『嘘ツキ求む!!』


 それを見つけた時は自分の目を疑ったよ。
 本当に小さい新聞広告で、それと連絡先だけしか書いてないんだ。
 こんなこと言っちゃぁ、勘違いされるかもしれないけど、俺って結構嘘つくのが得意なのよ。ちょうどその時は職にもついてなかったし、金にでもなればラッキーだなっていうのもあったから、電話してみたわけさ。それでも本当に繋がった時は、ちょっと驚いちゃったね。ただ、電話を受けたのは若い兄ちゃんみたいなんだけど、えらく無愛想で淡々と要件だけ伝えてくるんだ。こっちは名前すら言ってないのにだよ。まあ、暇だけは売るほどあったから、指定された場所にちゃんと行ったけどね。
 そこは小さなビルの一室で、俺が着いた頃には4人ほどの人間が椅子に座ってたんだ。どいつもこいつも口が達者そうな面しててさぁ、いや本当だって。分かるんだよ、なんとなく。暫くして指定された時間通りに面接官らしき人物が1人入ってきたんだ。さすがに緊張したね。面接なんて本当に久しぶりだったし、あの独特の緊張感?そーいうのがビンビン伝わって来てさぁ。今考えると笑っちゃうんだけどな。
 で、面接官は挨拶もそこそこに本題に入ったんだ。

「あなたたちは嘘がうまいという方ばかりのはずです。ですから、ここで自己紹介をしていただいてもそれが本当かどうかは分かりません」
「おいおい、ちょっと待てよ。身分証明になるもんがあるじゃないかよ。免許証だとかさぁ」
「そんなものはいくらでも偽造出来ます。それに私たちはそのようなものを望んではおりません。私たちが必要としているのは嘘がうまい方、それだけです」
「採用の暁には何をさせられるんだ」
 あ、コレは別の男が言った台詞だからね。
「それは採用が決定された時にお話します。ただ、その内容はともかく、報酬に関しては皆さんが想像されている以上のものをお渡し出来るはずです」

 な?おかしな話だろ。こっちの身分は一切明かさなくていいんだ。おまけに採用が決まればガッポリと金が手に入る。こうなったら俺は全部嘘で塗り固めてやろうと思ったね。何せ、嘘がうまけりゃいいんだ。目一杯アピールしてやろうとしたわけよ。ところが、やたらと固っ苦しい面接官はこれで面接が終了だって言うんだよ。ただ、これとは別に最終テストがあるから、それに参加して下さいっていう話なんだ。日時と場所だけが書かれた紙切れ1枚もらってその日はおしまい。なんか肩透かしを食らった気分だったね。
 で、当日だ。
 集合場所はなんと港の倉庫。これから麻薬の密売でもするんじゃないかって雰囲気の所だよ。俺は指定された時間の10分前には行ったんだけど、既に他の4人はいたから、みんな結構真剣にこの職を狙ってたんじゃないかな。俺はそのときそう思ったね。何ていうのかな、変なライバル心みたいなものが芽生えちゃって、視線で火花飛ばしてみたりさ。まあ、そう感じてたのは俺だけだったかもしれないけどね。
 やがて、指定された時刻になったんだけど、誰も現れない。5分たち、10分たち、いい加減しびれが切れかかった頃にようやく重い倉庫の扉が開いたんだ。そこに現れたのは30歳ぐらいの全身黒づくめの男。唇にはいやらしい笑みを浮かべてて、正直友達にはなりたくないタイプのやつだよ。そいつは俺達5人の顔を舐めるように見回して、変に芝居がかった声でこう言ったんだ。

「ちゃんと5人揃っているようだな。あんな事しときながら、のこのこと顔を出すとはいい度胸してるよ」

 あんな事?この台詞を聞いたとき俺はピーンと来たね。ああ、これが最終テストなんだなって。つまり、この指定された場で最後まで嘘をつき通せばいいんだって。そうと分かればアピールしたもん勝ちよ。俺は言い返してやったね。

「それぐらいの度胸がなきゃ、あれぐらいのことはできないからな」

 この俺の台詞で回りの奴等も気がついたんだろうね。口裏を合わせに来たよ。

「お前こそこんなところにのこのこと1人で現れたのか」
「そんなわけないだろ。こんな臆病者が一人で来れるわけがないさ」
「それもそうだな」
「ハハハハハ」

 最後の笑い声なんかきれいにシンクロしちゃってさぁ。爽快だったねぇ。
 ところが笑っていられたのもここまでだったんだ。

「てめえら、バカにしやがって!てめえらなんぞ、俺一人でも十分だ!」

 黒づくめの男はそう言うと、胸元からピストルを出してきたんだ。
 さすがにビビったねぇ。けど、ここで引いちゃ負けなのは全員分かってたから、必死に抵抗してやったさ。

「そんなものを使わないと俺達に勝てないのか」
「ふん、腰抜けが」
「俺達はお前の相手をしてやるほど暇じゃないんでな」
「う、うるせぇ!」
 ズキューン!

 最初はあまりの音のデカさに自分の耳が潰れたかと思ったよ。
 そして、ライバルの一人が目の前をゆっくりと、まるでスローモーションのように血を噴き出しながら倒れて行くんだ。映画を見ている、そんな感じだよ。
 続けて2発の銃声。
 端から順にライバル達が同じように倒れて行くんだ。そこで一気に我に返ったわけよ。身体中の血という血が全部スーっとひいて行くのを感じたね。
 いよいよ俺の番だとばかりに銃口が向けられた。その時に気が付いたんだよ、これは罠だって。一体誰が何をしたのかは知らないけど、その罪を俺達がかぶらされていることに。俺達ははめられたんだ。
 そう気付いたら後は早かったね。自分でもこんなに一気に喋れるのかって驚くぐらいの饒舌で事の成り行きを説明したのさ。そして、一通りの話を喋り終えたとき、俺と一緒にまだ生き残っていたライバルがこう言ったのさ。「失格だな」って。

 そう、やはりこれが最終テストだったんだ。
 俺以外の4人のライバルは全て向こうが準備した偽物。もちろん射殺されたと思ったのも全部芝居。後で聞いた話じゃ、全員一応プロの役者だってさ。その割には台詞回しがヘタクソだった気がしたけど。
 ともかく、俺は失格。せっかくのチャンスを棒にふってしまったわけだ。
 ここまでのことをするんだから、もし合格したら何をさせられるのか聞いてみても何も教えてくれないし、ものすごく後味の悪いテストだったよ。
 んで、後日談なんだけどさ、この間テレビつけてたらあの堅物面接官がブラウン管に映ってたんだよ。何やってるやつだと思う?何とそれが総理大臣の秘書。今思えばあれは総理大臣辺りの秘書を募集してたんじゃないかと思うわけよ。やっぱし、国を動かす人間の秘書ともなれば、嘘の一つや二つうまくつけなきゃまずいような気がするじゃない。って、何だよその疑いの目は。本当だって、嘘じゃないって。


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