間食デモ


「……などは明日の本会議によって決議されそうです。では、次のニュースです。既に始まってから1週間が経過した『間食デモ』ですが、事態は依然膠着状態で終息の目処が立っていません。ここで現場につないでみましょう。現場の石井さん」
 大勢の群衆があふれかえる現場へと画面が切り替わる。
「はい、こちら現場の石井です。突然のデモ開始から1週間が経過しましたがデモに参加する人々の数は増すばかりで現場にはただならない雰囲気が広がっています。一部の報道では警官隊からもデモに参加するものが現れたと報じられましたが、まだ確認は取れていません。さて、このデモはその名の通り、大人にも間食の時間を与えよということがきっかけで始まったとされています。今まで間食と言うものは子供もしくは女性だけが普通に行うことができるものであり、大人の男性の場合、年を重ねる毎に間食という行為どころかその言葉を使うこと自体が恥とされております。しかし、成人男性にも多少の糖分というものは当然必要なわけで、そういった世相自体が非常に陳腐なものであると考えます。事実、一部の先進国では間食の時間というものが認められています。そのため、賛同者は日々増えつづけているわけで、個人的にはこのデモが成功し、日本国内でも間食の重要性を再確認してほしいものです」
 再びスタジオに画面が変わる。
「さて、本日はコメンテーターとして世界の間食事情にお詳しい菓子田さんにお越しいただいております。菓子田さんは今回のデモに関してどのようにお感じですか?」
 画面にちょび髭を生やした男が映る。画面下には「間食研究家 菓子田 好蔵」のテロップ。
「ワタクシといたしましては、今回の件を大変喜ばしい事態だと感じております。そもそも今時、間食時間を認めないという政府自体がおかしいのです。ワタクシといたしましても、今回のデモが成功して日本における間食の待遇向上を願わずにはいられません」
 アナウンサーに映像が戻る。
「ありがとうございました。あ、ここでデモに動きがあったようです。再び現場を呼んでみましょう。石井さん」
 警官隊と衝突するデモ隊の映像が映り、そこに興奮した様子の石井の声がオーバーラップする。
「はい、こちら現場です。ただいま、警官隊がデモに対して一斉に取締りを開始いたしました。もう既に何人かの怪我人が出ている模様です。激しい罵声と物がぶつかり合う音で現場は凄惨な状況へと変わりつつあります。あ、おい!何するんだよ!今、テレビで、おい、うわ、何だよ、やめろよ!て……」
 慌てて画面がスタジオへと戻る。菓子田が難しい表情で画面に映る。
「石井さんの先ほどの発言から、デモの一員と判断されたのだとワタクシといたしましては感じております」
 そして、至って冷静な表情のアナウンサーへと画面が切り替わる。
「なるほど。さて今回のデモですが、間食だけに『惨事(さんじ)』は免れなかったようです。では、次のニュースです」


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