001【中村/ソックスハンター・誕生】

 中村は、手に入れた靴下の臭いをかいでみた。
 ガクッ。
 中村は、気を失った。
 ソックスハンター第1回
 ソックスハンター誕生
 星空は、灯火管制のせいか、どこまでも奇麗で、透き通っていた。
 大の字で寝ていた中村は、そのまま空を見上げながら、後頭部の痛みに顔を歪めた。
「ほっとけよ。…俺は…好きでやっとるとたい。」
 星にむかってそう言った中村は、顔を動かして、手に握った靴下を見つめた。
「…。
 気が遠くなるほどの快楽か。」
 [声のみ、ちゃんと笑い続けています。]
 註・多分違う。
 中村は、笑った。笑って、笑いつづけた。
 靴下を持ったまま顔に手を当てて、再び、気を失う。
 中村 光弘 暗号名 ソックスバトラー
 ソックスハンターの誕生である。
 星は、小さな星の、そのまた小さな島国の、そのまた小さな人間を見て、一度だけ瞬いた。
 それだけだった。


002【NPC/ソックスハンター・承前】

 俺は、なぜここに居る…。
 ソックスハンター第2回
風紀委員「追え! 逃すな!」
 重廃棄物として厳重に保管されていた女子校の1tの靴下が盗まれた。
中村「おい、生きてるか。」
滝川「ああ、なんとかな。…末端価格12億円の靴下か。」
中村「…生き残っていたらな。行くぞ。」
 中村と滝川は、風呂敷きを担いだまま走った。
 サーチライトに照らされる二人の影。
風紀委員「弓道部前へ!」
弓道部員「はい!」
風紀委員「撃て!」
 弾幕を風呂敷きに受けながら、走っていく二人の影。
 ブラインドを下ろしながら、笑う準竜師。
 中村が煙幕をまきながら脱出した。
風紀委員「ミサイル部前へ!」
中村「なんだそりゃ!」
滝川「ノォ!」

[プレハブ2F]
新井木「おっはよ。」
中村「…?」
新井木「今日だっけ。新しい黒板が入るの。」
中村「そうか。」
新井木「…熊本弁じゃないね。」
中村「…そ、そお?」

[回想・深夜の教室]
滝川「…この中に、1tの靴下が…。」
岩田「フフフ、任せてください。ああ、靴下。イィ。
 すごくイィ!」
中村「やばくにゃぁや?」
滝川「大丈夫、バカだから。
 それよりほとぼりがさめるまで、番、よろしく。」
中村「なんだって?」
滝川「俺も生徒になるよ。」
中村「おい。」
滝川「12億を、フイにするなんて言わないよな。」
 12億ってあんたマジで信用してたのと中村は思ったが、いざバレたら恐いので、何も言わなかった。
 言えん、とても俺の趣味とは言えん。
滝川「そんな顔するなよ。一年の辛抱さ。」
岩田「フフフ、神聖な教室の黒板の後ろに、汚くて臭い靴下がつまっていると思うと…、フフフフハハハハ!」
中村「…。」

[そして再びプレハブ2F]
新井木「どうしたの?」
中村「いや、なんでもない。」
新井木「…ふぅん。なんだか陰があって格好いいね。」
中村「え?」
新井木「なんでもない。じゃね。」
 新井木の後ろ姿を見ながら、中村は靴下で汗を拭いて、そのまま階段を転げ落ちていった。


003【NPC/ソックスハンター・田辺危機一髪】

[深夜の公園]
中村「次のターゲットは?」
遠坂「…Mr.Bがはじき出したターゲットは、これです。」
 中村は、写真を一瞥してホットドッグを食った。
中村「報酬は、いつもの口座に。」
遠坂「幸運を祈ります。」
 ソックスハンター第3回
 田辺危機一髪

[深夜の教室]
 教室
中村「ということだ。どうする、お前達は?」
滝川「俺は降りる。末端価格で12億の靴下があるのに、そんなしけた仕事してどうなる?」
岩田「フフフ、嫌がる靴下から女性を奪う、フフフ、イィ、すごくイィ!」
 註・かなり違う。
中村「…OK。それじゃあ、俺と岩田でいくさ。」
滝川「待てよ、足がつくようなことするなよ。
 …おい! …なんでそこまで靴下にこだわる!」
中村「まだ見ぬ臭いが、俺をかき立てる。」
岩田「フフフ、そういうことです。」
 田辺の靴下を手に入れろ!


004【NPC/ソックスハンター・かどわかされて】

田辺「どうしたんですか?」
遠坂「…いえ。」
 田辺は、少しだけ微笑むと、少し高い位置にある遠坂を見た。
 小さな幸せを感じる。
 遠坂は、中村と岩田の手にかかる田辺を思って胸を痛めた。
遠坂「…馬鹿な…何を考えている。」
田辺「はい?」
遠坂「…いえ。」
 田辺は、眼鏡をあげて微笑んだ。少しだけ、頬が赤いのを感じる。
遠坂「…。」
田辺「はい?」
 自分が好かれていると、確信したのは、それがはじめてだった。
 遠坂は、長い髪を、かきあげて照れる。
遠坂「…実は…。」
田辺「はい。」
 田辺が、倒れた。
岩田「フフフ…、」
 く つ し た
 異様なポーズのまま、両手に持たれるバナナの皮。
中村「良くやった、ソックスバット。じゃあ、いただくか。…何?」
遠坂「やり方が乱暴過ぎるぞ!」
中村「おいおい。ソックスタイガー。」
遠坂「私をその名で呼ぶな!」

[屋上]
岩田「フフフ、興奮していますね、あなた。興奮していますネ!? イィ、スゴク、イィ!」
中村「そうか。じゃあ、手伝え。」
遠坂「…だ、駄目だ。」
 遠坂は、田辺をかばうように手を伸ばして前に立った。
中村「駄目…っておい。依頼は?」
遠坂「…。」
中村「靴下脱がせるだけだろうが。」
遠坂「駄目と言ったら駄目です。」
中村「…お前…。」
岩田「フフフ…ノーマルのフリを。無駄ですよ。
 あなたはもう…、」
 く つ し た
岩田「の虜。」
 異様なポーズのまま、両手に持たれるバナナの皮。
 遠くでブラインドを下げて見ている準竜師が、口だけ笑わせた。
遠坂「僕を変態のように呼ぶな!」
 遠坂は、二十日物の靴下を懐から出しながら岩田に投げつけた。
 悶絶する岩田。中村は、靴下を華麗によけながら懐に手をやった。
中村「…実力行使か!」
 中村が、伝説の1年靴下を出す。あまたの敵を倒してきた、伝説の靴下。
中村「…俺達に言葉はいらないと思わんか。」
遠坂「…フッ。」
 中村は、光る液体を飛ばしながら地面に飛んだ。
 息を吸い込んで、倒れる遠坂。
 遠坂は、意識が飛ぶ刹那、田辺に向かって、手を、伸ばした。
 4人が別々の方向をむいたまま、発見されたのは、それからずいぶんたってからである。
 - ソックスハンター 第3回 了-


005【NPC/ソックスハンター・森、危うし】

 準竜師は、ブラインドを下ろしながら、外の風景を見た。
 口だけを、笑わせる。
 ソックスハンター第4回

[裏庭]
岩田「フフフフ、ソーックス。」
中村「どうした。」
岩田「緊急の仕事です。Mr.Bからの。」
中村「報酬は?」
岩田「善行さんの二十日もの。洗濯なし。」
中村「…いいだろう。やばそうなヤマだな。」
岩田「BINGO。」

[ハンガー1F]
原「どうしたの?」
森「…いえ、悪寒が。」

[再び裏庭]
岩田「今回だけは、拒否する権利を与えてもいいと、Mrは言っています。」
中村「断られるとは思ってもいないくせに。…あのおっさん。
 [中村の脳裏をよぎる準竜師の顔…]
 いいさ、たまにはそういうのも悪くない。」
 森の靴下を手に入れろ!


006【中村と森/ソックスハンター・悲惨】

森「ソックス!」
中村「俺の名前だ。地獄に行っても忘れるな。」
 中村は、20日物の靴下を顔に押し付けた。
 倒れる森。
 中村は、靴下を胸元に収めながら、風に踊る眉を、相棒に向けた。
岩田「行きましょうか。」
中村「ああ。」
 並んで歩く岩田と中村の髪が揺れた。


007【NPC/ソックスハンター・陰謀】

[深夜の公園]
遠坂「ひさしぶりですね。」
中村「で、今、彼女はどうなんだ。」
遠坂「ソックスハンターとは関係ないでしょう。
 …なんですか、そのヒソヒソ話は!」
岩田「フフフ、秘密です。」
中村「なんのことかな。」
遠坂「…ゴホン。えー、そう、本題です。Mr.Bは1tの靴下を買ってもいいと言っています。」
岩田「ごまかしていますね。」
中村「ええ、そりゃばっちり。」
 遠坂は、銃を中村の眉間に向けた。
中村「OK。受けようじゃないか。」
遠坂「…それでいいんです。それに条件が一つあります。」
中村「なんだ。」
遠坂「…全員の靴下を。」
中村「分かった。この小隊の全部の靴下だな。」
遠坂「…頼みましたよ。」
岩田「気をつけたほうが、いいかもしれませんね。」
中村「…ああ。…そうだ。そのために、用意して欲しいものがある。」
岩田「なんですか。」
 中村は笑うと、靴下を取り出して嗅いだ。
 首がガクガク揺れた。
中村「この快楽を味わうのも、最後と言うことだ。」
 全員の靴下を集めろ!
 ただし、過去に集めている分は除く


008【NPC/ソックスハンター・最終回】

 中村は、アタッシュケースを置いた。
準竜師「来たか。」
岩田「フフフ。1tの靴下の目録と、そして、みんなの靴下です。」
中村「…おっと、その前に、代金を、いただこうか。」
準竜師「…代金は、これだ。」
 準竜師は、指を鳴らした。
風紀委員「そこまでよ!」
 茂みから、風紀委員達が、続々と出始めた。
 向けられる銃口。
中村「…。」
岩田「裏切りましたね。」
準竜師「フッ。
 悪党の信義なんて、そんなものだ。」
 準竜師は、薄く笑った。
 傍らに立つ副官が、拳銃を抜いて、腕を伸ばした。
副官「…。」
 銃が、準竜師を向いた。
副官「あなたもです。勝吏様。」
準竜師「え? なにそれ。」
 副官は、揺れる瞳を準竜師に向けた。
副官「…私の靴下だけで満足していればよかったのに…。」
準竜師「…男は、いつも新しい靴下を求めるものだ。」
中村「おいおい、仲間割れか。これで、50:50だな。」
準竜師「どうかな。」
 準竜師は、副官の方を向いた。
準竜師「すんません、もうしません。ごめんなさい。」
中村「あ、きったねー。それありかよ。」
準竜師「黙れ。勝てば官軍よ。」
 岩田が、周りで頬をひくひく言わせている風紀委員達を見た。
岩田「…ふ、そろそろ最後のようですね。」
中村「そうだな。」
岩田「やりますか。」
中村「ああ。」
 岩田は、手に持ったボタンを押した。
 そして、風に巻き上がっていくたくさんの靴下達。
 中村は靴下と共に爆風に飛ばされながら、満足げに笑った。
 あの時と同じ星が、自分を見ていた。
 ソックスハンター 了


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