ACT.87 怒りの理由 (2000.07.09)
私は非常に怒っている。その理由はおとといまで遡る。 台風3号が近づく7月7日の夜。私は風雨激しい中、車を走らせていた。 そういえば、今年からアジア圏の台風にもアジア系の名前がつくことになったんだってねぇ。号数によってつく名前の国が違うらしくて、今回の台風3号は北朝鮮語で「雁」という意味の「Kirogi」という名前がついているそうだ。ちなみに日本名は5号につくそうで、その名前は「天秤」だという。どういう基準でつけているのかさっぱり分からない。まあ、アメリカのように人名がつくよりは感情移入せずに済みそうだから、学校でいじめなども発生せずいいだろう。いや、そういう話じゃなくて。 七夕であるその日に私はTSUTAYAに向けて車を走らせていた。目的は「ファイナルファンタジー9」である。 別に予約をしていたわけじゃないんだけど、今回の9はちょっと期待していたりする。実は私はあまりスクウェアが好きではない。ファイナルファンタジーも最後にやったのはじつは3だったりする。1は確かに面白かった。2もまあまあだったが、ちょっと疑問が残った。3ではついに途中でゲームを止めてしまった。4からはハードがスーパーファミコンへと変わり、すぐにはハードを購入しなかった私がする機会はなかった。その後、5、6と発表されたが、食指が動くことはなくハードはプレイステーションへと変わる。が、7、8は私の知っているファイナルファンタジーとはあまりにもかけ離れていた印象が強くて、ますますやる気が失せていった。確かにグラフィックがきれいなのは認めるが。そして、プレイステーション最後のファイナルファンタジー9も同様に私の横をただ過ぎていくだけのゲームだと感じていた。しかし、雑誌などで記事を読むたびにその印象は変わっていく。「原点回帰」。いい言葉ではないか。前へ前へと進んでいこうとする世の中にあえて逆行する姿勢。こういうのを大事にしていかないと行けないと思うわけよ。もしかしたら、がっかりさせられるのかもしれないが、いつまでも会社名だけでソフトの出来までも文句を言うのは大人気ない話だろう。というわけで、一応発売日にソフトを求めに向かっているのだった。 ころころと変わる風のせいで、フロントガラスがリアガラスがサイドガラスが代わる代わる強い雨に打ち付けられる。あまり目がよくない私はこういう大雨の夜の日の運転があまり得意ではない。暗闇と雨によって視界が確実に狭くなるためだ。普段は、ついつい法廷速度よりも速めのスピードを出してしまうが。こういう時はきっちりと制限速度を守っている。 信号が赤になり前の車に合わせるように速度を緩め停車する。直後、大きな音と共に車に大きな衝撃が走る。慌てて後ろを振り返ると、大きな車の影。 「やられた……」 おかまを掘られてしまったのだ。そう、これこそ今回の本題。 おかまを掘られたのはこれが2度目である。1度目は今から6年前、免許をとった年にまで遡る。 当時私は遠距離恋愛をしていた。まあ、遠距離とはいっても香川と徳島、車で2時間程度の距離であるのだが。ちなみに免許を取るまでは電車を使っていた。しかしその移動費は本当に馬鹿にならないほど高い。それが車の免許を取るきっかけとなったのは余談である。 あの日、私はいつものように彼女の家に向かって車を走らせていた。そして長い下り坂の先にある信号で止まっていたときのことだ。ふと、ルームミラーを覗くと大型トラックの姿が小さく見えた。そこの信号は青に変わるまで結構時間がかかるので、私は何気なくルームミラーに映るトラックの姿を眺めていた。トラックが近づくにつれて大きくなっていくルームミラーのトラックの姿を見ていると、昔見たスピルバーグの映画「激突!」を思い出させてくれる。さすがにその勢いのままぶつかってきて、激しく車の流れている信号へ押し出されることはないだろうが、などと苦笑していた私の顔がルームミラーを見つめたまま引きつるように固まる。ルームミラーに映るトラックは勢いを殺すことなく、私の車に向かって突き進んできているのだ。その刹那、ゴン!という鈍い音と共に、ものすごい衝撃が車と私を襲った。その衝撃はきっちりと停止線で止まっていた私の車が3メートルほど押し出されるほどだった。 しばらく私は放心状態であったが、あとで考えてみればその時間は1秒にも満たなかったと思う。それほど時の流れが遅く感じられた瞬間だ。しかしその後は本当にあっという間に流れた。私に車をぶつけた加害者である人間は実に手際よく警察と保険会社に連絡をし、本当に息のつく間もないほどの速さで処理が行われたのだ。まだ免許を取り立てだった私は何を言い出すこともできず、事故の2日後には事故車の代車が準備され、1週間後には事故で壊れた個所以外のところまで修理された車が戻ってきたのである。ちなみにその車の持ち主は私の母だったので、後でよくぶつけられたと誉められたのが妙な印象として心に残っている。以上が当時の記憶だ。ぶつかった直後の鈍い衝撃と、無残にへこんだ後部トランクの形状、それだけが強く残っている。 そして今回だ。今回の私は妙に冷静だった。慌てて車から飛び出したところでこの大雨に晒されるのが目に見えている。私はハザードランプをつけ、歩道側へ車を寄せると、少しだけ窓を開け後ろの車の様子に目を配った。後ろの車から降りてきたのは30代ほどの男だ。ひょこひょこと歩くその男の第一声はこうだ。 「ありゃりゃ、ぶつかっちゃったかぁ」 私はいきなり腹が立った。まずは被害者に謝るか怪我がないか確認するものだろう。なにがありゃりゃだ。ふざけるのもいい加減にしてもらいたいものだ。あとで名刺をもらって分かったことだが、その男はソフトウェア会社の主任を名乗っていた。こんなのが主任なのでは、部下が可愛そうなものだ。 男はその後も二言三言つぶやいた後、ようやく私にわびを入れた。私はとっとと警察に電話をするよう伝えてシートを少し倒した。ここ数日の体調不良がようやく直ってきたというのに、ついていないときはとことんついていないものらしい。しばらくしてきた警察の態度も私の怒りを増幅させるものだった。こんな大雨の中仕事をしたくない気持ちはわかるが、とっとと帰りたいという気持ちを前面に出して仕事をしてどうするのだ。何か話するたびに近くの交番まで来てもらえればと続ける。わざわざ交番まで行く必要がないのは、前の経験で知っている。もう完全にキレていた私はとっとと警察の書類にサインを済ませ、男に改めて連絡をくれとだけ伝え、現場を走り去った。これ以上、あの現場にいたらあの男を殴ってしまいそうだったからだ。 その後、TSUTAYAでファイナルファンタジー9を買い、自宅へと戻った私はゲームの封を開けることなくそのまま布団へともぐった。とてもゲームを楽しめる心境ではなかった私は窓を叩く雨の音のせいもあってかなかなか眠りにつけなかった。 若い人がどうこう言われている世相だけど、大人だって最近どうなのかなぁと考えさせられるエピソードであった。ちなみに私の車は今もへこんだまま駐車場に置かれているのである。あーあ。 |