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m @ s t e r v i s i o n
pinkArchives 2001
★★★★★=すばらしい ★★★★=とてもおもしろい ★★★=おもしろい ★★=つまらない ★=どうしようもない

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初恋不倫 乳首から愛して(荒木太郎)

脚本:吉行由実 撮影:清水正二
およそ「初恋」という言葉ほどピンク映画のタイトルに似つかわしくないものはなかろう。たとえば「処女」や「制服」なら「濡れ濡れ処女」や「制服を襲う」といった具合に、たちまちに煽情的な文脈に取り入れられてしまう(「制服の処女」ってのもありましたな←それは違います) ところが「初恋」となると「濡れ濡れ初恋」とか「初恋を襲う」ってヘンでしょ? これはとりもなおさず「初恋」という言葉が「社会的状況」ではなく「心のありよう」に重点を置いた言葉だからで、その「心のありよう」をわれわれは「甘酸っぱい」とか「切ない」といった形容詞で言い表しているわけである。人の心をチャートにしたならば「初恋」に付随する「甘酸っぱい」とか「切ない」といった感情は、ピンク映画に必須の「欲情」とか「エッチ」といった概念の対極に位置するであろう言葉なのである。ところが大胆にもタイトルに堂々と「初恋」の言葉を掲げ、甘酸っぱくて、切なくて、泣けるピンク映画を作り上げてしまった人たちがいる。「変な映画を撮る若手」から、いまや名実ともに「オーピー/大蔵映画のエース」に成長した 荒木太郎と、脚本の(みずから監督でもあり女優でもある)吉行由実の2人である。 ● いや、ほんとうになんてことない話なのだ。ヒロインのサユリは長野の小さな映画館の娘。映画館は妹夫婦が継いでいて、本人は善光寺の参道にある喫茶店でウェイトレスなんぞをしてる。なんとなく付き合っているカレからは「結婚しよう」と熱心にプロポーズされてて、だけど彼女は映画館の娘だから子どもの頃から映画をたくさん観ていて、それでなんとなく中学生の頃は「あたし大きくなったらキレイな女優さんになる」「じゃあ ぼくはサユリちゃんが主役の映画を作る映画監督になるよ」なんて他愛もない夢を幼なじみのケンタ君と語り合ってたりして、ああこのまま あたしは映画みたいな恋をすることもなく平凡な人生を送っていくのかなあ…と漠然と思っているところへ、映画監督じゃなくて小っちゃな配給会社の地方セールスになった初恋のカレが、実家の映画館を訪れる…。 ● 誤った期待をされないよう書いてしまうが「熱い激情の果ての逃避行」なんて展開にはならんよ。ここにあるのは平凡な人生へのささやかなエールだから。人それぞれには「初恋」という大切な想い出があって、それは誰にも触れることの出来ない大切なもので。再会した2人が古ぼけた旅館の、部屋の襖に、昔 撮影した8mmをエルモの映写機でカタカタとまわす。中学の頃の2人。無邪気に川遊び。水と戯れるヒロイン。「あれケンタ君、写ってないねえ」「これ ぼくがカメラを回してたんだよ」 画面にはコロコロと笑い続けるサユリの顔が写っている…。 ● ヒロインを演じる里見瑤子が素晴らしい。じつになんとも「女優」だなあ。もう誰にも「映画女中」なんて呼ばせないぞ!(←アンタが呼んでたんやないの) ケンタに西川方啓。その婚約者に山咲小春。 ヒロインの地元のカレに荒木太郎。 映画館をやってる「お気楽な妹夫妻」に佐倉萌&丘尚輝(←脚本家・岡輝男の俳優名) そして人生の喜怒哀楽を小さな映写窓からずっと見つめてきた「映写技師の山田さん」にピンク映画の誇る名優、野上正義。 撮影はTVドラマ収録のための長期欠場から復帰したベテラン 清水正二。初秋の撮影でありながらクリスマスにはちゃんと雪が降る。 ● 昨年もP1グランプリには不参加だった(というか不勉強な国映系の監督連が声をかけなかったせいらしいが)荒木太郎だが、ピンク映画の復興については誰より意欲的で、全国のピンク映画館に(ときには手弁当で)女優を連れて舞台挨拶に出かけている。本作は長野の「ニュー商工」というピンク映画館を借りてロケしているのだが、それとて「地元ロケということでお客さんが少しでも増えれば」という気持ちの表れに違いないのだ(最初から予算が決められているピンク映画では、長野ロケなんかして宿泊費がかさめばその分、スタッフのギャラが減るのだから) 現に東京より遅れてこのお正月から公開になったニュー商工へ荒木組一行は舞台挨拶に訪れている。 モギリのおっさんに面倒くさがられながらも恒例となっている「100円手作りイラスト・パンフ」にしたってファンサービスの一環である。前作ではついにTシャツや主題歌のCD-ROMまで作るに至ったが、今作ではなんと「2002年のカラーイラスト・カレンダー300円」を販売してた。 いや、もうほんと(一介の観客であるおれにはなんの義理もないけど)荒木太郎の姿勢には頭が下がる。

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サド姉妹 ぬめる舌先(池島ゆたか)

女吸血鬼もののバリエーション。出張ホストをしてる都会の若者が、人魚の肉と若い男の精液を喰らって長生きしてる姉妹の館に囚われる。五代暁子 脚本。「モノもフクロも最高にいい形なんだもの!」とか「まだムサボるのね!」とかひさびさに五代節炸裂である。人魚の肉を喰らって800年 生きたという「八百比丘尼」の伝説を引用して「不老不死、不老不死」とホザいておるが、そーゆーのは「不老不死」じゃなくて「不老長寿」だろーが! 本作では、人魚の肉を喰らっただけでは外見の老化を止めることが出来ず、若さを保つために「若い男の精液」が必要だという設定なのだが、あのなあ、もう一度「八百比丘尼」の伝説をよく読めよ。「少女の姿のままで」と書いてないか? そもそも「不老」ってどういう意味だかわかってる?>五代暁子。 ● 「男を惑わす女吸血鬼」の役まわりの長姉役に中国人女優、美麗。今回、台詞は別人のアテレコなので問題ないのだが、この人、口元に締まりが無いからキリッとした役は似合わないんだが。なんでも池島ゆたかの(実生活の)カノジョらしいから、アバタもエクボなんでしょうなあ。 エロ小説を書いて「家計」を支えている次姉に、美しい姉から「出来るならやってみなさいよ。どうせロクな男しか引っかからないでしょうけど。アンタ地味だもんね」とか本当の事を言われてグウの音も出ない、水原香菜恵。 まだ人魚の肉を口にしておらず「吸血鬼」になっていない、ティーンの三女に売れっ子・河村栞。このキャスト陣のなかでは突出して良い演技を見せる。ただ台本に「まるで敵同士みたい」と書いてあったら、それは「てきどうし」じゃなくて「かたきどうし」と読むのだよ>栞ちゃん。 ドラマとしては「悲しい運命の彼女と囚われた青年のラブ・ストーリー」として組み立てられているのだが、前述のように この娘はまだ人魚の肉も若い男の精液も必要としない「普通の人間」なわけで、住んでるとこも高い城壁と鉄扉に閉ざされた西洋のお城じゃあるまいし、たかだか埼玉あたりの一軒家だ。さっさと青年と駆け落ちすりゃいいじゃんか。なぜ彼女が家を出られないのかを説明しないと駄目でしょうが。 青年にしらとまさひさ。 執事に「喪服の女 崩れる」の松木良方。このレベルの演技陣に入ると違和感なかったりする。

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未亡人女医 極秘裏責め(新田栄)

おお! 新田栄の映画なのにヒロインが可愛いぞ。松井はるか というAV単体の新人で、笑顔がちょっと若い頃の酒井和歌子に似てるのだ。アエギ顔が下品になるのが(ピンク映画女優としては)珠に瑕だけど、おっぱいもキレイだし(エクセス新人の常として)これ1作といわず是非また出てほしいぞ。googleで検索したら、なんと吉原プリモディーネって店の現役ソープ嬢らしくて思わず指が電話に伸びかけたのは内緒だ(火暴) ● 話としては「スグやらせてくれる女医さん」もの。宇能鴻一郎ですな。もちろん脚本がいつもの田吾作なので、ヒロインは(れっきとした泌尿器科の医者なのに)ヘーキで「ペニスの根元をゴムで縛ると長持ちするわよ」とか日本医師会から厳重抗議が来そうなアドバイスをしてたりするけど、いいのだ。ヒロインが可愛いけりゃピンク映画の問題の8割は解決されるのだ<おい。 ● 廃寺の卒塔婆みたいなものすごい乱杭歯の看護婦に椎名みなみ(子どもの頃に歯列矯正しなかったのか?) ヒロインの「海釣りで行方不明になった亭主」に瓜二つの男性に、なかみつせいじ。てゆーか、町なかでそういう人を見つけたら「あら、あの人にそっくり」とか独り言いってないで、後をつけるだろフツー? その奥さんに林由美香。 女医センセイが往診に行った先で目尻を下げて待っているのはもちろん爺いメイクの久須美欣一。

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美人家庭教師 半熟いじり(工藤雅典)

高校3年生の娘と(妻を早くに亡くした)父親の若い恋人。それに女子大生の家庭教師。…よくある設定だ。少しもややこしい話ではない。それなのに本編では、登場人物が何を考えているかがまったく伝わってこない。全員が行き当たりばったりで行動しているように見えるのだ。デビュー以来、平凡なジャンル映画にも非凡な輝きを与えてきたエクセスの星・工藤雅典だったが、今回はだめだめなルーティンワークそのもの。次回の捲土重来を期待する。 ● タイトルロールの女子大生家庭教師に新人・加藤由香。ぶすっとしてて魅力がなく、しかもマグロだし、なんか新田栄 作品のヒロインみたい。ひょっとして↑の作品と現場を間違えて来ちゃったのか!? それと(人の不幸を笑うのは気が引けるが)この人どうやら質の悪い豊胸手術をつかまされたらしく、術後の経年劣化でおっぱいが干乾びた夏蜜柑のようになってしまってるのだ。 高3の教え子に、売れっ子・河村栞。 後妻の座を狙う女に葉月螢。それにしても笑顔が似合わない女優さんだぜ。ここは無難に佐々木基子で良かったのでは。 父親に町田政則。いくらピンク映画は女優中心と言ったって、いい台詞を言ってるときぐらいピンをあげればいいのに。

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愛人物語 くわえてあげる(深町章)

時代おくれの六畳一間の下宿。男Aが、学生時代の親友である男Bを待っている。ところがやって来たのは男Bの愛人だと称する若い女。この部屋で男Bと駆け落ちの待ち合わせをしたというのだ。舞台は基本的にその部屋のみ。現れぬ男Bを待つうちに、男Aと男Bの関係、男Bの秘密、男Bと若い女の関係、そして男Aと男Bの妻との関係が明らかになっていく…という、いかにも演劇的な構成。それもそのはず、本作は「淫ら姉妹 生肌いじり」に続く、かわさきひろゆき が主宰する劇団 星座(ほしざ)の舞台の映画化なのである。 ● いい歳してプロのミュージシャンを目指してる男Aと、さっさと夢を諦めて外務省外務次官秘書にまで出世した男B。男Aの初恋の相手でもある男Bの妻との三角関係 etc.…と、面白そうな設定が揃っているのだが、脚本の(星座の座付き作者でもある)かわさきりぼん は、そうした設定をただ説明するだけ。それなら素人でもできる。設定の上に、印象的なエピソードでドラマを肉付けしたり、洒落た台詞でエモーションを盛り上げていくのがプロの仕事というものだ。 ● だいたいだな。夢を捨てて非情な社会の生存競争に挑んで結局は破れた男Bが「ああ、おれにもあんな生き方があったんじゃないか」と、なかば眩しく仰ぎ見る対象であるはずの男Aが「四十間近で六畳一間のプータローで壁にはボブ・ディランのポスター、手にはフォークギター」って、それじゃどー見たって人生の敗残者じゃん。しかも男Aを演じる かわさきひろゆき は「いい奴なんだけど才能が足りない」という意味ではまさしく適役のはずなのに、その役を完璧に演じるだけの技量がないという皮肉。 男Bはじつは新聞ダネになるような事件に関わっていて、どうやら世間で男Aだけがその事を知らないので、若い女に「新聞 読まないの?」とツッコまれるんだが、おまえ、さっきパンと牛乳を買ってきたコンビニ袋に新聞 入ってたじゃないか。だれか気付けよ、現場でよ。 ● 山本学みたいな翳のあるインテリ=男Bに、なかみつせいじ。 若い愛人に売れっ子・河村栞。 屋外シーンを入れるためだけに設定された、文字どおり時間の無駄遣いな濡れ場要員に奈賀毬子。 男Bの妻の役で、星座の看板女優・手塚美南子が(若宮弥咲 名義で)デビューを飾っている。ちょっと市川実和子に似てる深海魚 顔の女優さんで、元来あまり映画向きの素材ではないが、気合の入った濡れ場はなかなかエロかったので、役を得れば印象的な脇役となりそう。

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新・したがる兄嫁 ふしだらな関係(上野俊哉)

脚本:小林政広
パート1、パート2、そしてエピソード1まで作られた「したがる兄嫁」シリーズ、…てゆーか、バカ兄弟コメディ待望の最新作。この人なくしてはシリーズが有り得ない脚本家・小林政広が「ピンク映画 引退宣言」を撤回して復帰したのもメデタイ。…だけど良かったのはそこまで。今回はタイトルに「新」と付いてるように前3作とは設定をまったく変えた新作だったのだ。てゆーか、なんと今回はコメディではないのだ。人物設定は変えてもいいけど「バカ兄弟としっかり者の兄嫁」という基本設定は維持してくんないと。ちぇっ。 ● さて、ということで1本の新作としてみていくが──。飯能の先の高麗川(こまがわ)って町に暮らしてる20代後半の夫婦。座長のカノジョを奪って結婚して3年。売れない/売れる見込みのない舞台役者でありつづける夫を、妻が働いて支えている。微妙な夫婦関係。そんなときに大河ドラマの主役を「ホンが気に入らないから」と蹴って事務所も辞めた「夫の弟@人気俳優」が居候に転がり込んでくる…。 ● 小林脚本の常として、途中までは「思いもよらない展開の妙」を楽しめるのだが、今回は後半が収集がつかないまま終わってしまった感じ。ラストの再会は絶対に兄弟ではなく、兄嫁と[元・亭主]にすべき。世田谷の豪邸に引っ越した兄嫁のところに宅急便をしてる[元・亭主]が知らずに配達に来て「あら、配達ご苦労さま」…とか、そんな「女はコワい」という結末にすべき。だってこれは兄嫁のモノローグで始まった話でしょうが。 ● 今回、情けない兄に扮するのが(前2作でバカ弟を演じて強烈な印象を残した)江端英久。 人気スターの傲慢な弟に(エピソード1で純情な兄貴を演じた)佐藤幹雄。 今回、あんまりストーリーの中心に来ない兄嫁には新人・宮川ひろみ。痩せギスで「売れない舞台役者の妻@貧乏」としてはリアリティがあるが、ピンク映画女優としてはちょっと。演技についても、ここに力のある人が来て兄弟とうまいこと噛み合うと映画の印象もだいぶ違ったと思うんだが…。 ひょんなことから兄と同棲することになるOLに佐々木ユメカ。こちらは演技・濡れ場とも安定。 ● さらに追加でツッコミを入れると「気を失っている大の男を、女の力でマンションの部屋まで運べるものか?」という問題には目を瞑ってもいいが、濡れ場で前貼りが写っちゃってるカットは(観客の興を削がぬよう)現像段階でボカシを入れておくのがプロたるものの務め。あと三島由紀夫「金閣寺」の映画化は1度じゃなくて2度だぞ。大映の市川崑 版(「炎上」)と、ATGの高林陽一 版の2度あるってのは常識だと思うが?>小林政広@シネフィル。

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三十路同窓会 ハメをはずせ!(中村和愛)

ミソを付けた「高校教師 赤い下着をつける時」以来、1年半ぶりとなる中村和愛 監督・脚本作。今回は得意とする「ヒロインの心情吐露モノローグもの」に戻り、ウェルメイドな脚本を用意して、いわばピンク映画版「ブリジット・ジョーンズの日記」とも言うべき佳作に仕上げた。 ● ヒロインは「すべての男は消耗品である」といった、どこかで聞いたことあるよな著作のあるエッセイスト・西原理恵。30才にしてすでにバツ2で、女もこの歳になると20代の頃と違って恋愛に全身全霊で打ち込めない。近頃じゃカワイコぶんのも労力に成果が伴わない気がしてバカバカしくなっちゃったし、修羅場でもどこか醒めた目で事態を見てしまう自分がいたりして。さて、久しぶりの同窓会というので行ってみたら集まってるのはいつもの女3人だけ。それって同窓会じゃなくてただの飲み会じゃん。しかも親友の純子はなんと いつの間にか あたしの最初の亭主と結婚してるし、もう1人の親友の紀香は年下のツバメに御執心なのだそうだ。あたしはと言えば、最近ようやく仕事が忙しくなってきて男日照りが続いてたんだけど、ついに男がデキてラッキーと思ったのもつかのま…。ああ、どうして神さまは三十女にこうも冷たいんでしょ? ● ヒロインに扮した新人・逢崎みゆ が素晴らしい。あくまで西原理恵子 程度の美人で適度にズボラでなるよになるさ主義なとこが「三十女ライター」のリアリティあり過ぎ。ちょっと天然ボケ入ってるタイプで、コメディ勘もしごく良いのでけっこう逸材かも。 愛し合って結婚したはずの亭主が床下手なので、つい出張ホストに電話してしまう純子にAVギャルの星野瑠海。←なんか別名で新田栄 作品に出たことないか? 年下男を金の力でなんとか繋ぎとめようとする紀香に(本業は舞台女優の)佐々木基子。 この3人による夜の路上での仲違いのシーンの、ほぼリール1巻分にもおよぶ長廻しは圧巻。 樹かず・真央はじめ・千葉尚之・平賀勘一の男優陣も総じて健闘。

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人妻不倫痴態 義母・未亡人・不倫妻(しのざきさとみ/小川真実/佐倉萌)

20分×3話のオムニバスを3人の主演女優に監督させる…という試み自体はたいへんに面白いと思うのだ。ところが脚本を坂本太のところの脚本家=有馬千世に任せてしまったものだから、後妻と未亡人と人妻が「若い男と会ってヤるだけ」のまったく中身のない脚本(てゆーか設定を書かれてしまい、3人の女性演出家にとっては、じつにシどころのない処女作になってしまった。てゆーか、しのざきさとみ と小川真実のパートは古くて腐ったピンク映画そのまんまの代物なので、じつは坂本太演出だったりするのかも(そー言えば、小川真実の実生活での旦那ってだれか映画監督じゃなかったけか) とりたてて特筆すべき点もないが酷い出来でもなかった佐倉萌 監督に関しては、将来、60分の映画を撮った時点で評価したいと思う。 ● もしこの企画で次回作があるなら次は、ゲイ・ポルノのオムニバスの1篇で監督デビュー済みの伊藤清美と、舞台経験ゆたかなのでひょっとしてカサヴェテスばりの映画を撮るかもしんない佐々木基子と、そして「由美香」みたいなセミ・ドキュメントを撮ったら面白いんじゃないかと思う林由美香…の3人でどうよ? ほんとは葉月螢 監督/水族館劇場 役者陣 総出演ってのを観てみたいんだけど、カネ出さんだろうなあ何処も。

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柔肌天使 今夜も抱いて(小川欽也)

ガード下に立つ夜の女たちの物語。ヒロインの名がエンジェルの彩で、姉貴分の名がおフェラのお京。ことわっとくが終戦直後の話じゃねえぞ。2001年の新作映画だ。旧態依然の演出。凡庸な脚本(水谷一二三)。Cクラスの女優陣。ようやっと小林悟も死んだことだし、小川欽也もいいかげん潮時ってものを知れよ。

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美咲レイラ 巨乳FUCK(渡邊元嗣)

渡邊元嗣のいつもの艶笑コメディ。今度は二重人格ものである(脚本:山崎浩治) ヒロインは営業部のエースで誰より仕事は出来るが、堅物で人当たりが厳しいギスギス女。それがある夜、落雷のショックで抑圧されていた淫乱な別人格が目覚めてしまう・・・という話なのだが、2つの人格が整理されておらず「自由奔放な淫乱女」だったはずの「別人格」が途中から急に「正直で優しい女」になり、「人の気持ちを思いやれない高慢女」だったはずの「メイン人格」が「凶暴な悪役」になってしまうのだ。あろうことかラストでは淫乱な別人格が[メイン人格の束縛から逃れて分裂して別々の肉体]となりメデタシメデタシ…というムチャクチャな結末を迎えるのである。この話には「別人格の起こした騒動によってメイン人格が人生の本当の価値に気付いて反省し、そこに再び雷が落ちて2つの人格が融合した仕事もセックスも好きな人格が誕生する」以外の結末はありえないでしょうが。また、舞台を「大人のオモチャ」の会社に設定しているが、ストーリーに「大人のオモチャ」の会社である必然性がまったく無く、設定に意味がない。 ● 撮影の飯岡聖英は、カットを変えたりライティングを変えたりして二重人格の撮り分けを工夫しているのだが、演出の渡邊元嗣がなってないので混乱が生じている。鏡の前で2つの人格が交互に出演するシーンでは間違った衣裳で台詞を喋ってる箇所すらあったぞ。あと、2つの人格でヘア&メイクを変えるのは基本でしょ(そんなことしてたら3日で撮影が終わらない?) ● ヒロインの二役を演じるのは元・プレイメイトジャパンで、今岡信治 監督・脚本「愛しい人妻 ひと夏のたわむれ」(2000年11月発売 おれは未見)といったVシネマに出演している美咲レイラ。プレイメイトの端くれだっただけあって日本人には珍しい外人型巨乳(=釣鐘形で、乳輪の面積が広くて境界線が地肌の色に溶けている)なのだが、顔や佇まいにゴージャス感のかけらもないのだなあ。演技は褒められたものではないが、台詞まわしだけは(本人がアフレコしてるのだとしたら)これは相当に達者。発声にちょっとアニメ声優のような癖があるけど。 てゆーか、なぜ時任歩を使わないのだ! 「堅物女」のキリッとした美しさと「淫乱女」のコミカルな演技を両立させられるのは時任歩サマしか居ないじゃないか! バイブ開発室の主任に林由美香。もうベタなコメディ演技に関しては完璧。この人の存在でかなり映画が救われている。年下の同僚と馴れ合いの社内セックスをしたあとでひと言「はぁ〜。スリルのないオフィス・ラブって電池の切れたバイブと同じよねえ…」 男性恐怖症の新入社員@処女に水原香菜恵。今さら処女の役は無理があるような…てゆーか、この人、顔立ちが暗いからこの手のコメディには向いていない。これは里見遙子とか河村栞の役でしょう。 男性側主役…というのは渡邊組の場合つねに「人の良いダメ男」なのだが、開発室長に十日市秀悦。この人は悪人顔なんだから「悪役的三枚目」以外やらせちゃ駄目だってば。 しかし関係ないけどピンク映画館のオトーサン方は「FUCK」って読めるのかね?(東スポ・アサ芸あたりじゃFUCK表記は導入済み?)

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若妻快楽レッスン 虜(渡辺護)

プロデュース:深町章 脚本:渡辺護 撮影:鈴木志郎
ピンク映画の大ベテラン・渡辺護の1993年の「紅蓮華」以来、ピンク映画では(おれの観てる範囲では)1987年の「ロリータ監禁飼育」以来の監督作。芸術的野心とは無縁のところで作られた一個の精緻な芸術的工芸品。5つ星を付けたものの「2001年を代表するピンク映画」とはちょっと言いがたい。20年前に観たならば「普通のピンク映画」で、ただ ちんぽ勃てただけで終わりだろう。古臭いドラマツルギーと背徳的なセックス観。丁寧に振付けられた淫靡なカラミ。陰翳を基調とする豊かな撮影・・・これこそが おれのイメージする「ピンク映画」そのものだ。そうか、渡辺護や梅沢薫は現在のピンク映画界には途絶えてしまった系譜なのだなあ、と思う。そして、その旧いフォーマットの中においては、本作は非の打ちどころのない仕上がりなので、評価するなら「満点」しか付けようがないのだ。…いやほんとなら、かわさきひろゆき の役は絶対に下元史朗の役なのだが「陰陽師」の撮影と重なったのかな? ● 本作を語るうえで欠かすことが出来ないのが、渡辺護とは数十年来の付き合いとなるカメラマン 鈴木志郎の存在である。常に手前になにかをナメる独特なフレーミング。今どきこういう画作りは1歩まちがうとカラオケビデオになってしまうのだが、映画の主題を的確に画で示す豊かな闇の世界など絶品である。ピンク映画で日本風家屋/旅館というとかならず登場する「水上荘」で本作もロケしているのだが、構図の切り取り方ひとつで、見慣れた風景がこんなにも抒情ゆたかなものに変身するとは! ほかのカメラマンは今まで何を撮っていたのだ、とさえ思わせる。 ● 10年ぶりに訪ねた女学生時代の親友の手で、背徳的な性の悦びに開眼させられてしまう若妻(←もう設定がスゴいでしょ?)に里見瑤子。今まで「可愛い」「けなげ」と思わせる役が多かったが、今回はただ「キレイだ…」と溜息。はじめて大人の女を演じて「映画女中」から「映画女優」への脱皮に成功した。 享楽的に生きるヒロインの親友に佐々木ユメカ。こちらも素晴らしい。女王然とした佇まいには、ついついおれも傅きたくなってしまったぜ。 ユメカ姐がママを務めるスナックの女に佐倉萌。せっかくの出演なのに濡れ場が短くて欲求不満。せめておっぱいは見せてほしかったなあ。 あ、ちなみに本作は渡辺護、初のヘアヌード作品でもある。

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アブノーマル体験 第六の性感(橋口卓明)

池島ゆたか の座付き脚本家・五代暁子による、いつもの名作/話題作の“翻案”シリーズ。いかにも池島ゆたかが好きそうなジャンルなのに何故か演出は橋口卓明が担当。特異なタイトルだから勘の良い人ならもうお判りだろう、今回は「シックス・センス」のパクリである。本家とは視点を変えて、幽霊が見えてしまうホテトル嬢をヒロインに据えた、一言でいえばハーレイ・ジョエル・オスメントがブルース・ウィリスを救う話。前半で、幽霊が見えてしまうヒロインの日常(=ホテルや客の家に行ってセックスをする)を描き、真ん中でヒロインの「I see dead people.」があり、後半にブルース・ウィリスが登場、最後はウィリスが妻の寝顔に話し掛けて消えていく。 ● オリジナルの構成をひっくり返した着想は面白いと思う。だがご存知のように五代暁子はあんまり頭が良くないので、開巻いきなりヒロインの「わたしには幽霊が見える」という独白を入れてしまう。それでは濡れ場のあとで振り向くとそこに血みどろの女がいる!というショック演出が台無しではないか。観客は「ああ『シックス・センス』ね」と思うだけ。なんのためにヒロインの告白シーンを中盤に設定してるのか? また、そのシーンの直後にブルース・ウィリスを出してくるので、観客全員がかれの正体を理解してしまうわけだが、恐るべきことに橋口卓明はしばらくの間、その部分をミステリーにして話を運ぼうとするのだ。あほか。黙って立っているだけの幽霊たちを、ただ怖がっているだけだったヒロインは、手相見の力を借りて幽霊たちの真意を理解するのだが、その決め手となるのがホームレスの幽霊の手話。あの手の動きは「タ・ス・ケ・テ」と言ってるんだ!だって。なんで土方に手話が出来んだよ。ウィリスがヒロインに託す「品物」も平凡すぎる。それまで見えるだけだった幽霊の声が(なんの論理的きっかけもなく)聞こえるようになるのもデタラメ。…まあ、でも、しようがないか>バカだから。 ● ヒロインにはこのところ出演本数を増やしている ゆき。 ブルース・ウィリスに田嶋謙一@名演。 その妻に葉月螢。 濡れ場要員に桜沢菜々子。…てゆーか、この女優を主役にすれば良かったのに。「不幸」を背負った女を演らせたら絶品なのになあ。

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美姉妹スチュワーデス 制服けいれん(坂本太)

二流の航空会社であるコウワ国内航空のNo.1 スチュワーデスの姉と、補欠入社のピチピチ・スチュワーデスの妹が、大手の大日空からの引き抜きの噂に浮き足立って…という、出来のよくない艶笑コメディ。 姉にAVギャルの神谷麗子。 妹に、サトウトシキ作品とかに出てたのが嘘みたいにベタなピンク女優になってきてる ゆき。 トウが立ってきて地上勤務にまわされた…って設定なんだけど、画面では1番キレイに撮れてて、もちろんコメディ演技も上手いのが、林由美香。 スッチー・フェチの変態男に なかみつせいじ。 姉の恋人の大日空の機長に竹本泰史←滑舌が悪くて「シチュワーデス」と言ってる。 あと、撮影の創優和は女優の肌の撮り方をもっと研究するよーに。神谷麗子なんて(実際にそうなのかもしらんが)象の膚みたいだったぞ。

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喪服の女 崩れる(後藤大輔)

プロデューサー:池島ゆたか 脚本:後藤大輔 撮影:飯岡聖英
にっかつロマンポルノ末期の1988年「ベッド・パートナー」で監督デビューして、その後は、根津甚八の「ゴト師株式会社3」「ゴト師株式会社スペシャル」、井上晴美の「82(ワニ)分署」、竹内力の「ドーベルマン刑事」、斎藤陽子の「SASORI in U.S.A.」といったVシネマで食いつないでいた後藤大輔が初めてピンク映画のメガホンを握り、デビュー作以来の傑作を撮った。 ● 「男はつらいよ」のタコ社長んとこよりもっと零細な下町の印刷屋。歳の離れた亭主が交通事故で下半身不随になって以来、女房がひとりで切り盛りしてきた印刷屋に、流れ者の印刷工が雇われる。…というストーリーからお判りのように、これは「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の翻案。堂々たる愛欲映画である。もちろん舞台は茹(う)だるような夏。エアコンなんて入ってない狭い工場(こうば)。ランニングシャツが肌に張り付く。ガチャコンガチャコンという印刷機の音は単調な日常生活の象徴。だから男が襲いかかってきたとき、女は躯の奥で思った──この男ならあたしをここから救い出してくれるかも…と。 ● この映画の、貧乏な昭和の風景のなかに濃厚に充満しているのは紛れもない「死の匂い」である。冒頭は、夫の母親の葬儀に喪主代理として出席したヒロインが骨を拾う場面。焼き台の上のカメラから捉えた、その仰角の画面と同じアングルで中盤に描かれるのは、病院の診察室で女医に萎びたちんぽを擦ってもらう亭主の独白。画面には下を向いてちんぽを擦る女医の無表情な顔。すでに身体の半分が死んでいる亭主が、ただ死を待つしかない日々の恐怖を淡々と語る。中庭で待つヒロイン。地面を見おろすと、蟻の行列。ただひたすらに働きつづけて死んでいく五分の魂。彼女は火のついた煙草で蟻を押しつぶす。「郵便配達…」をご覧になった方ならこの物語がどのような結末を迎えるかは御承知だろう。 ● 見あげる。見おろす。視線の上下移動は全篇を通じて貫かれている。ロケハンで捜してきた古い印刷屋は神田や神保町あたりによく見られた「敷地面積の狭い三階建て」で、木造の急な階段が各階をつなぐ。1階が工場。2階に寝たきりの亭主。そして3階が女房の部屋。亭主の趣味のクラシックレコードの演奏の向こうから、微かに聞こえてくる喘ぎ声…。自然光を生かした正攻法で挑んだ飯岡聖英の撮影を、はじめて「良い」と思った。限られた舞台と限られた出演者による映画ではあるが、製作予算300万円という(Vシネマのさらに半分の予算しかない)ピンク映画では避けがたい「画面の安っぽさ」がまったく無いのが素晴らしい。たとえば今村昌平の新作と並べて上映しても見劣りしないはず。 ● ヒロインは佐々木麻由子。今までで最高の演技をみせており、また今まででいちばん綺麗に撮れている。ラスト前の笑顔などスクリーンを観ながら思わず小声で「キレイだぁ」と呟いてしまったよ。新東宝は今からでいいから(かつての日活のように)評論家向けの試写をまわすべきだ。佐々木麻由子がキネマ旬報の主演女優賞を獲れないとしたら、それは「観てないから」以外の理由はありえない。 流れ者にはダンカンをもっと男前にした感じの、野趣で精悍な新人・木村圭作。 ヒロインとレズ関係にある女医に(山崎瞳 改め)山咲小春。こうしたテイストの作品に入ってもまったく違和感を感じさせないのは演技力のある証拠。 さて、本作唯一最大の瑕瑾は、下半身不随の夫を演じた松木良方。演劇畑の人らしいが、あと一歩まちがえていたら こいつの小芝居がすべてを台無しにしかねなかった。予算的に無理なのは判ってて言うけど、ここに石橋蓮司だったら文句なく5つ星だったのに。

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姉妹OL 抱きしめたい(田尻裕司)

両親の結婚生活の不幸な結末と、自身の泥沼不倫の苦い経験から、男性との関係をセックスだけと割り切って、ネットの2ショット・チャット(←なになにそんなものがあるの!?)で男を漁って、互いにハンドル名しか名乗らぬまま、一夜かぎりのセックス(情が移るのが嫌だから体位はいつもバック)を続けているヒロインが、ふたたび他人との関係に一歩を踏み出すまでの物語。 ● 彼女の心の氷を溶かす溶媒となる2組のカップル。彼女の妹:すでに結婚してていわゆる良妻賢母タイプ。亭主がとつぜん「田舎で農業をやりたい」と会社を辞めてきてしまった。だけどそしたら「玩具デザイナーになる」という自分の夢は諦めなきゃいけない…。彼女の両親:高度経済成長戦士だった父。家庭を顧みない父。キッチン・ドランカーになった母。 ● 物語は母親がある日 家出をして、妹夫婦の家を訪ねるところから始まる。脚本は女池充の「多淫OL 朝まで抜かないで」でデビューした西田直子。ピンク映画の脚本としては充分に水準をクリアしてるとは思う。だけど田尻裕司が(飯岡聖英にめずらしく手持ちカメラを持たせたりして)リアルなタッチで演出している…つまり、それ以上のものを目指してると思うので敢えて言うが、この脚本は人間が描けてない。登場人物は事前に作成されたキャラクター表の属性から一歩もハミ出すことがない。「人間の不思議さ」とか「行動の不可解さ」とか「人生の不条理」といったものとは無縁。そしてまた、おれがこの映画を好きになれないのは、この映画には「幸福」がないからだ。物語はきちんと収まるべきところに収まるが、それでもちっとも幸せな気分になれない。ハッピーエンドなんだから観客を暖かい心持にしてくれなきゃ。 ● けなげな妹に(今年に入ってからずっと役に恵まれている)中川真緒。容姿は十人並なんだけど誰にも負けない十人並の魅力を持っていて、実生活でカノジョにしたいタイプだなあ(←マジ) 姉に(演劇方面からの)新人・金井悦子。こちらは容姿ははっきり言って十人並以下なんだけど、演出の力で魅力的に見えることが無くも無い。 たしかにこの2人なら「姉妹」という設定にリアリティあるけど、姉妹そろって地味な女優さんをキャストしたもんだから映画全体がえらい地味ぃな感じになってしまった。これはつまりキャストの組み方を間違えてるんだと思う。これはおそらく「姉=林由美香/妹=河村栞/母=しのざきさとみ/父=野上正義」みたいな、いかにもピンク映画なキャストで観たほうがしっくりくる脚本なのだ。ついでに製作も国映じゃなくて、監督は池島ゆたか…でさ。

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好き者家族 バイブで慰め(池島ゆたか)

池島ゆたか+五代暁子(脚本)コンビによる「奥様 ひそかな悦び」(2000)の続篇。評価は「奥様 ひそかな悦び」のレビュウで書いたとおり。とくに付け足すことはない。今年いっぱいでピンク映画からの卒業が囁かれる佐々木麻由子のコメディエンヌぶりを楽しむ作品。前作では姪だったのにいつの間にか実娘になってるオナニー大好きっ娘に河村栞。息子の新しいカノジョに奈賀毬子。

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玲子の秘密 多淫症の人妻(松岡邦彦)

熟女AV女優・川奈まり子の3本目。「新人主演」が原則のエクセスで主演作が続くというのは、やはり館主やお客さんにも人気があるんでしょうな。顔は山椒魚みたいだし胸がデカいわけでもなし。だけど独特の淫靡さを持っていて、なんか近所に住んでそうなとこがウケてんですかね、いや知らんけど。ただ演技の勘は悪くないので、このまま(主演じゃなくても)ピンク映画に留まったらいいんじゃないかな。しかし、最近は映倫もヘアヌードOKのはずのシャワー・シーンで下腹部にボカシが入るってのは、ありゃ剃っちゃってるってことか? ● 亭主に構ってもらえない三十路女が、むかし取った杵柄でコピーライターのバイトを始めて、その会社の若い男とデキてしまうけど・・・という手垢のついたストーリーだが、折々の花を効果的にアクセントとして使った松岡邦彦の丁寧な演出に免じて星3つ。 高校教師をしててストレス溜まりまくりの亭主に(本多菊雄 改め…というか初期の芸名に戻した)本多菊次郎。 クライアントの若い男に岡部貴一。 その仲間のモラル・フリーな淫乱カップルに、久々登場の牧村耕次と(横浜ゆき 改め)ゆき。<髪型のせいかえらい顔が丸くなってませんか? 亭主のお気に入りのホテトル嬢に河村栞。<今回とても可愛く撮れてる。

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股がる義母 息子の快感(北沢幸雄)

不幸な個人的事情で新作が途絶えていた北沢幸雄の1年半ぶりとなる脚本・監督作。 ● 主人公はモテない孤独な受験生。父親である経済評論家・竹中渉蔵が4度目の若妻を娶るが、かれは毎日テレビ出演や講演に飛び回っているので必然、家には主人公と若い義母が2人きり。じつは竹中渉蔵は無類の女好きで3度の離婚もそれが原因なのだが、今回もまた新妻をほっ放り出して他の女と浮気の虫。そんな父を許せぬ息子は可哀想な義母に同情して・・・という、こちらも手垢のついたストーリー。ここには「お淑やかで優しい義母」が、亭主を「下品な淫乱女」に寝取られるから観客は主人公と共にヒロインに肩入れできるという物理法則が働いてしかるべきなのだが、いかんせん義母を演じる新人・美波輝海にこれっぽっちも魅力がないので映画として成立していない。だって浮気相手を演じてる(山崎瞳 改め)山咲小春のほうが百倍も魅力的なんだもん(演技も百倍うまいし) 主人公と義母のあいだのぎこちない垣根が取り払われて心の交流が生まれていく・・・という話の本筋も手抜きが甚だしく、余人はいざ知らず北沢幸雄ならもっと出来るはず。 それとヒロインが画面に初登場する場面で(フェラをしてるので)いきなり顔の半分にボカシがかかってるってのは、いくらなんでも女優さんに可哀想でしょうよ、AVじゃねえんだから。 ● 浮気亭主に、なかみつせいじ。 時代錯誤なギャル語をしゃべるブスなコギャルに「18才 下着の中のうずき」の笹原りな。いや、ブスなのは別に役作りではないが。

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吉村すもも 奴隷人形(国沢☆実)

夫に構ってもらえない若妻が好奇心に誘われるまま秘密クラブでの肉体オークションで競り落とされ「K」と名乗る正体不明の男と半年間の奴隷契約を結ぶ。Kは女の前に姿を見せず、ただ携帯電話でヒロインにさまざまな指示を送る。例えば、ビデオカメラを届けさせてヒロインの自慰を眺めたり、廃屋に呼び出して配下の男に暴力的に犯させたり。そうして若妻はみずからの躯に秘められた欲望に目覚めていく…。 ● 脚本はいつもの樫原辰郎。洋物のソフトポルノによくあるような設定だが、本作が特異なのは登場人物が4人だけという点にある。若妻、夫、ドラッグクイーンのオークショナー、Kの配下の無言の男。つまり出演している女優は1人だけ。カラミの相手も1人だけ。この他に、携帯電話を通して終始ヒロインに語りかける「Kの声」というのがあるが、これは考えようによっては「満たされぬヒロインの心の声」と取れなくもない。アブストラクトなセットとフレーミング。途中まではその観念性がまるで(同じく大蔵映画を主戦場とする)山崎邦紀のようだなあ…と思いながら観ていたのだが、終盤で、斜めに切り取られた構図にジャズが流れてようやく気付いた。ああ、これは鈴木清順の「殺しの烙印」をやってるのか。なるほど、それではつまらないのも道理だ。てゆーか、この手の話をやるにはスタッフもキャストもぜんぜん力量不足。また普通の「視線SMもの」として見ても「ミニスカ&ノーパン&ピンクローター挿入で駅の階段を登らせる」とか「渋谷駅前のスクランブル交差点でノーブラのブラウスをはだけさせる」といった基本ハザード(←そーなのか!?)が割愛されているので興奮度もイマイチ(←ものすごーく個人的な嗜好でものを言ってませんか?) ● タイトルに名前を冠された本作ただ1人の出演女優=吉村すもも は例によって単体AV女優らしいが、必死で演技してるらしき「アンニュイな風情」はただの無表情にしか見えないし、そもそも構成上どうしたってモノローグ(独り言)が多くなるこの役を台詞まわしが壊滅的な女優(…ですらないAV嬢)に演らせること自体に無理がある。取り柄であるはずの裸体も、良くいえばロリータ・タイプ、…悪くいうと肥満気味の幼児体型で(おれの目には)あまり魅力的に映らなかった。 なお、国沢実のフィルム上のクレジットに☆が付いているのは単なる意匠だと思うが「☆込みで名前」というつのだ☆ひろの例もあることだし、ひょっとしてクニザワ・ホシザネと改名した可能性もあるので(←無い無い)此処でもそのとおりに表記した。

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フェリーの女 生撮り覗き(荒木太郎)

脚本:瀬々敬久
年頭に〈エロの牙城〉エクセスへ進出した今岡信治に続いて、国映の雄・瀬々敬久が越境した。それも〈健全娯楽ピンクの殿堂〉大蔵映画へ。最近の作風からやはり「時代」と「再生」をテーマにした社会派の作品かと思いきや、絶好調の演出家・荒木太郎に提供した脚本は意外にも「ビニ本カメラマン 兼 裏ビデオ監督の中年男」を主人公とする猥雑なる人間喜劇だった。瀬々自身の作品で言うと「好色エロ坊主 未亡人 初七日の悶え」あたりに近いか。だが、いかんせん〈万年映画青年〉荒木太郎は叙情の人なので、「エロ事師たち より 人類学入門」の今村昌平の骨太のバイタリティも、「黒薔薇昇天」の神代辰巳のしぶといのらりくらりも、あるいは山本晋也のいい加減さも持ち合わせていない。ちょっと脚本(ほん)と演出が噛み合わなかったか。瀬々敬久が佐野和宏 主演で撮ったバージョンを観てみたい。 ● さて、この映画にはひとつの仕掛けがあって、じつは舞台が「1980年」という設定なのだ。それは「平凡パンチ」ソニーのベータマックスが生き残っていた時代。まだまだヘアヌードなんてものは影も形もなくて、ビニ本が一世を風靡していた時代。シネアルバムの芳賀書店のイメージが180度ひっくり返った時代だ(ちなみに誤った知識を後世に残さぬために記すが「ビニ本」は「びにほん」ではなく「びにぼん」と発音するのが正しい) 瀬々としては「まだかろうじてロマンが残っていた時代」という意識なのだろうが、映画化された作品では単なる凝った意匠にしか成っていない。いや、当時のポスターやらカレンダーやら雑誌やら下着やらを集めてきた労力は買うけれども、それが物語に意味を成さないんじゃしょーがないでしょ。 ● 裏ビデオ監督には、それまで「普通のおじさん」だったのが荒木組でピンク男優としてデビューしてこれが5本目の、縄文人(なわ・ふみひと) 今までは「いかにも素人さん」という演技だったんだが、主役に抜擢された本作で突如として蛍雪次朗を思わせる苦みばしった味を醸しだしてるのでビックリ。 その悪友で、裏ビデオをオマケにつけてビデオデッキを売りさばいてる電器屋のエロ親父…という山本晋也の時代ならば久保新二が演ったであろう役に(今回、脚本を書くかわりに役者として参加の)内藤忠司。 主人公が、久里浜から東京湾を横切って千葉まで行くフェリーの船上で“拾った”1970年代フーテン娘なヒロインに(今年に入ってからずっと役に恵まれている)中川真緒。 電器屋の後妻に佐々木基子。 その連れ子のセーラー服の高校生に堂々、佐倉萌・・・という女優陣のキャスティングは完璧で、ちゃんと1980年の映画に見える。 ● 前回 買い逃したので今回は初日に駆けつけて恒例の100円イラスト・パンフをゲットした(どうやら夜7時ぐらいに支配人が帰っちゃうと買えないみたい) で、それにも描いてあったけど、フェリーボートの人気(ひとけ)のない駐車場に止めた軽バンのなかでのセックスがもろ「タイタニック」の引用で笑った。 今回はなんとパンフだけじゃなく、挿入歌&役者のメッセージを収録したCD-R 500円と「多呂プロ」のロゴ入りTシャツ 2,500円(デザイン数種あり)も併せて販売中。もちろんこれらは監督とスタッフが自分たちでシコシコと手作りしてるのである。Tシャツはちょっと高めだけど、特典として来年 製作予定の自主ピンク映画の試写会に無料招待してくれるんだそうだ。荒木太郎って「ピンク映画の将来」をとても真剣に考えてるんだと思う。地方の劇場まわり(=女優の舞台挨拶)も積極的に行ってるみたいだし、なんだかすごく“闘ってる”感じがして、そういう姿勢は支持せずには居られんだろやっぱ。

「ガミさん」こと、野上正義は語る。 で、その100円パンフで役者さんたちが荒木太郎にメッセージを寄せてるんだけど、その中で「主人公に私財で戦争ものの裏ビデオ製作を依頼する老人」役で出演している野上正義の文章が素晴らしいので、前半部分だけここに無断引用する。 ● [ここから引用]はーいっ! 歌って・踊れて・立ち回り(殺陣)が出来て、しかもカラミ(ベッドシーン)のうまい「ガミさん」だよ〜ん! しかも、どれをとっても“2〜3流の芸”だというんだから、こんな芸人は世界広しといえどもそうめったやたらにゃ居るもんじゃない。こんな芸で1000本ものピンク映画に出たってんだから笑わせるよねっ! 芝居だって、地のママやってんだか演技してんだかわかんねぇし、朝 集合したときなんざぁ、酒の匂いをぷんぷんさせて、とてもカラミどころじゃないよねっ。共演者にとってみりゃ、えらい迷惑だとおもうんだ。こんな役者がよくもまあ、40年も第一線でやってこれたもんだね。 で、今度の荒木組「(正式なタイトル名がわかんないときている)」が、1001本目の出演作(勿論冗談)になるんだけど、いやあ面白かったです。まさにガミさんの本領発揮!といったところでしょう。夏だというのに軍の冬服を着て、重い軍刀を持って坂道を駆け上り、敵の兵に撃たれて坂を転げ落ち、美人の従軍看護婦に助け起こされ、ついでに“キス”して挿入歌を歌い終わるまで「1カット!」という、年寄りにとってはまるで拷問に近い撮影状況。でもねっ、役者にとっちゃこういう撮影が後々まで忘れられないんだなあ。楽しかったですよ。[引用ここまで] ● 言っとくけどこれ「(談)」じゃなくて野上正義が自分で書いてるんである。それもワープロで(!) 「軍の冬服」という表現に年令が出てるな。それにしても、自分で自分を「ガミさん」と称したり自慢と謙遜がない交ぜになった自己顕示欲。一般読者に分かり難そうな表現にいちいち「かっこ」で註釈を入れる気配り。過剰なサービス精神の向こうに垣間見える、俳優としての正直な心情吐露。おれはこの人が身体全体から発散している、こうした「昔の役者の臭い」がとても好きだ。


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熟女妻 絡みつく夜(小川欽也)

こちらは「1980年を再現」どころか、1970年代からなあ〜んも変わってない老害監督の古色蒼然たるピンク映画。べつに何も書くことはない。そうそう今の朝丘雪路そっくりな新人女優(立花満子)とちゃんとカラむ男優さんは仕事とはいえ偉いなあ。

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高校美教師 ふしだらに調教(坂本太)

脚本:有馬仟世 撮影:佐藤文男 
おお、これは傑作だ。ヒロインの演技力に難点があるので満点はあげられないけれどポルノグラフィとしては文句なく ★ ★ ★ ★ ★ ● 理事長の御曹司との結婚を控えて幸せいっぱいの女教師。だがフィアンセの突然のロンドン留学。代わりに赴任してきたのはかつて教育実習生時代にあたしを性の奴隷として調教した変態教師だった。不安におののきつつ あたしは股間を濡らしてしまう・・・という、いわばフランス書院とかが出している官能小説の世界である。余計なドラマ(この話で言えば「ヒロインの苦悩」とか)や凝った物語性には目もくれず、作者はひたすらにエロだけを描いていく(←単に「ハダカが多い」って意味じゃねえぞ) ● 主演は純名きりん…とは、アニメ絵の巨乳エロ漫画のような日本人離れしたプロポーションで人気だったヌードモデル 草凪純のこと(改名はピンク映画のイメージを嫌う事務所の方針かと思ったら、こないだのフライデーだかフラッシュだかにパブリシティ記事が出てたからそうでもないようだ) 四つん這いになるとまさしく釣り鐘の形になるバストもそうだが、贅肉ひとつない腹部から筋肉の流れが見える大腿部にかけてのカーブがまた素晴らしい。うーん、撫でてみたい(火暴) ただ「天は二物を与えず」とはよく言ったもので(←年寄り臭い表現やなあ)この人、顔に華がなくて、おばさんぽいんだよな。写真なら誤魔化せても動画ではそれが判ってしまう。坂本太は極力、顔のラインを出すようにして若々しく見せたり、あまり演技力を使わずとも済むような演出をして精一杯の努力をしているが、身も心も蕩けてしまう(>おれの)までは行かなかった。 ● かつてのヒロイン自身の姿のように、教師の餌食となる被虐女子高生に〈エクセスの秘蔵っ子〉岩下由里香。 ヒロインの同僚の淫乱女教師にゴールド縁のメガネとワインレッドの下着がイヤらしい、間宮ユイ(←過去最高の艶技) 同じく同僚の加虐変態教師に千葉誠樹。 そして、思いっきりアクの強い演技で変態魔王を演じるのは、なかみつせいじ。<よっ! 待ってました千両役者! なにもヒロインばかりではなく(ピンク映画に女性観客が居たならば)きっと女性観客の股間も濡らしたことであろう。


尼寺の御不浄 太股観音びらき(新田栄)

おなじみ新田栄+岡輝男(脚本)の田吾作コンビによる罰当たり尼寺ポルノ(しかもトイレもの) 例によって容貌魁偉な新人(滄麗美)がヒロインを務める。しかも恐ろしいことに本作には、その容貌魁偉な新人女優と女装オカマ男優(色華昇子)の濡れ場という、はっきり言ってホモ映画のカラミよりおぞましい代物があるのだ。誰が観たいんだよそんなもん。勘弁してくれよ。しかも本作の作者に拠れば、子どもが産めない女は「女として失格」で、その罪は「夫の寛大な心」によって赦されるんだそうだ。一から十まで醜悪の一語。

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痴漢電車 さわってビックリ!(榎本敏郎)

脚本:河本晃 撮影:中尾正人
麻田真夕 川瀬陽太|佐野和宏 小林節彦|十日市秀悦 鈴木敦子|葉月螢
このところ演出家の独り善がりばかりが目についた榎本敏郎が、一転して素晴らしくスウィートなラブ・ストーリーを撮った。ウェルメイドな脚本を(たぶん)下手に弄ることなく映像化して、登場人物の心情がきちんと観客に伝わってくる。ストーリーは、真面目一方の小心者サラリーマンが、同僚OLのカノジョとの結婚が決まってるというのに、若い痴女スリ(=電車でワザと痴漢させて男が油断した隙に財布を掏る)に無理やり「仕事」を手伝わされる破目になり死ぬほど酷い目に遭う…という「押しかけ女房コメディ」である。ラブコメの第一歩は「あり得べからざるシチュエーションによる男女の出逢い」をいかに時間をかけずに成立させるか…にあるが、この河本晃なる新人(?)脚本家は最初の難関をあざやかに処理してみせる(※) 全体の構成も、真面目男が突飛な行動ばかり取る奇矯な彼女に振り回されるうち彼女のことが忘れられなくなり彼女が自分の前から去ってしまうと知ったとき、ついに自分から突飛な行動を起こして彼女の愛を獲得する・・・という黄金パターン。登場人物のあいだを渡りあるく印象的な小道具の扱いなど、ハリウッドのスクリューボール・コメディをよく研究している。感心した。それで上映時間は(ピンク映画だから)62分。爪の垢を煎じてノラ・エフロンに贈ってあげるといいんじゃないか。 ● 黒縁メガネかけて久保新二ばりのオーバーアクションで楽しく主人公を演じるのは川瀬陽太。 ヒロインには新人・麻田真夕・・・って、おおお、月蝕歌劇団に出てる可愛い女優さんじゃないか! アップで見ても可愛いぞぉぉ。舞台で覚えた、全身を使ってのアクションが役柄にピタリとハマり、とかく日本映画では不自然になりがちな「奇矯な振舞いのヒロイン」を見事に成立させている。脚本の構成上か出演契約の関係か、濡れ場は後半に1度だけなんだけど、小ぶりなおっぱいにプツンと勃った乳首がベリーグーでごじゃります。 その分カラみまくってくれるのが主人公のフィアンセを演じるベテラン・葉月螢。 濡れ場ヘルプに鈴木敦子。 そして佐野和宏と小林節彦が(黒木和雄「スリ」の原田芳雄と石橋蓮司そのままに)ベテラン掏摸と刑事に扮して絶妙なコンビを魅せてくれる。てゆーか この映画、最初の企画は「スリ」のピンク映画版だったのかな? ● ※最初の出逢い(これから観るつもりの人は読まないよーに)[主人公が満員の通勤電車に揺られている。ヒロインが近づき主人公を痴漢に誘い、油断した隙に財布を掏る。同時に「仕事」に気をとられているヒロインのカバンから別のスリが財布を掏る。別のスリは離れようとするが自分を見張っている刑事の存在に気付いて止むを得ず「掏ったヒロインの財布」を主人公の背広のポケットに放り込む。その夜、主人公が自分のアパートに戻ると、主人公のことを「財布を掏り返した凄腕のスリ」と勘違いしたヒロインが勝手に上がりこんでいる。主人公まったくワケがわからず「あー!お前なんでこんなところに!?」

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トーキョー×エロティカ 痺れる快楽(瀬々敬久)[キネコ作品]

…困ったねえ。問題作である。開巻いきなり語り部たる主人公が死んでしまう。その周りにもばたばたと人が倒れている。観客には原因も状況もサッパリ判らない。次に「1997年」と時制が表示され「彼が死んだあとの時間」と字幕。街娼になった(死んだ)主人公の元カノジョが、客である「ウサギのヌイグルミを着たサンドイッチマン」にラブホテルで殺されるエピソードが描かれる。次に「1995年」「1989年」と時間がさかのぼり、最後に「2002年」のエピローグが付く。映画が進むにつれて主人公は例のサリンガスの被害に遭ったのだとわかるが、各々のエピソードのヒロインたちには、その事件とはまったく無関係に「不条理な死」がもたらされる。それも下元史朗とか伊藤猛とか川瀬陽太とか佐野和宏の顔をした「死神」によって。これは「トーキョー×エロティカ」というよりは「トーキョー×タナトス」というほうが相応しい一種の「終末もの」である。いや、もちろん瀬々敬久だから最後は「死ぬまでの時間をどう生きるかはお前の自由だ」というアジテーションで締めくくられるわけだし、瀬々の分身たる佐野和宏からは観客に向かってスフィンクスの謎かけが成されるのだが。そればかりか画面の中の俳優たちに対しても「生まれる前の時間と死んだあとの時間て、どっちが長いと思う?」と問いかけが成され、モノクロ画面で素の俳優たちがカメラに向かって答える。テーマ的には「アナーキー・イン・じゃぱんすけ」の語りなおしであり「RUSH!」のラストの自己解題とも言えるだろう。だが、これはもはやピンク映画とは呼べない。ビデオ撮り。それも、そこらのハンディカムで写したみたいな荒れた画面。投げやりな構図。濡れ場は規定数あるものの性的興奮を呼び覚ます類のものではさらさら無く、途中退場率は高いはず。「アナーキー・イン・じゃぱんすけ」のように“普通の映画”として撮ることも可能であった…瀬々敬久にはその力量があるのに敢えてそうしなかったのならば、これはもうプロの俳優によって演じられる自主映画としか言いようがない(おれの世代だと山川直人とか長崎俊一を思い起こさせる) しかも掟破りの77分(製作はもちろん国映) 星4つの評価はあくまで「自主映画」としてのものであり、ピンク映画館で上映するための「商業映画」としては失格。 ● 出演者を列記しておく。佐々木ユメカ。石川裕一。下元史朗。佐々木麻由子。伊藤猛。佐藤幹雄。川瀬陽太。奈賀毬子。えり。佐野和宏。 あと「夜の街角に佇む佐々木ユメカ」を写した(ピンク映画としての公開時の)ポスターがどえりゃあカッコええがね。 ● [追記]2002年の6月にユーロスペースでレイトショー公開された。

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三浦あいか 痴漢電車エクスタシー(国沢実)

演技のまったく出来ない素人が主演する映画を観とおすのがいかほど苦痛かという好例。ヒロインの「三浦あいか」なるAVギャルは、黙ってると木ノ内みどり〜工藤静香 系のスリム美人で、なかなか可愛いのだが、ひとたび口を開くと、そこらで捕まえてきた通行人にその場で台詞を与えて喋らせてもかくや…というほどの大根ぶり。てゆーか、この女、新生児でもあるまいにいまだに首が据わってなくて、台詞を言いつつも、顔が前後左右にふらふらくらくら、心ここにあらずで目線も虚空をあてどなくさまよう…という奇っ怪さ。なな、なんなんだ!? 「エコエコアザラク」の気の触れたクラスメイトの役とかが似合いそう。おまけに脱いだら脱いだでアバラが骨格見本のようにクッキリと浮き出す鶏がらヌード。あれ、セックスしたら痛そうだよな骨が当たって。カチカチ言いそうだもん。てゆーか、なんかアブないクスリとかやってませんか!? ● ストーリーは「痴漢が趣味の都庁職員の中年男」と「財閥の御曹司の傲慢な大学生」と「代々その一族に召使として仕えてきた家の娘」の三角関係。おおよそのところ「社会的制度の束縛」と「自由」について…とゆーよーなテーマであるらしいが、樫原辰郎の脚本は奇想の域を出るものではなく、物語は未消化のまま放り出されている。 でまた「御曹司」役の近藤友弥がとてつもない大根(←巨根じゃないよ。根ね)なんだわ。台詞にまったくメリハリ/抑揚ってもんがないの。 「中年男」役の田嶋謙一が孤軍奮闘してるが、もはや映画を救いようもなく。 「痴漢の被害者」役で里見瑤子と間宮結。

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和服熟女 三十路のさかり(工藤雅典)

石井隆へのオマージュとも取れるメロドラマ「人妻発情期 不倫まみれ」(1999)でピンク映画シーンに鮮烈に登場して以来、エクセスの生え抜きエースとして順調にキャリアを重ねてきた工藤雅典が、デビュー作以来の不倫メロドラマに挑む。主演は今年に入って今岡信治「濡れる美人妻 ハメられた女」、藤原健一「痴漢ストーカー 狙われた美人モデル」と、立て続けに傑作のヒロインを託されている沢木まゆみ と、昨年のピンク映画大賞でみごと男優賞に輝いた絶好調・なかみつせいじ。サポートには野上正義、葉月螢、佐々木基子のベテランが揃う。この面子で「期待するな」というほうが無理だろう。…だったんだけどねえ。 ● 近頃では妻との仲もギスギスして来た30代の敏腕編集者。新しく担当になった大作家の邸宅に挨拶に赴いた彼を出迎えたのは、老作家の妻となっていた大学時代の恋人だった。抑えても抑えきれず燃え上がる恋心。だが2人の仲は作家の知るところとなり…(脚本:工藤雅典&橘満八) ● デビュー作を「石井隆 的」と感じたおれは間違ってなかったようだ。なんと今回の新作は石井隆の原作・脚本/曾根中生・監督による日活ロマンポルノの傑作「天使のはらわた 赤い教室」の本歌取りなのである。などと書くと諸賢におかれては「ま〜たm@stervisionは馬鹿のひとつ覚えみたいに石井隆、石井隆…って、ほかにメロドラマを知らんのか、このボケ!」とお思いだろうが、いや、だって実際そうなのだ。おれが…じゃなくて、この映画が。共通点は「主人公が編集者」ってだけじゃない。主人公とヒロインの感情の流れは、ほぼ「赤い教室」に重なり合う。作者がやりたかったのは、蟹江敬三に"裏切られた"水原ゆう紀が温泉マークにゆきずりの男を連れ込んで果てるまで おまんこに溺れる場面や、蟹江敬三が男の慰みものになる水原ゆう紀を暴力バーの押入れから成す術もなく見ている場面の(感情の)再現だろう。やたらと手持ちで被写体に寄っていく井上明夫のカメラワークは、明らかに「赤い教室」の水野尾信正のそれをリファレンスにしている。 ● だが、その挑戦はあまり成功していない。沢木まゆみ には愛に満たされぬ「可哀想な被害者」としての貌は(なんとか)出せても、男を愛して裏切られて堕ちることによって突き抜ける「女の妖艶さ」という面においては水原ゆう紀に及ぶべくもない。2人の気持ちが燃え上がる過程の「ジラし」を書き込まない粗雑な脚本は、心の箍(たが)が外れる瞬間を唐突に見せてしまうし、男の"心変わり"にしても明らかに説明不足である。主人公に(物語の展開上)ふと目にとまったピンクチラシでホテトル嬢を呼ばせるために──編集者という職業柄、とうぜん携帯電話を所有していて、現にその直前の場面で携帯電話を使うシーンがあるにも関わらず──公衆電話ボックスから電話をかけさせる…とか、画面の手前に携帯電話をナメて「さあ観客の皆さん今からこのケータイが鳴りますよ」と言わんばかり…など不自然な演出も目立つ。佐々木基子 演じる関西弁のホテトル嬢の描写や、終盤、妻のツバメにボコボコにされる主人公の場面の物足りなさなど、演出家の力量不足 以外のなにものでもない。撮影にしても手持ちを多用したせいでピンぼけが目立つのでは本末転倒だ。意欲あふれる失敗作といったところか。…ま、沢木まゆみ の艶やかな和装の数々と美しい裸身は楽しめるし、ピンク映画としては充分に ★ ★ ★ だけれども。

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淫女乱舞 バトルどワイセツ(山崎邦紀)

「バトルどワイセツ」と言われてもピンと来ない人が多いだろうけど、つまり「バトル・ロワイアル」のもじりである。もちろんピンク映画女優を40人あつめて殺し合いをさせるような予算などない(てゆーか、現役のピンク映画女優って40人も居ないような気もする)ので、山崎邦紀は「バトル・ロワイアル」の〈自分が生き残るためには他人を殺せるか?〉というテーマだけを抽出する作戦に出た。 ● 「感染したら1週間以内に誰かとセックスしなければ死ぬ」という(まるで風邪のような)「粘膜感染性ウィルス」という枠組みを用意して、いわば「ヒドゥン」形式で死のリレーを描いていく。〈ピンク映画界のデビッド・リンチ〉こと山崎邦紀 独特のビザール・コメディである。 エイズの対抗ウィルスを作るつもりで、致死性ウィルスを開発してしまった異端の医学博士に、真央はじめ。元はといえば自分の責任なのに、ウィルスが感染するたび新たな被害者に電話をかけて、嬉々として「ゲームのルール」を説明するのが可笑しい。 自殺しようとしたところを医学博士に救われた!…と思ったら、致死性ウィルスをウツされて踏んだり蹴ったりの年増ストリッパーに、佐々木基子。 その長年の追っかけファンで、憧れの姫とセックスできた!…と思ったら、ウィルスを自分にウツすためだったという惨めな独身中年男に、キャンディ・ミルキィ。<えーと、なぜこんな名前かというと、このオジサンじつは有名な女装者で、本篇にも「来世で女に生まれ変わることを夢見る」という出演者サービスの女装シーンがある(←そんなん見たくなかったよお) その隣人の淋しい中年女@デブに、深田みき。てゆーか、B92で、75のFなら おれ的にはデブでもぜんぜんオッケーっす。 そんな彼女を付け狙うデブ・フェチのレイプ魔に、柳東史。 そして最後に出てくる謎の美女に、里見瑤子。 ● …と書いてくると、いかにもキワモノのようだけど、これって登場人物がみな不幸を抱えていて、それがセックスという「信頼/安堵」を得た直後に、死という「裏切り/絶望」に見舞われる…というけっこう深い映画なのかも。<そうか?

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ピンサロ病院4 ノーパン看護(的場ちせ)

厚生省勤めの主人公が、患者に違法なセックス・サービスを施している疑惑のある病院に、検査入院を装って内偵に入る。そこはじつはかれの恋人が看護婦をしている病院でもあり…という、的場ちせ(=浜野佐知)監督+山崎邦紀・脚本のコンビによるいつものイケイケSEXサスペンス。このコンビの作品だから最後はとうぜん「患者とSEXして何が悪い!? これぞ病院の理想像!」というカゲキな結論になるわけだが、そこにいたる病院の秘密治療のシステムのディテイルが疎かで、いまひとつ絵空事を容け入れられない。たとえば同じく望月ねね の出ていた「買う妻 奥さま(秘)倶楽部」のなかで「奥様牛乳という牛乳パックのバーコードの数字が秘密クラブの電話番号になってる」とかそういった類の工夫が欠けているのである。…まあ、主人公の疑心暗鬼の妄想がいちいち画になる(いつもながらの)カラミ&ヘアヌードの大盤振る舞いはピンク映画としては何の問題もありませんが。 ● 恋人への疑惑に悩む主人公に、竹本泰史。 恋人のナースに、望月ねね。(拙いながらも)女の二面性を演じ分けようと努力していて好感を持った。 巨乳ナースに風間今日子。 婦長に佐々木基子。

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誘い妻 不倫でお仕置き(深町章)

かわさきりぼん脚本+深町章・演出による、「いんらん旅館 女将の濡れ姿」に続く噺家・平成春団子とその女房シリーズ第2弾。…って、あれ? この2人、夫婦漫才師じゃなかったっけ。 (古いPG誌をめくってる) …あ、最初から噺家という設定か。なんで夫婦漫才師と勘違いしたのかなあ>おれ。 ● 例によって浮気な(噺家の)亭主がどこぞの小娘と乳繰り合って、怒った女房が(行きがかり上)意趣返しで師匠と浮気。そこへ師匠のおカミさんが乗り込んで来て「あんたら破門や!」と宣言。女房はこのうえは死んでお詫びをしようと…という、じつはこれ、新東宝恒例のお盆の幽霊もの企画なのである。女房が死んだふり(=幽霊のふり)をして亭主を改心させようという昔からある話なのだが、「亭主の浮気を諌める」ってのと「自分の浮気を死んでお詫びする」という2つのベクトルがゴッチャになって、すっきりしない出来。 ● かわさきひろゆき=水原香菜恵という、劇団星座の座長=女優コンビの主演は前作のまま。お世辞にも「美人女優」ではない水原香菜恵が可愛く見える瞬間があるのだからハマリ役と言えるだろう。深町章にピッタリの艶笑喜劇シリーズでもあるので、新東宝には(それこそ「男はつらいよ」のように)お盆&正月恒例企画として、ぜひ長く続けてほしい。但しその場合、かわさきひろゆき は少し落語の勉強をするよーに(やはりこの話でハッピーエンドに高座のシーンを持って来れないのは辛い) バカでっかい蝶ネクタイの平成春雨(はるさめ)師匠に、これも引き続き、久保新二。 そのおカミさんに、関西弁の達者な佐々木麻由子@広島出身。 撮影は、テレビドラマで欠席中の清水正二に代わって、飯岡聖英が代打ち。まあ無難に勤めてる。(レンズに脂を塗ったかなんかして)幽霊の足元をボカしたまでは結構だが、背後の食器戸棚のガラス戸に足が映ってるぞ。 あと、どーでもいいけど「一穴主義」って「ひとあな主義」と読むの?

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義母と教師 教え娘の部屋で…(勝利一)

たとえばあなたがピンク映画の脚本家だとして「実体験しないと書けないタイプの(人妻でもある)官能小説家が、義理の娘の家庭教師とセックスしちゃう艶笑ポルノ」の脚本を書いたとする。監督のOKをもらい、会社のゴーサインも出て、台本を印刷に出し、いよいよクランクインというときに監督から電話がかかってくる。「もしもし国見ちゃん? 例の新作さあ、美麗って中国人のAV女優いるじゃん? アレが主演になっちゃってさあ。悪いんだけど、ちょちょっと直し入れてくんない?」「ちゅ、中国人て、監督ぅ、小説家の役ですよ!? 日本語カタコトの女優に出来るわけないじゃないスか!」「そうカタいこと言わずにさあ。会社が『あのコで行け』っつんだからしょーがないじゃん。もうクランクインだからさあ頼むよう」・・・というわけで本作の脚本家・国見岳志は、さぞ驚いたことであろう(←想像) もちろん全面改稿してる時間はないから(←想像)件の中国人AV女優が「アアモー、ドーシタライイノォ!?」と台本を(たぶん意味も解からず)棒読みし、さらには官能小説を口述筆記するというムチャな設定の映画が出来上がった。この小説家女史(中国人なのに)四十八手に造詣が深いらしく、セックス中にさまざまな体位を試しては(往年の正義のヒーローが必殺技を叫ぶがごとくに)体位の名前を「帆掛舟ぇ!」とか「ひよどり越ぇ!」とか(←そんなの無い?)カタコトの日本語で宣言するのがバカバカしさに拍車をかける。ところがこれが逆に往年の宇能鴻一郎ポルノの「オツムがちょっと弱くて、性的抵抗力はとっても弱いヒロイン」にも通じる味わいになるのだから、まこと娯楽映画とは奥が深い。後妻である淫乱な母に反発している高校生の娘に(このところ出ずっぱりの)河村栞。濡れ場要員に風間今日子。ピンク映画としては ★ ★ ★ でしょう。

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浴衣未亡人 黒い下着の誘惑(坂本太)

たとえばあなたがピンク映画の脚本家だとして、以下のシチュエーションのドラマを書いたとする・・・ヒロインは日舞の家元に嫁いだものの、夫に早逝されて、いまは家元代理みたいな立場にいる。ほんとはまだ若い夫の弟に継いでほしいのだが、義弟は密かにヒロインに焦がれていて、自分が家元を継いだら義姉が家を出てしまうことを怖れて(やりたくもない)会社員などをやっている。義弟には恋人がいて、彼女は近々に名取になろうかというヒロインのお弟子さんなのだが、カレシが自分のお師匠さんに惚れていることに薄々 気付いている。さて「ヒロインの義姉」と愛のない結婚をしている義兄も、やはり密かにヒロインを想っていて、女房との離婚を機にヒロインに想いを告白すると、じつはヒロインのほうも相惚れしていたとわかる・・・さて問題です。ここでヒロインの取るべき行動は? >>> 好きな男と2人でどこか遠くへ行き、家元は義弟に継がせる? …はい、正解です。ところが本作の脚本家・有馬千世は突如としてヒロインに義弟を誘惑させるのである。「あなたが義姉さんのこと好きなのわかってるのよ。義姉さんが抱きたかったら家元を継いで頂戴。義姉さんのこと欲しくないの?」…って、変だろそりゃ。そんなことしなくたって、ヒロインが黙って消えれば、義弟は(そりゃ最初は傷つくだろうけど)結局はカノジョと結婚して家元を継ぐだろうよ。坂本太はフォトジェニックなロケ場所を探すより先にやるべきことがあるだろう。この話で「着付け」と「結髪」と「踊り」が全滅ってのもヒドい。ただ、ヒロインに時任歩、お弟子さんに里見瑤子、意地悪な義姉に林由美香と女優がそろってるので、ピンク映画としては ★ ★ ★ でしょう。

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おんな35才 熟れた腰使い(池島ゆたか)

やくざ映画とピンク映画はどちらも「タイトルが内容を反映しているとは限らない」という点で共通している。だが「やくざ映画」が それ自体、特定のジャンルを表わしているのに対して、「ピンク映画」は「濡れ場がある」という一点を除けばジャンルも内容もばらばらな作品群の総称であるので、これはもう実際に観てみるまでは事前に内容の予測は不可能である(「痴漢電車」ってタイトルで電車の場面が冒頭5分だけなんてのがザラにある) ● もちろんそうした闇鍋的性質はピンク映画を観る楽しみのひとつでもあるわけだが、稀にタイトルの匿名性が観賞の際に足を引っ張ることがある。たとえばある種のホラー映画がそうだ。観客が「いま観ている映画がホラー映画である」と了解していれば「いつ始まるのか!?」という期待感を膨らませたであろう前段部分も、その映画が何処へ向かうのか見当もつかない観客にとっては何が描きたいのかわからない退屈な前フリでしかない。じつは本作がホラー映画であると判明するのは(上映時間1時間の映画のうち)始まって30分過ぎの不穏なカメラワークによってなのである。 ● 聡明な作者ならば「冒頭でヒロインが目にする新聞/雑誌/テレビで心霊現象を特集している」といった方法で、さりげなく観客に前口上を行うであろうが、五代暁子(脚本)+池島ゆたか のコンビにはそこまでのアタマは回らなかったらしい。中盤から終盤にかけての展開は(ショック演出がモタつくという致命的な欠点はあるものの)なかなか見応えのあるものだが、なんとも安っぽい霊能力者の登場と、その口から すべてを台詞で説明させてしまう無粋なわかりやすさが、それまでの盛り上がりを台無しにしてしまった。おれなら霊能力者はカットして[ヒロイン]に自分で気付かせる。あの「心霊写真」をもっと早目に出しておいて、あるときフッと写真の「影」が[バスルームのミラーかなんかに映る自分のシルエット]とそっくりだと自分で気付かせたほうが、ずっと効果的で哀しみが増すと思うぞ。 ● 自分の実年令をタイトルにされるという羞恥プレイに耐えて「35才・独身OL」を演じるのはベテラン・吉行由実。生来の魔女顔が見事に活きた。これは吉行監督作の脚本も手掛ける五代暁子ならではの功績だろう。それにしても、まるで本作を限りにピンク映画女優を引退してしまうような幕切れだったなあ…。 タイトルよりは少し年下の「同僚OL」に佐々木麻由子。 その結婚相手に石川雄也。 そして、アッと驚く久しぶり銀幕登場の風見怜香。引退してるあいだに付いたお肉がスンゴイことになってるけど腰のくねりが衰えてないのはサスガ。 これだけのベテランに囲まれては今をトキめく河村栞が、職場の若手OLという脱ぎなしのチョイ役なのもむべなるかな。 しかしタイトルがタイトルとはいえ、容赦ない照明でベテラン女優たちの肌の衰えを映し出した池島組初登板の撮影・鈴木一博はいい度胸してるよ。公園のベンチに座るヒロインを捉えたぐるんぐるんパンし続けるカメラも素晴らしい。

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義姉さんの濡れた太もも(荒木太郎)

「痴漢バス いじめて濡らす」「喪服妻 湿恥の香り」…と、わが愛する時任歩さんの魅力を誰よりも引き出してきた荒木太郎。ほぼ1年ぶりとなる待望の時任歩 主演作である。ヒロインは温泉旅館「水上荘」の未亡人女将。子どもを親戚に預けて忙しく切り盛りしてるので、アッチのほうは欲求不満気味。そんな彼女は毎晩おなじ夢を見る。夢の中では彼女は「エグいのを撮ると評判の女流AV監督」で、東京のマンションに独り住まい。性欲は出張ホストでドライに処理する都会の女。ところで彼女は最近、自分が温泉旅館の女将になった夢を見る…。 ● すでに諸賢がお気付きのようにデミ・ムーア「薔薇の眠り」の翻案である。ところが内藤忠司による脚色が、ロン・バス(じつは「エントラップメント」「ヒマラヤ杉に降る雪」「奇蹟の輝き」「ベスト・フレンズ・ウェディング」「レインマン」などのベテラン)の原脚本よりはるかに優秀なので本家よりもずうっと面白く仕上がっている。デミ・ムーアのいい気な夢が交互に現れて「もう、どっちゃでもええわ」となったオリジナルに対して、本作ではAV監督が温泉旅館「水上荘」に、未亡人女将が東京のマンションに行くというスリリングな交錯へと展開し、最後はしんみりジーンとさせてくれる。傑作である。もちろん時任歩サマの「しっとり着物の未亡人」と「キリリとハクい(死語)キャリアウーマン」の濡れ場くらべも楽しめるというお徳さ。同じ女優が同じベッドで交互に濡れ場を演じる(=つまり着衣では区別できない)というシークエンスを、微妙に光線を変えて撮り分けた前井一作の撮影も素晴らしい(荒木組先代カメラマンの名匠・清水正二の域に達したと思う) 何処からともなく吹きつける風がヒロインの髪を揺らし、運命の拍子木がチョーンッと鳴る。絶好調・荒木太郎の演出が冴えわたる。まさか、さりげなく流れる「幸せなら手をたたこう」のBGMまでが伏線だったとは! ● 対照的な二役を演じる時任歩は文句のつけようがないくらい素晴らしい。いや、堪能いたしました。 女将に惚れている義弟に、ホモ映画「ポリス」に続いて「石川雄也の外見+今泉浩一の声」を持つ男=西川方啓。 AV監督に惚れてるプロデューサーに、劇団「tsumazuki no ishi」(寺十吾 主宰)に所属(?)の木立隆雅。ただ残念ながら、この相手役2人が時任歩の芝居を受けきれてない。2組の恋愛にもうちょっと情感があったら満点だったんだが…。 水上荘の仲居に(これまた着物姿が蠱惑的な)佐倉萌。 AV女優の役に「喪服妻 湿恥の香り」の前野さちこ。 ● 荒木太郎の映画のお楽しみといえば100円の手作りイラスト・パンフ。ところが今回は封切り2日目に行ったのに、もう売り切れ。悲しい。どーゆーこっちゃ?>上野オークラ。

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痴漢ストーカー 狙われた美人モデル(藤原健一)

企画:福俵満 脚本:藤原健一 撮影:中尾正人 照明:東海林毅
出演:沢木まゆみ 中川真緒 重村佳史|西野美緒 土田良治
歌舞伎町のホストあがりの「別れさせ屋」探偵が、標的である人気モデルに本気で惚れてしまって…というハードボイルド・タッチのメロドラマ。ミステリの要素もあるがそれがこの物語の眼目ではない。つまり、このジャンルにご執心の新東宝プロデューサー・福俵満が、昨年から橋口卓明に撮らせている園部亜門シリーズ(「人妻家政婦 情事のあえぎ」「人妻浮気調査 主人では満足できない」)の同工異曲なのだが、友松直之「コギャル喰い 大阪テレクラ篇」の助監督出身で、現在H系Vシネマで活躍している新人・藤原健一は、橋口がおざなりに済ませていた「探偵がヒロインに惹かれていく過程」を丁寧に描くことによって、メロドラマの傑作に仕立てた。「天使のはらわた」時代の石井隆に惚れてる方にお勧めする。 ● ヒロインの、上京して2年の人気女子大生モデルに(佐々木乃武良「口説き屋麗子 火傷する快感」では「別れさせ屋」を演じていた)沢木まゆみ。これで彼女は今岡信治「濡れる美人妻 ハメられた女」に続いて今年のピンク映画の2大傑作に主演…ということになる。演技のレベルはお世辞にも「芝居好きのAV女優」の域を出るものではないが、それでも「女優」として何とかなりたいという彼女の切実な願いはひしひしと伝わってきて、それがヒロインと見事に二重写しになる。 探偵に(Vシネの役者さんだろうか、ピンクでは見かけない顔の)重村佳史。 探偵に騙された「前回の標的」で、でもそのまんまズルズルと関係が続いている銀行OL(?)に中川真緒。サトウトシキ「団地妻 隣りのあえぎ」に続いてやはりここでも「普通っぽい切なさ」が素晴らしい。 モデルとデキてるプロダクション社長に(真田広之にちょっと似てる)土田良治。 探偵に仕掛けを依頼する「プロダクション社長の妻」に巨乳AV女優の西野美緒(←このコも意外と勘が良い) ● 特筆すべきは、中尾正人&東海林毅の撮影・照明コンビの仕事ぶりで「夜」「どしゃぶりの雨」「逆光」…といった工藤栄一ばりの定番アイテムを着実に「絵」にしている。とても橋口の2作と同じカメラマンとは思えんなあ。…不思議だ。 惜しむらくは音楽が在りものの選曲らしく、肝心な場面の劇伴が何箇所か陳腐に踏み外してしまっている。

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いんらんアパート 毎晩いかせて!(深町章)

1年ぶりの岡輝男+深町章コンビ作は昨年の「OL 金曜日の情事」に続いてやはり「女幽霊と生身の男の艶笑落語」である。毎夜、女をとっかえひっかえのプレイボーイが、長く患っていたアパートの隣室の女性が死んだと聞いて「隣人のよしみ」で焼香に行くと、こいつが若くてキレイな娘さん。なんだ生前に知り合ってれば本命にしても良かったのになあ…と、線香を供えると、その夜、枕元に娘の幽霊が現れて「じつはわたしは処女のまま死んでしまって、このままでは成仏できません。どうか一度だけお情けを…」 男が哀れに思って手練手管を駆使して娘に女の悦びを教えてあげると、お約束どおり翌晩も娘は現れて「四十九日まではアチラに行かなくて良いようなので、それまでは毎晩セックスしましょ!」 ● 脚本が田吾作・岡輝男であるので相変わらず「幽霊とセックスした男は生気を失って衰弱していく」という怪談噺の約束事が守られていない。もっとも田吾作のしょむない台詞も深町章が撮ると それらしく聞こえて、これが演出の力というものか。 ヒロインの幽霊にハツラツ 里見瑤子。これは適役。文句なし。 問題は主人公の岡田智宏で、この役者、どうも深町章のお気に入りらしく やたらと重用されているが、おれは「演技のレパートリーの少ない大根役者」だと思うんだがなあ。本作でも「気の良い青年」には見えても到底「女の気持ちなど露ほども考えないプレイボーイ」には見えなくて、それだと「愛を知らないプレイボーイが女幽霊によって人を愛する気持ちを知る」という話の根本が成立せんのだよ。 冒頭で主人公に捨てられる同僚OLに(なぜか いつもちょこっとしか出て来ない)奈賀毬子。 後半登場の「濡れ場応援」に佐々木麻由子。

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エクセスの2本立ては、歌舞伎町のノーパン喫茶からヌードモデルを経て、1984年に映画デビュー以来(短かった結婚引退期を除くと)一貫して裸商売を続けてきている イヴ主演「三十路の後家さん よがり泣き」と、1982年に映画デビューして途中7年ほどのブランクを経て最近 復活した朝吹ケイト主演「馬を飼う人妻」のカップリング。たぶんお2人ともおれと同い年ぐらいと思われるが、よくやるなあ。イヴのほうは(そりゃ昔に較べれば容色が衰えたとはいえ)まだまだ綺麗だし、それに彼女には「裸を見せるプロ」としての誇りがあるので、ちゃんと「ヒロイン映画」として成立してる。問題は朝吹ケイトで、この人は昔からバタ臭い顔だちとプロポーションが良いの(だけ)が取り柄の味も素っ気もない大根女優だったわけで、いまさら復活されても急に芝居が上手くなるわけじゃなし、なにより肉体の存在感が希薄なのが致命的。いくら おれが秘密結社「イエスタデイ・ワンスモア」の党員だからって何でも古けりゃいいってもんじゃないぞ。

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三十路の後家さん よがり泣き(剣崎譲)

(たぶん)好評につき継続して製作されている関西ENK製作/剣崎譲・監督/イヴ主演の「熟女もの」の新作。今回の役どころは、亡夫の借金返済の為に(やはり寡夫の)義弟の経営するカー・ディーラーで肉弾セールスをする元気ハツラツな未亡人。もちろんイヴに惚れてる義弟が「姉さんそんなことまでしてクルマを売らなくても」と言うと、イヴは明るく「なに言ってるの! 努力の努の字は“女のマタに力”って書くのよ」(脚本:木田梅太) …まあ、しんねりした役よりは、こういう宇能鴻一郎タッチのヒロインのほうがイヴの個性には合ってると思うけどさ。 ● 剣崎組レギュラーの藤田佳昭が演じる義弟には、高校生のひとり娘がいて、これがやたらと色仕掛けで父親を誘惑する(ように彼女には見える)イヴに反感を持っていて、この2人の反目と和解がメインストーリー。女子高生に扮するのは「美人おしゃぶり教官 肉体(秘)教習」の岩下由里香。ちょっと不良っぽい、けれど潔癖で芯がしっかりとした感じがよく出ている。「極妻」の「鉄砲玉のちんぴらの恋人→仇討ちのため無謀にも巨大組織の組長にドス抜いて向かってくホステス」とかに向いてそう。

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馬を飼う人妻(下元哲)

おれがピンク映画を観てなかった時期なのでどういう理由によるものか解からないのだが、かつて「馬とおばさん」「犬と馬とおばさん」というゲテモノ路線が当たったことがあって、たしかその時は新東宝/石川欣・監督(脚本?)じゃなかったかと思うのだが、21世紀にもなって、なぜか突然、復活した石川欣・脚本による「馬と熟女」もの。 ● 精力の衰えてきた実業家が、若い妻の愛を試すために若い男をけしかける…という話。「エマニエル夫人」じゃあるまいし、いまどき「有閑マダムの性の彷徨」などというテーマはトンデモ映画として撮るしかないわけで、その意味で王道のエロ路線を往くディレクター=カメラマン 下元哲に監督を任せてしまったのは失敗。これは石川欣自身か、もしくは山崎邦紀あたりが撮るべき題材だった。 ● 朝吹ケイトには映画を背負うだけの魅力なし。 元ジョッキーの野性的な厩舎員に なかみつせいじ。これは適役。 だが、日比野達郎が演じた「強迫観念に囚われた老実業家」は明らかに野上正義の役だろう。 実業家から若妻の誘惑を命じられるプレイボーイ社員に(まったくそうは見えない)岡田智宏。 大した役ではない濡れ場要員に(横浜ゆき 改メ)ゆき、しのざきさとみ、そして桜沢菜々子。 ちなみに馬の陰茎は(ビデオ撮りで誤魔化してはいるが)作りもの。ま、本物 見せられても引くが。それにしても馬糞を触った手でフェラされるのは嫌だなあ。

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エロスの住人 ハメ快楽(渡邊元嗣)

ああ、ついに…。昨年、今岡信治の「OL性白書 くされ縁」で演技開眼しながらも今年の2月に引退を発表した黒田詩織の、最後の出演作である(大蔵映画は完成から公開まで3ヶ月ぐらい間があるので今頃の公開になるのだ) 少女小説家を目指しながらも芽の出ないヒロインが心機一転、編集者の差し金で、売れっ子 官能小説作家に弟子入りする。ところが このセンセイ、超遅筆のうえに超実践主義だったから…という、山崎浩治・脚本による艶笑コメディ。本来のジュブナイル・タッチよりも(渡邊の師匠の)深町章 色が強く出た作品となった。 ● (最後の)ヒロインを務めた黒田詩織はコメディ演技はまあまあなのだが、濡れ場の表情が自然でとても良いし、心情を告白するクライマックスなどは、彼女の演技が渡邊元嗣の演出に勝ってしまい軽い艶笑コメディには似合わぬほどの生の感情が噴出する。ああ、惜しいなあ…(嘆息) 官能小説作家「桑畑六十九郎」に、渡邊組レギュラーの十日市秀悦。うーん…。ヒロインの愛情の対象となる役にはちょっとキツいか。いつまでも引き合いに出すのはフェアではないと知りつつも、つい「これが螢雪次朗なら…」と思ってしまう。 原稿の催促のために作家宅に詰めているエロ雑誌編集者に、間宮結(ユイ)。やさぐれた風情のハスキーボイスに薄い胸。かつての武田一成とかの彷徨者映画に出たら似合いそう。 同じく官能小説誌の編集者に、しのざきさとみ。 ● 例によって撮影の飯岡聖英はフィルターの使い方(=光線の制御)が下手だ。都合2度ある「屋外のヒロインと編集者の打ち合わせ場面」は通常の光線で撮影すべきなのに、最初のは意味なく青く(=冷たく)て、後のはトバし過ぎ(露出を間違えてる?) また「ヒロインの甘い回想」にアンバー系統のフィルターをかけるのは良いとして、続く現在時制の「用水路脇の道での作家とヒロインの場面」にまで(夕景のつもりなのか)同じフィルターをかけたままなので、まるでそれが回想場面に見えるという初歩的なミスまで犯している。 ● 最後に(またまた例によって)渡邊元嗣に日本語を教えちゃるけれども、「玉稿」の発音は「ぎょっこう」であって決して「ぎょくこう」じゃないし、「シュミレーション」は「シミュレーション」の間違いだ。大のおとなが5人も10人も集まってんだから誰か気付けよアフレコの時にさあ。

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団地妻 隣りのあえぎ(サトウトシキ)

脚本:今岡信治 撮影:広中康人 音楽:山田勲生
おお、いきなりカメラが泳いでるぅ。長年にわたりサトウトシキと併走してきた脚本家・小林政広の「ピンク映画休筆宣言」を受けて、あらたに「現在のピンク映画界の最重要監督」今岡信治を脚本に配して製作された「団地妻」シリーズ最新作。小林脚本との違いを一言でいえば「端整から軟体」へということであろう(←ちょっと山根貞夫 調?) サトウトシキ=小林政広の「団地妻」シリーズが「オロカな夫たちとチャッカリ者の妻たち」を描いていたとすれば、今岡信治の本作が描くのは「情けない男たちとジタバタとあがく女たち」である。小林脚本における「団地」…すなわち家庭/夫婦が「日常=帰るべき場所」として設定されていたのに対し、今岡信治の「夫婦」ははるかに不定形なものである。それはまだ「家庭」という形に固まっておらず、ヒロインは「ヤダ。このまま終わっちゃうの嫌だ」と先の見えない旅に出る。ラストではいちおう2組の夫婦は元の鞘に収まったようになってはいるが、これが最終の形であるようにはとても見えない。今岡とてこれをハッピーエンドとして書いたつもりは毛頭ないだろう。彼が小声で呟くのはただひとつ。確かなことは何ひとつ無いけれど、ダンスすることを忘れなければ何とかなるんじゃないか…と。ラストシーン。ゆっくりと踊る2人。おれの胸のうちではキンクスの「Don't Forget To Danceが鳴っていた。 ● さて、今岡今岡…と脚本のことばかり書いてきたが、サトウトシキの演出との相性はどうだったか。これがじつはあまり良くないのだ。すべてのシーンをリハーサルを重ねて、役者の一挙手一投足に至るまで振付けて、かっちりとカット割りを固めて撮っていくスタイルのサトウ演出と、「この先どうなっていくのか判らない」のが魅力の今岡脚本とでは(水と油とは言わないまでも)どうにもチグハグな印象を拭えない。後半の展開など「構成が脆弱なだけ」に見えてしまうのだ。いや、まあ実際にそうなんだが、今岡信治の手にかかるとそれもまた魅力のひとつに変じるわけで、出来ればこの話は今岡自身の演出で観てみたかった。 ● ヒロインの主婦に中川真緒。「見られた情事 ズブ濡れの恥態」ではまったく印象に残らなかったが、本作では“団地妻”に相応しい普通っぽい良さが出ていた(本作に先駆けてやはりサトウトシキ監督=今岡信治脚本コンビによる「サイコ・ドクター 白濁のしたたり」というH系Vシネマのヒロインも務めてるようだ) 仕事ばかりで妻に構わない(くせに嫉妬深い)夫に伊藤猛。 別の階に住む(セックスに関してサバケ過ぎな)団地妻に佐々木ユメカ。 そして、間男をくわえこんでる女房の「あえぎ」を隣りの空室から壁越しに聞いている夫に田尻裕司。…そう「OLの愛汁 ラブジュース」の監督の田尻裕司である。まさしく今岡信治の分身である屈折したキャラクターを好演。欲を言えばもう少し「得体の知れない不気味さ」が出ると良かったのだが、これが川瀬陽太だったら…と考えてみると、いかに田尻がベストキャストかわかるだろう。

★ ★ ★
OL 性の裏窓(小川欽也)

おれの観賞リストからは外れてる老害監督の映画だが、主演が時任歩で、しかもPG誌の内容紹介に拠れば「命を吹き込まれたダッチワイフ」の話らしいので、ジャンル映画ファンとしては観ないわけにもいくまいて。 ● で、観に行ったら、なんと「マネキン」ではなくて「ハート・オブ・ウーマン」のピンク映画版なのだった。六畳一間に万年床とダッチワイフ、おまけに下着泥棒の癖まであるという、女の気持ちがわからないダメ男クンが、とあるきっかけで女性の心の声が聞こえるようになって…という話。その「きっかけ」というのが、美人OL(時任歩)にフラれて、ダッチワイフ相手に力まかせに性欲を発散した拍子に頭を打ち、突如として人形の思ってることが聞こえてくる・・・って、変でしょそれは(脚本:池袋高介) ● 「特技」を使ってダメ男クンはさっそく巨乳人妻(風間今日子)をコマして意気揚揚。見た目もパリッと変身して別人のよう・・・って、このダメ男を演じてる竹本泰史が今どき茶パツの前髪はらりの歌舞伎町のホスト・タイプなもんだから…「女心の解かる男」ってのはホストのことかい! で、最後は、改心して美人OLに下着を返しに行ったら、すっかり見違えたダメ男にOLがひと目惚れ。めでたく2人は結ばれてハッピーエンド・・・って、だからそいつは、こないだまでアンタを付けまわして、アンタの留守に空き巣に入って下着を盗んでいったストーカー男なんだってば。変でしょそれは(脚本:池袋高介) ● というわけで、時任歩のダッチワイフ演技(←両手を虚空に突っ張らかして、口をポカーンと開けて、まばたきしない)が見られなかったのは残念だけどコミカルな魅力は出てたし、風間今日子の濃厚なカラミも堪能したし、図書紀芳の撮影も安定してたので、ええい大負けに負けて星3つだ。…んで、この話のどこが「性の裏窓」なんだ?>大蔵映画。

★ ★
尼寺の寝床 夜這い昇天(新田栄)

新田栄+岡輝男・脚本の田吾作コンビの新作。相変わらずシチュエーションだけがあってドラマがない代物だが、風間今日子のカラミをたっぷりと見せてくれたので可とする。ものすごーく躯の意志が弱い修行尼僧に(とりたてて特筆すべき魅力のない)新人・吉原麗子。庵主にベテラン、しのざきさとみ。


白い肌の韓国美女 熟れごろ(ポン・マンデ)[キネコ作品]

韓国映画ブームに乗って(←そうなのか?)エクセス系で韓国製のソフトコア・ポルノが公開された。ビデオ撮りではあるが(日本の)AVよりはやはりピンク映画に近い感触。韓国ポルノ業界のバックステージもの。個室本番ヘルス嬢が見出されてAVクイーンになるが、ヒモのやくざの恐喝で失踪、そして復帰…というストーリーだと思われる、多分。…いや「多分」てのはさ、この映画「必要なシーン」のおそらく7割ほどしか撮影されてないのだ。物語の説明を30%欠いたまま編集されてはマトモな映画になりようもない。話の跳びかたがジャンプカットどころの騒ぎじゃない恐ろしくアヴァンギャルドな代物なのである。ところどころ劇中劇らしきものが挿入されるのだが、これも何だかよく判らない


人妻暴行 身悶える乳房(清水大敬)

はじめに書いておくがピンク映画としては ★ ★ ★ である。「女優のハガカには必ずローションを塗ってヌラヌラにする」「濡れ場では極力、邪魔な男のハダカは映さない」といった、AVでならした清水大敬ならではの特異な演出は、ポルノ目当ての観客を十二分に満足させ得る。 ● そのうえでの話だが、これは映画がとってもダイスキな監督・脚本の清水大敬がカッコイイと思うものを「リアリズム」とか「話の流れ」とか「登場人物の心情」とか「おのれの実力」とかを一切 無視して構成なく並べたものに過ぎない。「映画ファンの大学生が学園祭のために製作した“エンタテインメント志向”の自主映画」のようなものだ。かろうじて「映画」と呼びうるのは(清水大敬ではなく)小山田勝治カメラマンの力である。いきなり冒頭に映画の内容とはまったく関係のない「この映画をエド・ウッドとその妻キャシーに捧ぐ」云々という字幕が出たりするのが観客を無視した独り善がりな自主映画である何よりの証明だ。 ● ヒロインには巨乳だけが取り柄の(それゆえにポルノ女優としての商品性はある)驚異の大根&無表情女・立花ひろみ。ベテラン・しのざきさとみ(三沢亜也 名義)と林田ちなみ が助演。清水大敬 自身も刑事役で出演してナルシスティックな台詞を陶酔してクッ喋ってる。

★ ★ ★
ポリス(荒木太郎)

ピンク映画の派生ジャンルにホモ映画(通称:薔薇族映画)というものがあって、主にピンク映画のスタッフによって年間数本ずつ作られて、ホモ映画専門館で上映されている。おれは♂×♂のラブシーンは観たくないので、普段はこのジャンルを無視してるわけなんだが、絶好調・荒木太郎の新作とあっては致し方ない。1986年に廣木隆一の「ぼくらの瞬間」を観に行って以来、15年ぶりに上野は不忍池畔、その名も世界傑作劇場(もちろん客は全員ホモ)に潜入を試みたのだった(御蔭様にて貞操は無事で御座いました) ● オーピー(大蔵)映画作品。念願かなって刑事課に配属された新米刑事・朝日夏雄。検挙率はナンバーワンだが、荒っぽい捜査に批判も多い一匹狼の先輩刑事・桐野にひと目惚れ。だが夏雄には学生のときから経済的な援助を受けている妻子持ちのホモ・パトロンがいた。ある日のこと、2人でコンビニ強盗を追跡中、自分の失態から桐野は犯人に刺され、おまけにカマを掘られてしまう。じつは桐野は労咳で、その屈辱がきっかけで刑事の職を辞し、ウリ専ボーイに堕ちていく…。 ● 桐野を女にすれば石井隆あたりが書きそう/描きそうな話ではあるが、脚本が(監督/女優の)吉行由実、演出が荒木太郎となればメロドラマにはなりようもない。ちょっと切なめのラブストーリーとして仕上がった。だから無理やり「死」によって結末をつけてしまうエンディングはこのトーンに不似合いだと思うぞ。ピンク映画を撮るさいにも「濡れ場」を疎かにしない荒木太郎は、当然、ゲイ・ポルノに対しても誠実で、シャワーシーンでのちんぽヌード(←日本映画でも映倫OKなのだな)、ディルドオをちんぽに見立ててのフェラ、乳首責め、アナル舐め(うげっ)…と、厚みのある濡れ場を用意している。いやぁ、嫌なもん見ちゃったぜ。 ● 主演の新米刑事に西川方啓。タフな先輩刑事に佐藤幹雄。2人で並ぶと新米刑事のほうが年上に見えちゃうってのはマズいでしょ。佐藤幹雄じゃ貫目不足なのは明らかで、これは佐野和宏の役だった。 先輩刑事を犯す(なぜか学ラン姿の)変質者に今泉浩一。 刑事(デカ)長に特別出演・蛍雪次朗。荒木組連続出演中の時任歩もカメオ出演(どちらも濡れ場はありません) ● ホモ映画館でもちゃんと荒木組恒例、手描きイラストの100円コピー・パンフは販売中。それによると、生憎と撮影(の後半)が1月27日の東京で大雪が降った日にぶつかってしまったらしく、画面ではワンシーンごとに大雪だったりピーカンだったりと大変なことになってるのだが、まあこれは予算の制約上、悪天候順延が許されないピンク映画の宿命ゆえ不問とする。


迷走者の猥歌(榎本敏郎)

同時上映は榎本敏郎のホモ映画。大阪でホモ映画専門館を経営してるENKの製作。今回も井土紀州 脚本なのだが、時間内にきちんとストーリーを伝えられない榎本敏郎の構成下手は相変わらずで、きっと脚本を省略/改悪しまくってんだろうなあ。 ● やくざの川瀬陽太と情婦の佐々木ユメカがシャブの売人(特別出演の佐野和宏)を殺して山中に埋めようとする。そこへ、サラ金地獄に陥って首が回らなくなった本多菊雄が自殺しようとやって来て、穴を掘ってるところに出くわしてしまう。…さて、問題です。拳銃を持った犯罪者ならばこの場合、ヤバいところを見られてしまった目撃者をどう始末するでしょう? 答え:この映画では本多菊雄に穴を埋めさせるのである。バカか! まともな犯罪者なら撃ち殺して一緒に埋めちまうだろ普通。 ● 川瀬陽太には、かれに憧れてる弟分(石川雄也?)がいて、こいつが本篇の主人公。やがて本多菊雄と心を通わせるようになるんだが、…あれですか、ホモの方ってのは縛られてる目撃者に小便させるためちんぽを持ってやっただけで惚れてしまうものなんですか? 無理があるだろそれは。これなんか(例えば)現場に遅れてきて川瀬陽太にボコボコにされた弟分を本多菊雄が優しく看病してやる…とか何でもいいから、2人の心が通じ合うエピソードを、ひとつ挿入するだけで解決する問題じゃないか。趣味で弾着つかう金があったら智恵を使え智恵を! ● 榎本敏郎の「濡れ場軽視」主義はホモ映画になっても相変わらずで、ホモ映画にもかかわらず川瀬陽太と佐々木ユメカの濡れ場が2回もあるのに、肝心の♂×♂の濡れ場は2回だけ。しかも男優がヌードを見せるのは1回だけ。おれは、ユメカ姐さんのヌードが拝めて嬉しいけど、これってホモ映画を観にきてるお客さんには失礼だろよ。つくづく無責任な野郎である。

* * *

2001年GWの新東宝は、佐々木麻由子と時任歩という、今のピンク映画を代表する2大スターの主演作を並べた(両作品とも新東宝の自主製作) 共演陣もドシロートの新人をいっさい使わず、ちゃんと演技の出来る佐々木ユメカ&河村栞/林由美香&水原かなえ というメンバー。まさに、かつての東映「高倉=鶴田」の2本立てにも匹敵する豪華番組である。<それはちと大袈裟。

★ ★ ★
いんらん母娘 ナマで愛して(深町章)

昨年は“池島組専属”を解かれて全部で10本の作品に出演した若手の売れっ子女優 河村栞。おれは昨年のピンク映画総括で「“女優”としての代表作を残せるかどうかが2001年の課題だろう」と書いたが、その“代表作”と呼べる作品がついに登場した。脚本は「OLの愛汁 ラブジュース」の俊英 武田浩介。本作は1998年にやはり深町=武田コンビで放った傑作「生尻娘のあえぎ汁」の発展形と言えるだろう。「生尻娘…」の「田舎の無気力な女子高生(西藤尚)と、組織から追われてきたやくざ(佐野和宏)が出会う」というストーリーは、この映画では「両親の離婚で母親の実家のある田舎に越してきて以来、友達もつくれず高校も中退して孤独な毎日を過ごす女のコ(河村栞)と、やくざの情婦に岡惚れしてやくざを撃ち殺し、4年間の服役を終えた元・刑事(なかみつせいじ)の交流」として変奏される。そこにもうひとり、ロクデナシ亭主と別れて田舎のスナックで侘しく働く、女のコの母親(佐々木麻由子)が絡む。それぞれの孤独を見つめる深町演出には力がこもっているが、惜しむらくは3人の運命がひとつに結ばれた時点でドラマが停滞してしまい、そのまま唐突に終わってしまうところ。あと最後のひと押しがあれば傑作になっていたろうに。いずれにせよヒロインの河村栞は堂々と映画を背負っていた。受けて立つ なかみつせいじ がまた佐野和宏や下元史朗に一歩も引けをとらないハードボイルド・ヒーローぶりで、惚れぼれした。佐々木麻由子に「男に騙される哀しい女」をやらせたら絶品なのは言わずもがな。なかみつと共に温泉宿に泊まっている元・やくざの情婦に佐々木ユメカ@金髪。

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人妻社長秘書 バイブで濡れる(渡邊元嗣)

好調がつづく渡邊元嗣。本作はお得意の「幸せを呼ぶ天使」もの(脚本:波路遥)だが、残念ながら急拵えのルーティンワーク以上のものは感じられなかった。まあ、女優をキレイに撮るという「渡邊元嗣映画」の基本は守られているのでピンク映画としての水準はクリアしているのだが。欲求不満で不幸せな人々に快楽(=幸福)をもたらすピンクのパラソルにチャイナドレスの天使「福俵満子」を演じるのはベテラン・林由美香。もう、台詞の一言目から素晴らしい。きちんと声を張ってベタな非日常的台詞を言える。手を広げて肩をすくめたり、ヨシッと声に出して頷いたり(握りこぶし付き)といったオーバーアクトを自然にこなせる・・・こうしたコメディ映画に不可欠な才能は、あまり演技賞などに結びついたりするものではないが、簡単に習得できるものではない。彼女と並ぶと、ヒロインの「人妻社長秘書」を演じるピンク映画クイーン・時任歩でさえ見劣りするほどだ。ヒロインの淫乱な同僚に扮した(“普通の演技”においては心境著しい)水原かなえ も本作ではまだまだ不器用なところを露呈している。リストラされて自信喪失、インポになっちゃった夫に ささきまこと。トーホグ弁のセクハラ社長に十日市秀悦。

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美人おしゃぶり教官 肉体(秘)教習(工藤雅典)

世界第3位の自動車メーカー「トミタ・モータース」の経営するエンジェル自動車学校では、クライアントに免許を取得させるためなら肉弾教習も辞さないスペシャル教官「仮免エンジェルス」の2人が今日も張り切って・・・ってな、ベタもベタ、大ベタな世界をエクセス生え抜きの期待の星=演出・工藤雅典&脚本・橘満八のコンビは、ピンク映画としての商品性をきちんと保証したうえで「風俗嬢が堅気の男に恋をして、自分の正体を言えずに苦しむ」というラブストーリーのバリエーションとして瑞々しい佳作に仕上げてみせた。 ● 免(許)取(り消し)にされたトラックの運ちゃんにもスパルタ教習しちゃうタフな(=だから恋をしても相手に弱みを見せることが出来ない)ヒロインに岩下由里香。H系Vシネマ出身の目元が涼しい きりりとした美人である。相方の「テディ・ベア好きのレイナちゃん」に里見瑤子。片時も離さないテディ・ベアのヌイグルミの声色(っていうのか?)で台詞を言ってくれるのがベリー・キュート。うーん、ぼくちゃんもテディ・ベアでぐりぐりされた…あ、いや。 学科試験は優秀なのに路上教習になるとコチコチに硬くなってボロボロの青年(じつはトミタ・モータースの御曹司)に森士林。その母親に佐々木麻由子。自動車学校の欲得ずく校長に野上正義。クルマよりも女に乗りたくて通ってくるスケベな年寄りに久須美欽一。


美人家庭教師 たらし込む快感(新田栄)

演出・新田栄+脚本・岡輝男の田吾作コンビの新作。四流大学の女子学生が父親が死んで仕送り途絶え、東大生と偽って家庭教師のバイトを画策。なんとか両親は誤魔化したものの、東大志望の生徒にはイッパツで見抜かれて泣き落とし「わたしにはお金が必要なの。ご両親には黙ってて」って、金が要るならフーゾクでもなんでもやって稼げよ。その子は東大志望なんだぞ。あんたみたいなバカが家庭教師したら将来を左右するじゃないか。…だがこれは岡輝男が脚本を書いている世界なので、もちろん彼女は採用。横で生徒が自習してる間、彼女は雑誌を読むかベッドで昼寝。「あーすっかり遅くなっちゃった。でも夕食もゴチになっちゃったし、家庭教師っていいバイトだわ」って、家庭教師なんか してないだろアンタ。スクリーンに乗り込んでってブン殴りたくなったぜ。てゆーか、今どきの若い女は「ゴチになる」なんて使うのか? ● ヒロインのお気楽 家庭教師に演技も台詞も見た目もダメな新人・椎名みなみ。生徒がひそかに憧れてるクラスメイトに河村栞。生徒の母親に小川真実。ヒロインの秘密を知った生徒の好色父さん・なかみつせいじ の珍台詞「わたしのもうひとりのムスコにも家庭教師を頼みますよお」

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プライベート・レッスン 家庭教師の胸元(国沢実)

“二代目・滝川真子”こと南あみ と、ちょっと黒坂真美 似の新人・榊うらら主演の元気溌剌コメディ。南あみ は大学院生の家庭教師で、先に就職したカレシがOLと浮気してると判って別れたばかり。教え子の榊うらら は高校中退して大検をめざしてるクールな18才。はたして家庭教師はカレシとヨリを戻せるのか、そして教え子は片想いのカレに告白できるのか・・・というのが表向きのストーリーで「逃避なんかしてないで、ちゃんと人生に向き合わな いけんよ」というポジティブなメッセージをかなり正攻法で訴えてくる(脚本:樫原辰郎) 教え子が家庭教師にキスをねだって「勇気を…ください」なんて台詞を言わせるのは、よほど監督が脚本家を信頼してないと出来ない演出だろう。昨年の「不倫願望 癒されたい」で玉砕した試みに、ここではかなり成功しているように思える。それはおそらくテーマを言葉面だけで伝えるのではなく、家庭教師がカレシの浮気にじたばたどたばたして河原を転げまわったり、格闘技ファンという設定の教え子が蹴りの真似事をしたり、エッチな夢を見てベッドからドタンと転げ落ちたり、2人してハダカでベッドでカラんだり…といった豊かなボディ・アクションが何より雄弁に語っているからだろう。ただ「上映時間60分厳守」というオーピー(大蔵)映画において、ピンク映画ファン・コミュニティ数十人にしか伝わらんような内輪受けギャグに貴重な時間を費やすのはどーかと思うけど。 ● 愛すべき大根役者・南あみ は、しかし急速に台詞まわしとか巧くなってないか? なんかファム・ファタルとかも演れそうな勢いだぞ。 榊うらら はチョコボールみたいな乳首がエッチでよろしい:) カレシの浮気相手のOLに新人・SHIHO。

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女ざかり、SEX満開(池島ゆたか)

ピンク映画版の「オール・アバウト・マイ・マザー」なのだが、おれ(ペネロペ・クルスさまに後ろ髪ひかれつつも)なんか辟易しそうな気がして「…マイ・マザー」観てないのだ。従って本作についてもどこまでが翻案で どこからが脚本家・五代暁子の創造だか区別がつかず、ピント外れなことを言うやもしれんが、ひとつよしなに。 ● 息子を亡くした母。その親友の(バーのママをしてる)女装オカマ。新たな生命を宿したナース。オナベ。AV女優・・・といった「女であること」「母であること」を端的に象徴させるさまざまなキャラクターが登場して「不在の父親」を探すという「舞踏会の手帖」形式のドラマだが、それぞれのエピソードがブツ切りのまま羅列されていくだけで最後まで物語としてのうねりが生じない。千葉の寒々とした海岸でついにヒロインと男が再会するラストシーンは、なかなか情感がこもっていて良かったけれど。スケジュールの関係で、撮影を下元哲と小山田勝治が半分ずつ担当してるのだが「ソフトフォーカスでハレーション気味の画面が下元、ピントくっきりでナチュラルな明かりの場面が小山田」と素人目にもはっきり区別がついてしまうのは問題では? ● 佐々木麻由子のヒロインは“これしかない”配役でしょう。ペネロペ・クルスの役に河村栞。AV女優に鈴木ぬりえ(声は水原かなえのアテレコ) 田嶋謙一が「行方知れずの男」という、ひと昔前なら下元史朗の役を確実にこなしている。女装オカマを本物の女装オカマがやってるのだが、あんまり汚いものは画面に出さないでくれよ>池島監督。

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喪服妻の不貞 乱れた黒髪(遠軽太朗)

レンタル妻クラブ「メリー・ウィドウ」は喪服の一夜妻を派遣する喪服デリトル。文芸雑誌の編集長が人気小説家を家に招いて接待することに。どうやら小説家が、自分の「年の離れた美人妻」を狙ってるらしいと知って、妻を実家に帰し、妻の代理に喪服デリトル嬢を手配するが…。 ● “菩薩の心を持った”デリトル嬢には新人・篠宮麗子。演技と呼べる代物ではないがハダカはキレイ。Googleで検索したらなんとこの人、吉原のシルキードールという店の現役AVギャル・ソープ嬢なのだった。菩薩の心でサービスしてくれるのかしらん(火暴) 編集長の妻に今井恭子。場数をこなして多少は見られる演技をするようになってきたが、この人に「美人の若妻」って設定は無理があるでしょうが。もっと考えてキャスティングせえよ>スタッフ。お茶ひき喪服デリトル嬢に林由美香。この人のコメディ演技だけは安心して観ていられるが、やはり「女優3人のうち2人が大根」ではマトモな映画として成立せんわなあ。編集長にベテラン・小林節彦。作務衣を着て手には数珠を持ち「お客さまには菩薩の心でご奉仕するのです」が口癖のヒゲ坊主店長・辻親八がいいキャラ。

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月曜日の不倫妻 性欲まみれ(坂本太)

冒頭。夫にディナーの約束をキャンセルされた若妻が、仕方ないので風呂でも入ろうと洗面所で裸になって、鏡の中の自分に「ふっ…。夫にも相手にされなくなった感想はどう?」 そしてバスタブに裸身を横たえ片手を上に伸ばして何かを書くふりをして「憂鬱って漢字、書けるようになったのいつからかしら…」 バタン!どかどかダダダダダダダッ!バチャンずるずる(←乱入したおれがバカ女をマシンガンでブチ殺した音) …ったく、まだクレジットタイトルすら終わってないってのに、これから1時間こんなクソ映画に付き合わにゃならんこっちのほうが憂鬱だぜ。脚本・有田琉人。人妻たちの不倫サークルの話。特筆すべきことは何も無し。ヒロインは、そこらの人妻を調達してきたみたいな新人・桜田由香里。人妻サークルの元締に佐々木基子。インポ亭主を持つ欲求不満の人妻役で風間今日子が出てるのがせめてもの救いか。

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未亡人旅館2 女将は寝上手(深町章)

里見瑤子扮する女子高生(=女将の娘)が(ピンク映画名物のロケ先)水上荘の前庭で、観客に向かって喋り始めるナレーションで始まり、最後はやはり前庭での「めでたしめでたし」という要旨のナレーションに続いて、ちょっとしたオチャメなギャグがあり、テヘヘと笑ってストップモーション(←シェーのポーズはやめなさいって!)…という、いつもの深町章「未亡人女将もの」であるが、今回は珍しくコメディ仕立てではない。新東宝の社員プロデューサー・福俵満は(おそらく昨年のかわさきりぼん脚本による深町章の2作「淫ら姉妹 生肌いじり」「いんらん旅館 女将の濡れ姿」にインスパイアされて)キャラクター全員の気持ちがきちんと観客に伝わる良い脚本を書いた。佳作。 ● 早逝した先代主人の後妻に入った女将にしのざきさとみ。器用な役者ではないが柄にあった役で活きた。ベテラン女優を名カメラマン・清水正二が素晴らしく美しく撮っている。 女将に想いを寄せる板前に かわさきひろゆき。「いんらん旅館 女将の濡れ姿」の役のリプライズ。いつもは「久保新二系の三枚目」が多い人だが、じつはこうしたキリリとした二枚目のほうが向いてるのかも。 その板前とデキてる住込み女中に、進境いちじるしい水原かなえ。元ヤンキーという役柄にはミスキャスト?とも思わんでもないが「愛しい男が他の女に惚れてると知って強がりを言う」シーンなど、台詞に気持ちが籠っていて素晴らしい。かわさきと水原は小劇団「星座(ほしざ)」の演出家&花形女優という間柄でもあるのだが、画面での相性がとてもしっくり来ている。2人が「いんらん旅館 女将の濡れ姿」で演じた「浪花の夫婦漫才師」ものの続篇やってくれないかな?>かわさきりぼん&深町章。 女将に言い寄る泊り客に神戸顕一。目にも鮮やかなエメラルドグリーンのポロシャツに不気味な笑みを浮かべて摩訶不思議な役づくり。 そして女将とは生さぬ仲の娘に里見瑤子。ちゃんと親子に見えるからスゴい(←役者の層が限られるピンク映画では稀有なこと) 秘密を知って自棄になり、行きずりの泊り客との処女喪失シーンは迫真(…って、いや知りませんけど)

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ザ・痴漢教師4 制服を汚せ(池島ゆたか)

なかみつせいじ(=杉本まこと)の代表作となったシリーズの最新作。前3作とは違う役柄にと工夫してるのはわかるけど、「ザ・痴漢教師」の主演なのに「誠実な善人教師」にキャラ設定してしまったので「痴漢の濡れ衣を着せられ逮捕されて途中退場。最後に他力で釈放される」という主役がまったく活躍しない奇妙な映画になってしまった。なかみつせいじと、不倫相手の同僚女教師・佐々木麻由子の「シリアス・パート」と、悪辣教頭・神戸顕一&腰巾着教師・北千住ひろし&悪徳代議士・千葉誠樹トリオの「コメディ・パート」のトーンが最後まで噛み合わない失敗作。毒牙に散る女子生徒に河村栞。

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未亡人銭湯3 覗いちゃった(渡邊元嗣)

あれ? 冒頭の(丸に「大蔵」の)大蔵映画ロゴが出ないや。代わりに「オーピー映画」ってロゴが。オーピー映画といえば石井輝男の「地獄」の製作会社としてクレジットされていた大蔵映画系列の(なかば)休眠会社のはずである。ポスター表記は「製作:ナベシネマ(←これは渡邊元嗣個人のことでしょう) 提供:オーピー映画」。…ふむ。つまり製作を100%外注にして、配給をオーピー映画が、興行(=劇場経営)を大蔵映画が担当するという東宝方式に切り替えたってことか。それってグループ会社の連結決算とかの関係か?(ピンク映画業界にもグローバル・スタンダードの波が!?) ● さて、映画の中味はグローバル・スタンダードとは何の関係もないいつもの渡邊元嗣映画である。東京下町の潰れそうな銭湯を舞台に、司法試験10年連続落第中のアルバイト青年(ささきまこと)、露出症のソープ嬢(工藤翔子)、中年覗き男(十日市秀悦)、デカ穴コンプレックスのセカンドバージン(西藤尚)、さすらいの巨根男(山崎信)らがくりひろげる泣き笑い・・・になるはずが、未亡人女将(銭湯でも“女将”って言うのか?)に扮した新人・高橋千菜の恐るべき大根演技&棒読み台詞が邪魔をしていまひとつ笑いがハジけない。黙って立ってりゃキレイなんだけどねえ。女湯客のエキストラに水原かなえ・間宮ユイ・里見瑤子の星座(ほしざ)女優陣。しかし(露出症という設定でしかも舞台が銭湯だから全篇ほとんど全裸なので、今さらながらに気付いたけど)工藤翔子ってすげえプロポーションが良いなあ。見惚れてしまったよ。

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高校牝教師 汚された性(今岡信治)

ピンク映画界 期待の異才が「ポルノ映画シバリ」のもっともキツいエクセスに初挑戦した「今岡信治 普及計画」第1弾である(そうなのか?) この会社は「新作2本に旧作1本」が基本なのだが(東京地区では)なぜだか今回に限って「今岡信治の新作1本に旧作2本」という組み合わせ。これって特別待遇なのか捨て番組なのか…。 ● 高校の女教師が教室でレイプされて、しかも亭主の浮気が発覚して拠りどころを失い、讃美の視線を送ってくる男子高校生とデキてしまう…という、まるで「サルでも作れる女教師ポルノ教本」の第1章に掲載されてるような典型的プロット(今岡の自筆脚本) 撮影は古いタイプのピンク映画カメラマン・下元哲。ここにはデメキングも人造人間もキチガイも女装男も出てこない。それでもこれは紛れもなく今岡信治の映画であり、いたるところにその徴しが刻印されている。面白い映画を作るのに「特異なストーリー」は必須ではない、陳腐な筋からも「ディテイルの豊かさ」によって素晴らしい映画は作れる…ということを今岡は証明してみせた。そうした映画を我々はプログラム・ピクチャーと呼ぶのである。 ● ヒロインの新人・仲西さやか は(ややテレビ演技ではあるが)なかなか達者だし、ちゃんと美形なのもグッド。夫の浮気相手の後輩OLに(出演場面がすべてベッドの上という)鈴木敦子。高校生に惚れてる健気なクライメイトに武田まこ。今岡の演出にかかると犬猫までが名演を見せるのだから恐れいる。

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女医 川奈まり子 熟女・タブーSEX(佐々木乃武良)

綜合病院からは馬鹿にされ「ピンサロ医院」と陰口を叩かれつつも、みずから信ずる「癒し医療」を実践する町医者の女医センセイ奮闘記。…って、誰がどー見てもあれじゃピンサロだと思うけど。昨秋ついに快作「口説き屋麗子 火傷する快感」を放った佐々木乃武良の新作(脚本も)だが、人情ドラマでもなし、ドタバタ・コメディでもなし、さりとて もう若くはない女性の「生き方ドラマ」でもない。なんとも中途半端な仕上がり。 ● ヒロインの女医センセイには熟女AV女優・川奈まり子(“熟女”っても三十ちょいだと思うけど)<この人、オオサンショウウオみたいな顔なんだけど、なんともしれん雰囲気があって、AVで人気があるのも頷ける。セクハラ患者に嫌気がさして大学病院を辞めて転がりこんできた、ヒロインと同期のクールな女医に佐々木麻由子。おっちょこちょいの看護婦に里見瑤子<ほんと看護婦とか女中が似合うなあ。ヒロインの元カレでもある綜合病院のエリート医師に千葉誠樹。脇目もふらず女医センセイに純情一筋な老人に久須美欽一。たまたま悪友に誘われて綜合病院の検査を受けたところをセンセイに目撃され、がっくり肩を落として去っていく。悪友が「おい、どこ行くんだ。検査は?」「(おらぁこのまま)干からびて木乃伊にでもなるさ」・・・くうぅ、泣かせるねえ。

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女美容教師 ぬめる指先(下元哲)

捉えどころのない小悪魔のような美容教師に翻弄される髪結いの亭主の話。いわゆる「痴人の愛」パターンのバリエーションだな。1980年代後期のピンク映画界を廣木隆一とともに軽やかに走りぬけた石川欣が脚本を提供している。むかし増村保造と若尾文子がやってたような映画が「理想的な完成予想図」なわけだが(ユーロスペースの回顧上映に刺激されたのかな?)あれらと較べると空気の濃密さが百分の一ぐらいしかないので…(まあ、しようがないけど) ● ヒロインの新人・河井紀子には小悪魔っぽいところ(=相手を無邪気に破滅させてしまうような凄み)が欠けているのだが、台詞まわしとかはまあまあなので、まあ…。女と金には徹底的にだらしがない髪結いの亭主に本多菊雄@適役。その女房で、美容院の経営者に佐々木基子。亭主とデキてる見習い美容師に河村栞。…で、美容教師って何?(この映画では美容院のアドバイザーみたいなものとして描かれてるけど)

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濡れる美人妻 ハメられた女(今岡信治)

国映製作 脚本:上井勉 撮影:小西泰正 出演:沢木まゆみ 松原正隆
ピンク映画界の“次なる巨匠”今岡信治の最新作(この1本前の、エクセスに初挑戦した新作が大阪先行公開済) ● 冒頭。浮浪者の青年が新宿中央公園でガソリンかぶって焼身自殺をはかるが、途中で怖くなって放棄する。その直後、公園の脇に駐車したクルマに排ガスを引きこんで自殺した「自分の瓜二つの男」の死体を見つける。青年は死体を裸にしてトランクに押しこむと、男のスーツを着て男の免許証と財布を持って立ち去る。ところがチャリンコに惹かれて頭部を強打、病院に担ぎ込まれる。病院から、もう1年以上 別居中の(死んだ男の)妻に連絡がいく。妻は頭に包帯を巻いた「夫と同じ顔をした青年」を夫と信じ込んで部屋に引き取ってくる…。 ● いままで必ず自分で脚本も書いてきた今岡信治にとって初めての他人のホンだが、今回もまたテーマは「生きること」である。「同じ顔の男が2人出てきて女房にも区別がつかない」などという設定が自然に受け容れられるのは、リアリズムのように見えて じつは今岡信治の映画がファンタジーだからだ。じたばたすること。わけもわからず走ること。ハダカになって肌を合わせておまんこすること。…「性の営み」が「生の実感」につながる、濡れ場に必然性のあるストーリー。濃厚な濡れ場を(それなりの照明を当てて)撮っているし、前作で指摘した台詞の録音レベルについても聞き取れる音量にはなっている。俳優のナマの魅力を引き出す演出力は、AV出身の沢木まゆみ からキレイキレイではない魅力を引き出している。つまり映画としての魅力を損なうことなくピンク映画としての商品価値にも配慮がなされているわけだ(おい、聞いてるか?>女池充) ● 主人公(死体と二役)には劇団「tsumazuki no ishi」(寺十吾 主宰)に所属(?)の松原正隆。モーニング娘。の中澤裕子 似のソープ嬢に真崎優<似てるっても茶髪ってだけだけど<なんだそれ。

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人妻浮気調査 主人では満足できない(橋口卓明)

「はい、信頼と実績の愛情調査、園部興信事務所です」・・・伊藤猛 演じる浮気調査専門の探偵を主人公にした「人妻家政婦 情事のあえぎ」に続くハードボイルド・ミステリ調のピンク映画。前作では社員プロデューサー・福俵満みずからが脚本を書いていたが、今回は気鋭の脚本家・武田浩介を起用。ポスターにも(そんなこと書いても集客にプラスするとは思えないが)「私立探偵 園部亜門シリーズ第2弾!」なんて刷りこんであったり、女優も(新人を使わず)特上女優3人をキャスティングしていたりと、新東宝としては、えらい力を入れてるみたいだけど、これ、ほんとに武田浩介が書いたの? ミステリとしちゃそーとー酷いぜ? ● そもそもこれ、1作目と同じ話なのである。まあ、基本パターンって言やぁそうなんだが、それにしたってもう少し「騙す努力」ってものをしたってバチは当たらんと思うが。○○○○の言動が不自然すぎるぜ。探偵が人妻の家を数日ぶりに訪ねると、亭主が部屋で首吊り自殺をしている。彼女が言うには「あれから部屋に閉じこもりっきりで、声をかけても応えてくれないんです」…って飯とかクソとかあんだろ!人間なんだから。肝心の「謎解き」にしたって「探偵がいつのまにか真相を知ってる」という最悪の手抜き。 ● かように出来の悪い脚本を演出が救ってるかというと、さにあらず。橋口卓明はあいかわらず不器用で工夫のない演出家なので、おれは(好きなジャンルであるだけに)観ててもどかしくてイライラしっぱなしだった。あのねえ、こーゆー話は「探偵がヒロインに惚れてしまう」ところを、まずきっちり描くべきなの。そこが出来てれば観客は多少の不具合には目をつぶってくれるのだから。中尾正人のソフトフォーカスの軟調の画面は話に合ってない。次作があるならカメラマンを飯岡聖英に変えてみてはどうか。あと、いくら準備期間がないからって毎回毎回おんなじ陸橋でロケするのは、いかがなものか。 ● おれが何よりショックなのは、これが時任歩の初めての負け戦(いくさ)だってこと。いままでどんな脇役で出てきても彼女だけは輝いていたのに、この映画からは(ヒロインだというのに)その“輝き”が感じられないのだ。探偵を演じる伊藤猛は「情けない男」を得意とするはずなのだが、このシリーズでは魅力が出ていない。ハードボイルドなモノローグも意外に下手だし、つい「佐野和宏だったら」とか思ってしまったよ。ヒロインの亭主に(「見られた情事 ズブ濡れの恥態」で中年刑事をやっていた)大槻修治。探偵に人妻の浮気調査を依頼する「亭主の愛人」に佐々木ユメカ。そして「探偵をバカにしながらも、まんざらでもないキャパクラ嬢」という前作と同じ役で登場は、ショートカットにして「あれっ?」てほど柔らかい印象になった工藤翔子。てゆーか、この女優さん(スゲー失礼だけど)こんなにキレイだったっけ?

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変態調教 白衣のうめき声(荒木太郎)

絶好調・荒木太郎の新作はなんと怪談噺である。しかも日本の有名な怪談映画の傑作と同じネタで、その映画で使われていたのと同じ[サラサーテの例の曲]が冒頭シーンから流れてくる。そして次のシーンでの8ミリ映像の使われ方。これで気付かないほうがどうかしてるぞ。おれなんか無意識にあの有名な惹句を呟いてしまったよ。てゆーか「せつなく求めて OL篇」などで鎌倉の風景への ひとかたならぬ愛着を示した荒木太郎だ。最初からオマージュのつもりで作ったのかも(これだけで解かっちゃった人>ごめんなさい) ● ただ、恐怖映画として見ると昨今の「Jホラー映画群」と比較すると、なんとも脇が甘いのである。画面から不吉感が漂ってこないし(撮影:前井一作)、ショック演出の編集がもたついている。「タネ明かし」を登場人物の1人が延々と説明するという構成は緊張を途切れさせるに充分だし、タネ明かしの後の「4P濡れ場」は映画を冗長にするだけなので不要だろう(脚本:内藤忠司) ラストシーンのレコードプレイヤーの扱いも“引っ張りすぎ”でスマートさに欠ける。軽自動車1台オシャカにしてるのは(ピンク映画の予算からすると)大したもんだと思うが、そんなとこ褒められても嬉しくないよな。…と、まあこれだけ貶すネタがあっても結局のところ面白く観られてしまうのが、荒木太郎が好調たる所以である。 ● 山荘に幽霊出没の真偽を確かめにくるヒロインに(大蔵映画 初出演の)横浜ゆき。クルマでヒロインを送ってきて、そのままどうしても山荘から抜け出せなくなってしまうカレシに石川雄也。山荘で2人を待ちうける超常現象研究家に(これが映画初出演だという中年男性)TAKAO。白衣姿のブキミな助手に(本作を最後に結婚引退してしまう)怪女優・篠原さゆり。謎の顔面包帯ナースに(荒木組レギュラーと化している)時任歩。 ● おれが毎回、楽しみにしてる100円の手描きコピー・パンフレットによると、本作は「多呂プロ5周年記念超大作!」なんだそうだ。「女優&男優&スタッフ募集」と「サントラカセット通販の案内」と「次回予告」の載ってる最終ページをスキャンしておく>[画像] ● [追記]なんで撮影に清水正二を使わなかったんだろ? 先日これの元ネタとなってる傑作を再見して気付いたんだけど、なんと志賀葉一(=清水正二)が「撮影助手」としてクレジットされてるのだ(!)

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視線ストーカー わいせつ覗き(山崎邦紀)

奇妙な欲望に支配された人間を描きつづける“ピンク映画界のデビッド・リンチ”山崎邦紀の監督・脚本による新作。窃視症の男の話である。生身の接触には興味がなくて「視ることがすべて」と言いきり、触れずにイケるという究極のオナニー・マスター。ま、おれもその方面についちゃたいがいベテランだけど、触れずにイクってのはちよっと…あ、いや。えーと、で、かれは親の遺産の貸家にワイヤレス・カメラを設置して覗きに熱中してるのだが、ある日のこと、1階に越してきたフロアダンサーに恋をしてしまう…。 ● 主人公は定期的にカウンセリングを受けていて、天然巨乳・風間今日子が知的な縁なしメガネ(ワーオ!)をかけて演じる女性カウンセラーに、胸をベロンと出されて目の前でオナニーされて「ほうら、生身の肉体に触ってみたいと思わない?」とか挑発されても、毅然として「わたしの発射は虚空に向かって放たれる!」と言いはなつクールな哲学者であったのが、ヒロインに見惚れてつい“普通のオナニー”をしてしまい「手を使ってしまった…」と愕然とするのが笑える。カウンセラーに「これでは唾棄すべきストーカーと変わらないではないか」「――変わらないわね」「…面白がってる?」 ● 主人公のオナニストに柳東史。フロアダンサーのヒロイン、ルルには やはり天然巨乳の望月ねね。貸家の2階に住む淫乱なキリスト教の伝道者にデミ・ムーア巨乳の淫魔・鏡麗子。ヒロインが踊ってるクラブのマスター、花のバラチンスキー(「なんでこんな名前がついたか? …もう忘れた」)に、怪しい口ヒゲで胸ポケットに薔薇を挿してジャン=ポール・ベルモンドのようにいかがわしい石川雄也。しかしあれかね。生身の接触には興味がなくて「視ることがすべて」と言いきる主人公が崩壊していく…この話って、ひょっとして(映画おたくの)おれにケンカ売ってる?>山崎邦紀。

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人妻たちの性白書 AVに出演した理由(国沢実)

「告白ドキュメント」というジャンルはピンク映画としては、しょせんキワモノである。フィクションでしかありえないドラマを「ドキュメント」と称して供するのだから。この映画においても「下請けのテレビマンがドキュメント番組の取材をしてる」という設定で、ビデオ画面をおりまぜながら3人の女性が登場する。夫が自分に構ってくれずAVばかり見てるので、自分もAVに出演して、いつの日かモニターの中で夫に“発見”してもらうのだという人妻。親子以上に歳の離れた大学教授と援助交際して、バンドマンのカレシに貢いでいる女子大生。そして、結婚するとばかり思っていたカレシにフラれてから、夜ごと男を(男としてではなく)客として扱う“娼婦”になる事務系OL。 ● おれも、剃りあげた後頭部にこの映画のタイトルをマジックで書いた“ビデオ男優”役の男優が、監督の国沢実 本人が扮する“ビデオカメラマン”の撮影するビデオ画面で、“人妻”役の女優を言いくるめて犯すシーン(アングルがまずくて男優の前貼りがバレてしまっている)を観ながら「こりゃ今回は色もの路線か」などと独り言ちていたのだが、それが後半の展開に至って、あれよあれよというまにキワモノから、「性と愛のカタチ」というポルノ映画の本質を見据えた傑作へと昇華してしまうのだ。国沢実+樫原辰郎(脚本)コンビの素晴らしい達成。 ● 人妻AV嬢に、たしかに“そこらの人妻”を調達してきたような平凡な容姿の青山円(…とはいえ、いちおう“主演”なのに、ドキュメントっぽく見せるためポスターに目線を入れられちゃってるのは可哀想だなあ) 援交女子大生に、ハダカがすごくキレイな片瀬めぐみ(踊り子さんかな?) 老いらくの恋に生きる大学教授にピンク映画界の誇る名優・野上正義。なんと昨年の「北島三郎 新宿コマ劇場 公演」に出演したそうだけど、おおっ、早くも役づくりに(北島三郎の癖である)「膝の上で手を組んで親指クルクル」を採り入れているぞ。そしてポスターの序列は3番目だが、観客も監督も主演女優だと思ってるのが「OL娼婦」を演じる山崎瞳(!) 高架下の暗い路でタバコをふかしながら、通りかかる男に物憂げに「お茶…しませんか」と声をかける。ラブホテルでコトを終えて、男が払った4万円のうち3万円を「はい、お釣り」と返して、心の中で「…あなたの値段」とつぶやく。フィルム・ノワールのファム・ファタルのごとく虚無に彩られた美貌(と裸身)にシビれたぜ。

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どすけべ家族 貝くらべ(清水大敬)

ピンク映画よりはアダルトビデオの世界で名を成した感のある俳優/演出家・清水大敬のひさびさのピンク映画監督作。とは言っても、性愛描写の誇張された「AV的演出」がなされている(たとえば「キスシーンではかならず双方が舌をれろれろぬめぬめとからませる」とか「パンティーはとりあえずふんどし状につまんで股間に食い込ませたところをカメラに示す」とか「女優の裸体にはかならずローションが塗られてぬらぬらてかてかとイヤラしく光ってる」とか) 中味は「どすけべ家族」な人々の、叙情(を意図した部分)とベタなギャグが同居した、妙にハイテンションなドラマ。つまり役者全員が清水大敬その人と同じ演技を要求されているのだ(それは無謀というもの) ● 27才になっても親と同居してる弁護士秘書のヒロインにガイコツ顔の高橋りな。ヒモ亭主に搾取されてる可哀想な次兄の嫁に佐倉萌(この人だけ演技が「普通」なのでホッとする) 実家に転がり込んできて我がもの顔の長兄の嫁に(なつかしや)扇まや。旅行好きの派手好きな巨乳母に(おれがまだ大っぴらにヌード・グラビアとか見られない頃から平凡パンチとかに出てた気がする)中村京子。さすがに脱ぎません。

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18才 下着の中のうずき(坂本礼)

1999年にピンク映画版「フィールド・オブ・ドリームス」ともいえる「セックス・フレンド 濡れざかり」でデビューした新鋭・坂本礼の1年半ぶりの第2作。今回は脚本に井土紀州、音楽に安川午朗という強力な「瀬々敬久コネクション」のバックアップを受けての正念場である。 ● 「ねえ、ハルマゲドン来なかったね」という女子高生の台詞で幕が開く。ビルの屋上でセックスをして、そのまま、カレシがジュースを買いに行った隙に女子高生は飛び降りてしまう。ときは2000年の年末。舞台は渋谷。動機不明の「女子高生連続飛び降り自殺」の噂が、女子高生たちのIモードのメール画面を飛び交っている。本篇のヒロインも18才の女子高生。さっき、友だちから「友だちの友だちの女の子がカレシに理由も告げずにビルの屋上から飛び降りた」って話を聞いたばかり。いまの日常に不満はないけど、なんか「汚れてしまう前に死にたい」って気持ちは解かるような気もする。だって「お婆さんになってるあたしたち」より「ビルから飛び降りてるあたしたち」のほうが想像しやすくない? 友だちがカレシに会いに行っちゃって、ひとりぽっちの渋谷の街角。手持ち無沙汰で眺めてたIモードの出会い掲示板で「ビルから飛び降りた女子高生の話を聞きたい」というメッセージを見つける…。 ● 渋谷の雑踏でぽつんとショーウィンドウを眺めてる女子高生のちっこいうしろ姿・・・それがこの映画のキー・イメージだ。制服にピーコート。マフラーぐるぐる巻きにしてモコモコしたシルエット。ルーズソックスの太い足首。大きすぎるカバンを肩から斜めがけにして。 ● まだまだ緩急の「緩」だけ、強弱の「弱」だけのメリハリの感じられない演出だが、Iモードのメールのやりとりでヒロインと川瀬陽太が出会うまでを渋谷の街にオールロケして撮った前半には、街ロケの魅力があふれてるし、坂本礼は少なくとも真摯に物語に向き合ってる。榎本敏郎よりよほど井土紀州の脚本を理解して撮ってるんじゃないか。「力作」といってよいと思う。「不安」と「空洞」を描いた物語だが、大丈夫、最後はちゃんと東京の街に21世紀の曙がおとずれるから。 ● ヒロインの新人・笹原りな はチビな体型にペッタンコのおっぱい。これで顔が真田美伽だったらカンペキなのに<誰やねん、真田美伽って。 友だちの女子高生に、おっぱいが小ぶりのわりには垂れ気味で乳輪が大きめなのがエロくてよろしい新人・工藤あきら。 ほかに山崎瞳、鈴木敦子が出演。濡れ場要員ではないよ。なぜならこの映画に"濡れ場"と呼べるものはないので。 「セックス・フレンド 濡れざかり」では「?」な点も多々あった新人女性カメラマン・鏡早智だが、今回は大健闘(代々木体育館前の石垣のシーンで、前景の2人の女子高生じゃなく、背景のビルにピンが合っちゃってたのを除けばだけど)[上野オークラで再見した際に改稿]

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痴漢ハレンチ学園 制服娘の本気汁(上田吾六)

今週の新東宝は同じ高校生を扱っていながら、テーマから描き方から「十五才 学校IV」と「バトル・ロワイアル」ほども違う、じつに対称的な2本が並んだ。いま現在の渋谷を舞台にイマドキの女子高生の心の空虚を見つめた「18才 下着の中のうずき」に対して、本作が描くのは中村雅俊よりさらに昔の青臭い学園青春ドラマの世界である。マラソン大会を目前にして顧問の教師が痴漢で逮捕される。校長は世間体を気にして陸上部を廃止しようとするけど、わたしたちこんなことじゃ負けないわ、さあ、明日に向かって走るのよ!…という話。つまりタイトルの「本気汁」ってのは「汗」のことですね(火暴) いまどき「ロックやってる子は不良」という恐るべきステレオタイプとか。おれなんか「いつ青い三角定規がかかるか」と思ってしまったよ<ネタが古すぎてわかりませ〜ん。 ● もっとも、ピンク映画として正しいのは本作のほうである。校長の犬−−いや牝犬か−−として陸上部をつぶしにかかる女教師・風間今日子が、巨乳をゆらして3度にわたる濃厚な濡れ場をたっぷりと魅せてくれるのだから。ヒロインのマラソン女子高生に新人の西尾直子。ま、この子は顔も演技もイマイチ。そのかわり、意思が弱くていちどは不良との愛欲に溺れるけど(これは学園ドラマなので)最後には改心して陸上部に戻ってくるヒロインの親友に扮した河村栞がブリッコ演技で可愛らしく頑張っている。高校生のくせに「歌舞伎Tシャツ」なんか着てる年寄り臭いマネージャーの男子に和田智(とても高校生に見えないあたりが学園ドラマの伝統に則っているとも言えるが) 母子家庭のヒロインの働く母親に(“脱ぎ”なしの)吉行由実(「日本のベロニカ・レイク」の称号を差し上げましょう) 卑劣な小心者の校長を穂積隆信にも劣らぬコメディ・センスで演じるのは御存知、千両役者・なかみつせいじ。


愛人・夢野まりあ 私、激しいのが好きなの(長崎みなみ)

(今ではもう)アダルトビデオをまったく観ない おれですらその高名を耳にしてるAV界の有名女流監督・長崎みなみのピンク映画デビュー作(脚本も自筆。もしかしたら初のフィルム撮り作品かも) 専門誌の年間ベストワンを受賞したりしてる「繊細な演出のドラマ派」と聞いて期待大だったのだが…がっかりだ。“繊細な演出”の正体は、ろくに芝居も出来ないAVの素人俳優に、プロの俳優でも(田村正和とか藤竜也でもなければ)使いこなせないような臭い台詞を言わせ、その台詞のイントネーションから手の置き方まで徹底的に指導して“臭い小芝居”を振り付けていくという、やってる本人だけがスタイリッシュと思ってる鼻がひん曲がりそうなほど悪達者な自己満足学芸会だった。これなら佐々木乃武良や坂本太のほうが、なんぼかマシ。こんなんでベストワンが取れちゃうAVビデオのレベルって…。おなじくピンク映画初出演のAVクイーン・夢野まりあ の巨乳は見ものだけれど、ありゃなんか詰めてるんでしょうな、どうせ。アライタケシの撮影は綺麗だった。

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愛染恭子vs小林ひとみ 発情(さかり)くらべ(愛染恭子)[キネコ作品]

愛染恭子が監督・主演する、ビデオ撮りによるチンケな「極道の妻たち」のパチもの。愛染が岩下志摩、小林ひとみ が かたせ梨乃の役。愛染という姐がありながら敵対組織の組長の姐だった小林を愛人にしている広域暴力団組長に下元史朗。愛染と「白昼夢」で共演した縁でむりやり頼まれて、なんと佐藤慶がナレーターを務めている。変換費用をケチったのか、15年前の代々木忠ポルノからまったく進歩していない肌が鉛色になる汚いキネコ画面に堪えられず10分で出ちゃったので星は付けない。

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コギャル喰い 大阪テレクラ篇(友松直之)

原題「天使幻想」 製作:幻想配給社
脚本:大河原ちさと&友松直之 撮影:横山健二 音楽・効果:森和彦
加藤みちる 藤田裕樹|山崎まりあ 青木こずえ|結城哲也(ちゃんばらトリオ)
確実にピンク映画館主からは嫌われるタイプの1997年の旧作が、奇蹟的(?)に上野オークラで再映された。大阪製作の(ほとんどが)大阪弁ネイティブの俳優による大阪弁映画。撮影・編集・音楽に凝りまくった塚本晋也にも匹敵する自主映画魂が炸裂した傑作であり、喉をカッ切り はらわたを抉るスプラッター描写のある、血と精液に彩られた、佐藤寿保の「エキサイティング・エロ 熱い肌」を彷彿させるバイオレンスの塊であり、そして何より性と社会をテーマにした観念的な若松孝二の正嫡なのである。驚くのはこれが、冒険的な作品に理解のある国映=新東宝ラインの作品ではなく、健全娯楽の大蔵映画から生まれたということだ(念のために補足しておくと、濡れ場はきちんとやっている) ● テレクラのティッシュ配りをしてるヘビメタ青年の部屋に「天使」が棲みつく。白い文鳥と共にやってきたびっこの少女。壁も床も天井もまっ白の部屋に全裸で横たわる、その背中には羽をひき千切ったような醜い傷痕。まるで天使の声に導かれるように、青年はセーラー服に女装してシリアル・キラーとなる。突き刺したナイフの血だまりに精液をぶちまける快感。いつしか大阪にはひとつの都市伝説が広まる・・・電話すると「だれか殺したい奴おらへんか」と男が答えるテレクラがある、と。 ● もちろんそれは青年の妄想で、ラストでは残酷な現実が明らかとなるのだが、青年を演じる(藤原竜也を大人にしたようなクールな美形)藤田裕樹と、天使を演じる(可愛かずみ級の美少女)加藤みちるの好演もあって、現実を撃ちぬくハードなファンタジーに仕上がった。テレクラ売春でやくざにとっ捕まり輪姦される女に青木こずえ(=現・村上ゆう) カーセックスの果てに主人公にブチ殺される女に(日焼けした巨乳がエッチな)山崎まりあ。もちろん女優は3人とも血反吐を吐いて死んでいく。頭の皮を剥いでカツラにするというエド・ゲインな描写もある。エンディング・テーマはなんとアリス・セイラーだ。必見。

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現役女性記者 淫らな体験レポート(関根和美)

主役は里見瑤子 演じる新米女性記者…ではなくて、倒産寸前の町工場でリストラ寸前の冴えない初老おやじ・城春樹である。この「男の誇り」だけは人一倍強くて、そのくせ実社会では何の役にも立たないという(おれが仕事上で最も付き合いたくないと思ってるタイプの)男が、「下町の頑固おやじ」を取材に来た成城出身のお嬢さま雑誌記者と仲良くなって、淡い恋心を抱くのだが、もちろん彼女の気持ちは好意以上のものではなくて…という「男はつらいよ」パターンの喜劇。いつもの関根和美+小松公典(脚本)コンビだから、しょうもないダジャレや、おやじギャグがとびかうサム〜イ世界なのだが、上野オークラ劇場で冬の夜をやり過ごそうという住所不定のおっさんたちからは無邪気な笑いが沸いておったので、ピンク映画としてはこれが王道なのかもしれん。この人らには天才カメラマン・柳田友貴の「なぜかときどき揺れるフィックス画面」も気にならないようだし。 ● 恥をしのんで告白すると、おれも2度ほど笑っちまった(ひとつは、おやじがヒロインの携帯電話に公衆電話から電話するのだが料金不足ですぐ切れてしまう。するとおやじ「ちぇ。20円も入れたのにもう切れちゃった。まったく金のかかる女だぜ」 もう1箇所は、転職して成功している昔の部下が、おやじに小遣いを渡そうとするが、いちど出した一万円札をやっぱりしまって、五百円玉を1枚、おやじの掌において去る。唖然として見送ったおやじ。掌の五百円玉をしげしげと眺めて「あいつ、羽振りがいいなあ…」) ちくしょう。これって、場末のラーメン屋でスープの沁みだらけの生ぬるい4コマ漫画誌を読んでて、クソつまらない小市民的4コマ漫画につい笑っちゃったときの口惜しさに通じるものがあるぜ。 ● スナックの女に新人・結城杏奈。アイディア家庭用品の発明で大儲けしてる、おやじの古女房に扮した佐々木基子がまたいい感じ。<あ、あ、あぁぁ、なんか感化されてるぅ…。

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和服熟女の性生活 二十・三十・四十歳(羽生研司)

第1話「時代屋の未亡人(四十歳)」 佐々木麻由子 竹本泰史
第2話「華道の人妻(三十歳)」 南あみ 野上正義 柳東史
第3話「同級生の義母(二十歳)」 くすのき琴美 岡田謙一郎 松井明
脚本:遥香奈多 撮影:創優和 編集:金子尚樹 人形の声:林舞希子
新人監督のデビュー作(<日本語が変?) 深町章が撮りそうな20分×3話のオムニバス艶笑コメディで、じっさい脚本の出来は大したことないのだが、女優をキレイに撮る(=女優の魅力を引き出す)という、映画の…、とりわけポルノ映画の基本が出来ているのが素晴らしい。タイトルから連想されるようなタクアン臭い映画ではなく、演出・撮影・編集とも意欲的。着付けについても(少なくとも最初の2人は)きちんと出来ている。 ● いちばん出来が良いのは第1話。「下北沢あたりの古道具屋を夫の想い出とともに守る未亡人」という役柄は佐々木麻由子のもっとも得意とする分野ではあるが、それでも「義母覗き 爪先に舌絡ませて」以来の美しさ/情感の瑞々しさではないだろうか。「かつて亡夫に恩を受け、店を訪ねてくる、今では新進気鋭の画家」を演じる(いつもは何を演らせても安手のホストみたいな)竹本泰史が、別人のようにキリリとしてるのにも吃驚した。 ● 第2話は、活花のお師匠さんが、歳の離れたインポ気味の夫の媚薬がわりに、ウブなお弟子さんを誘惑する話。ここでも(2代目・滝川真子こと)南あみが「おっとりしてて、やるこたぁ大胆」というコメディの一典型を演じて新たな魅力をみせる。 ● 第3話は、元カノジョの同級生が親父の後妻になって…という話だが、これはヒロインが新人女優だったせいもあって冴えない出来に終わった。各話のブリッジとして、一体の小振りな瀬戸物の人形が次から次へとヒロインたちの手を渡っていき、ナレーター役も務めるのだが、この人形の声(林舞希子<声優?)はなくても通じるし、芝居の流れを壊すのでやめたほうが良かった。エンディングにはなんとオリジナルの歌謡ポップスがかかる。その意気や良し。どうかこのままルーティン・ワークとは無縁に続けて行ってほしい。

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義母の秘密 息子の匂い(新田栄)

で、こちらは田吾作コンビによるタクアン臭いルーティン・ワーク。もっとも今回は(岡輝男の脚本は相変わらずやる気の感じられない代物だが)新田栄の演出はなかなか快調であった…ように思われる…気もする…たぶん…見間違えでなければ。だが、新田栄映画の常としてヒロインを演じる新人女優に魅力がないのだ。この遠藤陽子って人など、下腹のたるみ具合といいそこらの主婦を連れてきたとしか思えん。タイトルからおわかりのように「高校生の息子が若い義母を焦がれる話」だが、どう見てもガールフレンドの河村栞のほうが可愛いし、若くてピチピチしてるぞ。単身赴任中の夫に、なかみつせいじ。その愛人に林由美香。

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誘惑美容師 ヴィーナスの縮れ毛(小川欽也)

小川欽也の映画にしてはまともな出来。つまりシュール度が低く、ふつうの「つまらないピンク映画」として成立してるという意味だが。それでも「小川欽也の映画」ではあるので「ラストまで観て初めてどういうジャンルの映画かわかる」という素晴らしいサスペンス演出とか、濡れ場でいきなり「ふつう寝室には存在しないはずの小道具」が出て来たりする「従来のポルノ映画」に対するアンチテーゼとして事前にちゃんと「鏡台の抽斗に鋏と縄と生玉子とピンクローターが入っている」ところを写すリアリティ重視の演出など、とても普通の映画じゃ味わえないものを味わえる。しかも健全娯楽の大蔵映画らしからぬピカレスクな話なのだ、じつは。脚本は水谷一二三。<パソコンのデータは「ダビング」とは言わんぞ。 ● 美容室を経営する美容師のヒロインに「DOA2」の佐倉萌。美容院の客に「あの躯だもの。独りじゃモタないわよねえ」などと(なにが“モタない”んだか知らんが)言われてるが、太目の躯つきが素晴らしい。あのおっぱいとか太腿とかぜったい縄が似合うはずなんだが、だれか佐倉萌で「縛り」ものやってくんないかなあ。ヒロインに対抗心を燃やして「女の闘い」をくりひろげる美容師に今井恭子。ヒロインの恋人に竹本泰史。その若い愛人に日焼け跡がエッチな新人・酒井由美。

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痴漢電車 みだらメス発情(池島ゆたか)

脚本:五代暁子 撮影:清水正二 音楽:大場一魅
まさか五代暁子の脚本に泣かされる日が来ようとは…。だが、良いものは良いと認めよう。池島ゆたか、2001年の1本目はなかなかの傑作。定職にも就かず痴漢一筋に生きてきた老人・クニマツ。痴漢が縁で結ばれた妻との間にできた娘はわずか2つで病死。その妻も35才の若さで亡くなった。もはや身寄りも誰ひとりなく、唯一、自分を慕ってくれる弟分も東京を離れ、女房の田舎へ引っ込むという。そんな老人の前に赤いランドセルの少女があらわれる…。ストーリーからお分かりのように「鉄道員 ぽっぽや」の痴漢電車版である。そりゃ演技陣の力量は本家と比べようもないが、スリやレイプをする痴漢は許さない「ストイックな痴漢」などという形容矛盾のような人物像を成立させ、「ひたむきに生きた人生は美しい」という本家のテーマを堂々と痴漢電車もので展開してしまう力技は大したものだ。苦労が妻を早死にさせたとなじる弟分の女房に対して「妻は…理解してくれてました」と応える主人公。弟分の女房が呆れて「“痴漢人生”理解してどーすんのよ!」・・・こうした相対的な視点を入れておくことが大切なのだ。ただ、自分の娘に「ちゃん」付けは変だぞ。 ● 妻・大竹しのぶ役の佐々木麻由子と、弟分・小林稔侍の役の幸野賀一は好演。(まさか父親とカラむわけにはいかないので今回ヌードなしの)河村栞の素直な演技は広末涼子より上である。だが肝心の高倉健がなぜ千葉誠樹なのだ? 回想シーンが多いので若い役者を使ったんだろうが、この話のメインはあくまでも死の間際の「老人」の部分である。たとえば「娘のまぼろしを追って深夜のアーケードを走る」シーンは、年寄りが息も絶え絶えに必死で走るからこそ感動的なんじゃないか。千葉誠樹では背筋が伸びすぎ。ピンク映画界には野上正義というこの役にピッタリの名優がいるではないかね。千葉誠樹の未熟な老け芝居よりは、野上正義の若づくりのほうが百倍も安定してるのは明らかじゃないか。かえすがえすも残念である。弟分の女房に、意外と下町の女キャラが似合う鏡麗子。赤いランドセルの少女に如月小雪ちゃん8才。痴漢の被害者に水原かなえ、美月星美(新人)ほか。最小限の音数(おとかず)で最大限の効果をあげている大場一魅の音楽と、ベテラン・清水正二の さまざまな光を自在にあやつるネストール・アルメンドロスのようなカメラが、映画のグレードをアップしている。 ● “ミスター・ピンク映画”池島ゆたかの映画だから、もちろんカラミ描写にも手は抜いてない。本作ではまたも映倫の目をかいくぐり「蟻の門渡りにぴたぴたと打ちつけるキンタマ」という描画を成し遂げている。

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未来H日記 いっぱいしようよ(田尻裕司)

田尻裕司といえば「OLの愛汁 ラブジュース」でP・Gのピンク映画大賞に輝いて、そのロフトプラスワンでの授賞式で「おれの映画を“ピンク映画”と言ってくれるな。自分は一般映画と同じ土俵で勝負してる」と言い放った男である。へえ〜。これが? このチンケなリアリティの、ド下手なコメディ演出中途半端な出来損ないが? たとえばこの映画に「羅門中」という名前で役者として出演してる僚友・今岡信治と較べても、田尻裕司が一般映画云々を口にするのは10年早いぜ。 ● タイトルからおわかりのように「未来日記」のイタダキとして企画された作品だが、じっさいには「未来日記」というより「都市伝説ネタ」+「ファイナル・デスティネーション」である。いやまだ「ファイナル…」公開前だけど(東京ファンタで上映済)予告篇で印象的な死に方が踏襲されてるあたり臭いんだよなどうも(脚本:増田貴彦&田尻裕司) ● 異常気象の猛暑で東京でも断水がつづく夏。巷では、ひとつの都市伝説がささやかれている。すなわち「“未来の日記”と題された小冊子が届いたら、そこに書いてあるとおりに行動しないと死ぬ」というもの。5年前、高校生の妹との姉妹どんぶりがバレて、道路に飛び出した姉が轢死。それがもとで別れた2人が、どこからともなく届く“未来の日記”に導かれて再び出逢う。はじめは抵抗する2人だが「見えない運命の力」が否応なく2人の人生を動かしていく…。つまり、5年前の事件以来、死んでいた2人が、再び生きはじめるまでの話だ。 ● 「映画『未来日記』が公開されて話題となっている2000年8月12日から30日まで」の話という設定だが、根本的な「時代考証」の間違いを指摘しておくと映画「未来日記」の封切りは8月26日だぜ。あと、いくら水不足だからって客に「水!」と言われて拒否するカレー屋があるかよ(そもそも、この今岡信治 扮するカレー屋のおやじの役は存在理由がまったくない) 日記の「彼女の胸を揉む」という記述を実現させる手段として「ブラの中に虫が入ったので取ってください」ってのは無理がありすぎ(しかも羽虫とかじゃなくて蝉だ。ブラの中に蝉が入るかって!) ● 主人公に川瀬陽太。ヒロインに高梨ゆきえ。男の現在のカノジョに織原稜。ヒロインの現在のカレシに佐藤幹雄。主人公と同居してるゲイの美容師に川屋せっちん(←この役も必要性がない) 死んだ姉に小野弘美(カラミなし) 女優陣が(たぶん)全員 新人ってのは珍しいが、そーゆーキャスティングの意図も不明。

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