「…なっちゃん、やっぱり、うちのことなんか覚えておらんのやろな…。」
中学時代の狩谷のことを思い出しますか?
[選択1-1]
(思い出したくない。)
「……………。
昔は昔、今は今や…。」
[選択1-2]
(狩谷を思い出す。)
「…当然…か。
なっちゃん、モテモテだったし、うちは…
ただバスケットボールの練習見たり、試合の応援だけ…だったもんなぁ。
…よかった。」
「…なっちゃん…か。」
狩谷のことを思い出しますか。
[選択1-1]
(思い出したくない。)
「……………。
もう、昔のことや。」
[選択1-2]
(狩谷を思い出す。)
学生服を着た狩谷が、なんとなくホーム端に立っている。
今思えば、なっちゃんは、気分が、悪かったのかもしれない。
加藤は、嬉しくなって、その背に、ゆっくりと近づいた。
しなやかな背が、至近に迫る。
[ガタン、ゴトン…]
列車が、近づいてくる。
「なっちゃんっ!」
抱きついたはずの狩谷が、遠くなった。
[ガシャン! …そしてサイレンの音…]
※1枚絵があるーっ(感涙)
加藤「………。」
狩谷「誰かさんがなっちゃん、なっちゃんと騒がないから、なんだか今日は静かだな。
…まあ、…僕にはそっちの方がいいが…。
…。
…なにか、あったのか?」
加藤「あ、あんな。なっちゃんの足、病院で治るとか、聞いたこと、ある?
なんか、手術とか。」
狩谷「…。」
加藤「お金が、いくら位かかるとか。」
狩谷「…加藤。」
加藤「…え?
あ…あはははは、嘘。
うち、よお嘘つくねん。
…いや、その、治ったらいいなぁ、とか。
そういうのは、ほんまやけど。」
狩谷「…君に心配される筋合いはないよ。
バカはバカらしく、能天気に暮らしていた方がいいんじゃないか。」
加藤「…ご、ごめん。」
狩谷「……………。
とにかくだ。バカなんだから、今後は深いことを考えないほうがいいな。
そちらの方が、幸せでいられる。
…そしてさっさと、同じ程度のバカな奴と、仲良くなることさ。
…。」
[暗転。加藤の内心の呟き。]
加藤「……………。
…あ、明日にでも…、
ほんまに病院…行ってみようかな。
行くだけなら、…ただやし。」
第6世代記念病院
加藤「…な、治るんですか。」
医師「低い確率だがね。1割くらいだ。」
加藤「…ど…どないしたら。」
医者は、狩谷のカルテを見ながら加藤の顔を見た。
医師「…そりゃ決まっているだろう。入院して手術すればいい。」
加藤「…なんで、今まで…。」
医師「素人さんはこれだから困る…物理的な束縛だよ。金がない。」
加藤「…す、すんません。」
医師「…まあ、別にいいがね。」
考えている加藤を、医者は上から下までゆっくりと見た。
加藤「なんぼ、かかるんですか。」
医師「君には無理だな。百万はいる。」
加藤「…。」
医師「…まあ、他にも…どうしたんだね。」
加藤は決意した表情で扉を開きながら、医者を見た。
加藤「うち、稼ぎます。」
医師「まちたまえ! …くそ。」
100万円をゲットせよ!
学生服を着た狩谷が、なんとなくホーム端に立っている。
今思えば、なっちゃんは、気分が、悪かったのかもしれない。
加藤は、嬉しくなって、その背に、ゆっくりと近づいた。
しなやかな背が、至近に迫る。
[ガタン、ゴトン…]
列車が、近づいてくる。
「なっちゃんっ!」
抱きついたはずの狩谷が、遠くなった。
[暗転…夢から覚めて]
「…はっ。
…あ、あはははは。
なんか、最近変な夢ばっかや。
疲れてるんやろか…。
ええと…、
50万まで…数えたんやったな。
よし、がんばろ。」
好きでいてくれなくてもいい。
なっちゃんの足が治るなら。
なっちゃんが幸せになれるんだったら。
加藤は何度も札を数えて、大事そうに懐にしまった。
「…もう少しやから、待っててな。なっちゃん。」
狩谷は、身をのりだすようにして、歯をかみ締めた。
狩谷「…あいつ、何か隠しているな。絶対に隠している。」
狩谷は、車椅子を走らせると、電話ボックスで、電話をかけ始めた。
狩谷「一台、速攻でお願いします。…え、くそ、見失う。急いで!」
病院
加藤「先生、百万円、持ってきました!」
医師「え、ああ。そうか、持ってきたのか。」
医師は、非常にとまどった表情だった。
ばつが悪そうに、視線を走らせる。
加藤「どないしたんですか。」
医師「いや、その、医療費が値上がりしてな。
みんな、戦争が悪いんだが。」
加藤「…。」
医師「…。」
加藤「…どれだけ、あがったんですか。」
医師「400万くらいだ。」
加藤「そんな、無茶苦茶やないですか!」
医師は、加藤を見ないようにして言った。
医師「私としてもつらいんだ。分かってくれ。」
加藤「そんな、そんな!」
医師「…まあ、もっとも、手が無いわけじゃないが。
要は、お金があればいいんだから。
…なんだ。君はそれだけのお金を集めたんだ。
色々、やったんだろ? なんなら、私がお金を出してもいい。」
加藤が、言葉の意味を悟って凍り付く前に、狩谷は、後ろから声をあげた。
狩谷「結構。帰るぞ、加藤。」
加藤「なっちゃん!」
狩谷「…来い! 来いと言ってるんだ!」
帰り道(夕刻のどぶ川べりの道)
狩谷「いい、加藤。そんなのは、気にするな。」
加藤「でも。」
狩谷「…馬鹿だな。お前は、騙されているんだ。
僕の場合は、治りようがない。
もう一度、背骨ができない限りには。」
涙を流した加藤を、狩谷は見なかったことにして、車椅子を走らせた。
狩谷「…気にするな。足が…足は、どうでもいい。
そんなものなくても、やっていける。」
狩谷は、やっぱり見なかったことに出来ずに振り向いた。
狩谷「…泣くな。…泣くなよ。…お前は、俺が足を壊したのより、つらいことがあるのを知らないな?」
加藤「…。」
狩谷「それが分かるまで、泣くな。…僕の側に居ろ。
…いや、居てもいい。…泣くな。泣くなよ。
指を噛むなよ。出っ歯になるぞ。」
狩谷は、精一杯腕を伸ばして、加藤の手を握った。
狩谷「泣くな。どうせ泣くなら。
…もっと近くでやってくれ。」
加藤がびっくりして、狩谷を見下ろした。
十分近くだと、思ったからだ。
狩谷「…。
…もう行こう。
お前が泣いているのは人に見せたくない。」
加藤と狩谷は恋人関係になりました。