北海道大S字紀行 (下)

――宗谷・ちほく・日高

(2001年) 

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(1) 稚内滞在38分 (4) 快晴の狩勝峠
(2) 旭川から北見へ (5) 海と牧場――日高本線
(3) ちほく140キロ (6) 北斗星は南へ


(4)快晴の狩勝峠

 5月2日(水),朝テレビで今朝6時の帯広の気温はマイナス1.2度と言っていたので,前日と同じ防寒モードでホテルを出た。7時47分の帯広始発・石勝線経由の特急「とかち4号」で,まず南千歳へ向かう。6両編成だが,がらがらである。
 いつか一度来たときはもやの中だった狩勝峠へ狩勝峠が今日は快晴で,青空と山の雪,近くの白樺林と新緑が鮮やかなコントラストをなし,遠くに帯広平野が霞む。狩勝トンネル前の信号所で,下りの特急と交換のため4分停車した。
 トマムを過ぎてからは曇りで,少し居眠りをした。
 今日の問題は昼食である。南千歳と苫小牧で乗り換えるのだが,これがどちらも3分しかない。これで買い損なうと,日高本線の終点様似に着く13時半過ぎまで昼食がとれなくなる,と思っていたが,10時13分に南千歳に着いてみると,乗り換えは同じホームで,そこに駅弁の売店もあり,苫小牧の「北の駅弁」を難なく手に入れた。
 10時16分発の室蘭本線函館行き特急「北斗8号」に乗り,ゆっくりする暇もなく10時32分苫小牧着,同じホームの反対側に待っていた日高本線の列車に乗り換える。昼食の必需品である缶ビールは買えなかった。

(5)海と牧場――日高本線

 2両編成の列車に50人ほどの乗客を乗せて,10時35分発。最初は8kmにわたり室蘭本線と並行する。最初の駅・勇払(ゆうふつ)までは13.1kmもあり,その次の駅間も9.6kmある。勇払を過ぎると見渡す限りの湿原となり,右には海が見えてくる。昨日の礼文海峡以来の海との再会である。並行する国道はかなりの交通量がある。国道を走るトラックに対抗するかのように,ディーゼルエンジンがうなりをあげる。
 浜田浦を過ぎると左手には畑が見えてくるが,鵡川(むかわ)で4分停車して交換の後,長い橋で鵡川を渡るとまた湿原と絵笛なる。右側の海べりに人家が固まっている。
 やがてこの日高本線のトレードマークの牧場が見えるようになる。何もない海岸―牧場―人家・駅,というパターンがしばらく続く。厚賀を出て厚別川を渡ると,海が急接近し,路盤に波が寄せるようなところもあった。河口にはたいてい町があり,駅があるから,駅を出ると鉄橋を渡ることが多い。大狩部には「泉ピン子の女囚なんとかのロケ地」という看板が立っていた。
 12時を過ぎ,線内最大の町・静内(しずない)に到着。7分停車なので改札口を出てみたら,駅の立ち食いそば屋でビールを売っていたのであわてて購入した。発車してすぐ「北の駅弁」を広げる。ウニ,イクラ,ニシン,ホッキガイ,ホタテ,コーンと,その名のとおり北海道の名物が勢揃いしていて,つまみ兼用の食事には最適だった。乗客は20人ほどになったが,おばさん3人のグループのかん高い声が響いている。
 東静内から車窓は一変して突然山の中となり,トンネルが4つ連続する。春立(はるたち)で海に出るが,その後また山となり,以後しばらく,ときどき海が見えるものの,小さなサミットを次々越えていく。
 最後の小さなサミットを越えて,13時42分,東南東を向いた終点,様似(さまに)に着いた。

 周りには新しい公営の施設が集中していて,比較的明るい終着駅の風景である。36km先の襟裳岬まで行くJRバスが出発して行った。岸壁の方までぶらぶら散歩しているうちに,日がさしてきた。
 14時36分発で折り返す。この期間,高校生「優駿浪漫号」と称して(日高本線内ではヘッドマークも何もなかったが)札幌まで直通する(南千歳からは快速)。来たときと同じ車両で,2両で乗客20人弱で出発した。発車直前にさっき西様似で降りたかん高い声のおばさんたちが乗ってきたので,あわてて隣の車両に移動したが,途中で高校生の乗り降りがかなりあって車内はにぎやかだった。行きと違ってすっかり晴れ,海の表情も明るい。静内では行きより長く13分停車して交換があった。ここから先列車本数が増えるので,日高門別と鵡川でも交換があった。
 日が西に傾いて,牧場や畑が赤く染まってきた。鵡川を過ぎると最後の直線コース,湿原の中の平坦な線路を快走し,17時53分苫小牧着。

(6)北斗星は南へ

 「北斗星」は同じホーム反対側からの発車だが,15分ほど時間があるので改札口を出る。初めて下車した苫小牧は,都会風のかなり大規模な駅だった。「北斗星」のディナーの前菜の前菜用のつまみとビールを仕入れてまたホームへ。予定通りやってきた「北斗星2号」の1号車,旧来の二段式開放型B寝台上段に収まる。さっそく,寒冷地モードから春モードへ着替えをする(外見はほとんど変わらないが)。
 1号車なので,すぐ前はディーゼル機関車のお尻である。ただし,電気機関車と違ってお尻が小さいので,北海道の大地にどんどん日が沈むのが,脇から見えた。夕日
 先ほど仕入れたビールをラウンジで飲みながらディナーの時間を待つ。伊達紋別の手前の信号所で交換のため停車してから,少し遅れて走っている。
 食堂車のおねえさんがロビーカーを通って車掌室に向かい,19時40分の今日2回目のディナー開始のアナウンスをした。さっそく行ったところがらがらで,今日は1回目はかなり混んでいたが,2回目は5人だけだという。
 昨日も飲んだ十勝の赤ワインを飲みながら,優雅で孤独な夕食。とっぷり日が落ちて,テーブルのランプの赤いシェードが映える。すべてきちんとしたディナーで,内容は充実しているし,おいしい。でも,これが7800円といわれると,食堂車のいろいろな事情は承知しているつもりだが,高いなあという感じがしてしまう。
 21時40分ごろ,遅れをほぼ解消して函館着。機関車を付け替え,向きが変わる。1号車は最後尾となった。いつのまにか寝てしまい,気がつくともう青函トンネルを抜けて青森だった。今朝のテレビで北斗星は満席といっていたが,先ほどまで空いているベッドもあった。それも青森でいっぱいになったようだ。また向きが変わって先頭になった。
 翌朝,関東平野は濃い緑を雨がぬらしていた。

      北海道内の乗車距離 1786.3km
          (帰りの「北斗星」中小国までを含む)
      うち,稚内―北見―帯広―苫小牧―様似―苫小牧 964.7km


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