NHK会長 橋本 元一 様
申 し 入 れ
~参議院NHK予算審議・山本順三議員への答弁をめぐって~
2006年4月13日
放送を語る会
3月30日、参議院総務委員会でNHK事業計画及び予算の審議が行われましたが、その際、自民党山本順三議員とNHKとの間で展開された質疑応答に、私たちは驚きと強い怒りを禁じえません。
山本議員は、番組「ETV2001」への政治介入の事実が争われている「NHK裁判」での永田浩三NHKチーフプロデューサー(当時)の証言が、NHKの公式見解と違う,と指摘、「どのようなケジメをつけるのか」とNHKにせまりました。これに続く質問で朝日新聞社内の処分の例をあげていることから、山本議員の発言が永田氏の処分を求めていることは明白です。
これに対し、橋本会長は、「永田証言は根拠がない」と応じた上で、処分要求には「人事上の扱いについては適切に対処したい」と答えられました。 「適切な対処」の中に「全く処分しない」ことが含まれるとは考えにくく、会長の答弁は、事実上何らかの処分を行う、と約束したに等しいものです。 これはきわめて重大なことといわなければなりません。
第一に、法廷での証言は、良心にのみ基づいて真実を述べるという宣誓によって始まります。もし証言者の属する企業が、証言内容を理由に処分または処分の威嚇を行うならば、証言者の内心の自由、良心の自由は侵害され、重大な人権侵害となります。そればかりか、真実を追求する裁判の進行を妨害する結果を招きます。
万一そのような処分が行われた場合、NHKが、「思想および良心の自由は、これを侵してはならない」という憲法第19条に違反し、ほかならぬ「公共放送」が人権を侵害したことになります。その社会的影響ははかりしれないでしょう。
第二に、政権与党の議員が、とくに犯罪を犯したわけでもない職員、しかも番組制作に従事する職員の処分を、自立的であるべき報道機関に要求したことにたいし、会長がそれを容認する答弁をされたことは、公共放送の長としての見識を大きく疑わせるものです。これは、「平成18年度~20年度経営計画」に書かれた、「NHKは、何人からの圧力や働きかけにも左右されることのないジャーナリズムとして、いかなる場合でも放送の自主自律を貫きます」という約束に違反するものではないでしょうか。
第三に、会長は「永田証言は根拠がない」と明言されました。根拠がないかどうか、は今まさに裁判で争われており、係争中です。永田氏が反論できる保障のない国会という場で、しかも国民にたいして一方的な見解を述べられたことは、証言者の権利を侵害するおそれのある行為ではないでしょうか。
当会は、視聴者団体のひとつとして、NHKが、放送において公共性を貫き、自立した放送機関として国民の信頼をかちとることを願っています。その立場から、強い抗議の意思をこめて、以下のような申し入れを行います。視聴者の期待にこたえる誠実な対応を期待するものです。
速やかな回答をお待ちします。
1、裁判で、真実を明らかにするため、自らの良心にもとづいて証言した永田浩三・長井暁両氏に不利益を及ぼすような処分をしないこと。
2.「経営計画」、公表したガイドラインなどで視聴者に約束した「放送の自主・自律の堅持」を厳格に守り、「けじめ」「自浄能力」を求める山本議員の不当な干渉には毅然たる態度で拒否の姿勢を貫くこと。
3.これまでの「NHK裁判」で明らかにされたように、問題の番組で、国会担当の役員が政治家の意向を制作現場に持ち込み、その意に沿う改変が行われた、という事実は疑いようがありません。NHKは「政治介入による番組改変の事実はなかった」という頑なな態度を改め、その後の裁判・報道で明らかになった事実、関係者の証言などに真摯に耳を傾け、「ETV2001」番組改変をめぐる真相解明のため、新執行部として改めて事実関係の全容を再調査し視聴者に納得のいく説明をすること。