ACT.85 一食二種 (2000.06.21)

 この世の中の人間は全て二つの種類に分けることが出来る。それは、「好きな食べ物を最初に食べる人間」と「好きな食べ物を最後に食べる人間」だ。これは子供の時の食事環境が大きく作用するようである。兄弟で兄や姉がいる場合は前者になるタイプが多く、逆に弟や妹がいる場合や一人っ子の時は後者になるタイプが多い。つまり、それは自分の好きな物をつけねらう敵がいるかいないかということだ。前者はいつも兄や姉という脅威にさらされている。だいたい、兄弟では趣向が似ることが多いため、自分が好きな食べ物は兄も好きだという構図はよく見られる。となると、好きなものを食べるには早い者勝ち以外ない。逆に後者には敵が存在しない。自分の好きなタイミングで食べることが可能なのだ。
 で、長男である私は後者である。家庭環境も見事に上記に当てはまる。私はいつも好きな物を最後にとっておく。逆に言えば、嫌いなものを真っ先に食べる。そして、最後に残った好きなものだらけの食事を堪能するのである。嗚呼、幸せだ。
 さすがに最近はあまりしなくなったが、子供の頃はその好きなものを最後に残すために、いかなる方法もいとわない人間であった。
 例えば、私は焼きそばが大変好きである。と、ここで広島風お好み焼きが出てきたとしよう。子供の私はどのように食べていたのかというと、まずお好み焼き部分だけを食べるのである。きれいに焼きそばのみを残し、お好み焼きの部分を全て食べ終わった後で、ゆっくりと焼きそばを食べるのである。人はこれを見て。汚らしい食べ方だとか、広島風お好み焼きの真の味が分からないではないかなどと責めるが、私は好きなものをゆっくりと食べられる上に、1つの料理を2度も楽しめる食べ方というまさに一石二鳥の食べ方なのになぜ責められるのだろうと、いつも不思議に思っていたものだ。
 この一石二鳥食いは色々な食べ物に応用が利いたため、そのうち私は、好きな物がどうこうではなく、一つの料理を何回も楽しむためにその変な食事法を用いていた。
 例えば、ハンバーガーのバンズをそれに付いているピクルスやケチャップなどでまず食べ、最後にハンバーグだけを食べて、肉の旨味を思いっきり味わってみたりとか、ラザニアをパスタ部分、ミートソース部分で順番に上から食べていってみたりとか、何層にもなっているデザートなんかも上から順番にここはクリーム、ここはアイスといった具合にそれぞれの味を堪能してみたりする。
 などと書いていくと、やっぱり汚らしい食べ方だと嫌悪される方もいることだろう。しかし、このような食べ方は誰もが一度はしていることなのだ。決めつけてしまってもいいものかとちょっと不安になったが、決めつけることにする。
 一番有名なところではポッキーだ。ほら、あなたにも思い当たるだろう。ポッキーのチョコだけをまずなめ取り、残ったのをプリッツだよーんとか言いながら2度に分けて食べたあの青春の日々が。いやな青春だな、おい。
 それはともかく、おわかりいただけたことだろう。そう、私は人よりもその食べ方をしている期間が長かっただけなのだ。もし、あなたも私のように長くこの食べ方をしていたら、もっとすごい食べ物を分けて食べていたのかもしれないのだ。
 例えば、カレーライスをカレーとライスに分けるだけでは飽きたらず、カレーを野菜と肉と水とカレースパイスに分けて食べてしまったりするのだ。って、それができたらすごいな。意外とこの道を極めたら出来るものなのかもしれない。シェフがどんなに手のこんだ料理を作り上げても、全て材料の段階まで戻してしまい、それを別々に食べるのだ。シェフ泣かせなやつとして、結構有名になれるかもしれない。
 あ、でもそれなら、はじめから料理を食べずに材料食べとけばいいのか。むむ、本末転倒とはこのことであるな。と言うことも考え、私はこの道を極めずに、この食べ方を楽しんでいるのである。だからまあ、最近はあまりしないんだけどね。

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