ベリード・スターズ
機種 PS4/Switch ステージ数
発売元 LINE Games Corporation ライフ制
開発元 STUDIO LARGO 残機制
発売日 2020年7月30日 コンティニュー
定価 パスワード
プレイ人数 1人 難易度選択
公式サイト




解説

 『ベリード・スターズ(Buried Stars)』、通称『ベリスタ』は、LINE Gamesから発売されたPlayStation 4/Nintendo Switch用アドベンチャーゲームだ。本作を開発したのは韓国の開発スタジオ・STUDIO LARGOで、韓国で大ヒットしたスマートフォン用アドベンチャー『灰色都市』のスタッフが携わっている。そのためオリジナルは韓国語だが、日本語音声と日本語字幕でフルローカライズされており、日本語声優は、柿原徹也、佐藤利奈、江口拓也、日笠陽子、下野紘、保志総一朗、喜多村英梨と、非常に豪華だ。キャラクターの名前も日本名に変更されているので、知らずにプレイしたら完全に日本産のゲームだと思うだろう。
 いきなり結論から言ってしまうが、『ベリード・スターズ』はゲームの完成度、ボリュームともに十分で、アドベンチャーゲームファンには文句なくオススメの作品だ。まず一見して分かるように、キャラクターの立ち絵からして非常に魅力的で、それらを3Dで描かれた背景と融合させることで、時に一枚絵と錯覚するほどのリッチなビジュアルを生み出している。このレベルの純韓国産アドベンチャーゲームが完璧な日本語ローカライズで上陸するというのは、それだけでも新鮮な体験といえるだろう。そんな本作の内容を、ネタバレなしで紹介していこう。


 本作のテーマを一言で表すと、「サバイバルオーディション×デスゲーム」だ。サバイバルオーディション番組「ベリード・スターズ」の生放送中に突然ステージが崩壊し、主人公の相羽亮をはじめとする5人の出演者と一部のスタッフが閉じ込められてしまう。スマートウォッチの情報だけを頼りに救助を待つ生存者たちだが、その時SNSに現れた匿名のアカウントが殺人を予告。正体不明の殺人犯は誰なのか? そして、その目的は? 互いに疑心暗鬼に陥る中、果たして最後まで生き残るのは……というのが、本作のあらすじだ。

相羽亮(CV:柿原徹也)
主人公。インディーズバンドのベーシスト。クールなキャラで現在第4位。

吉田玲奈(CV:佐藤利奈)
元アイドルグループのメインボーカル。脱退騒動から復活し現在第2位。
鈴木圭佑(CV:江口拓也)
有名シンガーソングライターの息子。父親譲りの才能で現在第1位。

星野久仁香(CV:日笠陽子)
ダンスクルー出身。言いたいことはハッキリ言う性格で現在第3位。
塚本悠真(CV:下野紘)
最年少のお調子者キャラ。過去の暴行事件が暴露され現在第5位。

清水直人(CV:保志総一朗)
番組AD。あらゆる雑用を任されており出演者たちとの接点も多い。
田中淑恵(CV:喜多村英梨)
番組プロデューサー。炎上を招く演出スタイルでヒットを飛ばしている。

 サバイバルオーディション番組とは、現在韓国で社会現象ともいえる人気を博すリアリティーショーの総称である。メジャーなフォーマットとしては、アイドル候補生たちがサバイバル形式で争い、プロの審査や視聴者の人気投票を経て最終的に生き残ったメンバーだけが、アイドルとしてデビューできる。日本でも人気のガールズグループ「TWICE」などはその筆頭だ。
 本作のタイトルにもなっている「ベリード・スターズ」は、「埋もれた(Buried)スターを発掘する」という意味で命名された架空の番組だが、崩壊事故によって文字通り「埋もれた(生き埋め)スター」になってしまった、というわけだ。そして正体不明の殺人犯を相手に、デビューではなく自身の命を懸けたサバイバルゲームに挑むことになる。


 『ベリード・スターズ』は、長大なテキストを読み進め、時折登場する選択肢でストーリーが分岐していく……という昨今のノベル型アドベンチャーと比較すると、むしろクラシックなコマンド選択型アドベンチャーの趣がある。公式で「コミュニケーション×サバイバル×アドベンチャー」と銘打っている通り、ゲームの大部分は他の生存者との会話(コミュニケーション)で進んでいく。1人の相手に対して選択できる話題が大抵10個近くあり、一般的なゲームではそれぞれ一言二言返ってくるだけのところを、本作では平均20ライン前後のガッツリした会話が用意されている。
 さらに、コマンド総当たりではなく、考えて選択するプレイを求めるような作りになっており、具体的には「精神力」と「絆」の要素がそれに当たる。「精神力」はプレイヤーの選択や状況によって増減し、ゼロになるとゲームオーバーになってしまう。普通にプレイしていれば基本的に大丈夫だが、あまりに無駄な会話や、間違った推理を続けていると、最後まで生き残ることはできない。
 「絆」は、生存者一人一人に存在するいわゆる好感度で、これもコミュニケーションと選択肢によって増減する。絆が一定以上になると、特別な「絆イベント」が発生。キャラクターが心に秘めていた真実が明かされ、ストーリーが変化していく。このように、「どの手がかりを提示すれば、次の手がかりが手に入るか」「どの返答を選択すれば、相手が心を開いてくれるか」といったことを、常に考えながらプレイする必要があるのだ。
 面白いのは、ストーリーの要所要所で挿入される推理パートでは、手がかりを組み合わせたり、矛盾を追及したりと、論理的な思考を要求されるが、生存者との絆を高める会話パートでは、必ずしも真実を言うことが正解ではないという点だ。例えば、プライドが高い相手にはわざと分からないふりをしたり、感情的になっている相手には正論よりも落ち着かせるような返答が効果的だったりする。正しい選択をするには、各キャラクターごとの性格や考え方を把握していく必要があり、前述した膨大な量の会話が、そのための材料となっているわけだ。


  本作のシナリオの特徴は、サバイバルオーディションという舞台設定に加え、SNSやスマートデバイスといった現代風の題材をメインテーマに置いている点だ。サバイバルオーディション番組とは、日本でいえば、例えは古いがTV番組『ASAYAN』と、それを経て結成された「モーニング娘。」のようなものだ。しかし、現在の韓国で熱狂的な支持を受けている一連のサバイバルオーディション番組は、それとは比較にならないほど過激な内容になっている。出演者に求められるパフォーマンスレベルの高さもさることながら、個々の性格や対立を誇張するような編集(俗に「悪魔の編集」と呼ばれる)など、リアリティーショーとしての演出も非常にドギツい。また視聴者側の熱気も高く、現代のSNSの普及も相まって、出演者の過去のスキャンダルや根拠のないゴシップ、ファン同士の誹謗中傷などが過熱し、時にはその攻撃が出演者本人にまで及ぶこともある。
 『ベリード・スターズ』は、そうしたショービジネス、さらにはネット社会の現状を、かなり生々しく描いている。本作では、閉じ込められた生存者たちが外部の状況を知る方法は、スポンサーから支給されたスマートウォッチしかない。そこに「シャベッター」と呼ばれる架空のSNS(要するにTwitter)が登場し、物語の進行に応じてタイムラインが更新されていく。スマートウォッチを起動できる場面では、いつでもシャベッターを見ることができるのだが、テキストの分量もさることながら、その内容のリアルさに驚かされる。自分の「推し」を心配し、応援するファンもいれば、匿名をいいことに心ない非難を繰り返すアンチ、そして事件を無責任に嘲笑する野次馬たち……その当事者となってしまい、怒り、傷つく感覚を、仮想体験できるのだ。
 また、シャベッターは単にストーリー上の演出だけでなく、書き込み内容から手がかりを得たり、時には自らコメントをつけることもできる。シャベッター以外にも、スマートウォッチには電話やメッセンジャー、カメラ、録音などさまざまな機能が付いており、我々が日々使っているデバイスをゲームシステムに取り入れることで、作品に現代的なリアリティーとインタラクティブ性を与えている。


  ここまで紹介してきたような、現代風のテーマを取り入れたギミックや、アニメ調の華やかなビジュアルは本作の分かりやすいセールスポイントだが、実際にゲームを進めていくと、本作のメインプロットは驚くほど「硬派」である。近年のアドベンチャーゲームではむしろ少数派になってしまったが、『ベリード・スターズ』は一本のミステリー作品として、かなり本格派で、何より謎解きがフェアだ。最終的には、プレイヤーが獲得した情報から、犯人の正体、犯行方法、動機などを導き出す必要があるが、ちゃんと真面目に推理する価値のある真相になっていて、結末ではきっと報われた気持ちになれるはずだ。
 登場人物の描写も地に足のついたもので、わざとらしい決めゼリフも、思わず笑ってしまうようなギャグもほとんどない。古典ミステリーにおける容疑者への聞き込み捜査のように、理詰めの会話シーンが淡々と続き、少しずつ真相が明らかになっていく。パッと見ではキャラクタードリブン型のように見えるが、どちらかというとストーリードリブン型の作品といえる。
 しかしながら、これはつまり、見方によっては「地味」「見た目ほどキャラが立ってはいない」ということでもあり、会話の長さや、閉鎖空間で登場人物が限定されることも相まって、本作最大の弱点といえるかもしれない。なので、ただエンディングやコンプリートを目指して作業的にプレイするのではなく、主人公になりきって、ひとつひとつの選択肢を吟味しながら能動的にプレイするのが、本作の楽しい遊び方だろう。
 『ベリード・スターズ』はとても優れた作品だが、さすがに「アドベンチャーゲームの歴史を変える作品」と言えるまでの革新性はない。非常に「真面目」に作られているがゆえに、「お遊び」や「余白」の部分に欠けるのも事実だ。だが、ビジュアル、サウンド、UI、どこを取っても隙のない作り、理詰めで構築された美しいゲームデザイン、そして「今の時代」を反映し、2020年でなければ成立しなかったドラマとミステリーを描いている点。そういう意味でも、『ベリスタ』は今、この時代にプレイしておくべきアドベンチャーゲームといえるだろう。



Main