痛みルートは、痛みや体質をじょうずに治すための、経験的な知恵です。
痛みで血管が収縮すると、発痛物質がさらに増えて、症状もさらに悪化します。
この状態を「痛みの悪循環」といいます。
血管を収縮させる自律神経が興奮したままになり、「痛みの悪循環」を固定させ長びかせた状態が、慢性痛というわけです。
慢性痛は、症状の部位(局所)だけでは改善しづらいときがあります。
そんなときは、痛みルート=自律神経の枝にそって興奮をリセットし、原因から治すとよいでしょう。
学術的な内容を含んでいます。
もっと簡単な内容から読みたい方は、そこだけ先生とえだね先生のお話を読むとよいでしょう。
慢性痛=なぜだかいつまでもくり返す痛みは、なぜ起きるのでしょうか?
ケガで炎症がおきたり、知覚神経が傷ついたりして生じると、一般的には考えられています。
しかしそれでは、ケガもしていないのに、冷えたり疲れたりすると悪化する痛みを、説明しづらいのです。
自律神経の枝にそって代謝の不調がおきて、特定の範囲、動作で症状が生じるというのが、痛みルートの考え方です。
慢性痛は、専門的には慢性疼痛(とうつう=うずいて、いたむ)と呼ばれます。
ケガをしても、整形外科などお医者さんにもらった鎮痛炎症剤が効いて、そのまま一週間ほどで治った、という場合はあまり困らないものです。
骨折をしても、痛みが残らなければ、一時的に困ったり不便になるだけです。しかし、なぜかいつまでもくり返す慢性痛は困ります。
スポーツでいえば、オーバーワーク(使いすぎ症候群)のように、練習を再開すると症状も再発する、という場合がわかりやすいでしょう。
日常生活では、疲れると目や肩、腰がどんよりと重くてつらい、といった場合です。
ケガをしてから、冷えたり雨が降ると症状が出るようになった、という場合もあります。
いずれも、痛みルートがかかわると考えられます。
スポーツ選手には、毎日の練習の末にとうとう疼痛が激しくなった、ということがよくあります。
ぶつけたり無理な力を入れて故障したわけではないのに、疲れがたまって疼痛が出た、という場合です。
痛みルートの治療=代謝のリセットのほうが、消炎鎮痛剤よりも効果的な場合が少なくありません。
炎症による症状ではなく、代謝の不調が原因と考えられます。
初めて出た激しい疼痛でも、痛みルートの治療が効果的な場合が少なくありません。
症状は初めてでも、疲労は慢性的だった、と考えるとわかりやすいでしょう。
痛みルート=痛みを経路にそって治す考え方は、もともとは鍼灸(はりきゅう)で用いられていた、「つぼ」のつながり(経絡=けいらく)です。
治療に役だつ「つぼ」がルート(経路)になっている、という経験則をまとめたものです。
鍼灸では、気温や湿度、疲労や感情、不摂生など、自律神経の不調を引き起こす条件が、病気のもとだと考えています。
現代医学でも、気候や疲労などで自律神経が不調になると、疼痛が悪化することが知られています。
血行が悪化すると、疼痛を悪化させる発痛物質が分泌されます。
血行の悪化と発痛物質の分泌がお互いに原因と結果になって、症状が強くなっていきます。
これが痛みの悪循環です。
長びいた症状では、原因と結果が繰り返され、固定化して治りづらくなります。
では、どのように治療したらよいのでしょうか?
治し方には、二つの特徴があります。
・自律神経の根もとや、通過点、枝さきを活用します。
・鍼(はり)や灸(きゅう)など、自律神経の転調をうながす刺激を用います。
低周波治療器や温熱刺激を用いるのもよいでしょう。
たとえば、坐骨神経痛(脚の痛み)の原因が、腰(根もと)にある、という話はよく聞きます。
坐骨神経は、大きな神経枝(運動・知覚・自律(交感)神経がよりそった束)で、痛みルートの典型例です。
ところで、体性(運動・知覚)と自律(交感)それぞれの神経では、根もと(背骨から出てくる位置)がちがいます。
このため、痛みルートを活用した治療では、一般に用いられる根もと(体性神経根)とはちがう部位も活用します。
東洋医学の背中の「つぼ」は、手足の交感神経の根もとがでる範囲とよく一致しています(陰経の背部兪穴)。
昔からの経験で、代謝の不調を交感神経の根もとでリセットする方法に気づいていたのでしょう。
このように、痛みルートでは東洋医学の活用も提案しています。一般的な治療と大きく異なる点です。
鍼灸では、冷えて代謝が停滞したようすを虚(きょ)、代謝が過剰で熱を持つようすを実(じつ)と表現しました。
痛みルートも、代謝が停滞した状態と、過剰になった状態を想定しています。
皮膚のなかでも、毛細血管が多い層は、自律神経の影響を強く受けます。
この層で水分を測り、代謝の停滞や過剰を推測します。
痛みルートによる症状には、次のような種類があることがわかってきます。
冷えるとこりがひどい、というのが典型例です。
疲れやすくなっている場合もあります。
スポーツや仕事をしていて、いつも最初に右腕が疲れる、腰がはる、脚が重くなる、ということがないでしょうか。
激しい症状より、どんよりとした疼痛が多くみられます。
代謝が停滞した時に症状が出るので、寝ている間に痛くなったり、しばらく座っていたあと立ち上がろうとすると症状が出たりします。
寝ている間に足がつって、痛くて目が覚めるという人もいます。症状は強いのですが、ルートにそった代謝の停滞で起きる疼痛の典型例です。
(就寝中は水分を補給しないため、筋肉の中が脱水症状=代謝が停滞します。寝ていて脚がつるのはこのためです。)
起き抜けや、映画を観た後などに、なかなか動けないという人もいます。
マッサージをしたり温めると心地よく、動かしているとだんだん治る、といった特徴があります。
痛みルートの通過点だけでなく、根もとも温める治療がおすすめです。
背中にある、痛みルートの根もとと思われるつぼを用います。ほかほかと温める刺激が良いでしょう(電子温灸器、温灸など)。
(昔から、鍼灸で背部兪穴(ゆけつ)といわれるつぼです。)
肩や腕の症状を例にお話ししましょう。
肩や腕の体性(運動・知覚)神経の根もとは首にあります。
しかし、肩や腕の痛みルート=自律(交感)神経は、背中の上半分から出ています(専門的にいうと、胸椎の3番から6番目の高さです)。
そして、背骨にそって上にのびて、首から出る体性神経に合流して、寄りそいながら枝(ルート)ごとに伸びていきます。
上の図でいえば、背中の黄色の〇からでて、首のところで体性神経と合流し、寄りそいながら腕へ降りてきます。
一般的な治療では、体性神経の根もとを用います。しかし、痛みルートの根もとは背中にあり、こちらに注目します。
両方の根もとを用いたほうが、効果的な場合もあります。
背中から出る自律神経は、腕や脚だけでなく、同じ根もとから別な枝が内臓にも伸びていきます。
たとえば、心臓や肺は腕・手のルートと根もとが重なります。
消化器や泌尿生殖器は脚・足のルートと根もとが重なります。
面白いことに、目や鼻、脳など頭部に上がるルートも、腕・手の枝と根もとが重なります。
このことは、腕や手には循環器や呼吸器、頭部の症状の「つぼ」が多く、脚や足には消化器や泌尿生殖器の「つぼ」が多いことと、よく一致するのです。
もう少し具体的にみてみましょう。
例えば、寒い時には脚が重くなるだけでなく、お腹の調子も悪くなる人がいます。
もともと体質的に、代謝が停滞しやすい痛みルート=自律神経の枝があり、同じ根もとから内臓に向かう枝でも代謝が停滞しやすい、と考えることができます。
腹部だけでなく、脚の「つぼ」も使うと、同じ根もとへ向かう枝を、総合的に刺激できるので、いっそうの改善が期待できます。
図書館で書籍を探すとき、著者名や書籍名で検索するように、一見すると関係がないものの、根もとでつながっている経路の病状をみつけだし、全体を「体質」としてとらえ、改善していきます。
急に運動してから1、2日後に現れる筋肉痛が、一番わかりやすい例です。ズキン!と痛みます。
どんよりとした症状と、違いを見極める必要があります。
五十肩では、炎症で代謝過剰となりズキン!とするものと、冷えて代謝が停滞しどんよりとした症状のものがあります。
どのような違いがあるでしょう?
ズキン!とした症状では、代謝が過剰になっていると考えられます。
急な運動の後では、筋肉の繊維が傷んでいて、回復するために化学変化が活発=代謝が過剰になっています。
筋膜(筋肉を包む膜)の内側で、傷を治す(化学変化する)ために水分が過剰になると、中の圧力が増し痛みが生じます。
痛みルートにそって、過剰になった代謝をリセットすることで、症状を和らげるのです。
肘を曲げる動作を例に説明しましょう。
肘を曲げようとするとき、上腕の力こぶの筋肉(上腕二頭筋)だけでなく、前腕の親指側の筋肉(腕橈骨筋)も協力します(一緒に働くので協調筋といいます)。
これらの筋肉は、同じルート=神経の枝で管理されています。(この例でいえば、筋皮神経という枝です。)
そこで、肘を中心に痛みルートの通過点にそって治療します。鎮痛に用いる方法(電気治療器、鍼など)が良いでしょう。
また、チクン!と熱く感じるお灸や鍼刺激も良いようです(ルートの先端=指さきの治療もよいでしょう)。
ひとつの筋肉が固くなると、協力して働く協調筋も固くなっていきます。
一つの筋肉が疲弊して、代謝が悪くなると、その状態が痛みルートを伝わっていくと考えられます。
筋肉が固くなって縮むと、関節に負担がかかります。
関節には、伸ばす筋肉と曲げる筋肉がついています。
どちらかが固くなっていると、反対側の筋肉を動かそうとする時、引っ張りあうことになり、関節に負担がかかるのです。
レントゲンでは何ともないのに、肩や膝が痛い。
炎症もなく、鎮痛炎症剤を使っても治らないのに、鍼や灸で筋肉をほぐすとすぐに良くなる。
そういう時は、痛みルートにそって筋肉が固くなっていると考えられます。
疲れたときや、寝不足のときに、全身が重だるく、動きが悪く感じるような場合です。
大事な打ち合わせや決断、試験や発表会のあと、興奮が残って疲れがとれない、あちこちがこって痛んで治らない、という場合です。
結婚式や入学式、海外旅行を控えて、楽しみなはずなのに体調が悪い。そんなときは、知らないうちに緊張が強くなっているのでしょう。
緊張が原因の時は、頭痛や不眠、食欲の不調、胃腸の不調などが同時にみられることが多いようです。
あちこちに症状がでますが、反応は痛みルートの先でみられます。
緊張が全身的にみられることもありますが、多くは特定の部分に偏って強い反応がみられます。
不規則なパターンとなることが多いのですが、頭痛など頭部の症状では手の痛みルートの先端=指さきに反応が出ることが多いようです。
痛みルートの先端の、指さきに治療します。
細くて短い(蚊の口ばしほどの細さ)、痛みを感じないような鍼を貼りつけます(円皮鍼)。
チクン!と熱く感じるお灸や鍼刺激も良いでしょう(こちらの方が、即効性があります)。
指さきの、爪の生え際がよく効きます。
眠いのに眠れない、という人がいますね。
緊張がかたよって、特定の痛みルートに強く現れると、疲れているのに眠れないことが多いようです。
このような場合は、ルートにそった緊張がとれると、しっかり眠れるようになります。
緊張がかたよると、脳が混乱して自分ではリセットできないようです。
このため、ほかの治療でも、最初にルートの先端=指さきに治療すると、患者さんがぐっすり眠る傾向があります。
疲れて、食べても食欲が治まらないときは、痛みルートの先端での刺激がよいようです。
(イライラして食べてしまうという女性から、ダイエットが上手くいくようになった!と喜んでいただいたことがあります。)
わかりやすくいえば、ストレスで疲れて体調が悪いという場合には、痛みルートの先端での治療がオススメ、ということになります。
どのルートに反応が出ているか、詳しく調べてみませんか?
測定は簡単です。あなたの不調の原因もわかるかもしれません.
痛みルートの反応は、ルートの先端=指さきの皮膚の状態から推測します。
指先の皮膚は、体温調整のため、血流が大きく変化します。
体温も血流も、自律神経が管理しています。
つまり、指先の皮膚は自律神経の影響が強く現れるので、どの枝=ルートにそって反応が現れているかを知るために適しています。
代謝が不調になると、皮膚の水分が過不足を起こしたり、イオンの過不足を起こしたりします。
皮膚の水分といっても、表面のアカになって落ちる層(表皮)ではありません。
その奥の、血管や汗腺(どちらも自律神経が管理します)が多い層の水分です。
また、緊張が強いと、皮脂の分泌が過剰になります。
(緊張すると脂汗が出る、といいますね。)
これらの変化をとらえて、痛みルートごとに現れる反応を、複合的に推測しています。
指先に、湿らせたフェルトを当てて、弱い電気をかけます。
代謝が停滞し、皮膚の水分やイオンが不足していれば、電気がたまりにくくなります。
代謝が過剰なら、逆に電気がたまりやすくなります。
極端な反応が、症状の部位をとおる痛みルートでみられたら、治療の参考にします。
全身に伸びていく神経には、運動(筋肉を動かす)、知覚(痛みなどを伝える)、自律(体内の状態を整える)の三種類があります。
さらに自律神経は、交感(血管の管理の多くを受けもちます)と、副交感(消化や排せつを活発にすることが多い)の二種類にわかれます。
一般的に自律神経失調症は、交感・副交感の二つのバランスが全身的に崩れた状態、と説明されています。
しかし多くの人は、右脚が冷えるとか、左手を伸ばすときだけ痛いといった、部分的な不調を経験しています。
また、脚や腕の不調を交感神経の遮断(ブロック)で改善した話も、聞いたことがあると思います。
すでに書いたように、交感神経は背骨から枝をだし、手足に伸びていき、指先まで達します。
頭=目や鼻だけでなく、脳みその血流も、背骨(肋骨がついている胸椎と呼ばれる部分)から出ている枝に管理されています。
花粉症で目や鼻の分泌物が多すぎるとき、交感神経の薬で止めるのですが、その根もとは背中の上部から出ています。
交感神経の、頭や内臓の枝は、背骨から出たあと、おもに血管にそって伸びていきます。
腕や脚の枝は、内臓の枝と同じ根もとから出ますが、首や腰で体性(運動、知覚)神経と合流してから伸びていきます。
寄りそいながら伸びていくため、お互いが作用しあい、混乱が起きてしまいます。
たとえば、痛みは交感神経を緊張させ血管を収縮させます。
さらに、運動神経を興奮させ筋肉を収縮させるので、血管が締めつけられます。
二つの作用が重なり、血行が悪くなってしまうと、さらに発痛物質が分泌されます。
(血行が過剰になったり、血管の透過性が高まる発痛物質もあります。)
通常は、交感神経の反応はすぐにおさまり、血行が回復して、症状も治まります。
しかし痛みが長びくと、血行不良が続くため、発痛物質が雪だるま式に増えてしまいます(「痛みの悪循環」)。
そして、「痛みの悪循環」から抜け出せなくなったのが慢性痛です。
枝にそって部分的な不調がおきると、全体を見守る脳は混乱をきたし、きちんと改善できなくなるようです。
交感・副交感神経のバランスは、全身的に管理されると考えられています。一部分だけ足並みがそろわなくなった枝は、管理が難しいのでしょう。
痛みがあることは、脳にとっては緊急事態の信号です。
すると、もともと一つの枝=痛みルートの問題だったはずなのに、全身的な失調となり、さらに大きな悪循環に陥ってしまいます。
症状が続くことで、眠れなくなったり、不安から気分がふさいだり、いわゆる交感神経緊張型になります。
精神的にふさいでいるからと、抗うつ剤や抗不安薬を飲んでも、もともと不調を起こした枝=痛みルートを改善しないと、脳は混乱してうまく治してくれません。
そこで、血行が乱れ、代謝のようすが変化して、皮膚に反応が現れている点から、痛みルートをみつけてリセットするわけです。
神経が枝わかれした先端の、指さきで皮膚の状態を測れば、どのルートにそって失調しているかおおよその推測できる。
それが痛みルートの考え方です。
くわしくいうと、神経障害痛には、自律(交感)神経に依存する痛みと、そうでないものがあります。
RSD(反射性交感神経性ジストロフィー=いくつかの体性神経の枝にまたがって失調が考えられる症状)に対して、自律神経系の薬やブロック(おもに根もとに使います)で効果があるものと、ないものがあると知られています。(William J. Roberts 1986年)
交感神経遮断(ブロック)で疼痛が改善するものをSMP(交感神経依存性疼痛)、効果がないか、症状が悪化するものをSIP(交感神経非依存性痛)としています。
ここがとても大事です。代謝を活発にするためのブロック注射で、症状が悪化する場合があるのです。
つまり、もともと代謝が停滞している場合だけでなく、過剰となっている場合も考えられるわけです。
このことを、古代の中国人は虚(代謝の停滞)、実(代謝の過剰)と分類し、治療に役だてていました。
痛みルートの測定は、どの枝に不調が起きているかだけでなく、不調がどのような種類かも推測しています。
いくつかの根から出た枝が、伸びていく途中で影響し合い、交互に感応しあう性質から、交感神経という名前はつけられています。
交感神経ブロックは、ひとつの根もとをブロックしても、広い範囲に影響が出ます。手術も、背骨近くでマヒさせるので、患者さんへの負担が大きいのです。
痛みルートを調べ、皮膚から熱刺激や電気刺激で枝ごとにリセットする方法は、負担が少ないといえます。(ずっと少ない、というべきでしょう。)
影響が及ぶ範囲も、根もとではなく枝の通過点や先端で治療すれば、限られたものになり、やはり患者さんの負担が少ないでしょう。
もちろん、費用も比較にならないほど少なくてすみます。