最近まで、歯の色を合わせてクラウン(冠)を作る場合、その審美性を考えると陶材単体で作るのが最もきれいにできるのですが、その強度や適合性を考えると、どうしても金属のフレームに陶材を焼き付ける「メタルボンド」などと呼ばれている陶材焼付冠を作るのが通常でした。

 ちなみに、保険診療にて色を合わせて作れるクラウンとしては、金属にプラスティックを貼り付けた硬質レジン前装冠やプラスティックのみで作られた硬質レジンジャケット冠などといったものが、特例を除いては6前歯に限ってその製作を許されていますが、これについては、適合性、強度、審美性等々、いろんな意味で比較の対象外と思われますので、本項ではふれません。

 さて、従来の陶材焼付冠では、内面にある金属のフレームのためになかなか自然な透明感のある歯の色調を再現しきれませんでした。また、これに使用する金属は酸化メタルという状態で用いられているために、歯や歯茎を変色させてしまうケースもありました。

 このような強度の確保と審美性、適合性の追求といった条件をクリアーしたのが、ジルコニア(酸化ジルコニウム)と呼ばれる材料とこれを扱う技術です。

 ジルコニアはそれ自体が天然歯質に近い色調をしており、天然歯と同様にある程度は光を透過させますので、より自然で美しい歯の色調を再現できるようになりました。

 また、ジルコニアはF1のブレーキや人工関節にも使われるほどの強度を併せ持っており、この上に陶材を焼き付けてゆく手法によって従来どおりの適合性を得ることが可能です。

 それだけでなく、ジルコニア・フレームによるオール・セラミック・クラウンの作製においては金属をまったく使用しませんので、金属アレルギーをお持ちの方の口腔内にも安心して装着することができ、プラスティック材料のような環境ホルモン問題も出てきません。

 審美性の回復に優れ、歯にかかる力に対しての十分な強度も確保でき、適合性にも優れ、その上で生体に為害作用を及ぼさないこのジルコニア・フレームによるオール・セラミック・クラウンは、新しい素材と技術という意味で今注目を浴びているもののひとつだといえるでしょう。