カメラに映らない男


 自分は突然、カメラに映らへん体になってしもうた。
 理由は全くわからん。医者は簡単にさじを投げよった。
 というのも、カメラに映らん以外は全く体に異常がなかったからや。
 それぐらいやったら大したことあらへんと思うとるかもしれへんけど、自分には死活問題や。
 え?何でやって?なんや、あんた自分のこと知らんのかいな。これでも結構売れてんやで。
 自分の仕事は芸人や。コメディアンつーやつやな。
 ようやく顔も売れて、ゴールデンに顔番組を出せるようになった矢先のことや。
 カメラと名のつくものには一切映らへん。
 つまり、自分の姿を映すことが一切できんようになってしもうたんや。
 テレビに出てなんぼの商売やで。
 カメラに映らへんなんて、もうほんまに商売上がったりや。
 まあそれでも自慢の話術があったから、ラジオやテレビにナレーターなんかで食いつなぐことはできた。
 しゃーないから、コントなんかは舞台でやっとる。
 ところがその辺がうけてか、自分のコントは生でしか見れんつーことで逆に話題になったんや。
 気付いたらテレビに出てたときよりも売れっ子になってしもうた。
 この世の中、何がどう転がるかホンマにわからんもんやね。
 なんて喜んどったら、病状が悪化しよった。
 今度は肉眼にも映らんようになってしもうたんや。
 自分の目では自分の体は見えるんやけども、他人さんには全く見えへんようや。
 とはいうても、確認のしようもないんやけどな。
 声はすれども姿は見えず。
 さすがにこれでは仕事もしようがあらへん。
 そこで、師匠のところに泣きつきに行ったんや。

「師匠、かくかくしかじかなわけなんですわ」
「それはあれやな」
「師匠、そっちは壁ですわ。自分は反対側におります」
「おお、そうか」
「まあ、よろしいですわ。で、どうしたもんでしょう」
「それはつまりあれや。カメラにしても、今回の肉眼で見えへんようになったのも原因は簡単や」
「わかりはるんですか!」
「ええか?カメラにも目にもあるもんって一体なんや?」
「はぁ?なんでしょう?」
「レンズや」
「目の中にもあるんでっか?」
「あるで。知らんのかいな」
「はぁ。でもそれと何の関係がありますんや」
「つまり、お前が皆から見えなくなったんは飽きられたからや」
「はぁ?」
「レンズ、つまり『おめがねにかなわんようになった』ちゅうことや」


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