その人と会ったのは、
雨が降る、雨が降る降る…。
そんな中のことでした…。
[屋上]
女子校生A「この、クズ、いや、このグズ!
否定のしようもないわねー。
あうあうじゃないでしょ?
真面目にやってよね!」
田辺「ごめんなさい! ごめんなさい…。」
女子校生B「謝ればいいってわけじゃないでしょ。
整備ミスでパイロットが死んだら、どう責任取るつもりなのよ?」
田辺「ごめんなさい! ほんとうにごめんなさい!」
女子校生C「あなた、歩兵になって死んだほうが味方のためよ。」
田辺「…。」
女子校生A「…一生懸命だけじゃ、戦争の手伝いなんて出来ないのよ。」
女子校生C「…。」
女子校生B「いい? 今日はそこに立ってるのよ。
後で私がもういいと言いに来るまでね。」
田辺「…はい…。」
[立ち尽くす田辺。画面夕方→夜。雨が降り出す。]
[プレハブ2F]
遠坂「(…金持ちの子なら…戦争しなくても…いい…か。)
…なんだ?
くしゃ…み?」
[屋上]
遠坂「…なっ…。
…」
その人は、しばらくこちらを見た後、夜の空を見て不意にポケットから、白紙の命令書を、出しました。
遠坂「…これを持って、生徒会連合まで行きなさい。」
田辺「…え?」
遠坂「いいから。そこで、望みを言えばいい。
転属でも、何でも。」
田辺「…え?」
その人は、私の冷たい手を握りました。
遠坂「いいですね。」
それだけ言うと、その人は、走っていきました。
それが、その人を意識した はじめてのことでした…。
その人の後ろ姿を見て、田辺は、息を大きく吸い込んだ。
思ったより、ずっと小さな声しか出ない。
田辺「…あの。いいですか。」
遠坂「…あなたは…。」
田辺「私のこと…覚えていてくれたんですか。」
遠坂「ええ、青い髪が珍しかったので。」
髪が、青いのも悪くない、絶対に悪くない!
遠坂「…あなたが、なぜ、ここに?」
田辺「お、お礼を言いたくて。」
遠坂「命令書を、そのために使ったんですか。」
田辺は、しばらく考えて、うなずいた。
遠坂「馬鹿だな、この女。」
田辺「…あの。」
遠坂「…いいですけれどね。
せめて、あいつらの墓でも立てれば良かった。」
田辺「…ご、ごめんなさい。」
嫌われた、嫌われた。
遠坂「…あやまる必要はありません。そろそろ時間ですね。」
田辺「は、はい。」
遠坂さんのハートをゲットせよ!
田辺は、ショーウインドウに飾られているネクタイを見た。
遠坂さんに似合いそうだな。
「2万円…か。」
一家の2ヶ月分の収入とほぼ同額だった。
どうでもいいが、昔の話ではない。
「がんばってみようかな…。」
唇に指をあてて、田辺はだいそれた事を考えてみた。
[ごんっ]
もう少し考えて、突然顔を赤くしたまま、田辺はショーウインドウに頭をぶつけた。
[がっしゃーん]
ヒビが走るガラス。
泣きそうになって周りを見た田辺は、立ち止まって見ている人達に頭を下げた。
ガラスを弁償した! 所持金0円!
家に帰ると、家が、燃えていた。
田辺「…。」
近所の奥さん「あら、真紀ちゃん。弟さんから、伝言預かっているわよ。」
炎を眼鏡に映したまま、田辺は、よろよろと手紙を開いた。
全員無事、現在空き地でテントを広げた。
今日はメザシ。
近所の奥さん「…気を落とさないでね。」
田辺「…。」
田辺は無一文になった! 所持金0!
田辺は真っ赤になった我が家の家計簿をつけながら、しばらく考えた。
しくしく泣きながら、ポケットから、遠坂さんへのプレゼント用のお金を出した。
[声、ちゃんと泣いてます…]
田辺は無一文になった! 所持金0!
田辺は、橋の下の水面を見る、悪徳金融業者から年金を奪われた上に、鬼嫁からいじめられていそうな老人を見た。
田辺「どうしたんですか?」
老人「…。」
自分を泣きそうな目で見た老人に、田辺は、なけなしのお金をポケットから出すと、手渡して微笑んだ。
田辺「元気を出してください。いいことは、きっとありますよ。こんな風に。」
田辺は無一文になった! 所持金0!
コトリは、心優しい自分の主人を見て、微笑んだ。
小神族は心優しい人にしか憑かぬのだ。
耳元まで歩いて、ささやく。
コトリ「元気を出してください。いいことは、きっとありますよ。」
首を傾げた主人の横顔を見て、この人の幸せを祈る。
田辺は、嬉しさに胸を一杯にして、ネクタイを抱いたまま走った。
ゆっくりと速度を落としていく。
遠坂が、こちらを見て少しだけ表情を和らげた。
その胸に、どこかで見たネクタイが結ばれている。
遠坂「どうしました?」
田辺「…いえ。」
田辺は、しくしく泣きながらネクタイを隠した。
遠坂「?」
田辺「…え、いえ、何でもないんです。」
遠坂「そう言われると、困るな。」
田辺「…。
…はい?」
遠坂「僕に渡すものはありませんか。…僕が、幸せになるものを。」
田辺「…。」
遠坂は左手で落ちてくる金だらいを払った。
ここでギャグキャラに落ちられるか。
遠坂の笑顔を見た田辺は、不覚にも、ここで下を見て泣き出した。
遠坂「…いや、その、[あの、]だから…まいったな。」
結局、遠坂はその後まいったな、しか言わなかった。
田辺と遠坂は恋人関係になりました。