みなさんもご存知のとおり糖尿病は代表的な生活習慣病ですが、この慢性疾患は初期段階においては殆ど自覚症状がなく、そのため気づくのが遅れ、何らかの自覚症状があって気づいたときには既にかなり進行してしまっているという、なかなかに厄介なものです。

 このことからもおわかり頂けるように、健康であれば何の自覚症状も無いのは当然のことですが、自覚症状が無いからといって病気がないということにはならないわけです。

 そして、歯周病も糖尿病と同じ生活習慣病としての慢性疾患であり、初期においては自覚症状のないままに進行し、気づいたときにはかなりの度数にまで進行しているという病気なのです。そう・・・「自覚症状が無い=歯周病が無い」ではなく、歯周病はあなたの気づかぬうちに静かに忍び寄ってきて、あなたのお口を破壊してゆくのです。

 もしあなたが、一度は糖尿病だと診断されても、その後血糖値を正常値に保ち続けることができておられるのであれば、現在のあなたは糖尿病ではないのです。でも、ちょっと気を抜くと・・・血糖値は一気に上昇!ということにもなりかねませんね。つまり、自覚症状が出たことで気づき慌てふためく・・・というのではなく、常に健康な状態を維持管理し続けていることが、歯周病に対しても最も必要なことなのです。

 言い換えれば・・・歯周病は、きちんと管理さえできていれば決して恐れなければならないような病気ではないということです。

 そして勿論、言うまでもないことですが・・・何よりも大切なことは「決して歯周病をつくらないこと」です。

 「どうすれば患者のみなさんに『歯の大切さ』と『ブラッシングの重要性』を理解して頂けるのか」、これは、どうやら私達にとって永遠のテーマ(!?)のようです。

 勿論、「歯は大切」ということは、殆どの患者さんが理解してくださっています。しかし、口腔内の状態の悪い方ほど、そこには危機感がないのです。危機感がないからこそ、その口腔内環境は悪くなってきたのでしょうが、そのような方ほど現状を認識して頂いてからも・・・なぜか、なかなか危機感の生まれてこない方が多いようです。

 歯科領域においては癌などの重篤な疾患も少なくありませんが、それでも通常の歯科疾患は生命に直結してはきませんね。だから、危機感をお持ち頂けないのでしょうか!?

 「あなたの病気は○○癌ですが、ブラッシングで治りますので頑張ってくださいやってください!」てなことであれば、どなたも必至でブラッシングをして下さるのでしょうね。 私達としましては、実はこのくらいの危機感をもってみなさんにはブラッシングをして頂きたいのですが・・・。

 こういった意味からも、私達は患者さんに「健康な口腔内環境を維持管理」して頂くための良きパートナーでありたいと、常に考えているのです。

 口腔内の健康管理において「自己管理」とぴうのはとても重要なことであり、日々、正しいブラッシングを継続しておられるかどうかは、その方の口腔内環境を大きく左右してきます。

 もし私達が、皆さんのお口をお預かりするというようなことができたなら、しっかりとした管理をし続けていて差し上げることもできるのですが、当然のことながら全員がお持ち帰りになるわけで・・・したがって、どうしても皆さんご自身の手にその管理をお任せしなければならないわけです。

 そこで、その管理方法を私達は何とかみなさんにマスターして頂こうと、毎日多くの患者さんにお教えし続ける・・・ということになるわけです。

 そんな歯周病と取り組んでゆく上で私が最も重要だと考えるのは、以下の3点です。

@

セルフ・ケア

私達のお教えした「あなたに合ったブラッシング法」による、正しいブラッシングを励行して頂くこと

A

プロ・ケア

患者さんのお口の健康を維持するための、私達プロの手による継続的管理

B

私達デンタル・スタッフと患者さんとのチームワーク

 皆さんの中には、器用な方もおられれば少々不器用な方もいらっしゃいますが、ブラッシングの基本は決して要領ではなく、「丁寧さ」なのです。正しい方法で丁寧に!・・・これこそが、ブラッシングの極意なのです。

  80歳になっても、20本の歯をもっていられるようにしましょう!・・・これが、今全国的に展開されている「8020運動」の趣旨なわけですが、私達の正常な歯数は28本。80歳になっても28本の歯をもっているというのが、いわば当たり前のことなのです。そのためにも、生活習慣病である歯周病には、日々のコントロールが不可欠です。

 つまり、昨日も今日も明日も、日々お口の健康な状態を保ち続けて頂いていることが重要なのであり、それが来週も来月も来年も10年後も20年後も・・というふうに、老後の健康なお口へと繋がってゆくのです。

 そう・・・80歳で28本の歯を持ち、笑顔で美味しく食べ続けていて頂くための準備は、もう既に始めていて頂かなくてはならないのです。

 また、歯周病は大事に至らぬうちに早期に発見し、対処しなければなりません。したがって、虫歯だけでなく歯周病に対する見地からも、歯科医院での定期検診と適切なメインテナンスが大切なことになってくるのです。

 ちなみに・・・「10年先を見越してのきちんとした治療処置」には、

徹底的に、歯周組織(主に、歯を支える歯茎と骨)のコンディションがととのえられた上で行われていること。

きちんとした補綴処置(冠をかぶせたり入れ歯を入れたりする処置)を行うため、1歯1歯に対して確実な前処置が行われていること。

(確実な虫食いの除去や根っこの処置、土台作り、等)

きちんとした補綴物(理にかなった設計と形態をもった、適合性の高い補綴物)の装着がなされていること。

できる限り、患者さんの希望が反映されていること。

作り上げた健康な状態を維持管理をして頂けるだけのブラッシングのテクニックを、患者さんご自身にしっかりとマスターしておいて頂き、それを励行して頂くこと。

というようなことが必要不可欠なのだと思っていて頂きたいと思います。

 余談になるかもしれませんが、 歯周病の急性発作などで歯茎が腫れたような場合、歯科医院にて抗菌剤(抗生物質)などの投薬を受けることでその腫れや痛みが消退すると、もうそれだけで「治った」とお思いになる方が多いのですが、決して短絡に「治った」と考えて頂いてはいけないのです。

この場合の「腫れや痛みが退いた」というのは・・・ちょっと難しいかもしれませんが、あくまでも急性症状を呈していたものが、薬効により慢性化したにすぎず、病気自体がなくなったわけではないのです。

 その証拠に、症状が退いたからといって安心してしまい、そのままに放置していると・・・必ずや、症状はぶり返してきてします。そして、その時には前以上に状況は悪くなっているというのは、言うまでもないことでしょう。

 言い換えると、このようなケースにおける投薬というものは一時的に腫れや痛みといった症状を押さえ込むことはできても、その病気を根本的に治しきることはできない・・・ということなのです。

 したがって、一旦投薬で急性症状(腫れや痛み)を押さえ込んだが最後、二度とそのような症状を呈させないようその時点での根本的な処置を施し、その後はそこで作り上げた健康な状態の維持管理に向けての努力をし続けることが必要不可欠なのです。

 なんとしても皆さんには、80歳になっても28本の健康な歯を持ち続けていて頂きたいものです。下図は、いつまでもその良好な状態を保ち続けて頂くための歯科における通常のサイクルを表したものですので、参考にして頂きたいと思います。