僕にできること


 僕は椅子です。
 丸く赤い頭に、ステンレスでできた4つの足。
 仲間の中では一番シンプルな体をしています。
 でも、僕はこのことを気にした事もないし、かえってその事を誇りに感じているぐらいです。だって、こんな小さな体でもちゃんとご主人様の体を休めてあげることができるのですから。
 ただ最近、あまりご主人様は僕を使ってくれません。
 僕の頭の上には数冊の雑誌が乗せられているだけ。
 はっきり言って寂しいです。
 でも、いつかまたご主人様が僕の上で疲れをとってくれる日が来ることを信じて僕は今日も部屋の隅で立っているのです。

 そんなある日のことです。
 ご主人様は夜遅く帰宅されました。
 どうやら泣いていらっしゃるようです。
 嫌な事でもあったのでしょうか?
 やがて、ゆっくりとご主人様は立ちあがると何やらごそごそとしておられます。
 そして、僕の上の雑誌を片付け始めました。
 そうです。ついに僕を使ってくれる日が来たのです。
 僕は嬉しくてしかたありません。
 嫌なことを忘れさせてあげるぐらい、ご主人様の体を休ませてあげよう。
 僕にできる精一杯の事をしてあげよう。
 でも、ご主人様はそんな僕の気持ちも知らずに僕の頭を踏みつけるのです。
 そして、最後には思いっきり蹴飛ばす始末。
 蹴飛ばされた僕は立ちあがることもできずに、ただ床に転がっているだけ。
 僕が一体何をしたと言うんでしょう。
 僕は悔しくて悔しくて仕方がありません。
 でも、僕は一人では何もできません。
 ゆらゆらと揺れながら僕を恨めしそうに見つめているご主人様のことを見つめ返してあげることしか……


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