banner.jpg (9078 バイト)
[Home] [What's new] [Introduction] [Research] [Books] [掲示板] [Link] [Other films]


 『ファントム・メナス』と『ベンハー』の共通点
 
 『ファントム・メナス』と『ベンハー』の共通点を、一覧表にまとめてみた。

 カット割やカメラアングルに至るまで、ここまで似ているとは驚きである。

『ベンハー』 『ファントム・メナス』
benhar.jpg (9895 バイト)
主人公 ジュダ・ベンハーは奴隷
anakin_face.jpg (10738 バイト)
主人公 アナキン・スカイウォーカーは奴隷
messara.jpg (12044 バイト)
悪どいライバル
メッサーラ
seb.jpg (12148 バイト)
悪どいライバル
セブルバ
zokucho.jpg (10289 バイト)
金にがめつい族長
watto.jpg (14835 バイト)
金にがめついワトー
喋り方まで、族長に似ている
teire.jpg (11891 バイト)
馬の手入れを怠らないベンハー
seibi.jpg (12700 バイト)
レーサーの整備を怠らないアナキン
kake.jpg (14114 バイト)
族長はレースに大金を賭ける

賭けの最中のセリフ
「司令官は連戦連勝」
win.jpg (14077 バイト)
レースにアナキンを賭けるワトー
ワトーとの賭けの最中のセリフ
「セブルバはいつも勝つ」
massage.jpg (13037 バイト)
マッサージを受ける戦士
massage_FM.jpg (11341 バイト)
マッサージを受けるセブルバ
zenshosen_benhar.jpg (12146 バイト)
レース前の駆け引き
相手を威嚇する言葉を言い合う

zenshosen.jpg (14077 バイト)
レース前の駆け引き
相手を威嚇する言葉を言い合う
flag_benhar.jpg (10895 バイト)
フラッグに先導された戦車が
一列に並んで、観客にアピール
flagparade.jpg (12792 バイト)
フラッグ・パレレード
各選手が観客にアピール
shoukai_BH.jpg (11026 バイト)
戦士を一人ずつ紹介
出身地が呼び上げられる
shoukai_FM.jpg (14325 バイト)
選手を一人ずつ紹介
名前と出身地が呼び上げられる
shoukai_BH2.jpg (12111 バイト)
ご当地レーサー、ベンハーの出身ユダヤが呼び上げられた直後に、場内から大きな歓声があがる。
shoukai_FM2.jpg (14951 バイト)
ご当地レーサーのアナキンの名前が呼び上げられた直後に、場内から大きな歓声があがる。
opening_BH.jpg (11003 バイト)
レースの始まりを示す
ファンファーレのような音楽
kyougijyo.jpg (13826 バイト)
レースの始まりを示す
ファンファーレのような音楽
レース会場の雰囲気もかなり似ている
teitoku.jpg (11034 バイト)
ローマ提督の合図で、レースが始まる
jabba.jpg (11644 バイト)
ジャバの合図で、レースが始まる
shukai.jpg (10052 バイト)
周回数を示す表示板

shukai_FM.jpg (9928 バイト)
周回数を示す表示板
gekihaeach_BH.jpg (10739 バイト)
戦車は一台ずつリタイヤしていく
gekihaeach_FM.jpg (9660 バイト)
レーサーは一台ずつリタイヤしていく
gunshu.jpg (14703 バイト)
群集シーン
gunshu_FM.jpg (14823 バイト)
群集シーン
pit_benhar.jpg (9537 バイト)
コース内をうろちょろするピット要員
破壊した戦車の後片付けをしている
pitdroid.jpg (13472 バイト)
コース内をうろちょろするピットドロイド
doriru.jpg (9219 バイト)
卑怯な手段を使って妨害工作をする
メッサーラ
akudoi.jpg (10997 バイト)
卑怯な手段を使って妨害工作をする
セブルバ
ridatu.jpg (10278 バイト)
離脱寸前

しかし、何とか体制を立て直し、
無事コースに復帰
ridatu_FM.jpg (8039 バイト)
コースから離脱寸前
しかし、何とか体制を立て直し、
無事コースに復帰
lastfight.jpg (9448 バイト)
ムチが引っかかって、バランスを崩す
メッサーラ
connect.jpg (9900 バイト)
ポッドが引っかかって、バランスを崩す
セブルバ
gekiha.jpg (11697 バイト)
メッサーラ撃破
gekiha_FM.jpg (9237 バイト)
セブルバ撃破
live_benhar.jpg (10505 バイト)
しかし、メッサーラは生き残った
gekiha_FM_seblive.jpg (8501 バイト)
しかし、セブルバは生き残った

kakeyori.jpg (13541 バイト)
優勝したベンハーを祝福するために
駆け寄る市民
celeb_FM.jpg (12670 バイト)
優勝したアナキンを祝福するために
駆け寄る市民
iiai.jpg (14781 バイト)
メッサーラの敗北に納得できない観客

両手を横に広げて、抗議の異を表明
iiai_FM.jpg (11595 バイト)
セブルバの敗北に納得できないワトー
両手を横に広げて、抗議の異を表明
release.jpg (12303 バイト)
「お前をローマ市民とする」
レースに優勝し、自由を手に入れた

ベンハー
freeanakin.jpg (11344 バイト)
「彼は自由だ。もう奴隷じゃない。」

レースに優勝し、自由を手に入れた
アナキン
jesus.jpg (12324 バイト)
ベンハーに救世主のイメージが
オーバーラップ
jesus_FM.jpg (9408 バイト)
アナキンはフォースに調和をもたらす者
アナキンに救世主のイメージが
オーバーラップしている
meetmother.jpg (10135 バイト)
ヘンハーと母親との運命的な再会
はたして、『エピソード2』で、アナキンと母親シミとの再会は実現するか?

 ポッド・レースのシーンが、『ベン・ハー』の戦車レースと酷似していることは、昔ながらの映画ファンであれば誰でも気付くだろう。ここでは、『ファントム・メナス』と『ベン・ハー』の共通点を考察するが、そんなこと言われなくてもわかるという人も多いかもしれない。しかし、果たしてそうだろうか。『ファントム・メナス』では、黒澤明作品を筆頭に何本もの名作、傑作映画の共通性が指摘されているが、あくまでも映像的、ストーリー的な類似性のみの指摘で、なぜそれらの作品を引用したのかというテーマレベルでの考察に欠ける。『ファントム・メナス』が『ベン・ハー』に似せて作られているのも、実は非常に大きな理由がある。
 まず、表面的、視覚的な類似点。これについては、詳細に記述しても意味がないので、一覧表にまとめた。
 ここで重要なのは、アナキンがベン・ハーであるのは当然だが、アナキンのライバル役セブルバが、ベン・ハーのライバル、メッサーラに対応していることである。セブルバは、メッサーラのようにイカサマ的手段によってライバルを蹴落としていく。レース前にセブルバはトワイレック女性(頭にしっぽのようなものが二つ垂れている青い肌の女性)のマッサージを受けているが、これも『ベン・ハー』からの引用なのである。
 しかし、これらの引用は単なる物真似ではない。以下の三点において、『ファントム・メナス』は『ベン・ハー』のエッセンスを、うまく作品の中に取り込んでいる。
 まず、ベン・ハーとアナキン・スカイウォーカー、この二人の最も重要な共通点は、奴隷であるということである。ベン・ハーは、いさかいによって無実にもかかわらず、ローマ帝国の奴隷にされるが、たぐいまれな体力と精神力によって、剣闘士、戦車のりとして成功を収める。そしてクライマックスの戦車レースでの勝利によって、市民の権利を獲得し、奴隷の地位から脱する。
 アナキンは、タトウィーンで奴隷として使われていたが、たぐいまれなフォースによって、ブーンタ・イヴのポッド・レースに勝利し、奴隷の地位から脱する。
 戦車レースとポッド・レース。この二つのレースは、奴隷から脱するという意味を持った重要な戦いであった。
 『ベン・ハー』の原作はルー・ウォーレストの「ストーリー・オブ・クライスト(救世主の物語)」である。『ベン・ハー』は、スペクタクル映画ということで、アクションの印象が強いがテーマ的には宗教映画といってもいい。主人公ベン・ハーは、エルサレムに入場したイエスと出会い、イエスにひかれていく。やがて、母の病が癒されるというイエスの奇跡に直面し、イエスへの信仰に目覚めるのだ。救世主(キリスト)の物語、すなわちそれはイエスの物語である。と同時に、ユダヤ人のヒーロー、奴隷たちの精神的な支柱であったベン・ハーにも、救世主のイメージが重ねられる。
 では、『ファントム・メナス』でアナキンはどう描かれていたか。第90節「聖書的世界観からみたスター・ウォーズ」で詳述したが、ジェダイ評議会で、アナキンは予言された、フォースに調和をもたらすものではないか、と言われる。イエスの登場は、旧約聖書により予言されていた。イエスもまた、予言された者であった。
 そして、アナキンの父親は不明で、シミのセリフは、処女懐胎を想起させる。もちろん、イエスは聖母マリアの処女懐胎により生まれた。
 このように、アナキンは、救世主のイメージとして描かれている。
「ポッド・レースのシーンで眠たくなって寝た」という話を何人かの人から聞いた。しかし、そうした人は『ベン・ハー』を見たことがあるのだろうか。『ベン・ハー』の大ファンである私に、ポッド・シーンのシーンは『ベン・ハー』の感動の再現と再構成という、大きな楽しみを与えてくれた。昔ながらの映画ファンで『ベン・ハー』を見ていない人というのは考えられないが、最近の若者は『ベン・ハー』といっても全くピンとこないかもしれない。もし映画史上の傑作『ベン・ハー』を見ていない人がいれば、必ず見るべきである。そして、その後にもう一度『ファントム・メナス』を見ていただきたい。『ベン・ハー』の感動の再現と再構成という意味が、理解できるであろう。
 『ベン・ハー』においてもう一つ、見逃してはいけない重要な描写がある。それは、ベン・ハーと母親との関係である。ベン・ハーとアナキンの重要な共通点として「家族思い」ということがある。ベン・ハーは、ローマ帝国への反逆罪で奴隷の身分におとしめられるが、その時も自分の母と妹は反逆には全く関係ないと、家族を守り通した。アナキンが母親思いであることは、今さら説明するまでもないだろう。
 戦士として成功を収めたベ・ハーはエルサレムへと戻るが、そこで母と再会する。業病に犯された母と十数年ぶりに再開する。この再開のシーンは感動的である。『エピソードU』では、アナキンと母の再開が鍵になる。果たして、アナキンは『ベン・ハー』と同じように無事母親との再会を果たすことができるのか。母との再会シーンが重要という意味で、『ベン・ハー』のテーマは、『エピソードU』にも持ち越されそうである。
 単なる、映像的に類似しているのではなく、作品のエッセンスにまで深くとりこんでいる点がスター・ウォーズの凄さである。『ベン・ハー』を見たことがない人は当然として、過去に見たことがある人も今一度、『ベン・ハー』を見直して欲しい。『ファントム・メナス』を見た今、全く別な意味で『ベン・ハー』を楽しめる。『ファントム・メナス』は、『ベン・ハー』に新しいおもしろさを賦与した。これもまた、ウター・ウォーズ・ユニバースの拡大と言えるかもしれない。スター・ウォーズそれ自体だけではなく、過去の名作を再構築しながら、ユニバースの中に取り込んでしまう。壮大な楽しみが、果てしなく広がっていく。