Tarkus タルカス いろいろ
Tarkus タルカスのカヴァーがいろいろあるので、まとめてみた 《キース・エマーソン追悼企画》

  公開:2016年4月29日
更新:2018年
1月29日 *モルゴーア・クァルテット に追加しました。

  キース・エマーソンが逝ってしまった。彼のピアノ協奏曲を聴いている時、ふとタルカスの事が気になった。ELPの名曲、タルカス。今やプログレの古典名曲としての存在に留まらず、クラシックやジャズなど、あらゆる分野で広くカヴァーされてきている。また、YouTubeを見ると、皆、それぞれの思い、オマージュで演奏し、数え切れない程upされている。いろいろなTarkus。これらを全てを紹介する事はできないが、市販された録音を中心にまとめてみた。

 ただし年々増え続けているので、以下は2016年前半の時点でのものを紹介。また、全ては網羅できていない。 なお、コメントは私見だけれど、お金を出して購入したプロの演奏のものに対してなので、率直に書かせていただいた(各ファンの方々、不愉快な思いをされたらごめんなさい)

 
「Tarkus」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1971年オリジナル)

 

 

 

 ジャケットは、レコードからのスキャン。当時のヒット曲といえば、3分程度。ツェッペリンが1969年の1stアルバム “How Many More Times” で8分29秒、そしてピンク・フロイドの1970年 “原始心母” ではA面23分44秒と一気に曲が長くなり、曲の構成も組曲、クラシックの楽曲の要素が取り入れられた。中学の頃、クラシックに目覚めた私はオーケストラの曲を中心に聴きまくっていたが、姉はプログレ一筋。また、幸いな事に、フルトヴェングラー狂の友人やプログレにも詳しい友人、また洋楽やフォーク(日本のでは無い)を聴いていた友人達の影響で、 幅広く多くの音楽に触れる事になった。

 プログレの曲を初めて聴いた時は、何もかもが驚嘆の世界。加えて、ライヴでのカール・パーマーやスティーヴ・ハウの演奏テクニックに、頭をぶったたかれたような衝撃を受けた。70年代前半に、当時の空気を肌に感じ、ほぼリアルタイムで過ごせたのは幸せとしか言いようが無い。今の世、音楽は消耗品か。 当時は出回っているレコードも少なく、スクラッチ・ノイズまで何もかもが記憶に入るほど聴く時間もあった。

 タルカスは、以下の7曲から成る。ジャケットに描かれた架空の “タルカス” が噴火と共に誕生し、あらゆる物を破壊していく。最後は、伝説の怪物 “マンティコア” と戦い勝利するが、左眼をマンティコアの尾の毒針に刺され、海へ帰っていく、というアウトライン。中には、いろいろなメッセージが織り込まれている。 なお、アクアタルカスのマーチの後ドラが1発鳴り、噴火のテーマに戻ってコーダへと続く。

  1. Eruption  (噴火)
  2. Stones of Years  (石の年月)
  3. Iconoclast  (偶像破壊者)
  4. Mass  (ミサ)
  5. Manticore  (マンティコア)
  6. The Battlefield  (戦場)
  7. Aquatarkus  (アクアタルカス)

 曲は、器楽曲(Eruption、Iconoclast、Manticore、Aquatarkus)と歌(Stones of Years、Mass、The Battlefield)とは性格が全く異なり、キースとグレッグの音楽の方向性の違いが出ている。しかし、通して演奏して組曲として成り立っているだけでなく、どのような楽器で演奏しても成り立つところが特異的。
   

ELPのライヴ盤、もしくは本人達が関与した演奏等

「Tarkus」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (2012年リミックス)

 

 ディスク1はオリジナル・アルバムと書かれているが、オリジナルとは少し異なるリミックス版。 もっとも、当時は外盤と国内盤では、音も、場合によってはミキシングも違っているものもあった。

 ディスク2は、2012年ステレオ・リミックス版。ディスク3はDVD-Audioで、2012年 5.1リミックスとステレオ・リミックス版。

 その他、Massの別テイク等収録されていて、ELP(当時はELPと言うと、EL&Pだ、と頑なにこだわる人達がいた)のファン向けアルバム。

 

 
「Live at the Mar Y Sol Festival 72」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1972年ライヴ)

 

 当時のライヴ演奏の1例。当然ながら、これ1枚で当時の彼らの演奏を判断してはならない。あくまでライヴ演奏の1例。

 アクアタルカスの所で、グリークのペールギュント組曲〜「山の魔王の宮殿にて」のテーマが引用されている。

 

  
「Ladies and Gentleman」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1973-4年ライヴ)

 

 ELP全盛期のライヴ盤。キースは、きれっきれのテクニックで弾きまくり、カールのドラを使ったドラム・ソロ(両手、両足では足りない、とばかり、紐を口で引っ張って鐘を鳴らしていた)が聴ける圧巻のライヴ。Tarkus/Battlefield では、クリムゾンの “エピタフ” を引用、演奏している。

 *ライヴ盤はブートレッグを入れると相当な数になると思われるが、ここでは一般に流通しているものをいくつか取り上げている。

 


「Live at Nassau Coliseum 78」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1978年ライヴ)

 

 当時のライヴ演奏の1例。キースのソロの時には、当時公開されてヒットした映画「スターウォーズ」や「未知との遭遇」のテーマがちょっとだけ登場。

 

 
「Beynd the Beginning」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1970-1993年ライヴ)

 

 ELP結成前の、ナイス(キース)、クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウン(カール)、キング・クリムゾン(グレッグ)の映像に始まり、1970年から1993年までのライヴ映像が目白押し。主体は1970年代の全盛期のもので圧巻! その他、練習風景、レコード・ジャケットにまつわる裏話、カー・レースに参加の模様、ボブ・モーグ氏(モーグ・シンセサイザーの開発者)のインタヴューなどのオマケ映像、さらに1974年のカリフォルニア・ジャム・フェスティヴァルの映像、ビヨンド・ザ・ビギニング(ドキュメンタリー)まである盛りだくさんの2枚組DVD。残念ながら、残っている映像には、切れ切れのものもある。

 Tarkusは、1972年の東京での“噴火”と、もう一つは、1992年のロイヤル・アルバート・ホールでのもの (演奏は、Iconoclastまで)。残念ながら、1992年のライヴ演奏は精彩を欠いているが、全盛期の映像は必見! とんでもないパフォーマンスに釘付け、圧倒される。また、ドキュメンタリー:ビヨンド・ザ・ビギニングでは、タルカスにまつわる裏話を本人達があれこれ話している。

  -推薦盤-

 

 
「Welcome Back」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1992/3年のツアーの時にリリースされたドキュメンタリー)

 

 1992/3年に再結成ツアーを行った時に、20年の歩みを回顧インタヴューを交えてドキュメンタリーにしたもの。ヴィデオはクリップ、細切れの登場だが、大変貴重な映像が目白押し。全盛期のライヴは、やはりとんでもなく物凄い。タルカスは、全盛期のクリップ以外に、ツアー時のキースのピアノ練習も納められている。

 今回の掲載のため購入したが(私は70年代で聴かなくなってしまって、それ以降のは疎かった)、グレッグは、この時既に肥えていたのを知らなかった。下で紹介している「40th Anniversary Reunion Concert」での衝撃は、これを知っていたら(免疫が出来ていたら)、だいぶ和らいでいたかもしれない。

 偉大なバンドの貴重な映像。一見の価値ありのドキュメンタリー。

 

 

 
「Once Upon a Time in South America」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (1993&97年ライヴ)

 

  当時のライヴ演奏の1例。 何と4枚組。タルカスは、1993年4月1、5日と1997年8月15日のものが収録されている。1993年のものは、サンサーンス/交響曲第3番 第4楽章のテープが流れてから3人が登場し、“Eruption”の演奏となる。また、“Iconoclast”の後は“Knife Edge”へと繋げている。4月1日の演奏は、前の日に3人とも呑み過ぎたのだろうか。

 1997年のものは、“Mass”から“展覧会の絵”のバーバ・ヤーガー〜フィナーレへと繋いでいる。97年のものは演奏が重く、カールのドラムの遅れも顕著になってきていて、精彩を欠いている。

 


「Live from California」 Boys Club (1998年ライヴ)

 

 キース・エマーソンが参加。ヴォーカルは、あのグレン・ヒューズ。彼の歌い上げるヴォーカルが好みの分かれ目。マーク・ボニーラの熱い思いも解るが、 まるでカラオケで自分に酔って歌っているのを聴かされている的な感があって、私はパス。

 

 
「Live from Manticore Hall」 Kieth Emerson & Greg Lake (2010年5月ライヴ)

 

 キース・エマーソンとグレッグ・レイクによるライヴ盤。タルカスはキースのピアノ版だが、テクニックに綻びも散見...

 しかし! とは言うものの、かつての名曲が目白押しで、街中を彷徨っている時、耳元からFrom the Beginning や、I Talk to the Wind、Lucky Man などが流れてくると胸にぐっと来るものがあって、今風に言うなら、涙腺がやばい。グレッグ、ありがとう。昔聴いていて、今はご無沙汰、という方は是非。

  -推薦盤-

 

 
「40th Anniversary Reunion Concert」 Emerson, Lake and Palmer/EL&P (2010年7月ライヴ)

 

 ある時、夜中にTVをつけたら、お相撲さんのような人がELPの曲を演っていた。何だろう、としばらく見ていたら、それがグレッグだと気付いた時の衝撃は忘れられない。その放送のVideo。 グレッグの太り方だけでなく、演奏の〇〇にも驚き、失望したくなくて、程なくTVを消してしまった。

 今回、気を取り直してブルーレイを購入して見てみた。「結論」:グレッグが太ろうが、キースがおじいさんに見えようが、カールのドラムがどんどん〇〇になろうが、ファンは良くない所も含めてファンなのであって、ここは私がとやかく突っ込むところではない。 伝説の3人が揃ったら、それで良いではないか。でも、インパクト大きいなあ。あんなに上手かったのに....

 


「Three Fates Project」 Kieth Emerson Band &
Terje Mikkelsen/Münchner Rundfunkorchester (2012年 )

 

 キース・エマーソン・バンドとテリエ・ミケルセン指揮/ミュンヘン放送管弦楽団による、オーケストラ+ロック・バンド編。ここでもマーク・ボニーラが参加。後述する吉松 隆編曲によるオーケストラ版を本人が参考にして演奏、録音した。残念ながらテンポが遅く、音楽が死んでいる。 また、マーク・ボニーラが関わった時のサウンドは、全く私の性に合わない。
 
 オーケストラを使っているのに、原曲・オリジナルの方が、遙かにクラシック音楽的。ここには収録されていないけれど、コープランドのバレエ組曲「ロデオ」の “ホーダウン” なんて、どのオケの演奏よりELPの方が名演。逆に、「展覧会の絵」は、全くクラシック音楽的ではない。

 

 

トリビュート関連

「Encores, Legends & Paradox」 (1999年)

 

 サイモン・フィリップス、マーク・ボニーラらが参加。Tarkusだけでなく、全ての曲の演奏で、原曲の良い所をことごとく外しているので、聴いていてイライラする。背中が痒い時、ポイントを外してその周りばかり掻かれているのと同じ感覚なんですが.....

 

 
「Keyboads Triangle」  Gerard/Alsnova  (1999年)

 

 日本のプログレ・バンドによるカヴァー。海外のグループのカヴァーはダサいのもあるが、これは正当派で演奏もいい。残念ながら、廃盤。

 しかし、フル・コピー(録音)の場合、本人達の達成感はあると思うが、本家を越えられない部分が生じるのも事実。その意味で、下記のKokooや小埜涼子のアルバムは素晴らしい。

 

 
「Luminiferous Ether」  Zip Tang (2006年)

 

 シカゴのプログレ・バンドによるカヴァー。“噴火” は低速。下手で遅いのか、重厚感を出すため遅いのか判断できないが、カヴァーのセンスも含め、苦しい。

 

 
「The Road Home」 Jordan Rudes (2007年)

 

 ジョーダン・ルーデス、ロッド・モルゲンスタインによるフル・カヴァー。ジョーダン・ルーデスは沢山カヴァーしているが、2013年のKORG USA's NAMMが真骨頂。この動画は、原曲に忠実なカヴァーの中では、最高のパフォーマンス! この動画が -推薦- 。

 

 
「Tarkus and Other Love Stories」 TwinKeys (2011年)

 

 ジャケット・タイトルは、Tarkus and Other Love Stories となっているが、リーフレットには、Tarkus & other Love and Live/Life Stories と書かれている。“噴火” から始まり、後は彼らの2台のキーボードによる創作曲。Tarkus は、カヴァーではなく、あくまでモチーフとして引用。

 “噴火” の部分は、オルガン+ピアノ+ハーモニカで演奏。テンポも遅く、そこの部分の演奏としては良くないが、アルバム全体としては面白い曲創りとなっている。

 

 
「The Inacoustic Studio Session」 The ELP Tribute Project (2014年)

 

  イタリアのELP フル・コピーバンド。その筋の超オタクの方から情報をいただいた。忠実にコピーできるのを誇りにしているらしい。

 TarkusのコピーはELPのライヴ演奏を基に行われている。演奏にオリジナリティーが無い場合、本家を聴けば良い訳で、録音の場合には繰り返し聴くチャンスは、ほとんど無い。いろいろなカヴァーがあるけれど、楽器は何とかコピーできても、グレッグのヴォーカルの味をコピーするのは困難。

 

   

クラシック関連

 当時、クラシックを熱烈に聴いていた私や私の友人達は、プログレ(のみならず、ハード・ロックも)は普通に聴いていて特別の事では
無かった。しかし、プログレやロックしか聴いていない人達には、クラシック音楽は、ほど遠い存在だった。ロール・オーバー・ベートーヴェン
なんて曲があるけれど、ベートーヴェンは、当時のクラシック音楽界ではロック音楽より、遙かに革新的、革命的だった。
垣根は、ロック愛好家の方が高いのだ。もともとジャンルなんて無いのに.....

「Delusions de Grandeur」 Sax 4th Avenue (1998年)

 

 サックス4人組による演奏。この手は、演奏テクニックとセンスがあってこそ成り立つ。他分野では、いち早くタルカスを編曲し演奏したパイオニア。演奏だけでなく、録音も素晴らしい。

  -推薦盤-

 

  
「Tribute to Emerson, Lake & Palmer」 Kamera Quintet (1998年)

 

 CDが見つからなかったので、YouTubeから引用。 フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、バスーンという管楽器によるカヴァー。 1998年にCDが出た模様。編曲、演奏もいい。知らない人が聴けば、普通にクラシックの室内楽曲だと思うのではないか。原曲がロックだ何だとか言わず、こういった曲が、普通に演奏会で取り上げられたら良いのに。クラシックの曲にだって、どうしようもない駄作もあり、演歌以上にべったりしたのだってあるし、タルカスの方が、遙かにクラシックの楽曲的だ。

 

  
「タルカス&展覧会の絵」 黒田亜樹 (2003年)

 

 タルカスは、黒田のピアノの他、クァルテット・プロメテオ、エレーナ・カーゾリ(G)、マウリツィオ・ベン・オマール(Perc)が加わり、指揮は杉山洋一 。タルカスを元に自由にアレンジした室内楽。曲も“Zone Tarkus” となっている。変拍子繋がりなのか、ストラヴィンスキーの“春の祭典” のモチーフも散見。原曲の再現ではないが、そこがいい。ただ、小編成の場合、パーカッションが直線的/単純に陥りやすく、センスが本当に必要。

 ちなみに「展覧会の絵」。ラヴェルのオケ編曲が有名だが、これは天才ラヴェルの中では駄作。彼の真骨頂は、弦楽四重奏曲や多くのピアノ曲にある。「展覧会の絵」は、ムソルグスキーのピアノ原曲の方が 、遙かに色彩に満ちている(ただし、弾く人を選ぶ)。私は、ピアノ版以外は聴かない。

 

 
「Jeff Larsen Plays Emerson, Lake and Palmer」 Jeff Larsen (2010年)

 

 クラシック・ギター1人によるELPの曲の演奏。自宅で、しかも、あまり良くない機材での収録の模様。また、演奏も同様に、手作り感満載。もう少しうまく録音したら良かったのに。

 



吉松 隆 編曲 藤岡幸夫/東京フィルハーモニー管弦楽団 (2010年 、2013年ライヴ)

 

 吉松 隆編曲による、フル・オーケストラ版のライヴ録音。レコードは重量盤とあるが、残念ながら録音は今一。過去にオーディオ用、Hi-Fi録音としてリリースされたもので、録音の良い物に出会った事が無い。オーディオに携わっている人達は、耳もセンスも悪い、と断言するぞ。
 以前のロック・ポップスの国内盤というと、評論家の感想文が添付されるだけで何百円、時に千円以上も高いものがあって買えなかったが (我々が欲しいのは、情報だ)、このレコードには貴重な吉松氏とキース氏の対談が記録されている。この編曲は、後述するブラス・バンドやキース本人も参考にするなど、タルカスのカヴァーのマイル・ストーン的存在になっている。 大河ドラマ 「平清盛」にも使われた。ああ、演奏がもっと良かったら...。
 その後、題名の無い音楽会で佐渡 裕/東京フィルの演奏で取り上げられたが、金管セクションが壊滅的。日本のオケの金管楽器のレヴェルの低さがあまりに定常化していて、 また、クラシック普及番組だからと言って容認される筈も無く、このような演奏を続けていたら、数多い在京オケの将来は無いぞ。

 

 
René Bosc conducts “Tarkus” (2011年ライヴ)

 

 CDが出ていないようなので、YouTubeから引用。キーボードは、Kate Emerson とあるが、キースとは無関係? 割と忠実にコピーしている。

 

 
佐渡 裕/シエナ・ウインド・オーケストラ (2012年ライヴ)

 

 吉松 隆編曲によるフル・オーケストラ版を元に、狭間美帆がブラス・バンド用に編曲したもの。冒頭の音からして原曲をスポイルしているだけでなく、テンポが遅く音楽が死んでいる。また、 ライヴとはいえ苦しい所があり、CDを最後まで聴くのに困難を要する。狭間は、編曲を頼まれるまで、原曲を知らなかった (原曲の良さを知らぬまま編曲した)のではなかろうか。

 かつて、ストコフスキーの「トッカータとフーガ ニ短調」の迷編曲があったけれど、その延長上の曲が最後に収録されていて、とどめを刺される。私にはどん引きの一枚だが、ストコフスキーの「トッカータとフーガ ニ短調」が大丈夫な人には、このタルカスも大丈夫かもしれない。
 ちなみに日本のクラシックでは、本来のライン以外に、人気・知名度に負う所の部署が存在する。

 


「Rock of Brass Quintet #01」 Brass Extreme Tokyo (2012年)

 

 “Purple Haze”、“Immigrant Song” も一緒に納められたCD。タルカスは、“噴火” の部分だけ収録。ジャケット と収録曲から、強烈なブラスの咆哮を期待したら、極めて小じんまりとした大人しい演奏だった。

 この手は、超絶技巧とセンスがあって成りたつものなのだが、それがどちらも感じられないので、聴き進むに従って、どんどん絶望感に支配されてしまう。

 

 
「Rock of Brass Quintet #02 Tarkus Suite」  Brass Extreme Tokyo (2012年)

 

 同上。 以上、期待大外れの2枚(演奏者の方々、すみません)。

 

  
Tarkus for Piano -1st and 2nd version-」 Massimo Bucci  (2012年&2014年ライヴ)

 

 Massimo Bucci のピアノ・ソロ。version. 1version. 2がある。演奏が良いので、YouTube から引用させてもらった。ピアノ曲として楽譜は出ているのだろうか。クラシックのピアノ・リサイタルでも、是非取り上げて欲しい。Tarkusは、もうジャンルを超えて、普通に古典名曲なのだから。

 ちなみに、他にもピアノ、キーボード(エレクトーン等)の演奏が、YouTube に沢山upされているが、2017年春現在では、彼の演奏がベスト。 弾くだけならアマチュアでも達成できるだろうけれど、音楽は、その先にある。最近、オレは〇〇〇〇〇よりギターがうまい、とか豪語しているアマチュアの話を聞かされたが、音楽、そして持ち味が大切なのであって、指が動いたからといって、比較のレヴェルに達したと勘違いしてはならない。

 

 
The Royal Philharmonic Orchestra Plays Prog Rock」 The Royal Philharmonic Orchestra (2015年)

 

  「タルカス」は、間に “From the Beginning” を入れ、前後を “噴火” でサンドイッチにしたもの。アレンジと指揮は、Richard Cottle。ロイヤル・フィルだから思いっきりオーケストラ版かと思いきや、ロック・バンド+オーケストラ版。楽器の制約を受ける事無く、自由に表現している。吉松氏のように、従来のオーケストラの楽器で表現するのも一つの方法だし、このように双方を融合させて演奏するのも一つの方法。いろいろあって良いのだ。皮肉な事に、上記のキース・エマーソン・バンドとテリエ・ミケルセン指揮/ミュンヘン放送管弦楽団の録音より、ずっとこちらの方が良い。でも、“21st Century Schizoid Man”や“Round About”をはじめ、他の曲はムード・ミュージックみたいでダサいのが残念。
 もうジャンルがどう、とか言う時代では無い。昨年の槇原敬之のコンサート:Celebration 2015では、フル・オーケストラにフル・コーラス+従来のバンドだったけれど、新垣氏がすごくいい前奏曲を提供していたし、“We Love You” なんて感動的だった(屋敷のDs全編で最高!)。要はどう表現したいかであって、どんな楽器を使おうが、新たに楽器を創ろうが、民族楽器を使おうが、どうだって良いのだ。頼むから、変なキャッチ・コピーだけは止めてくれ。

 

トリビュートロジー モルゴーア・クァルテット (2017年)

 

 今までもプログレの名曲を弦楽四重奏版としてリリースしてきたモルゴーア・クァルテットから、遂に出た。ジャケットとタイトルから解るように、「トリロジー」とトリビュートをかけたタイトルとなっている。
 「タルカス」は、原曲の良さをきちんと踏襲したセンス溢れる弦楽四重奏版の編曲となっていて、演奏もピカイチの素晴らしさ。プログレは上手い人が演奏してこそ成り立つ分野でもあるので、その意味で王道の名盤だ。また、録音までもが最高のクオリティー。
 他には、キース晩年の作「アフター・オール・ディス」、ジムノペティを交えモルゴーア・クァルテットの思いが胸に浸み入る「スティル...ユー・ターン・ミー・オン」、以前リリースした傑作アルバム“原子心母の危機”から移植された「トリロジー」、「悪の教典#9」〜 第1印象Part.1&2、第3印象への間奏曲、第3印象が納められている。第一Vnの荒井さんと私とは同じ歳のせいか、彼らのやっている事は、昔の言い方でいえば、「涙がちょちょ切れる」程、何から何までどストライクで 胸に心に突き刺さる。だいたい最後には昔のお決まりだった“パンポット・グルグル”までやっていて、もう爆笑!
 彼らの演奏を聴いていると、いかに名曲が沢山あったか、改めて感嘆せざると得ない。そして、あれほど聴いた曲に、また新たな発見と感動をもたらしてくれる。 クラシック音楽の場合、作曲者自身の演奏より後生の演奏家によるものの方が良い場合がほとんど。クリムゾンの歴史的名盤「クリムゾン・キングの宮殿」などはドラムもフルートも耳障りな程全面に出過ぎていて、1回聴くと向こう10年は聴きたくなくなるようなものもあるが、彼らの一連の演奏を聴いていると、原曲を超えた素晴らしさを感じ、こんな時代が来たか、と感慨深い。反面、クラシックの楽曲のPOPSの編曲は、メロディーだけ使ったりして、最も音楽的に大切な対旋律、ポリフォニーが捨てられていてどうしようもないものばかりだけれど、EL&Pは、コープランドの“ロデオ”の編曲で原曲を超えた名演を残しているので、その意味で両者は繋がっている。いろいろな意味で、彼らは、ちょっと別格的存在だ。

  -このアルバムだけでなく、彼らの演奏全てが推薦盤-

 

モルゴーア・クァルテット 結成25周年記念コンサート (2017年6月26日)

 

  結成25周年記念コンサートが浜離宮朝日ホールにて2017年6月26日に行われた。私は本当に残念ながら所用で聴きに行けなかった。しかし、NHK-FMが9月5日に放送してくれた。

 曲は、前半がドビュッシーの弦楽四重奏曲、後半はプログレのみで、荒井氏による編曲で、「タルカス」、「悪の教典#9」、「スティル...ユー・ターン・ミー・オン(+ジムノペティ第1&2番)」と、上記のアルバムのライヴ版。
 カヴァー曲が本当に消化して身になっていれば、音楽の真価を発揮し得る。表面の演奏テクニックではない。その意味で、大変素晴らしい演奏会だ。

 個人的な感想では、前半のドビュッシーの弦楽四重奏曲が微妙。この曲は、よくラヴェルの弦楽四重奏鏡と並んでレコード/CDとカップリングされるが、ラヴェルが最高傑作の作品であるのに比べ、ドビュッシーのは、どちらかというと駄作に近い。特に第1楽章は...
 ただし、前半にラヴェルを持ってくると、後半に繋がらない。いっそショスタコで良かったのでは?

 

モルゴーア・クァルテット 結成25周年記念コンサート vol.2 (2018年1月29日)

 

  結成25周年記念コンサート vol.2 が東京文化会館・小ホールにて行われた。今度は、しっかり聴くことができた。
 プログラムは、林 光/弦楽四重奏曲「レゲンデ」、池辺晋一郎/ストラータXII、ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第3番、吉松 隆/アトム・ハーツ・クラブ・カルテットの4曲で、最後の曲に「タルカス」のモチーフが出てくる。
 「レゲンデ」も「ショスタコ3番」もレクイエム的要素があり、ある意味、最後の曲もレクイエム。本当に胸がいっぱいになった。まだ1月なのに、今年のベスト・コンサートに早々とランク・イン。しかし、池辺の曲は、手技、手法を並べただけの、いわゆる古典的現代音楽(ことごとく展開、先が予想通りで、驚きも無い類のもの)で、心、音楽が感じられず、私はパス。演奏(テクニック)は素晴らしかったけれど...
 でも、本当に “モルゴーア・クァルテット、結成25周年おめでとうございます!” 25年も付き合っていないけれど、何だかとっても嬉しい。これからも聴き続けなくては。

 

 


邦楽関連

「Super-Nova」 Kokoo (2012年)

 

 尺八、箏(13弦の琴)、17絃(17弦の琴)による演奏。名演! 単純に音符を置き換えていない所もいい。 タルカス組曲のみならず、“パープル・ヘイズ”、“ワルシャワの幻想”、“ドロッピング・ザ・トーチ”、“レッド・ツェッペリン変奏曲”、“ピーチェス・アン・レグリア”、“シーズ・リーヴィング・ホーム”、“吹けよ風、呼べよ嵐”、“エリノア・リグビー”、“ゴジラのテーマ”など、名曲、名演が目白押し。しかも、全く予想もつかぬ展開と抜群のセンスが光り渡る。ただの邦楽的演奏だと思ったら大間違い。何で、これが廃盤かなあ。
 もう一つのアルバム「Zoom」には、クリムゾンの“Moon Child”が収録されている。ちなみに、終曲“Breath for the Moon” は名曲・名演で、このCDも廃盤になるなんて、世の中、間違っている! 〇〇のようなCDは蔓延するのにねえ....

  -推薦盤-  ハイレゾで、リリースして下さい!

 

 

Jazz関連


Undine」 Ono Ryoko (2012年)

 

 小埜涼子 (sax)による、やりたい放題のアルバム。タルカスは高速ヴァージョンで痛快。カヴァーするなら単純に音符を再現するのではなく、こうじゃなくちゃ、というお手本の1枚 。

 CDは、side A、side B、side Cに分かれていて、Tarkusは、side Cに納められている。他の曲もライヒの演奏も良い。

  -推薦盤-

 

 

番外編

「初音ミク」 のんのん (2012年)

 

 YouTubeにupされていたもの(勝手に掲載しました。すみません)。説明不要、傑作!

  -推薦-

 

  
Taarkus

 

 Taarkusというブラジルのプログレ・バンド。どんなものなのか、今回興味を持って、このアルバムを購入してみた。プログレ・バンドなので、この曲からバンド名を命名したと思われる。

 残念ながら、下手。昔、ライヴ・ハウスで、少しうまいアマチュア・バンドを聴いているような感じで、ちょっと懐かしかった。 しかし、この力の入っていないブラジルの音楽には、なぜか少し癒される所もある。

 

 

無関係?

Tarkus」 Evgesha Berezhnoy (2013年)

 

 ネットで見つけた。サンプルを試聴すると、ELPの曲とは関係なさそう。MP3で購入・ダウンロード(まして曲単位での購入)というのが大嫌いなので(iTunesの作り方も大っ嫌い!)、内容は不明。

 

 
Tarkus EP」 M. Fukuda
(2015年)

 

 テクノ系トラックメーカー:M. Fukuda氏によるアルバム。CDは出ていないようなので、仕方なくMP3で購入した。Tarkus (Original Mix)、Tarkus (Electorites Mix)、Tarkus (Fixeer Remix)、Bilion (Original Mix) の4曲が納められている。いずれもELPの曲とは関係ない。

 上に「MP3で購入・ダウンロードが大嫌い」と書いておきながらダウンロードしたのは、試聴して良かったからに他ならない。

 

 

 
 

 ちなみに、この曲に登場する伝説の怪物 “マンティコア” は、1973年にELPが設立したレーベル名になった。

 

 現時点でこれだけのカヴァー、しかもYouTubeまで含めると、数え切れない数になる。しかもジャンルを超えて... 私が、いわゆるロックを聴いていたのは1977年あたりまでで、パンク・ロックの台頭とともに、遠のいてしまった。だから、ELPの最近の20数年は知らなかったし、今回まとめるのに聴き直し、そして見て、とても衝撃的だった。かつての超絶ライヴが印象に残っているので、2010年のライヴを見ると隔世の感があり、演奏テクニックも風貌も驚きだった。しかし、老いはもれなく皆に訪れてくる。私にも、しっかりやってきた。

 かつてプロ野球で活躍した選手達が、老いてから野球をやっているのをTVで見る事がある。あんなに凄い選手だったのに、まともにスイングできなかったり、走れなかったり、投げれなかったり。しかし、彼らが、どれだけ凄かったかというと、超人レヴェルと断言する。1987年のライヴ・アンダー・ザ・スカイ。雷雨のため、スケジュールが荒れに荒れた。マイルス・デイヴィスの登場の前は、多分1時間以上待たされたと思う。怒った客から怒号が飛び交いだした。すると、誰かが、「カケフを呼べ、カケフ!」 「 カ、ケ、フ! カ、ケ、フ!」とカケフ・コールが起こって爆笑となった。

 江川の全盛期の時、一塁側で見ると、本当に球がホームベースの手前でホイップするように見えた。バッターはスイングするが、球が手元でギュイーンと伸びて浮 くので、ありえない位へっぴり腰で上の方を空振りしていた。そして、彼のカーブは、いきなりストンと落ちる魔球のようであった。そのカーブを、掛布は、ぱっか〜ん、とバックスクリーンに叩き込んだのを見て、震えが来た。キンチョーのCMに出たりしてお茶の間にお笑いと共に浸透していたカケフだったし、いつも酒の肴として悪者になっていた江川だったけれど、彼らはとんでもないバケモノ、といっていい位、超人だと思った。ビール飲んで、「何やってんだよ〜」と見る方はお気楽だが、実際は、もの凄い人なのである。そういった超人達でさえ、老いれば、それは全盛期とは比べものにはならない。しかし、老いは醜態だろうか。若い時の栄光に傷をつけるだろうか。

 上には、好き勝手な事を書いてしまったけれど、指が動かなくなって、一番感じていたのは、他ならぬキース本人だろう。自殺の引き金にもなったのであろうか。いくら弾けなくなったって、90歳になって腰が曲がってヨボヨボになったって、世界中のファンは 、みな暖かく迎えたのに... 
 でも、キース、ありがとう! 貴方の演奏、曲は、これからも後世の人達の心の財産になり、愛され続けるでしょう。永遠に!
 

グレッグ 逝く(2016年12月9日追記)

 キースに引き続き、グレッグも後を追うように逝ってしまった。一つの時代を創った人がいなくなる、というのは本当に寂しい。Live from Manticore Hall を聴いて追悼しよう。う〜ん、言葉が無い.....

    続く.....?

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