他の項でも書きましたが、乳歯を虫歯で喪失するなど、もってのほかなのですが・・・「それでも、失ってしまった場合」のことをここでは書いておくことにいたします。

 乳歯は健全な永久歯列の完成のためにとても重要な役割を果たしますので、その乳歯を失うにあたっては当然それなりのリスクを伴うことになります。「なぜ、それほどまでに乳歯は大切なのか」に関しましては、下記の3項をご参照頂ければと存じます。

― 参  照 ―

抜歯といわれたとき

乳歯・乳歯から永久歯への交換・不正咬合と矯正治療

我が子の口を、虫歯のないきれいな噛み合せにするために

 さて、永久歯の先天性欠如があるような子供でないかぎり、通常乳歯は必ずいずれは脱落する運命にあるのですが、問題はその時期にあります。乳歯の場合・・・「晩期残存」といって虫食いのないきれいな歯だからといって下から永久歯が生えようとしているにもかかわらず、踏ん張って居座り続けているのもいけませんし、「早期脱落」といってまだ役割を果たしきらないうちに抜けて (抜いて) しまうのもいけないのです。

 晩期残存に関しては、定期的な観察 (その時期によって、3〜6ヶ月に一度) さえ怠らなければ、まず大きな問題にはならないでしょう。レントゲンなどから見て、その乳歯が脱落時期に至っているにもかかわらず今後も居座りそうなら、時機を見て予め抜去(抜歯)しておいてやればいいことだからです。

 ここで、乳歯を早期に失ってしまった場合の対処法についてお話しする前に、乳歯の虫歯は永久歯の虫歯とは違うということをお話ししておかなければなりません。永久歯に対して乳歯の虫食いは、虫歯としては基本的に同じなのですが、急性に進行するケースが多く、そう・・・あっという間に歯は崩壊してしまうのです。

 このようなことから、「気付かぬうちに、すでに手遅れ状態にまでなってしまっていた。」というようなことになりかねないのが、乳歯の虫歯なのです。勿論、このようなことになってしまっては絶対にいけないという事は、今までにも散々お話ししてまいりました。

 ・・・で、残念ながら早期に乳歯を失ってしまう結果になったときのことですが、単に抜き去っただけでは (抜けたままの状態で放置しては) いけない場合がほとんどです。それは、他の歯の位置関係に狂いが生じる事があるからで、このような場合には歯を失ったことによってできてしまったスペースを後続永久歯が生えてくるまでの期間保っておく必要が出てきます。そのための装置を「保隙装置」といい、これにはざっと以下の4種類があります。

バンド・ループ

(A)

(B)

(図:A)

早期に失った部分にできた空隙を、

バンドを巻いた歯に取り付けたループによって保ちます。

 

(図:B)

このようにその下から歯が生えてきた時点で、撤去してやります。

クラウン・ループ

本来バンドを巻くべき歯の虫食いの状態などにより、バンドを巻くのではなく乳歯冠をかぶせ、その冠にループを取り付けたものです。

ですから、基本的な装置の意味合いから言うとバンド・ループと同じです。

ディスタル・シュー

第一大臼歯(6番)が生えてくる以前にE(第二乳臼歯)を喪失した場合に使います。Eに沿って6は生えてくるのですが、そのEを失うと6は前方傾斜した位置に生えてきてしまいます。そこで、Dを使って6の生えてくるガイドを作ってやることになるわけです。

小  児  義  歯

 

食べ物を噛むという機能の回復と保隙という両方の目的で使う小児用の有床義歯です。左図は左右のDを失ったケースで、その部分がひとつの入れ歯で修復されており、上記3装置と異なる点は「自身で着脱が可能」だということです。

残念ながら、基本的にこれらの装置は全て保険給付対象外です。

 これらのような装置をお子さんのお口の中に入れるようなことにならないよう、くれぐれも大切にしてやって頂きたいと思います。