- ひとつの病気に対する治療法は、必ずしもひとつだとは限りません -

 さて・・・最近では、インフォームド・コンセント(Informed Consent)という言葉もかなり一般的になってきていますが、これにはいくつかの和訳があり、私としては「患者さんの権利と医者の義務 (インフォームド・コンセント)」の項でも書いておりますとおり、「納得診療」という訳が最も適していると思っています。

 ところで、そもそもこのインフォームド・コンセントというのは、「医者が患者さんに対して、何らかの説明をしたという既成事実をつくること」を目的としているのではなく、「患者さんに納得して頂いた上で、処置(治療)をお受け頂くこと」が目的であるはずなのですが、最近では、単に「医者が説明義務を果たすこと」というふうに受け止められているような気がしてなりません。

 少々極端かもしれませんが、「あなたのお口は、このような状態です。ついては、このように処置してまいりますが、よろしいですね!?」というような医者の言葉がインフォームド・コンセントであるとするならば、大半の患者さんはこれに対して「はい。」としか返答のしようがないでしょう。

 これでも「病状と治療方針についての説明をして、患者さんの了解を得たことになる。」と言えば、確かになるのかもしれませんが・・・少なくとも、これがインフォームド・コンセントの本来あるべき姿だとは私には思えないのです。

 こんなことを考えていた矢先、NHKで放送された「クローズアップ現代  - 井上怜奈 がんに負けない・あきらめない -2008年4月10日)」という番組での 鎌 田   實 諏訪中央病院名誉院長 の談話で、私はインフォームド・チョイス(Informed Choice)という言葉をはじめて知りました。

 ・・・と共に、このインフォームド・チョイスという概念は実に素晴らしい意味合いを持っていると思いました。

 ちなみに、インフォームド・チョイス(Informed Choice)とは・・・

@

医者から患者さんに、病状についての適切な説明が行われ、

A

それとと同時に、選択肢として考えられるすべての治療法が、そのメリットとデメリット(リスク)と共に提示され、

B

@とAを患者さんに理解頂いた上で、患者さんご自身に治療(処置)方針を選択、決定して頂く医療(診療)体制

・・・というようなことだと、ご理解いただければいいかと思います。

 往々にして、医者側としては説明義務を果たしたと思っていても、患者さんの側からすると、納得したというよりは納得させられた、或いは、納得せざるを得なかった・・・このような感のあった日本におけるインフォームド・コンセントも、このインフォームド・チョイスという言葉で、よりあるべき姿が明確になったと私は思います。

 納得できる治療法を、自ら選択できる・・・医療の世界は今、インフォームド・コンセントの時代からインフォームド・チョイスの時代へと移り変わっていこうとしています。