前項(参照:歯医者と患者さん、目指すゴールは同じ」)で触れました「抜歯」に関してですが、そう医師から言われたときに患者さんに知っておいていただきたいことを、いくつか書いておきます。


 乳歯は、永久歯の歯並びと噛み合せ(永久歯列)が完成するまでの、水先案内人です。そういった意味から、乳歯は早期に失っても、また遅くまで残りすぎてもいけないのです。 

まだ抜ける時期の来ていない乳歯が虫歯になって神経まで侵され、その結果その歯の根っこの先に病巣(うみの袋のようなもの)ができた場合、その下にある永久歯は、「うみ」の中に頭を突っ込んでいることになるわけですが、これでは、その永久歯はたまったものではありませんね。そこで、その乳歯の根っこの治療を始めるわけですが、しかし・・・その方法でも処置しきれないほどやられてしまっている場合には、やむをえず「抜歯」せざるをえない場合もでてくるわけです。残念ですが、もうしばらくの間その役目を果たし続けていてほしい乳歯であるにもかかわらずです。

 さて、乳歯を早期に失うと(永久歯の場合も同じなのですが)、後方の歯が前によってきてしまったり、噛み合っていた相手の歯の位置が狂ってしまったりすることが多く見られます。このことは、不正な永久歯列を招く大きな原因になってきますので、乳歯を早期に抜歯しなければならなくなった場合には、この抜歯後のスペースを保つ装置(保隙装置)が必要になってきます。

 乳歯(乳歯列)は、このようなケースに限らずその後の永久歯列を決めるという点でとても大切なものであり、ここのところを十分にご理解いただいた上で、お子さんに虫歯をつくらせないよう注意をして頂き、また抜歯については医師の説明をよくお聞き頂きたいと思います。

 また、逆に「晩期残存」といって必要以上にその場に居座る乳歯があります。そして、これはこれで永久歯列を乱す原因になります。したがって、レントゲン写真などによる確認の結果「要抜歯」ということであれば、できるだけ早くに抜歯をしてやらなくてはならないわけです。

 つまり基本的には、乳歯はごく自然に永久歯と交換してゆくものであるはずなのですが、最近ではなかなか上手く交換してゆかない子供達が多くなってきており、大人が健全な永久歯列の完成へとうまく誘導してやらなければならないケースが多いようです。

 そういった状況の中で、みなさんに(特に、お母様がたに)きちんと認識しておいて頂きたいのは、乳歯にはその時期(年齢)などによって、「抜いてはいけない乳歯」と「早く抜かなければならない乳歯」とがあるということ、そして、その判断の根拠をきちんと担当歯科医師から聞いておいて頂きたいということです。

― 参  照 ―

「乳歯、乳歯から永久歯への交換、不正咬合、矯正治療」

「乳歯を失う(保隙装置)」

「我が子の口を、虫歯のないきれいな噛み合せにするために」


 なぜ抜かなければならないのか、本当に抜かなければならないのか・・・まずは、担当医の説明をよくお聞きください。

 確かに抜歯すべき (しておくべき) 歯は多くの症例においてありますが、いったん抜いた永久歯は二度と戻ってはきませんので、これについては抜歯後のことを十分に検討した上で行われなければならないことは、申し上げるまでもありません。

 ちなみに、抜歯の基準・・・これは非常に多岐にわたり、とてもこのページになど書ききれるものではありません。

 したがって、くどいようですが、「よくよく担当医から、抜歯の理由と、抜歯後の治療計画についての説明をお聞き頂きたい」 と思うわけです。

― 参  照 ―

「歯周病に対する外科処置」  「歯内療法と外科処置」

 また抜歯した場合、、一般的に抜歯によって失った歯の部分の機能回復の必要性が同時に出てきます。これに関しては、どの歯を失ったのか、残っている歯はどんな状態なのか、何本の歯を失ったのか・・・等々、さまざまなケースとそれに応じた治療法が考えられます。ですから前述のとおり、抜歯の理由と共に抜歯後の回復処置の方法も十分に聞いておいていただく必要があるわけです。

 もし、事前に何も言わず「抜いてしまってからの事後承諾」・・・というようなことがあったとすれば、その歯医者は歯科医としては失格ですね。

 いくら医学的な根拠と必要性があったとしても、それは許されることではありません。

 そのような行為は、いわば患者さんの承諾なしに外科医がそのお腹にメスを突き立て、手術を始めるのと同じことなのですから。

― 参  照 ―

「患者さんの権利と医者の義務(インフォームド・コンセント)」