保険医療機関で行われている通常の自由診療(自費診療、保険外診療)といえば、矯正治療(ごく一部の矯正治療は、保険の適用を受けています)と一部の補綴処置ということになるのですが、ここでは補綴処置における自由診療について書いてみたいと思います。

 さて、審美歯科という言葉も今では多くの人々の知るところとなりましたが、そのせいか最近では歯科における自由診療を審美的な視点からのみ捉えておられる患者さんが多いように思います・・・が、これは大きな間違いです。

 そもそも、自由診療における本当のメリットというのは「EBM(医学的根拠)に基づいた高い精度での優れた機能回復」という本来の歯科医学的観点から見たところにあるものであり、審美性の回復はあくまでもそれらをクリアーした上での付加価値でなければなりません。

 そして、この歯科医学的な観点から見た評価こそが、目に見えない、そして最も大きな保険診療と自由診療との差であり、またこの点にこそ差があるべきなのです。保険診療に比べて高額なぶん、自由診療には歯科医学的な面においてその金額差に値するだけの優れた部分がなければならない・・・ということですね。

 ひとことで言えば、「保険診療に比べ、よりレベルの高い技術や材料を導入することにより、みなさんにとって一層満足度の高い高度な医療内容を提供できる」・・・これが本来の自由診療というものの定義だと私は思っているのですが、実はこの「レベルの高い技術や材料」というところに自由診療の大きな問題が隠されているのです。

 ちなみに、その場の見た目を美しく見せるだけなら歯科においてはそれほど難しいことではないのですが、「あの時はきれいになったと喜んでいたのに、たった数年でこんなことになるなんて・・・」では、話になりませんね。

 みなさんのお口の中に入る補綴物はすべてがカスタム・メイドであり、既製品ではありません。したがって、その出来具合は作り手の腕にかかってくるわけです。同じ材料を使ってもそれを扱う人間によって完成品には大きな差が出てくるわけで、高度な理論と技術、仕事自体の丁寧さ・・・こういったものがその補綴物のクオリティーをを高めるのです。

 メタルボンドなどとも呼ばれる陶材焼付冠ひとつを例にとっても、そのかぶせた継ぎ目(クラウン・マージンといいます)が不適合であるがために歯周病を誘発したり、再びその部分から虫歯になったり、或いは噛み合わせの調整が十分になされていなかったがために陶材の部分が割れ飛んだり歯が動揺し始めたり・・・では、いくら色がきれいであっても自由診療の価値などどこにもありません。勿論、自由診療で作ったにもかかわらずクラウンの色がうまく合っていないなどということがあったなら、それはもう論外ですね。

 つまり、ただ単に保険適用外の良い材料を使ったというだけで、その材料の持つ特性が十分に引き出されていないのであれば、自由診療にした意味はまったく無いということです。

 私たちがみなさんから頂戴する診療費は、決して貴金属などの材料代ではなく、あくまでも医療としての技術料なのであり、自由診療だからこそ使うことのできる優れた材料の特性をその補綴処置の中で最大限に引き出す能力こそが、我々歯科医に求められる「腕」だとも言えるわけで、とにかく、みなさんが自由診療をお受けになるときは「価値ある自由診療」をお受けいただきたいと思います。

 もちろん、補綴物を長持ちさせるためには日々のブラッシングや定期検診が不可欠であり、私の診療室ではそのためのリコール・システムも採用していますが、元からきちんと出来上がっていない補綴物については、これ以前の問題だということです。


保険診療と自由診療の境界線について

 歯科では、どこまでの処置が保険診療としてみなさんにお受け頂けるのでしょう!?

 保険診療というのは、保険医療機関として指定を受けた施設で保険医の資格を持った歯科医師がその法律の下で行うものですので、これについては細かい字でびっしりと書かれた分厚い本一冊分もの決まりがあり、HP上などではとてもご説明しきれるものではありません。

 したがって、患者のみなさんとてはその場その場で担当医より説明を受けていただくしかないわけですが、その一例として・・・

虫歯になり → 神経を抜いて → 土台(COREといいます)を作り → クラウンをかぶせる

・・・というケースで、簡単にではありますがその境界についてご説明しておきましょう。

 この場合、まず虫食いを除去して神経を抜き、根っこの治療を終えるところまでは、完全に保険診療として受けていただけます・・・が、その後の土台作りからが保険診療と自由診療とに分かれてくることになります。

 保険適用のクラウンを作成する場合は土台も含めて保険の適用を受けられるのですが、保険適用外(自由診療)のクラウンを作る場合には、土台の部分からが保険の適用外ということになります。

 また、保険診療であれば取り外し式の部分入れ歯になるところを、インプラントによって機能回復しようとした場合については、インプラント治療はすべて保険の適用外ですのでその手術を含めた全処置が自由診療となります。

 みなさんにとっては、ややこしい話ですね。でも、健康保険というのはひとつの法律・・・ややこしいですが、仕方がないのです。

 そして、これらの他にも技術的、或いは材質的には可能であっても保険の適用を受けていない処置というのが歯科にはたくさんあり、そのような処置はすべて自由診療ということになるわけです。


 勿論、多くの例外はあるでしょうが-----誤解を恐れず、ひとことで言わせていただくなら、「いい歯医者」というのは下記のような歯科医だといえると思います。

自由診療においては:

高い知識と技術によって使用材質(材料)の特性を最大限引き出し、審美的にも機能的にも高品質な歯科医療を提供できるという本来の姿での自由診療を提供できる歯科医師

保険診療においては:

保険診療であっても、その範囲内で最大限の良好な結果を生み出そうと努力している歯科医師

 結局、その歯科医師の医療に臨む姿勢、医療に対する倫理観、診療理念といったものが問われることになってくる・・・ということなのでしょうね。

 歯科における自由診療の現状がいろいろな問題を抱えてることは残念ながら否めぬ事実ですが、とにかく私が考えるところの「自由診療の定義」は前述(      部分)のとおりであり、みなさんにはくれぐれも「価値ある自由診療」をお受け頂きたいと思う次第です。

 最後に、2006年2月14日から4回にわたり「混合診療先進地 “歯科の現在”」というタイトルで産経新聞に掲載された記事をご紹介しておきますので、こちらもご参考なればと思います。

第1回   第2回   第3回   第4回