、一緒に帰らんか?」
「いいけど、綾波の家に寄るけどいい?」
「かまへん・・・」
二人並んで歩くが会話がない。シンジは何か話そうとするが、トウジの雰囲気がそれを拒むようで話しかけることができなかった。そうこうしているうちにレイの住むマンションが見えてくる。
「綾波、ここで一人暮らししてるってさ。すごいよね」
何気なくトウジに話しかけると、ようやく重い口を開いた。
「なあ、シンジ」
「なに?トウジ」
「・・・・・ワシもエヴァに乗ることになったんや」
「・・・・なんだよそれ、待ってよ。ケンスケの病気が移ったのか?あれは誰でも乗れるようなものじゃ・・・」
「今日、ネルフの人が来てな。パイロットに選ばれた言うんや」
「まさか、トウジ・・・」
「ああ、ワシも乗る。エヴァのパイロットになってシンジと一緒に戦う」
「なに言っているんだよ!トウジ乗るな!あんなの乗っちゃいけない!」
「妹の入院費ネルフでもつ言われたんや・・・それでも今までの毎月の病院費がかかったことがあらへん。誰かが払ってくれてるみたいなんや。誰やろな?」
シンジは何も言わない。シンジはトウジにいきなり殴られた。トウジは泣いていた。
「くっ!なに・・・殴った本人が泣いているんだよ・・・」
「ダチにそんな気ぃ使われたかないわ・・・殴らなにゃ気がすまんのや!ダチにそんなことされて嬉しいはず無いやろ!アホが!ワシは・・・お前に何も返せないのが歯がゆいんや!」
「だからって!」
「せやからワシも乗る!乗ってシンジと同じ土俵に立てんと、ワシはダメなんや!頼んだで!親友!」
トウジは泣きながら走り去った。シンジは何も言えなかった。



同時刻、ヒカリとアスカは一緒に帰っている。
「アスカも変わったよね。雰囲気が丸くなったというか・・・碇君のおかげかな?」
「バ!なに言ってるのよ。アイツは只の同居人よ!」
「只の同居人にわざわざお弁当作ったりしないでしょ」
「それは!当番で!」
「最初の頃はそんなこと全然しなかったじゃない」
ヒカリは笑っている。アスカは顔を真っ赤にしながら俯いた。アスカは顔をあげると話題を変える。
「そ、それより、相談ってなによ?まさかアレ?」
「・・・うん」
「鈴原のことね~アイツのどこがいいのよ?」
「優しいところ・・・」
「それで、お弁当をアイツのために明日わざわざ作ってあげると・・・」
「そのつもりだったけど、トウジ明日からしばらく学校休むって」
「そっか~アタシ達の中じゃ常識なんだけど、あのバカ三人は知らないでしょうね」
「そう・・・よね・・・」
「ヒカリ、頑張ってね・・・」
「うん・・・」



夜、夕飯が終わるとアスカはリビングで寛ぎ、シンジは片付けをやっている。
「ね~シンジ、明日からミサト松代に出張で加持さんがこっち来るって。エヴァ参号機の起動実験だそうよ。誰が乗るのかしら?」
「・・・トウジだよ」
「え?・・・・ウソ!」
「本当さ、本人から今日聞いたんだ。トウジも明日から松代だってさ」
「・・・なんで・・・アイツなのよ。コアに誰がインストールされるってのよ!」
「ただいま~って何騒いでるの?」
ミサトが帰宅した。
「おかえりなさい。いえ、4人目の人が見つかったって話を」
「・・・シンジ君・・・そのことなんだけど・・・」
「トウジでしょ?本人から聞きました」
「そう・・・」
「アタシ、寝るわ」
アスカは部屋に引き込んでしまった。
「・・・嫌われちゃったかしらね・・・」
ミサトは頭を掻いた。


朝、アスカはミサトと顔を会わせず学校へと向かう。親友のヒカリのことを思うと心境は複雑だ。シンジもまたミサトとは最小限の会話で家を出た。
夜、加持がミサトの代わりに家に来た。会話もそこそこに3人は就寝する。加持はシンジの部屋で寝ている。シンジが加持に話しかける。
「加持さん、もう寝ました?」
「・・・いや」
「聞いてもいいですか?」
「うん?」
「なんでトウジなんですか?」
「シンジ君、それは・・・」
「スポンサーから聞きましたよ。エヴァのコアには人の魂が入っている。このことはアスカも知っています。初号機には母さんの魂が入っているってききました。弐号機にはアスカの母さんが・・・参号機はトウジの母親ですか?」
「それが違う。参号機には・・・鈴原サクラ、妹さんがインストールされたという話だ」
「そんな!そんなことって!」
「本来この実験はダミープラグというパイロットが不在でも動かせるプログラムがあって、それの実験も兼ねていたらしい。しかし、ダミープラグの開発は難航、とても使える代物じゃなかった。そこで急遽4人目を選考したってわけさ。エヴァのパイロットはマルドゥック機関というところから送られてくる。しかしその実態はネルフそのもの、いや、そんなもの自体存在しちゃいないのさ」
「存在していない?」
「すべては碇司令の掌の上さ。多分、一番早くエヴァに搭乗できる条件が整っていたからなんだろうな」
「そんな単純な理由ですか?」
「もうひとつ、シンジ君達の行く中学の生徒は、すべてパイロット候補のみで構成されている。つまり・・・誰でも良かったのさ。乗せられれば」
シンジは唇を噛み締めた。
「あと、シンジ君」
「なんですか?」
「君には話をしてもいいだろう。リッちゃんが・・・こちら側につきそうだ。電話で話をしたけど、彼女泣いていたよ。もう耐えられないってね。そこで、廻さんには話をしてあるが、彼に彼女を会わせようと思う」
「加持さん、ネルフってなんですか?」
「・・・それは近いうちに全て君たちに話せると思う。それまで待ってくれ」
「わかりました・・・」



松代 参号機起動実験場
『主電源、問題なし』
『第二アポトーシス順調』
『エヴァ初号機とのリンク、問題なし』
起動実験の準備に追われる松代実験場。ミサトとリツコの表情は暗い。
「即時実戦配備可能・・・か・・・」
「ミサト、このことはシンジ君は?」
「もう知っていたわ。おかげで顔会わせられないわよ。アスカも同じよ」
「そう、ダミープラグが完成していたら・・・彼は乗らずに済んだのかしら?」
「わからないわ・・・」
『フォースチルドレン準備完了しました』
「・・・始めて」
リツコの合図で現場が慌ただしくなる。
『エントリープラグ固定完了、第一次接続開始』
『パルス送信、グラフ正常位置。初期コンタクト問題なし』
『第二フェイズへ移行』
『オールナーブリング問題なし、ハーモニクスすべて正常』
『絶対境界線、突破します』
境界線を突破した直後、警報が鳴り響く。
「どうしたの!?」
「実験中止!回路切断して!」
『ダメです!・・・た、体内に高エネルギー反応』
「まさか・・・」
「使徒!?」
その直後衝撃波が彼らを襲い、意識が途絶えた。



アスカが学校の廊下を一目散で走っている。目指すは教室だ。
「シンジ!大変よ!松代で事故だって!」
「ええ!?」
「緊急召集よ!急いで!」



ネルフ本部では3人がエントリープラグに乗り込み指示を待つ。
「松代で事故って・・・トウジとミサトさんは無事なんですか!?」
『わからない・・・連絡が取れないんだ』
「トウジ?」
「レイ、アンタ聞いてないの?鈴原がフォースに選ばれたのよ」
『みんな聞いて、葛城三佐が不在の今、碇司令が指揮を取るわ。エヴァ緊急発進!目標ポイントに向かって!』



野辺山
エヴァ3機は目標を待つ。それはゆっくりと歩いて向かってきた。
「目標って・・・エヴァじゃないか!」
「鈴原は?パイロットは無事なの!?」
『現時刻を持ってエヴァ参号機を破棄。目標を使徒と認定する。チルドレン、仕事だ。奴を排除しろ』
「了解、迎撃します」
レイは零号機を動かした。
「綾波!」
「シンジ、様子を見ましょう。まずはエントリープラグが入ってるか確認しましょう」
「そうだな・・・」
零号機を中心に2機は過去囲いこむように展開する。すると参号機は腕を伸ばして零号機に襲いかかった。零号機の左腕を掴むと侵蝕を始める。
『零号機、左腕より使徒侵入!』
「侵蝕タイプか?」
「零号機の左腕を切断しろ」
『しかし・・・神経接続をカットしないと』
「やれ」
零号機の腕が強引にパージされた。
「いやあああああああ!」
レイの苦痛に満ちた叫び声がする。
(碇・・・ユイ君の遺伝子を使ったクローンも・・・所詮は駒扱いなのか!)
冬月の顔が歪んだ。

「シンジ!なんとかして奴を足止めして!アタシがエントリープラグを抜くわ!」
「アスカ・・・任せた!」
シンジは接近戦を仕掛けるため一気に距離を詰める。手のひらにATフィールドを展開すると手を組み合う。
「今だ!アスカ!」
「行くわよおおおお!」
弐号機はプログナイフを装備するとエントリープラグが刺さっている背中に切り込みをいれた。
『弐号機、プログナイフを装備!背部の侵蝕部分を切断しています!』
「いけるか!?」
アスカの行動に誰もが希望を込める。しかし、参号機はジタバタと動き始める。
「ちょっと!大人しくしなさいよ!」
参号機は足を後ろに蹴り上げるとそのまま初号機に蹴りをいれて吹き飛ばした。
「ぐおぉぉお」
「シンジ!きゃあああ!」
一瞬の隙をつかれた。初号機の姿に目をとられて両手が自由になった参号機の裏拳をクリーンヒットされてしまった。
『弐号機!完全に沈黙!パイロットの意識、ロストしました!』
「ごほっごほっ・・・アスカ?」
シンジが顔をあげると参号機の腕が伸びてきた。横に緊急回避する。使徒の攻撃は休むことがなく、初号機に襲いかかる。その様子を見ていたゲンドウは苛立ちを覚えた。
「シンジ・・・なぜ戦わない」
「待てよ・・・いま・・・パイロットを救出する算段をたてているだから」
「・・・戦自にN2爆雷を要請。焼き払え」
『しかし!そうしますとエントリープラグ内のパイロットは!』
「使徒殲滅が最優先だ」
シンジはその通信を聞いて怒りを露わにした。
「余計なことするな!こっちは必死でやっているんだ!これ以上邪魔したら、殺す」
シンジの台詞にオペレーターは恐怖を覚えた。初号機は距離を一度とって使徒と構える。
「トウジ、ごめんね。・・・一発殴らせてもらうよ!」
再び距離を詰める初号機、使徒は腕を伸ばして迎え撃つがギリギリのところで回避し、初号機の大きく振りかぶった渾身の一撃が参号機の顔面に突き刺さった。ゲンドウはため息をつく。
「時間の無駄だ。さっさとN2爆雷の要請を・・・」
『ぐっ・・・は・・・きっついわセンセ・・・』
『さ、参号機との通信が回復しました!』
発令所に歓声が上がる。
「トウジ!待ってて!今助けるから!」
『あ、か・・・やめえ・・・』
「トウジ!」
『もう・・・体が・・・自由が・・・きかん・・・』
「トウジ!」
『た、のむ・・・ワシを・・・ワシを殺してくれ!』
「なに言っているんだよ!ふざけるなよ!」
『頼む・・・頼む・・・ワシを・・・殺して・・・くれ・・・こんなこと・・・シンジにしか頼めへんのや・・・シンジに・・・殺されるんやったら・・・本望や・・・』
「・・・・・・」
『もう・・・もたない・・・頼む!シンジ!』
「・・・・最後に言いたいことはある?」
『・・・・・委員長に・・・ヒカリに・・・ありがとう・・・って伝えて・・・くれ・・・』
「・・・・・・・・・・・・・わかった。伝えるよ。親友」
『ああ・・・ありがとう・・・親友』
初号機はマゴロク・Eソードを装備し、ゆっくりと蜻蛉の構えを取る。
『初号機、マゴロク・Eソードを装備・・・』











「ふんふーん」
「・・・よし、できた!明日のお弁当完成!鈴原・・・喜んでくれるかな?」







シンジはネルフの大浴場で体を念入りに洗う。石鹸をつけて何度も何度も体を洗う。浴場から出たシンジは体を拭いて、自分の匂いを嗅いだ。
「・・・・やっぱり取れないや・・・・」


「人殺しの臭いまで・・・・・・」


ふと顔をあげると自分の顔が映っている。
「・・・・・!!!!!」
「うわああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「アアアアアアアアアアアアアあはははあはははっはあはっアあああああああははははははははははっはははははっははははっはははっはははは!!!!!!!!」
鏡に映った顔は笑っていた。

叫び声をあげながら

声を高らかに笑いながら

両手で頭を抱えながら

シンジの顔は狂気を浮き彫りにするように笑っていた。







アスカと距離を取るシンジ。
それはシンジの過去に関わることだった。
遂に明らかになるシンジの過去
その過去の果てにアスカは何を思うのか?
次回Eva2015 「許されざる者」
次回もサービス サービス♪

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