聴いた、観た、買った ---淡々と音喰らう日々。

2000.04.01-15

>04.16-30
<03.16-31
<index

★は借りた新着、☆は新規購入。

今回集中的に論評したディスクなど:
Flavio Venturini e Toninho Horta
Prefab Sprout: "Andromeda Heights"
Blur: "13"
Dori Caymmi: 2 em 1


4/2 子供雑誌に載るようなキャラクターの出てくるTV番組が、日曜の朝に集中している。『未来戦隊タイムレンジャー』『仮面ライダークウガ』『おじゃ魔女どれみ』...息子は実はまだ起きて来ないのだが、親が知識として見ておくのである。そうは言いながら結構我々も楽しんで見てたりするのだが。近頃の子供番組は、かの『ハッチポッチステーション』(NHK教育)ほどではないにせよ、何かしら親が楽しめる要素を意図的に盛り込んでいると思えるものが多い。

アニメ『ぐるぐるタウンはなまるくん』(テレビ東京・日9:30-、一部他局放映あり )内のコーナー「はなまる王子」もその一つ。トマトを食べて変身するヒーローと、虫歯の痛みを忘れるために地球征服を目論む怪人ザ・ジズゼゾとの、トホホで不条理な対決が楽しいアニメであった。これが先週で終わったというので見てると、今週から「はなまるキング」に衣替えだというではないか。で、名前からしてバージョンアップしたのかと思ったら...前よりヨワイ。もう一人のヒーローが助太刀に来ないと勝てない。普通そういう続編ってないので思い切り脱力する。しかもプロットのフォーマットが前作とほとんど同じ。だから、狂言回し役のUFO が「はなまるはトマトを食べるとはなまる王子に」とまで口を滑らせると、画面一杯の×印とともに不正解のブザーが鳴る、という念の入れよう。そんなん子供にわかるんか? 私ゃ嬉しいけど。

揃って出掛け、自分は髪切りに。(KOTOBUKI)『継いでゆくもの』(Victor, 1998)が掛かる。名前は聞いたことあるけど音は初めて。Kiroroをもっとフォーキーにしたようなポップソングと、そのまんまの八重山民謡が交互に配列されている奇妙な構成。ヘタすればバンドとしてのアイデンティティ(の押し出し)を失い兼ねない試みだが、聴いているうちにそれなりに馴染んでくるのは、その中を存在感のあるボーカルが太い横糸となって貫いているからだろう。図書館あたりで探してもう少し聴き込んでみたくなった。

連れ合いは子連れ同窓会に行っていて、まだ続いているようなので、久々に新宿の街に足を踏み入れて家計簿ソフト他を探し回り(Mac用のスクリーンセーバーって高いねえ)、ついでにTower Recordへ。噂には聞いていたが、ここのブラジル物の充実ったらない。何で日本盤出ているのかというロー・ボルジスのソロデビュー盤などに目が眩み、気が付くと手に5枚くらい。深呼吸して考え直し、3枚で妥協。しかしフラメンコ/スペイン関係はここでも品揃えが悪く、スペインって今人気ないんだなあとしみじみ思う。丁度時間となり妻子と合流、ウィンドーショッピングしながらのんびりと帰宅。日が長くなったなあ。

4/3 フラヴィオ・ヴェントゥリーニ&トニーニョ・オルタ Flavio Venturini e Toninho Horta (DubasMusica, 1989)☆
以前CDNOWで来たのとかがまだ数枚積んだままなのに、昨日買ったブラジル関係を順にローテーション入りさせるのである。ジャンクな私だ。
フラヴィオもミナス・グループの一人で、トニーニョ・オルタのリーダー作などでもキーボードでクレジットされている。ソングライターとしても固定ファンが多いそうだが私自身はこれが初めて。この盤は、その盟友トニーニョとのジョイント・ライブ盤。フラヴィオの曲が半分、他トニーニョの曲など。
ミナス派には一癖も二癖もある曲を書くライターが揃っているが、その中でフラヴィオの「素直さ」は異色。いわばディアトニックな意味での、つまりクラシックで言うウィーン古典派に通じるような、三和音的な緊張/緩和のスキームをきっちり踏まえている、という意味での素直さ。その割にはメロディーに跳躍やヒネリが多く、それによって浮遊感と透明感が全体を覆うあたりは、他のミナスのソングライターたちと共通する。個人的には少し食い足りない気もするが。やはりトニーニョの変幻自在なコード展開に酔うほうが気持ちいい。

職場では今日付けで上司が異動、後任未定で当面は隣のグループ長が兼務という訳のわからん人事が敢行され、暫くは忙しくなりそう。こういう時にこんな心和むCDが入ったのは有難いかも。

家に帰ると、息子の単品リピート癖が再発している。何でまた。ともかく親が我慢できる範囲内で The Beach Boys: 'Wouldn't It Be Nice'、Fleetwood Mac: 'Don't Stop' などをリピート、さんざんぐずらせた挙句にようやく Queen: The Greatest Hits は通しで掛けさせることに成功。息子にどこまで譲歩するかは、親たちの疲れをトータルで最小化するよう考えてるつもりなのだが、断って泣かれても永久単品リピートしてやっても結局ドッと疲れることに変わりはないような気がしてきた。ああ。息子のこの頑固さが彼自身に報いてくれる日は来るのだろうか。
それでヤケになった訳ではないのだが、生協の冷凍品について来たドライアイスを、試しにヤカンに入れて蓋をしてみる(当たり前だが火には掛けない)。注ぎ口からもうもうと溢れ出る白煙。こりゃいい、としばらくコンロに飾っておく。

4/4 朝、ドライアイスの溶けたヤカンの水を、そのまま火に掛けそうになったと連れ合いより苦情。そりゃ困ったろう。

ロー・ボルジス Lo Borges (EMI-Odeon Brasil, 1972/Bomba, 1997)☆
デビュー盤。しかし何で今まで物の本でボルジスだった表記を今回あえて「ボルジェス」に? 謎だ。解説で彼のプロフィールが読めるかと期待していたのだが、筆者のケペル木村氏にしてさえ、1996年に久々の新譜が出るまでの10年間についてはお手上げらしく、相変わらずキャリアは謎のまま。他の追随を許さないものがある人だと思うんだが、知られていなさすぎのような気が。
で、彼のこのデビュー盤は、先に出ていたミルトン・ナシメントとの "Clube da Esquina" 収録曲よりも、はるかにひねった曲が多い。コラボとは違って個人的な嗜好を徹底的に追究したのだろうが、荒削りだったり実験的にすぎたりして、お世辞にもとっつきやすいとは言いにくい。だが、"Clube..." ではなくこっちの作品群こそが、彼の絶頂期の傑作(1979年発表の"Via-lactea"がCD化されないだろうか?)にとっての祖型であることは間違いない。

Flavio Venturini e Toninho Horta (DubasMusica, 1989)

4/6 職場の懇親会。そうか、忙しいのはこのせいでもあったか。何てったって幹事団。この日は打ち上げもあり、したたか呑む。外でこれほど呑んだのは久々。桜が満開で目に眩しい、夜だっつうのに。

4/8 本日の単品リピート指定は、ハイポジ「かなしいことなんかじゃない」。こっちはカナシイよ他の曲が聴けなくて。
エリス・レジーナ&アントニオ・カルロス・ジョビン『エリス&トム』Elis Regina & Antonio Carlos Jobim: "Elis & Tom" (Philips, 1974)

4/9 Lo Borges: Meus Momentos 2CDs (EMI Brasil, 1999)

絶好の花見日和につき、近所の小さな川沿いの公園へおにぎり持って出掛ける(ちなみに熱いものが持てない「ネコ手」の私は食べる方の専任)。その公園には数本ではあるが枝ぶりの立派な桜があり、果たして行ってみると数組の団体で既に盛況。ふと見ると保育園の知り合いがクラスのメンバーで大いに盛り上がっていて、何故か鎮座まします大型の生ビールサーバーから1杯ご馳走になる。子供は子供同士で走ったり探検したりジャンプしたり、花壇に入って最寄りのオトナに叱られたり。こういう状況だと親もそれなりにくつろげて酔い。もとい、良い。

4/10 プリファブ・スプラウト『アンドロメダ・ハイツ』 Prefab Sprout: "Andromeda Heights" (Sony, 1997)★
ロー・ボルジスに似たテイストのポップスが英米になかったか、と思って結局思い付かないまま、この前図書館でふと見るとこれが並んでいたので「これかも...?」と思って借りてみた。全然違った。コード処理の方法とかメロディ運びといった構造的な側面だけでなく、音の肌理そのものが思っていた以上に。何というか、無骨なまでに憧憬として単純化された古き良きアメリカ、とでも言うのか。彼らの出世作だったらしい"Steve McQueen" (1985)を当時聴いてピンと来なかった、そのピンと来なさ加減が、忘却の彼方からよみがえってきた。そう、コードにしてもリズムにしても、一瞬のきらめきがあるのにそれが平板なステレオタイプにことごとく回収されていってしまう。で、その状態が実は居心地いいんだと述懐してるかのようなリフレイン。食い足りない。

4/12 Lo Borges (1972)
ボカ・リヴリ Boca Livre (MP,B, 1979/Warner, 1998)

宴会幹事業にかまけて積み上げてあった仕事の重みが徐々にのしかかる。ふえええきついよおおお。

4/13 Quincy Jones: "Back On The Block" (Qwest/Warner, 1989)
この前は小難しい注文ばかりつけた格好になったので、今回は聴きどころを。とはいうものの、これが一言で言ってエラ・フィッツジェラルドに尽きるのだ。サンプリングした声を打楽器に活用したハイパー・アカペラナンバー "Wee B. Dooinit" の間奏部で彼女がスキャットをかますと、それまでTake 6やボビー・マクファーリンが積み上げていた緻密なバックトラックの仕事が一瞬にしてかすんでしまう。それくらい強烈。

ブラー Blur: "13" (EMI, 1999)★
連れ合いが以前CD屋で試聴して「いいんじゃない?」と言ったのを「別にそれほどでも」と切って捨てた手前上、改めて通して聴いてみる。連れ合いが褒めたのはT-1 "Tender" だが、この曲のゴスペル調は全体通して聴いても完全に浮いてて、やはりシングル曲が必要だから職人芸ででっち上げたのかなあという感じがする。これ以外の部分は確かに前作(ってもSSTVとかで見た程度しか知らないんですが)の延長上にあるソングライティングであり音作りであり、しかし大きく編集のハサミが入っている(William Orbitによる)のが今回の特徴。コラージュのようにシーンが変わってみたり、リハーサルのドキュメンタリーのように思い付きで始まってみたり止まったり。それはまあ、それで結構面白いんだけど、大丈夫かBlur、と思わなくもなし。何故かというと、要するに切り貼りしてそれでオシマイ、なんであって、そこからまた次のBlurの音が胚胎する気配が見られない、というか。だからこう、聴く方もあまり良くない感じで醒めてしまうような気がする。

4/14 ベン・フォールズ・ファイヴ『ラインホルト・メスナーの肖像』 Ben Folds Five: "The Unauthorized Biography of Reinhold Messner" (Sony, 1999)
Lo Borges: Meus Momentos 2CDs
ドリ・カイミ Dori Caymmi: 2 em 1
(EMI, 1980, 1982/1994)☆
"Dori Caymmi" (Electra Musician, 1988)や、Toots Thielemansの "Brasil Project Vol. 2"(Private, 1993)では、深く沈潜するようなボーカルがメロディの繊細な動きを際立たせていたが、彼の原点と思われるこの2タイトルを聴いた印象はかなり違う。(1988)に再録されている曲もいくつかあるのだが、それらで較べると、むしろバイーアの長老である彼のオヤッサン(Dorival Caymmi)がジョビンの遺作("Antonio Brasileiro", 1994)で聞かせていた元気な歌声を思わせる、力強い発声と朗詠のような語り口が、まるで熱気をはらむかのよう。加えて兄弟のDanilo Caymmiが吹くフルート(パンフルートに似た「サンポーニャ」かも知れない)がクイーカのような揺れるリズムを刻むと、益々体温が上がる感じ。ミナス派の面々をバックにしつつ、バイーアのリズムの温度を醸し出す、内陸に海を持ち込んだかのような独特の世界。この人も、もっと知られててもいいように思う。

4/15 雨の土曜日。と来れば、近所の友達を招んで、子供同士遊ばせて親は一息つこうという計画を始動させるしかない。

Flavio Venturini e Toninho Horta (DubasMusica, 1989/1997)
ベン・フォールズ・ファイヴ Ben Folds Five (Passenger, 1995)
などのほかに、

『すくすくどうよう 2〜4才児向』 (日本コロムビア、1987)
と、子供らのリクエストも一応聞いてやるが、その後はずっと昔にデーブ川崎氏に作ってもらったテープを引っ張り出して披露する。大受け。これ、何が素晴らしいといって、てんでバラバラなジャンルから曲を拾ってきているのにきっちり流れが出来ている。出だしいきなりグルジアコーラスから入って次がブルーベック、それにディーリアス作曲の愛らしいマーチなどもあって...以下企業秘密みたいなもんなので略すが、その展開の意外さ、幅の広さが思わず笑みを誘い、知らずにリラックスする45分間。ちなみにB面は笠置シヅ子のご当地ブギ総ざらえで、こっちはいささか悪酔いするかも。いやいや、それもまたいいもんだけど。



→インデックスへ
→ただおん目次に戻る

ただ音楽のことばかり

(c) 2000 Shinichi Hyomi. All Rights Reserved.