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魔境伝説
機種 PCエンジンHuCARD
発売元 ビクター音楽産業
開発元 エイコム/ハドソン
発売日 1988年9月23日
定価 5,200円(税別)
プレイ人数 1人プレイのみ
ステージ数 6面
ライフ制 あり
残機制 あり
コンティニュー あり
パスワード なし
難易度選択 なし




PCエンジン初期の名作アクション

 『魔境伝説』は、1988年9月にPCエンジンで発売された横スクロールアクションゲームだ。1987年10月のPCエンジン本体発売から1年未満で発売された本作は、PCエンジン全体でも18番目と、ごく初期の作品である(開発中は『ジャングル王』、『密林伝説』のタイトルで発表されていた)。当時のPCエンジンは、まだまだソフトのラインナップが貧弱で、ようやく最初のキラータイトルといえる『R-TYPE』が発売された時期だった。アクションゲームに関して言うと、アーケードからの移植である『ビックリマンワールド』(原作は『ワンダーボーイ モンスターランド』)、『妖怪道中記』以外のオリジナル作品は、『THE 功夫』、『カトちゃんケンちゃん』、『魔神英雄伝ワタル』と、微妙なものが多かった。そんな中発売された『魔境伝説』は、移植でもタイアップでもない地味なタイトルながら、正統派アクションゲームとして抜きん出た完成度を誇っていた。バランスがよく、操作性がよく、音楽もカッコイイ、まさにPCエンジン初期の名作と呼ぶにふさわしい作品だ。

アイテムを取れ、パワーをためろ!

 『魔境伝説』は、ターザン風の男「ゴーガン」を操作し、邪神教「ジャグウ」のいけにえとして連れ去られたヒロイン「フレイア」を助け出すゲームだ。何の飾り気もない硬派な設定に加え、ゲーム自体もシンプルかつオーソドックスなジャンプアクションである。プレイヤーは聖なるトマホーク「スティング」だけを武器に、ジャングル、洞窟、山岳地帯、神殿などのステージを進んでいく。攻撃は手にした斧を振るだけなのでリーチは短く、飛び道具やサブウェポンの類も一切ない。そのため、敵との間合いとタイミングが命で、力押しやガチャプレイは通用しない。『悪魔城ドラキュラ』をほうふつとさせる、ストイックなアクションである。
 これだけだとチマチマした印象も受けるが、斧はゲームが進むにつれてパワーアップし、これが本作の肝となっている。攻撃ボタンを押さずにいるとパワーゲージがたまっていき、より強力な攻撃を放つことができる。そしてゲージを最大まで増やすには、ゲーム後半まで進める必要があるのだが、ついにMAXまでためたときの攻撃がメチャクチャ爽快なのだ。斧をヒットさせた瞬間、画面が一瞬ストップし、「ズガガガガッ!!」という爆音とともに激しくフラッシュ。威力も凄まじく、大抵の敵は一撃で吹っ飛び、爆発四散する。このフィーチャーはゲームに爽快感をもたらすとともに、軽い攻撃を連打するか、狙いをすませて一撃必殺を狙うか、といった戦略性も持たせている。
 斧一丁で敵の脳天をカチ割っていくのは最高に楽しいが、先にも書いた通り『魔境伝説』は簡単なゲームではない。ザコ1体も油断できないし、穴に落ちれば当然即死だ。だが本作の最も素晴らしい点は、絶妙なゲームバランスと抜群の操作性にある。そのため、難度が高くても理不尽さは少なく、パターンを覚えれば必ず先に進むことができる。ラストの迷路はちょっと意地悪すぎる気もするが、それでも繰り返しプレイすればクリアは可能だ。
 グラフィックはよく描き込まれており、まだスーパーファミコンも発売されていない1988年当時の基準で考えれば、非常に美しい。キャラクターも印象的で、特に画面の半分近くを占める巨大な最終ボス「ゲ・エナジーガ」は、絶大なインパクトがあった。ただPCエンジンのハード性能上、BGが1枚で多重スクロールしないため、やや背景が平面的に見えてしまうのは惜しいところだ。

『魔境伝説』の制作スタッフ

 『魔境伝説』はビクター音楽産業のPCエンジン参入第1弾ソフトとして発売されたが、実際の開発を担当したのはエイコムで、バランス調整やデバッグはハドソンが行った。エイコムはネオジオで人気を博した『ビューポイント』や、ファミコンの秀作『GUN-DEC』などの開発会社として知られている。
 企画の竹森得泰は、ファミコンの『ボンバーキング』や『突然!マッチョマン』、アーケードの『ザ・ロード・オブ・キング』などを手がけている。特に本作と、1年後に発売された『ザ・ロード・オブ・キング』は、パワーゲージのシステムをはじめ基本的な作りが酷似しており、実質的な姉妹作といっても過言ではない。
 デザイン・企画の阿部慶助とプログラマーの白谷守は、本作の後に『PC原人』を制作し、世界的に大ヒットした。PCエンジンを代表するアクション・シリーズとなった『PC原人』だが、阿部は『PC原人』を『魔境伝説』のコミカライズ版のようなイメージで構成したと語っており、ある意味本作が原点ともいえる。また、白谷は本作の続編『暗黒伝説』でもプログラムを担当しているが、この作品はタイトル以外、内容面での関連性は薄い。
 『魔境伝説』の素晴らしい音楽は、著名なナイ(アラブ音楽)奏者・作曲家として知られる竹間ジュンが担当した。CM、映画、ゲームなどの音楽も手がける竹間は、『ボンバーマン』シリーズをはじめ、『高橋名人の冒険島』、『ドラえもん』、『ファザナドゥ』、『邪聖剣ネクロマンサー』、『ネクタリス』など、ハドソン初期のタイトルに多くの楽曲を提供している。

The Legendary Axe

 『魔境伝説』が当時のPCエンジンユーザーに愛された作品であることは間違いないが、今日においては知名度の高い作品とは言い難い。しかし実は海外では、日本をはるかにしのぐ評価を獲得している。北米版『魔境伝説』は、日本発売から約1年後の1989年8月に、『The Legendary Axe』として発売された。これは日本から約2年遅れで発売された北米版PCエンジン(ターボグラフィックス16)のローンチタイトルであった。そして『The Legendary Axe』は、新ハードの性能を十二分に示す作品として高い評価を受け、『Electronic Gaming Monthly』など、複数の雑誌でゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞したのだ。そのため海外ではハードを代表するソフトとして、今でも根強い人気がある。
 世間的な知名度はともかくとして、『魔境伝説』が今でもプレイする価値があるゲームかと聞かれれば、答えはイエスだ。21世紀になった今、半裸の男が斧を振り回すゲームで遊ぶなんて、バカげていると思うかもしれない。だが真面目な話、このゲームは今遊んでも本当に面白い。見た目やスペックの問題ではない。本作はシンプルながら、アクションゲームのプリミティブな面白さが詰まっており、それは10年、20年たっても色あせることはない。



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