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バットマン
機種 ファミリーコンピュータ
発売元 サンソフト
開発元 サンソフト
発売日 1989年12月22日
定価 6,200円(税別)
プレイ人数 1人プレイのみ
ステージ数 5面
ライフ制 あり
残機制 あり
コンティニュー あり
パスワード なし
難易度選択 なし
リンク 敵キャラクター




後期サンソフトの実力を示す傑作

 ファミコン版『バットマン』は、1989年12月22日にサンソフトから発売された。同年に公開されたティム・バートン監督、マイケル・キートン主演の映画『バットマン』のゲーム化である。正統派の横スクロールアクションである本作は、奇しくもコナミの傑作『悪魔城伝説』と同じ日に発売された。
 本作は今日までの数あるバットマン・ゲームの中でも初期の部類でありながら、最も出来のよい作品のひとつだ。ファミコン初期の時代にリリースした『いっき』などの問題作によりクソゲーメーカーの印象が強いサンソフトだが、実際にはゲーム性、技術力に優れた名作が多く、特に『バットマン』は後期サンソフトの実力を十二分に示す力作といえるだろう。

操作性抜群の正統派アクション

 ファミコン版『バットマン』は、バットマンを操作し、悪漢ジョーカーを倒すという大筋以外、映画との関連は薄い。ステージの間にちょっとしたカットシーンが挿入されたり、いくつかのステージが映画の舞台をもとにしている程度で、ゲームの大部分は原作とはまったく無関係だ。しかし、暗い色調で描かれたゴッサム・シティーの街並みや、風にたなびくバットマンのマントなど、作品全体の重厚な雰囲気は、バットマンの世界観を崩していない。
 ゲームはオーソドックスなジャンプアクションだが、特徴的なアクションとして「壁ジャンプ」がある。『忍者龍剣伝』のように壁を蹴って飛ぶいわゆる三角飛びで、本作で最も多用するテクニックだ。本作のステージの地形は極めて複雑で、ジャンプの微妙な高さ調整と、この壁ジャンプをフルに使いこなさなければ、先に進むことはできない。「ここは大ジャンプすると頭をぶつけるから、小ジャンプからの壁ジャンプで……」といった具合だ。
 戦闘は近距離戦から中距離戦がメインで、敵との間合いが重要だ。バットマンの基本的な攻撃はパンチで、それ以外に弾数制限のある3種類の飛び道具、バットラング、ガン、ダーク(手裏剣)をいつでも自由に切り替えられる。それぞれリーチが異なるので、敵との間合いを見極め、有効な武器を選択していくのだ。
 バットマンの動きは滑らかで、ボタンのレスポンスも完璧だ。動かしていて楽しく、ミスしても納得がいく。ただし、ジャンプの前に一瞬タメが入ったり、ジャンプ中の空中制御が利きにくいなど、バットマンのウエートを感じさせるような、やや独特の操作性になっている。

高難度だが秀逸なゲームバランス

 『バットマン』のシステムは誰もが5分で理解できるほど簡単だが、その難度は情け容赦ない。敵やトラップの配置が実に巧妙な上、プレイヤーのライフは8目盛りしかないため、力押しは許されない。ライフ回復アイテムは敵を倒したときにランダムで出るのみで、しかもその確率は非常に低い。「あそこまで行けば回復できるから、ここはダメージ前提で強引に……」といった甘い戦法は通用しないのだ。
 だが、決して理不尽な難しさではなく、すべての場面に明確な攻略法が存在する。典型的なパターンゲームで、コンティニューも無制限なので、何度も繰り返し挑戦すれば先に進むことができる。また、意外なことに本作には「即死」が存在しない。穴に落ちてもダメージを受けるだけだ。これは同じタイプの高難度アクション、『悪魔城ドラキュラ』や『忍者龍剣伝』、『ロックマン』などとは大きく違うところだろう。また、本作はパワーアップが存在しない点もユニークだ。プレイヤーは最初からすべての武器を使うことができ、ミスしても特に条件が不利になることはない。とても難しい一方で、非常にフェアなチャレンジなのだ。
 ステージは全部で5つ。長すぎず短すぎず、慣れれば30分ほどでクリアできる。だが最初のうちは、何度となくゲームオーバーになるだろう。ステージ2くらいまではサクサクと進めるものの、ステージ3あたりからレベルデザインが陰険になってくる。そしてステージ5で待ち受ける宿敵ジョーカーは、すべてのファミコンアクション中でも最強のラスボスの一人だ。また、本作には1UPがないので、ノーコンティニュークリアはかなり難しい。

ハイレベルなグラフィック&サウンド

 『バットマン』のグラフィックは、ファミコンゲームとしては非常に高水準だ。派手な多重スクロールなどは使っていないが、丁寧に描き込まれ、背景の細かいアニメーションも凝っている。映画のスチルを再現したカットシーンも、ジョーカーはちゃんとジャック・ニコルソンに見えるし、雰囲気が出ている。ちなみに開発中のバージョンでは、これらのカットシーンは製品版と大きく異なっており、原作コミックの『バットマン:キリングジョーク』をもとにしたアメコミ調の絵も多く含まれていた。結果的に映画配給会社のワーナー・ブラザースから苦情が入り、アメコミ調の絵はすべてカットされたのだが、これはサンソフトの開発者が、映画版とコミック版の権利が別であることを認識していなかったためだった。
 『バットマン』は音楽も最高だ。作曲の小高直樹、サウンドプログラマーの原伸幸によるBGMは、映画のサウンドトラックとは無関係だが、アクションゲームらしいノリのいい名曲ぞろいで、バットマンのヒロイックな面やダークな面も見事に表現している。サンソフトのファミコン作品は総じて音楽的な評価も高いが、特に本作『バットマン』からはデルタPCM(サンプリング)を使用したベース音を取り入れ、同じスタッフによる『ラフワールド』、『へべれけ』、『バトルフォーミュラ』などでも、ファミコンとは思えないサウンドを実現している。
 ファミコン版『バットマン』はシンプルだが、余計な要素を加えず、アクションゲームの原点である「ジャンプ」と「間合い」の面白さを突き詰めた作品だ。派手さはないものの、操作性、ゲームバランス、グラフィック、サウンド、すべての面において完成度が高く、欠点はほとんど見当たらない。バットマンのキャラクターゲームとしても、ファミコンのアクションゲーム全体でも、間違いなく傑作のひとつだ。



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